88.レッツエンターテインメント!
3/23 16:19 改稿しました。ルビ振る予定の箇所の処理とか見られちゃいましたね☆
さらに二日後。八月十七日、土曜日だ。
「配信始まってますね。はい、皆さんこんにちは。DCO公式配信者のルヴィアです」
〈はじまた〉
〈こんー〉
〈わこ〉
〈こんルヴィ~〉
〈初見です。Vtuberさんですか?〉
「このチャンネルではVRMMORPG 《デュアル・クロニクル・オンライン》の攻略模様や各地の様子、その他さまざまなものを、私ルヴィアがお届けしています。Vtuberではございません」
私はことあるごとにVtuberであるかのような扱いを受けるし、それどころか本物から仲間認定すらされてしまっているけど、あくまでただのVRゲーム配信者だ。ルヴィアとしてのバックグラウンドが存在するわけではないし、何より私というキャラクターで売っているわけではない。
それなのにこのようなネタが定着しているのは……まあ、様式美というやつだろう。VRゲーム配信者とVtuberは私は明確に違うと思っているけど、まだ一般概念として明確に分離されているわけではないからね。
火曜日に《万葉》がクリアされた幻昼界はほどなくその南に位置する次の街《如良》が開放され、既に都市機能を回復した。グランドクエストはないようで、現在の戦線はさらに南へと進んでいる。
その時は私は《精霊界》にいたから立ち会えなかったんだけど、万葉にいた住民である夜津さんは無事にパンケーキにありついたそうだ。
一方の幻夜界はというと、木曜日になってようやく《フィーレン》が攻略された。これには私は参加していなくて、その模様は参加していた配信者二人(片方はブランさん、もう片方はV1から配信を始めたベータ勢だ)のアーカイブと切り抜きを見ることとなった。
一言でいうと、かなり苦戦していた。それなりの参加率があったはずなんだけど、指揮官不足で連携が取りづらくなっていたようだ。ブランさんたちは頑張っていたんだけど……慢性的な人材不足はゆっくり解消していくしかないからね。
今はさらに北へと向かっているが、要求レベルが高いこともあって次の街まで到達できていないのが実情だ。上位勢以外はレベリングのため後方や如良へ移っている。
余談程度に私のことを話しておくと、木曜日は配信をしなかった。水波ちゃんとのCM撮影の後はツーショットをSNSにアップしたり、ついでに次のMVのワンシーンを撮影してから帰るという水波ちゃんと少しだけ遊んだりしていた。
夜はDCOにログインしていたけど、やっていたのはこまごまとしたクエストと軽いレベリング。勘違いされがちだけど、私は撮れ高を見込めない時はわざわざ配信をしないのだ。……普段からけっこう垂れ流しなのは、向こうから撮れ高が寄ってくることが多すぎるからでしかない。
昨日、つまり金曜日はというと、如良とフィーレンを見て回っていた。どちらも楽しい街だったけど、比較的撮れ高の薄い日だったと言わざるを得ないだろう。後から思い返したところ、ほぼ雑談回だった。
では今日はというと。
「皆さんご存知のこととは思いますが、毎度のごとく初見さん向けに説明しておきますね。今日は午後から、DCO初の期間限定イベントが発生します」
〈待ってた〉
〈一昨日公式サイトが更新されてたな〉
〈面白そうじゃん〉
〈公式の書き方なんか不安なんだが〉
今日は火曜日から公表されていた期間限定イベントの開催日だ。自由参加のイベントではあるものの、配信者としてもプレイヤーとしても当然これを逃す手はない。
普段との違いを簡潔にしておくと、今回はイベントエリア内ではインスタンスマップによるサーバー分けが行われる。レベル帯ごとの横割り方式になっていて、自分とおおよそ同じくらいの強さのプレイヤーたちと共にクリアを目指す方式だ。
イベントそのものは普段と同じマップで行われるが、イベントが終了すると「クリア状況が最も良いサーバー」が正史として適用される。報酬はサーバー別となるが、住民好感度だけは正史で得られたものが全体へ与えられることになる。
では、そんなイベントの内容はどんなものなのか。これは木曜日に公式サイトで発表されていた。
……のだけど。
《Event:陽光煌めく幻界の海》
夏だ! 海だ! バカンスだ!
四方浜にはビーチがある。奪還攻略への感謝と期待を示して、今年の夏はそこを来訪者たちに貸し切ってくれるらしい。普段は戦いや生産に明け暮れる来訪者たちにも、少しは羽を休めてもらおうということらしい。
スイカ割りもよし、ビーチバレーもよし、バーベキューの用意もあるそうだ。この世界の海は綺麗だから、(消されていて読めない文字列)海に入ることだってできるだろう。四方浜では水着の販売も行われているのだとか。
激しい奪還の戦いの最中、この機会を逃す手はない。さあ、幻想の浜辺でみんなで遊ぼう!
「こんな感じですね」
〈ええやん〉
〈楽しそう〉
〈絶対なんかあるやろ〉
〈これほんとにMMOのイベントですか……?〉
〈塗りつぶしが不穏すぎる〉
夏だから海! という、至極まっとうで単純明快なイベントコンセプトだ。レジャー設備の用意もあるようだから、心ゆくまで遊べるに違いない。
知り合いみんなテンションが上がっていたけど、私は人一倍だった。何しろ現実の体がああだから、海水浴場なんて行きもしていない。未だに海は遠くから眺めたことがある程度だ。
そんな私でも、VRの海ならいくらでも遊べる。体を動かす遊びは全て手の届かない憧れだった私にとって、まさしく夢のような話なのだ。
……とまあ、ここまでが表向きの話。
「真面目な話をしますと、これは偽のイベント概要です。わざわざ期間限定イベントとして用意するにあたって、ただ遊ぶだけとかふざけているのでしょうか」
〈*運営:ごめんなさい〉
〈運営が萎れてる〉
〈運営元気だせ、俺は好きだよこういう前フリ〉
〈お嬢もそのへんで許したげて〉
感情の起伏が常人より薄いことは自他ともに認めるところである私だけど、これには少しだけ怒っていた。憧れの海遊びを示唆ばかりされて、実際はまず間違いなくそう簡単にはいかない。それを阻害する何かがある。
しかも私が参加するのは最高レベル帯の第一サーバーだから、その障害がとんでもない難易度になることは目に見えているのだ。
「こればかりは実際にイベントが始まってみないとわからないので、ここまでの共有でした。夢の海遊びのため、今回は撮れ高とか配信とか置いといて攻略を最優先しますよ」
〈おう〉
〈それでええよ〉
〈楽しそうなお嬢が見られりゃいい〉
〈お嬢の幸せが俺らの幸せ〉
〈まあどうせ撮れ高は後からついてくるしな〉
……まあ、イベント内容はなんとなく察しがついているんだけどね。
何しろ、ずいぶん前から示唆されている。満を持して、というやつだ。
〔イベントエリアに入りました。レベルを検索中……検索完了。イベントサーバー「A」に転送されました〕
《四方浜》に転移した瞬間、これまでになかった表示が出た。自動でイベントマップに移されたようだ。
イベントへの参加は任意だったけど、さすがにエリア内の通常マップは封鎖されるようだ。まあ、でないと“なかったこと”になってしまうからね。
転送先は当然、最高位であるサーバーA。何人で構成されているのかはわからないけど、おそらくベータ出身の上位勢はほとんどがここに位置するはずだ。
最近はV1組が多かった街だけど、今日は見知った顔が多い。心なしか顔つきも凛々しい……ように見えるのはさすがに思い込みだろうか。
「あ、ルヴィアーっ!」
「フリュー。やっぱりいたんだ」
「もちろんっ。待ってたからね!」
〈かわいい〉
〈はいかわいい〉
〈フリューも美少女だからな〉
〈暴走列車モードにさえならなければ普通にかわいいからな〉
〈幼馴染てぇてぇ〉
私が街に入ると一斉に視線が飛んできたけど、真っ先に声をかけてきたのはフリューだった。どうやらわざわざ待っていたようで、視界に入ってほとんどすぐのことだ。
最近はあまり一緒にやれていなかったから、今回こそはと思っていたのだろう。気のせいか若干鼻息が荒い。
これは体感なんだけど、フリューが話しかけてきた瞬間に出鼻をくじかれたような雰囲気が複数あった。……争奪戦でも起こりかけていたのだろうか。
「私とフリュー、ルプストに……」
「はろ、ルヴィア」
「……うん、ミカンもいるよね。ここまではいつも通り」
「ついでにクレハとジュリアがいないのもいつも通りよぉ」
フリューのところへ合流。隣には双子で相方のルプストがいて、当然のごとくミカンも一緒だった。同じ家からログインしているんだから、示し合わせていてもおかしくないけど。
ミカンはあまり居所を固定しない傾向にあるけど、私とフリュールプストが同行するときは大抵ついてくる。一方でクレハとジュリアは私の配信を避けることが多いから、私がここに流れてくると自然とこの4人の顔ぶれになるのだ。
私を近接火力にカウントすると、タンク、ヒーラー、後衛火力と、このパーティはやたらとバランスがいい。
だから残る二枠を埋めるのであれば、何人いても困らない火力職になる。……のだけど、火力職ばかり二人というのはなかなか集めづらいものだ。まだソロを二人呼ぶ方が話が早い。
だけど私には当てがあった。その顔ももう見つけてあったから、3人を引き連れて私は彼らのもとへ向かう。
「シルバさん、リュカさん」
「うおぉっ!?」
「な、なななんだいお嬢」
〈草〉
〈露骨で草〉
〈まあアンナコトされればこうもなるわな〉
〈トラウマになってら〉
〈ざまあみやがれ!〉
〈芸人のくせにお嬢をいじめ過ぎた罰が当たったんだ〉
というわけで、今回のターゲットは芸人コンビだ。ちょうど近接火力ばかり二人組で、他のパーティに誘われている様子もなく、私とも面識があって、しかも実力者ときた。その上2人とも男性だから、黒一点になったりして気まずくもなりづらい。これは引き込むしかないだろう。
ところがこの二人、あろうことか私を見ると今にも逃げ出しそうな様子で後ずさりはじめたのだ。声も震えているし、明らかに怯えられている。
私だって可憐なハイティーンの少女(……言ってみたかっただけだ)だから、大の男に本気で怖がられたりすれば傷ついてしまう。理由を問おうと首を傾げてみた。
「あれ? お二人とも、どうして逃げるんですか?」
「はは、ははははは逃げてなんてナイヨ」
「そそそうさお嬢。俺たちの進行方向がちょうど向こうなだけダヨ」
〈怖い怖いお嬢怖い〉
〈わかっててやってるだろ草〉
〈お嬢こういうお茶目なとこあるからな〉
〈目が据わってる据わってる〉
〈ホラー映画かな?〉
私が一歩進む。彼らは一歩下がる。それを何度か繰り返してしばらく動いたところで壁に突き当たって、二人は絵に描いたように壁に磔にされた。
私は低い背丈を少し屈めながら上目遣いにしていて、彼らは引きつった顔を向け返しながら目だけはやたらと泳いでいる。
傍から見れば、浮気か何かの追及シーンである。
「さすがに心外ですよ、お二人とも。そんなに怖がることないじゃないですか。この間ちょっと《決闘》をして、自分より強い敵のいなし方をレクチャーしただけじゃないですか」
「そそそそそうだったなそういえば。ただの模擬戦だったな二対一の」
「ななな懐かしいなあもう四日前のことかあの時は助かったよほんと」
〈そうだぞお嬢をあそこまで怒らせた罪は重いぞ〉
〈アレは指導だったのか……(困惑)〉
〈*ジル:生活態度の指導だろ〉
〈いいぞもっとやれ〉
実のところ、先週まではツッコミ待ちそのものの馴れ馴れしさだった彼らが豹変した原因は、私には想像がついている。
四日前の火曜日。万葉のグランドクエストを終えた私は、リュカさんに《決闘》を叩きつけたのだ。動機は撮れ高を建前にいいように踊らされた腹いせと、「お嬢」だの「十二神器」だのとこれまで何度も茶化されてきた積年の恨み。
ついでだから一緒に囃し立てていたシルバさんも同罪だと巻き込んで、二人まとめて徹底的に叩きのめしておいた。その時の私は超高レベルのレイド級ボスを倒してハイになっていたから、余計に高いパフォーマンスを発揮できたのだ。
傍から見ていたプレイヤーたちによると、私にだけ倍速をかけたかのようなワンサイドゲームだったそうだ。その時の私はアルカイックスマイルで表情が固定されたまま、ボス戦時ですら見せなかったような最適化された動作で二人のHPがなくなるまでパリィと攻撃を繰り返していたという。
ちなみに私にはその時の詳細な記憶はない。
「……まあ、別に私もそこまで怒っているわけではないんですけどね」
「お、おう……よかった普段のお嬢だ」
「俺もう嫌ですルヴィア様……三下ムーブすらできずに蹴散らされるのは画面映えしなさすぎて嫌なんです……」
「わぁおぜんぜん反省してない。そんなんじゃそのうちまたルヴィアに“指導”されちゃうわよお?」
「ひぃぃっ!?」
〈あの漫才コンビがここまでビビるとかこわ……〉
〈お嬢、我慢してたんかな〉
〈*九鬼シオンofficial:まあ、大丈夫だと思うよ。お姉ちゃんほんとに怒ったら黙って見捨てるし〉
〈そうなのか〉
〈シオン嬢じゃん〉
〈シオンちゃんもよう見とる〉
〈*九鬼シオンofficial:切り抜き見たけど、あれは怒ったフリしてじゃれてるだけだと思う。楽しそうだったし〉
〈あれが!?〉
……まあ、このくらいにしておこう。私は息を吐いて演技モードを解いた。
実のところ、二人には感謝している面もあるのだ。配信の常連で心置きなく雑に扱えるのはこの二人くらいだから、先日みたいにめっためたのけちょんけちょんにできることはそうそうない。たぶんこの二人、あの決闘の時ちょっとだけ手を抜いてたしね。
私は配信者、何事もエンターテインメントなのである。
いよいよ開始、お盆の期間限定イベント編です。まずはパーティ組みから。お嬢のキレ芸(?)二連発。
果たしてルヴィアは無事に海にありつくことができるのか?




