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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver1.0-1 双つの世界を進む勇者たち
95/473

93.「だって、なんかやりたそうだったから……」

 攻略は少し進んで、ボスの最初のゲージが半分になる頃。

 最初こそちょっとした交通事故があった第二レイドだけど、原因がわかるとすぐに対策をしてあっさり立て直した。被害も的確に対処され、ここまでは順調に進んでいる。


『このままだとゲージ攻撃とスイッチが被るな?』

「『第一レイドを見るに回復の猶予は充分あります。余裕があるようなら受けてから交代してほしいですが……』」

『だいぶ安定してるし、いけると思うよ』

『任せな。受けて下がるから、第三レイドは準備だけして待っててくれ』


 ケイさんが請け負ってくれたから、そういうことになった。

 こういうところ、本当に前線組の面目躍如だ。想定外の事態には冷静に手を打ち、想定内のことは常に考えた上で即決。本当に始まって一ヶ月足らずのゲームとは思えない。


 ともかく、そういうことならありがたい。その分だけ第三レイドには余裕ができるから、その間にちょっと小細工をしてみようか。

 第二レイドがスパートをかける裏で、私はボイスチャットの対象を第三レイドのみに変更した。






 ……リョウガさんとの会話が終わって、傍聴していたレイドの面々にも内容が伝わった頃。ボスの正面で火柱が立ったと思うと、ボスの三段あるHPゲージのうちひとつめが黄色くなった。

 DCOのボスは各ゲージが半分あるいは空になったとき、特殊な攻撃を行うことが多い。現に今もほら、戦闘開始時と全く同じモーションでパターンを中断している。


『叩きつけと薙ぎ払い来るよ!』

『二人も離れて!』

「あー……第二レイドも考えましたね?」


〈なるほどなぁ〉

〈体よく使われるのはエクストラの宿命だな〉

〈お嬢もアレやる?〉


 ケイさんはやたら自信があるように思えたけど、こういうことだったか。確かに、これを画策していたならここのゲージ攻撃はものの数に入らない。


 何が起こったかというと、残り半分のぎりぎり1ドット手前で第二レイドはほとんどのプレイヤーを下げたのだ。低空飛行状態で戦っていたクレハとジュリアだけを残して、怪物じみたDPSを誇る二人に残りを任せた。

 あとは簡単だ。移動速度に大きなアドバンテージのある二人は、削り切った瞬間に全力で後退する。徒歩のプレイヤーでは心許ない短いモーションでも、飛行が使えるあの二人なら余裕で下がり切れるというわけだ。


 予想通りだったゲージ攻撃は、開始時に続いてまたも完全な空振りに終わる。ケイさんは得意げな様子だ。

 一方の私たち第三レイドも、これほど簡単なことはない。もう全員が下がっているのだから、ゲージ攻撃が終わると同時に突入するだけなのだ。


『第三レイド、行くぞ!』

『『『おーっ!!』』』








 ボス戦は次の局面へ。

 またしばらくパターン通りの動きしかしないであろう大蛸の前に送り出されたのは、リョウガさん率いる第三レイドだった。


 MMOのベテランらしく堅実なブランさんや斥候の嗅覚を活かして安定感を出すケイさんと比べると、リョウガさんは対照的ともいえる性質を持っている。

 リョウガさんの戦い方は、ソロでもレイドでも同じ。すなわち、破壊力重視の豪快な戦術だ。作戦や細かい指示が必要な時は参謀に任せて、大将である彼自身はとにかくモチベーターに専念する。

 まずは正攻法でのパフォーマンスを最大限に発揮する、何が相手でも変わらない単純明快な戦法。それが彼の、そして《盃同盟》の戦い方なのだ。


「なかなかどうして、これが心地いいものなんですよね」

「《フィーレン》ではうまく噛み合わなかったけど、いざ一緒に戦ってみるとやりやすいのなんの」


〈つまり脳筋ってことか〉

〈脳筋だけど実際戦いやすいんよ〉

〈正攻法が通じる時に脳筋になるためにきっちり下準備してるのがあいつらなんだよな〉


 そんなリョウガさんが第三レイドに配置されているのも、もちろん計算ずくだ。ブランさんが流れを作りってケイさんが戦況を固めてから、前の二レイドの戦いを見た後に投入する第三レイドは、ちょっと侮れない破壊力を持つことになる。

 織田が捏ね羽柴がついた天下もち、じゃないけど、そんな感じだ。……え、違う?






『次、突き攻撃』

『よし、やるぞお前ら!』

『『『よしきた!!』』』


 叩きつけられた足をすり抜け、飛んでくる《水魔術》を避けながら順調に攻撃を当てていく第三レイド。今回は後衛の位置にいる私も《風魔術》でダメージを稼いでいく。

 ……これは口には出さなかったんだけど、楽だね、これ。普段は前衛で戦いながらやっている魔術詠唱だけど、今回はこれだけで構わない。まして集団戦な上に現状ボスの攻撃も大味だから、攻撃も飛んでこないし避けることすら考えなくていい。いかに魔法剣士が仕事の多いジョブかよくわかる。


 後衛の位置までは届かない墨撒きに各々が対処すると、ボスは八本の足を全て後ろへ引き絞った。突き攻撃の予備動作だ。

 ……そのモーションの開始に重なるように、第三レイドの前衛プレイヤーは一斉に数歩ずつ後退した。

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『ん?』

『なんだ……?』

『なにしてんだあいつら』

『あ、もしかして』

『その手があったかぁ』


 ユニオンチャットを見るに、この一瞬で意図を察したプレイヤーが少なからずいるね。さすがは攻略組。

 前に残った八人は全員がいわゆる回避盾で、ボスの正面となる一箇所に思いきり固まっている。それぞれが被らない方向への回避を準備して、お互いに頷き合っていた。


 ボスが引き絞った腕を突き出す……その動作が始まったその瞬間。他の前衛アタッカーが一斉に両脇から駆け出した。少し遅れて回避盾も動いて、さすがの鮮やかさであっさり八本の足を束ねたような突き攻撃を避けてみせる。

 そこからはボーナスタイムだった。次の攻撃に移るまでの間、隙だらけのボスを殴り放題というわけである。


『なるほど、確かにその手があったか』

『発案はルヴィアの嬢ちゃんだ』

「『散々見る時間がありましたからね。今回私はずいぶん楽ですし、ちょっとは貢献しないと』」


〈ここまで綺麗に決まると清々しいな〉

〈お嬢もついに軍師デビューかぁ〉

〈総大将を楽とか言い出す女〉

〈ほんまこの天性の支配者は……〉


 なんだ、天性の支配者って。私はただいつも通り周りを見つつ、免除された近接戦闘の分だけ思いつきで役に立ってみせただけなんだけど。

 実際のところ、総大将って見かけ以上に楽なんだよ。周りが優秀すぎて、あんまりやることがないから。






 その後もひとまず順調に進んだ。

 構成とリーダーの気質、新たに導入した戦術の効果……そして何よりそれまでの戦いを見学できていたアドバンテージもあって、前ふたつのレイドの倍となるゲージ半分もの量を削ることに成功。第三レイドも第二と同じく、ゲージ攻撃を受けてから退く運びとなった。


『となると、離脱できるアタッカーを選ばなきゃならんが……』


 第三レイドにはクレハやジュリアはいないから、まっとうな形で離脱することになる。しかしボスの攻撃範囲はかなり広いから、おそらく徒歩だとAGI極振りのプレイヤーでもなければ避けきれない。

 しかしその領域のプレイヤーは火力をそこまで持たないから、少人数で詰めの打点を担うには適さないのだ。


『安直だけど、最後は後衛の遠距離攻撃で削ってみる?』

『そのくらいは対策されてそうだが……できれば楽だな。やってみるか』


 やってみることになった。


 ある程度削ってから、合図とともに前衛が後退。入れ替わる形で後衛が高火力攻撃をスタンバイして……。


「『あ、ダメですねこれ』」

『防御態勢入っちゃうかー』


 突然大蛸が足で身を守るようにして、水のバリアのようなものを展開した。試しに魔術を当ててみるが、見かけ通りほとんどダメージが通らない。

 ボスの攻撃範囲にいるプレイヤーが一定より少なくなるとこうなる仕様になっているようだ。さすがにそう簡単に楽はさせてもらえないらしい。


 しかしそうなると、取れる手は限られてくる。正攻法を使うか、それとも……。




「『こちらミカン。隣で精霊が暇そうにしています』」

『総大将!?』

『そりゃやってくれるんなら助かるが……』

「『……やっぱりそうなります?』」


 まあ、みんな考えたと思うよ。その方面ではドラゴン姉妹に劣るけど、飛行による高速機動と近接の高火力を両立できるプレイヤーはもうひとりだけいる。

 私が下がっていたのは死ぬとクエストクリア評価が下がる総大将の安全確保だったんだけど……まあ、一瞬くらいなら死にようがないのも確かだ。なにしろ私、このゲームが始まってから未だに一度も死んでいない。


 断るつもりもなかったから、私は後衛の持ち場から飛び出した。……暇だったのは本当なのだ。


「『それじゃ、やってきますので。援護お願いします』」

『助かる! 前衛隊、攻撃範囲に入ってくれ!』

『キャスとアーチャーは照準に気をつけて!』


〈やったぜ〉

〈待ってた〉

〈見たかったんだ〉

〈やっぱお嬢はこうでなきゃなあ?〉


 といっても、そう難しい仕事ではない。もうHPはぎりぎりまで削れているから、あとは至近距離から叩き込むだけだ。

 低空飛行で肉薄しつつ、振り下ろされる足を避ける。後方のプレイヤーたちからも騒ぎは聞こえなかったから、ちゃんと避けられているはずだ。


 大蛸はそれから魔術を詠唱を始めた。視線は完全にこちらを向いているから、次の魔術は私へ飛んでくるだろう。

 だが、私はもう詠唱を終えている。


「───《ソーラーロア》!!」


 ゼロ距離から叩き込んだ《植物魔術》は、錯覚か巨大な蛸を貫いたように見えた。



 





 その直後に行われたゲージ攻撃は、《魔力飛行》が使える私にとってはずいぶん避けやすいものだった。無事に余裕を持って離脱して、リョウガさんとハイタッチしながら後衛の位置へ。

 そして例によってそのまま第一レイドへバトンタッチ。ブランさんの指示で充分に休めたプレイヤーたちが雪崩込んでいく。




『新しいゲージだ、たぶん何かしら行動パターンに変化がある。全員、気を抜かないように』

『振り上げ来るよ! 横の動きにも注意!』


 このあたりの対処は堅実な攻略と実績で鳴らした《明星の騎士団》の面目躍如だ。しっかり攻撃を見極めながら余裕を持って避けていく。

 続いて《水魔術》。パターンを変えやすい攻撃だから、ここは特に要注意……と、まさにだった。形成される魔術の形が変わっている。


『魔術、たぶん種類が変わってる! 警戒重点!』

『……アロー来ます! 連射前提で避けて!』

「変わってアローなら良心的ですかね。現に被害も少ないですし」


〈だな〉

〈上手く避けてる〉

〈こういうの見てるとトッププレイヤー集団なんだなって〉


 このサーバーの参加者は大多数が前線攻略の経験を持つプレイヤーだ。今更こんな、撃ち下ろされるだけの《タイダルアロー》連射程度で苦戦することはない。

 初見ということもあって多少の被害は出たようだけど、特に問題はなさそうだ。


 ボス戦はまだまだ続く。会場のボルテージはじりじりと上がり続けていた。

意外とわちゃわちゃしています。楽しそうですね。


いよいよイベントバトルも折り返し、引き続きブックマークと高評価を押してお待ちください!

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! うん、順調順調! やっぱりこの手際の良さはトッププレイヤーならではだなって。 お嬢、動きます、、、そしてそういえば何気にいままで一回も死んでませんでしたね、、、すごい、、…
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