9.強烈なキャラは配信的にはおいしい
Gute nacht異世界。
本日三度目の配信です。今回も気合い入れていきましょう。
〈3回行動助かる〉
〈今度は何するの?〉
〈このお騒がせ公式プレイヤーは今度は何をしでかしてくれるのか〉
〈何やらかすのか楽しみになってきた〉
そこまで言われるほど暴れたかな私?
「この枠ではですね、魔術を使ってみようと思います」
〈おっきたか〉
〈魔術ktkr〉
〈待ってた〉
〈面白いことになるぞ〉
〈やってのけてくれそうだな期待〉
「なんで何かやらかす前提になってるんですか?」
解せない。まだパリィくらいしか前科ないと思うんだけど。
というわけで再び一番道路後半。鹿もソロで大丈夫だし、慣れたら二番道路にも手を伸ばしてみようか。
今回はここで魔術を見せておこうと思う。最初に取得した魔術系スキルは汎用の《風魔術》、現状エルフ固有の《植物魔術》、そして《治癒術》の3つだ。
さっそくあのウサギで実験してみよう。まずは《風魔術》から。
「《エアロバレット》」
〈おおっ〉
〈飛んだー!〉
〈かっこいいなこれ〉
前方へ突き出した掌を中心に魔法陣が現れたと思うと、その中の円形模様と謎の文字がそれぞれ逆方向に高速回転。中心から緑色をした球状の風の弾が飛び出して、ウサギに命中すると破裂した。有無を言わさぬ暴風に煽られ、ウサギは大きく跳ね上げられる。
〈つよい〉
〈べちゃってなるウサギなんかかわいい〉
様子見を解除して、立ち直って突進してきたウサギをパリィ。続けざまの斬撃でウサギは星になりましたとさ。
実際に自分が動くこのゲームにおいて、相手の体勢を崩せるのは思っていた以上に便利だ。ダメージこそさほどではなかったけど、他の攻撃と組み合わせるとなかなか使いやすそうだ。
「軽く魔術についての説明もしておきましょうか」
武器が適切に使わなければ真価を発揮しないのと同様に、魔術にも使い方というものがある。
DCOで魔術を使うにあたって、気をつけるべくは四つ。起動法、起点、照準、補助具だ。
起動法というのは、魔術を発動する時にとる二種類の方法。起点は魔術が最初に発生する地点で、照準は魔術の効果が発動する座標だ。そして補助具は魔法職の装備のこと。
《シュート・キャスト》は、自分の体のどこかを起点として魔術を射出する起動法だ。ふつうは手だけど、慣れれば他の部位からも撃ち出せるらしい。照準はしやすく範囲攻撃にも適しているが、大抵の場合は起点から照準まで距離があると少しずつ威力が減衰するのが玉に瑕。
もうひとつは《ポイント・キャスト》。これは任意の地点を指定して、そこから魔術を発動する起動法。減衰を抑えられれば威力も高い……ものの、《シュート》と比べると発動難易度が高い。しかも発動前に《魔術予測点》が認識できる。でないと避けられなくなってしまって、PvPの時にMDEFを捨てたプレイヤーが詰むからね。
〈複数用意されてるのな〉
〈両方使えば割となんでもできそう〉
〈でも、難しいんでしょう?〉
「《シュート》は簡単ですよ。なんとなく意識すれば、なんとなくできちゃいます」
その起点と照準はというと、イメージがそのまま結果になるような感じだ。やりたいようにやればできる、といった感じ。
だからプレイヤーのやることは、攻撃が通りやすい射線や照準を考えること。使用魔術を思考で選択してチャージし、発動時に唱えることだ。
このあたりはあくまで触りだけを扱っている今のうちのことだから、今後の研究で色々とわかってくるのだろう。
次に補助具だけど、魔法火力職が持つ主武装は基本的には杖と魔導書の二種類。その他NPCの話では魔銃の存在が確認されていて、魔法武器もあるのではと見られている。私のビルドは魔法剣士志向だから、装備も魔法武器が理想になるのだけど……まあ、これは先の話。少なくともベータのうちは高望みはしないでおくべきだろう。
杖は命中重視で、細かい魔術の取り回しと連射性に補助とボーナスが入る。小回りも利き、《シュート・キャスト》の起点にもできる。
魔導書は効果重視。威力や追加効果などに強化がかかるが、照準や扱いの補助はない。
魔銃はというと、NPCから聞く限りでは非常にピーキーだ。なんとこれだけ《ポイント・キャスト》が使えない。さらに明確な射程が設定される。代わりに距離減衰はほとんどなくなって、威力と速射性に補助があるのだとか。
〈なにそれロマン〉
〈なんかいいな〉
私としてはそれ自体より、そんな情報を初日に聞き出してまとめている物好きの努力に感嘆するところだけど。
「それともうひとつ。実はこのゲーム、魔術にスキンがあるんですよ」
〈マ?〉
〈和風あるん?〉
〈やったぜ〉
「ええと、スキン替えて……《風弾》」
こちらもウサギに撃ってみた。効果は同じ、違うのはエフェクトだけだ。
差し出した左手が、ほう、と光る。薄いおぼろな輝きはすぐに収束して、その中央からやや柔らかそうな緑色の弾が飛び出した。敵に当たるとふわりと解けて、浮かせるように吹き飛ばす。
〈こっちもかっけえ〉
〈印象は全く違うな〉
〈効果同じだけどな〉
「相当力が入ってますね、これ」
まあ、私は洋風のものに戻すんだけど。だって、エルフだし。
《風魔術》はある程度やったから、次は《植物魔術》。こちらは誰もが取れる属性魔術ではなく、どうやら使える種族に制限があるらしい。
「《クリーパーヴァイン》」
足元の草原が、ぶわりと蠢いた。一気に伸びてきた蔓が俊敏に伸びて、対象としたウサギを捕まえる。《植物魔術》初歩、《クリーパーヴァイン》の《ポイント・キャスト》だ。この蔓はけっこう自由に動かせるみたいだけど、今は威力重視のオートパイロットにしている。
蔓は予想外の強靭さでそのまま絞め上げ、ウサギに継続ダメージ……を…………。
「え」
〈!?〉
〈!?〉
〈ふぁ〉
〈なにこれ〉
《ポイント・キャスト》の成功で威力が上がっているのはわかる。でも、一発で六割ってどういうこと?
同じく威力等倍で、同じ初期習得である風の《エアロバレット》の1.5倍くらいダメージが入るんだけど。しかも敵を一定時間拘束しながら。
効果が切れた魔術の蔓から出てきたウサギを刃でお迎えして、さすがに気になったから二つの魔術を見比べてみた。
○風魔術
・その名の通り、風を操る魔術。一部の術に吹き飛ばしの追加効果が入る。風属性の術者が発動すると威力が少し上がる。
《エアロバレット》
・風の弾を撃ち出し、ダメージを与えながら吹き飛ばす。
○植物魔術
・草木に近しい種族にのみ許された、植物を操る魔術。属性魔術より効果が高く、様々な追加効果が付与される。
取得制限:エルフ、アルラウネ、ドリアード、ノーム
《クリーパーヴァイン》
・強靭な蔓を伸ばして対象へ絡みつき、締めつける。拘束の追加効果が発生する。
なるほど、そもそもこちらの方が強いと。ところで、アルラウネとドリアード、ノームって何だろう。初期種族にはなかったけど、エクストラ?
できるだけどちらも使っていくつもりだけど、《植物魔術》のほうが効果が高い。普通に使う分には、優先度は高くなりそうだ。
それともう一つ。
「《クイックヒール》……おお」
《治癒術》の初歩、《クイックヒール》。ミカンも使っていたものだけど、見ての通りHPが回復する。
案外燃費はいい。おそらくソロプレイが多くなるから、取っておけばどこかで役に立つだろうと思っての取得だ。
最初から取ったのはこの三種類。ひととおりの確認は済んだので、少しの間試行錯誤しつつスキルレベル上げに勤しむことにした。
…………ふむ、後ろから気配。
「ルヴィアあああああああああああっ」
〈おい、向こうを見ろ!〉
〈あれはなんだ!?〉
〈ウサギか?〉
〈鹿か?〉
〈いや、プレイヤーだ!〉
カメラが先んじて向きを変える。振り返った私の胸元に、走ってきた天使が頭からダイビング。
……が、弾かれた。グッジョブ、セクシャルガード機能。危うく深刻なボディブローをもらうところだった。
「あうっ!?」
「……なにしてるの、フリュー」
私の方は何も感じず、頭は硬いものにぶつかったような弾かれ方。かなり痛そうな様子だがダメージはなく、額を押さえたままこちらを見上げてくる。
無論、知り合いだ。待ち合わせ相手だ。遅れて相方も走ってきたし。
〈何が起こったんだ……〉
〈あ……ありのまま 今起こったことを話すぜ!
ルヴィアは 振り返ったと思ったら 天使が猛スピードでぶつかってきた(後略)〉
〈コピペ乙〉
〈最後まで貼れよ〉
〈思考入力だからコピペは逆に大変なんだよ〉
「だって、ルヴィアがすぐ次の町に行っちゃうから……」
「さっきまでねえ、必死になってレベリングしてたのよ。置いていかれそうで怖かったのかな? のかも?」
追いついてきたのは友人たちだった。いかにも清廉そうな見た目で激走してきた天使と、瓜二つながら悪戯っぽい表情で普通に追いかけてきた魔族。
天使のほうは編み込みの入ったロングの金髪で、魔族のほうは2Pカラーのような赤茶色。それぞれの頭には天使の輪と藍色の一対角があるが、それ以外は顔立ちから体格までそっくりだ。
まさにこれから呼ぼうとしていた二人である。さっそくのフレンド登録、ついでにパーティ登録も済ませながら配信向けに紹介しておく。
「この二人も私のリアフレです。このセクシャルガードを忘れる暴走天使が《フリューリンク》、こっちの時々謎語尾になるイタズラ魔族が《ルプスト》。性格とかは……実際に見てもらえれば」
「わお丸投げ」
「見た方が早いでしょ。濃すぎて言葉にしづらいの」
〈暴走天使〉
〈暴走天使のインパクトが強すぎる〉
〈友達の紹介で使うフレーズじゃないでしょ〉
普段はただ可愛くていい子なミカンや、配信に出る気はあまりないと言っていた別の友人とは違う。この二人は、とにかく強烈なキャラクターを持っているのだ。しかも素で。
というか、フリューは私に対してだけやたら暴走する。もはや別人になる。コレでも私が絡んでいない時は優等生やっているんだよ、信じられないかもしれないけど。
「まあ、そうねえ。ルプストよ、よろしくー……ほら、フリューも挨拶」
「あ、うん。フリューリンクです。よろしくお願いします」
〈何事かと思ったけどなるほど〉
〈よろー〉
〈ルヴィアちゃそ良い友達ばっかり持ってやがる〉
〈そっくりだけど双子?〉
〈アバターだからわからん〉
「ええ、リアル双子ですよ。信じられないことに、リアルで同じ表情をして黙っていると見分けがつきません。でも性格は……」
「二卵性だから」
「あいかわらず納得はいかないけど、フリューが二人よりは楽だしいいか」
「え……ルヴィア、やっぱり私のこと迷惑だった……?」
「何がやっぱりなのかわからないけど、ちょっとカロリーが高いだけだよ」
「そ、そっか。よかった」
〈フリューちゃんええ子や……〉
〈最初ヤンデレかと思ったけどええ子や……〉
こういう素直なところが可愛いんだよね。ずっと相手をしていると疲れるのは否定しないけど。
それに、そこで合いの手を入れて和らげてくれる清涼剤がセットだし。
「それでいいの? いいのかしら?」
「だって、ほんとだし」
「ほんとに気にしてたのねえ?」
「……何が?」
「やっぱり」とか「ほんとに」とか、私の知らない事象がほのめかされている。もったいぶっているだけかと思ったけど、一向に話が見えてこないから聞いてみた。
「この子ねぇ、“アレ”以来一ヶ月ほっとんどゲームしてなかったのよ。極端すぎるというか? すぎない?」
これを聞いて、私は絶句した。
「…………アレって、もしかして先月の注意?」
「そ。確かにゲームやりすぎてたけど、まさかルヴィアの『もう少し控えよう』で一ヶ月ゲー禁するとは思わないでしょ?」
「え……?」
「えっ、やめろってことじゃなかったの!?」
「……ごめんねフリュー、今度から軽い注意の時はちゃんとそう言うから」
〈草〉
〈いや草だ〉
〈なんかすげえな〉
〈やっぱりやべーやつやんけ!〉
確かにね、フリューは直情と思い込みで動きがちなタイプだ。冷静に待ったをかけてくれるルプストが隣にいるからだろうけど。
だけどさ。まさか生活がおろそかになり始めたことを注意しただけで、廃人級ゲーマーが一ヶ月もゲーム断ちするとは思わないじゃないか。注意といっても、言った私の方が忘れていたくらいの軽い忠告程度だったのに。
実はフリュー、私が言うのもなんだけど、私にかなり心酔している。それも盲信の域で。仮に私が白と言えば、ブラックコーヒーに大量の牛乳を注いで無理やり白くするような子だ。
勘違いに自爆したフリューが落ち着くには少し時間がかかった。その間の彼女の様子を一言で表すと、ちょうど今投稿されたこのコメントの通りだった。
〈まったく、良い子かと思ったらやっぱり嵐のような女だったぜ……〉
続いて、会話が一段落するのを待っていたらしいコメントが視界に入る。
〈しかし、ルプストちゃん謎語尾ってこういうことか〉
「ルプストは人をからかう時などに疑問形が反復されます。ただの口癖で、理由は自分でもわからないそうです」
「なーんか、気づいたらこんな感じだったのよねえ」
「普通に話していれば普通の子なんですけど」
〈永遠の謎〉
〈生命の神秘〉
〈迷宮入り〉
〈ルプスト構文〉
「ルプスト構文」
「あら、定着しちゃう? しちゃうの?」
字面が面白すぎてつい復唱してしまった。遠からず新定番になっているかもしれない。
「ねえルヴィア、さっきのことなんだけどさ」
「さっきの?」
「うん……その、セクシャルガード」
「ああ、大丈夫だった?」
「ん、それは大丈夫」
痛覚設定は切っておけるとはいえ、感覚的に痛そうだったものね。大丈夫ならよかった。
セクシャルガードの適用解除設定は全ブロック、ユーザー指定、同性フレンド、全フレンドの4種類が用意されている。全プレイヤー解除が用意されていないのは、まあトラブル防止のためだろう。
私はユーザー指定にしてあって、今はミカンのみの許可。
「その……私も、いい?」
「…………」
「どーどー、配信でまずい画は見せないようにー」
ちょっとばかり親愛が重いけど、フリューはリアルでもアバターでもかなりの美少女だ。そんな彼女が、上目遣いで、しおらしくおねだり。
神よ、汝は我を天に召すおつもりか。……反応が女子っぽくない? 可愛いものが好きなだけだよ。
「ひとつだけ、さっきみたいなボディブローは慎むこと」
「イエスマム!」
「二人とも相変わらずねぇ」
「ルプストもリスト入れておいたから」
〈てえてえ〉
〈配信中でも友達相手だと素に戻るルヴィアかわいい〉
可愛いから仕方ないんだ。というか、別にこんな茶番するまでもないんだよね。軽いスキンシップくらい、いつもしているわけで。
ある意味、これもキャラクター紹介みたいなものだ。暴走しかしていないように見えて、ちゃんと頭は回っているんだよ、この子。
魔法確認と新キャラ。お気づきの方もいるかと思いますが、2話最後のあの子たちです。本作屈指のキャラの濃さです。
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