81.たのしい防衛戦
戦闘開始からしばらく。ひとまず戦線は想定通りの滑り出しを見せていた。
ブランさんを総指揮官としたユニオンは防壁の前後に前衛、防壁裏に後衛プレイヤーを配置。比較的レベルの低いプレイヤーを中心に戦場いっぱいに展開して、柵と堀を活用して敵を押し止めることに成功している。
この前線組は集まった戦闘職プレイヤーの大半を占めている。各地の戦力に余裕を持たせた結果で、ベータ勢もそれなりの割合がこれに参加していた。
それに参加していないのは、まずは予備戦力。どこで何が起こるかわからないから、今回は自由に動ける戦力を多めにキープしている。劣勢になった地点へ加勢して押し返すのが彼らの役目だ。
そして戦闘職と生産職混合の後方支援隊。夜草神社のときのように補給隊を引き受けてくれた人達に護衛がつき、現在は待機している。
それ以外にも、被害を受けた防壁を補修するためのプレイヤーも控えていた。何しろ敵の数が桁違いだから、突破されると立て直すのが非常に難しいのだ。
「ただ、防壁がダメージを受けるということは、深く攻め込まれているということです。そんな状態のところにクラフターの方をそのまま送り込むわけにはいきません」
〈そりゃそうだ〉
〈それな〉
〈どうすんの?〉
〈もしかしてまたお嬢の役目か〉
「そこに投入するのが遊撃隊、つまり私たちですね」
既存戦力での防衛が難しくなった場合、行う対処は四つだ。
まず遊撃隊を送り込み、戦線を押し戻しながら持ちこたえる。その間に回復隊を合流させてその場の戦力を少しでも回復。
その裏で工作隊が防御機構を補修し、最後に消耗分の予備戦力を追加投入して現状復帰を試みる。そこまで済んで遊撃隊の撤退まで完了すれば、回復隊と工作隊とともに下げてその地点の救援は完了だ。
この遊撃隊については、特にプレイヤーレベルの高い最前線プレイヤーばかりで構成されていた。少人数で一時的に戦線を保つ力が必要だからだ。感覚としては《生い茂り過ぎた樹海》のレイドボスバトルで私やユナたちが受け持った役割に近い。
ただし、今回はこの枠をかなり厚く取っていた。これは三パーティ(というか、二パーティと一人)しか用意していなかった前回に不足したことからの反省だ。
具体的には、3レイド120人ほど。これは《バージョン0》で発生していた《御触書・弐》の各ボス戦参加者に相当する。ただの救援部隊とするには多すぎるくらいの人数だ。
「ただ、遊撃隊にはそれ以外の仕事も用意されています。それを含めての人数でしょう」
役目は主に三つ。窮地に陥った地点への一時的な救援と、司令部を守る最後の牙城。そして司令部判断で動く、真の意味での遊撃行動だ。
司令部はそれ自体が熟練の攻略プレイヤーたちとはいえ、万が一ここが瓦解すれば戦線は一撃で崩壊してしまう。それを防ぐために、出撃していない遊撃隊が護衛として待機することになっていた。
三つ目の遊撃については、これは主に敵軍勢に強力な個体やボスが確認された時に投入する特別部隊だ。そのまま防衛線へぶつかった場合に被害が予想された時、これが出向いてその個体を足止めしつつ討伐する。
実のところ、この役目がメインの想定だ。それ以外にもフレキシブルに対応できるよう設定はしているけれど。
「なので、私がここに所属しているのは配信者的配慮に溢れた采配ということになりますね。ボス戦は任せてくれるようなので」
「そういうことはこっちの配信に入るところでは言わないでもらえるかな?」
「ああ、ごめんなさい。私、ちょっとだけ根に持つタイプなんですよ」
「ごめんって」
〈草〉
〈押されるブランとかなかなか見ないぞ〉
〈珍しい光景だ〉
〈お嬢、それじゃ精霊じゃなくて小悪魔だぞ〉
〈意外と言うよなお嬢〉
とはいえ、こういうのはお互いに暴露し合うものだ。その方が面白いし、自分では言えないことを言ってくれるという見方もできなくはないし。
……というかそういうものだと思うしかない。どうせ暴露はされてしまうのだから、仕返しくらいはいいだろう。
今回は指揮系統をより明確化するため、各地に細かくリーダーを設置している。
前線にはパーティ数に応じてレイドを設置して、そのレイドを基準として通し番号を振ってブロック化。これを把握するリーダーを数人用意して、それら全てを取りまとめる前線リーダーまで情報を集約する。単にユニオンチャットを使うよりも、その方が情報伝達が効率的になるのだ。
同様に予備部隊、回復隊、補給隊、工作隊にもそれぞれ指揮系統が存在している。私と親交のあるところでいうと、回復隊の隊長にはミカンが就いた。補給隊は今回もコシネさんで、工作隊はクリヌキさんが起用されている。
遊撃隊も同様で、これはレイドごとにまとめつつパーティ単位で行動してもらう柔軟な形式となる。それができるのは、経験豊富なプレイヤーが多くて指揮しやすいからだろう。
私はこの遊撃隊全体の隊長と、第一遊撃レイドのリーダーを兼任する運びになった。ブランさんから指示を受けて戦力を送り込み、時に私自身も部隊を率いて戦場へ向かうことになる。
第二レイドのリーダーはトップタンクの一人であるセージさん、第三レイドはシルバさんが就いている。どちらも《生い茂り過ぎた樹海》レイドでもリーダーを務めたプレイヤーだ。能力にも慣れにも申し分ないだろう。
「そして最後に司令部ですが、見ての通りですね。錚々たる面子です」
「ルヴィア、頑張ってね! 私も頑張る!」
「どうどう、鼻息が荒いわよぉ」
〈双子おるやん〉
〈あの二人ああ見えて指揮上手いぞ〉
〈いい指揮官がいると戦いやすくて癖になるよな〉
〈今回も安心だわ〉
〈こいつらに任せときゃ間違いないだろ〉
ブランさんとそのパーティ、フリューとルプスト、それにケイさん。エルフ専用掲示板でよく名前を見かけるフレイスさんもいた。彼はソロ中心のエルフで、用心棒的なプレイを行っている槍使いだ。そのスタイルに見合わず指揮能力が高い。
2パーティほどの司令部だけど、全体の指揮を安心して任せられるだけの役者が揃っていた。
〈クレハは?〉
〈龍姉妹いなくね〉
「クレハは本人の希望で前線にいます。ジュリアは今回は不参加ですね」
あの二人、いよいよ別行動を開始したのだ。昼界を選んだクレハは「少しでも多くの敵と戦いたい」とのことで、何人かのフレンドと共に防衛線組に混ざっている。
一方のジュリアは夜界を中心に動くようで、今は《フィーレン》にいた。向こうのダンジョンで最低限必要な維持戦力に合流しているはずだ。
あの二人はソロプレイを好みがちだから、今回のような大型クエストでも指揮系統の計算には入れない方がいい。何も考えずに前線へ放流しておくのが一番いいのだ。
動きがあったのはさらに少し後。戦闘開始から二十分が経過した頃だった。
「本部より遊撃隊、回復隊、工作隊へ通達。C隊とD隊が大打撃を受けた。至急救援と援護を求む」
『こちら工作隊、了解だ』
『こちら回復隊、了解。1パーティ送ります』
「こちら遊撃隊、了解。2パーティ出します……シルバさん、いけますか」
「任せてくれ。ガンマの3から4、出るぞ!」
「おう!」
「よしきた!」
防衛線の戦力は司令部から見て一番左のレイドをAとして、利便性のためにナンバリングされている。数が足りないのではと思ったのだけど、どうやらZの次はA2となるらしい。
一方の遊撃隊は、レイド単位でアルファ、ベータ、ガンマと識別名を用意された。その後についた数字はパーティごとに割り振られたものだ。例えば、私のパーティはアルファの1、シルバさんのそれはガンマの1となる。
……正直、男の子の悪ノリ的なそれがある気がする。確かにわかりやすくはなっているし、害があるわけでもないから止めないけど。
別に私も女の子っぽい趣味をしているわけではないけど、これには生暖かい目にもなろうというものだ。
男の子ってこういうのが好きなんでしょ、というんだっけ。
「よし。C隊とD隊へ連絡。すぐに救援が向かう、可能な限り死なないようにしてくれ。B隊とE隊は可能な範囲で援護を頼む」
『こちらC隊、了解。……負傷者は下がれ! HPに余裕のあるプレイヤーで持ちこたえるぞ!』
『こちらD隊、了解。全員、無理はしないで』
『こちらB隊、1パーティをCに寄せる』
『こちらE隊、全体をDに寄せてカバーに入ります!』
事前に個々と全体の動きをしっかり擦り合わせておいたからだろう、指揮は滞りない。ブランさん、やっぱり私なんかよりよっぽど上手いと思うんだよね。大局観に慣れがある気がする。
もしそれがノリにも似た“男の子っぽさ”からきているのだとしたら、なかなかどうして馬鹿にならないところだけど……。
さらに少し後。まだ大勢は安定していたが、時折被害を受ける箇所は現れていた。とはいえ遊撃隊は1~2パーティ単位での救援で事足りているから、まだ戦力には余裕がある。
私は隊長ということにはなっているけど、遊撃隊に指揮官は三人いる。このうち誰かが後方に残っていれば問題ないから、本陣前に縛り付けられるということもなかった。
「遊撃隊アルファの1よりB2、C2隊へ通達。救援が到着しました。速やかに撤退を」
『了解。全員、防壁の後ろに!』
いよいよ私たちの出番だ。今回の仕事は損害を受けたB2隊、およびC2隊の救援。できるだけ敵を倒しつつ、同行してきた回復隊と工作隊が体勢を整えるまでの時間稼ぎを行う。
……のだけど、聞いての通りだ。二個レイドに対する救援にもかかわらず、遊撃隊は1パーティだけ。ちなみにこれは戻ってきたガンマ3のリーダーからの強い進言で、勢いに押された総司令官のお墨付きだった。
〈いよいよ始まるぞ〉
〈やっとお嬢の戦闘が見れる〉
〈リュカのおかげで楽しくなりそうだし〉
〈リュカ……良い奴だったよ〉
〈成仏してクレメンス〉
二人とも、公式生配信の撮れ高を考えてくれたようだ。私は嬉しいよ。嬉しすぎて、この防衛戦が終わったらお礼にリュカさんを《決闘》でけちょんけちょんにすることに決めたくらい。
待っててね、リュカさん。あなたのことは念入りに“撮れ高”にしてあげるから。
戦況、ヨシ!
だんだんプレイヤーたちも慣れてきたみたいですね。いきなりやれと言われても難しいはずの指揮系統が、随分あっさり確立されています。
実戦闘は次回。新キャラがいたりします。お楽しみに!




