78.誰かさんのおかげで話がややこしくなって運営愉悦
整理。ちょっと整理しよう。
「この祭壇は、結界の解除に必要な属性に反応しているんですよね」
「そのはずだけど……」
「ええと……」
こうなったということは、可能性は二つ。特殊な《虹魔術》が反応して誤作動を起こしてしまっているのか、一人で二枠を埋めることができるのかだ。
ただ光と闇のマークが両方光っただけなら、私自身に反応しているだけかもしれない。ただ、今この祭壇は全体が反応している。この様子はたぶん、儀式が行えることを示しているはずだ。
それ自体が誤作動を起こしているとしたら厄介だけど、もし今の状態で儀式が行えるなら大助かりだ。
「検証しましょう」
「賛成」
「ちょっとこれは証明したほうがいいな」
「この中に、複数属性が40を超えている方は?」
「俺、風と土は40いってる」
「じゃあ彼以外、全員一度降りてみますか」
何人かが反応したけれど、真っ先に手を挙げたのは土属性のマークの上にいた妖精の男性だった。さっきもそれらしい様子は見えたけど、どうやらこの祭壇は飛んでいても反応するらしい。
壇上に彼だけにしてみると……。
「両方光ってるな」
「光ってますね」
「それなら、風属性の方以外はまた乗ってみましょう」
〈おっ〉
〈やっぱり?〉
〈ってことはこれ……〉
結果は予想通り、また祭壇全体が光り始めた。これでも儀式はできるということ。
つまり、《虹魔術》による誤作動ではない。両方の条件を満たしていれば、一人で複数属性にカウントされているようだ。
続いて、私だけ残って他の全員に降りてもらってみる。……中央の光と闇、それと比較的近くにあった水属性のマークだけ光ったままだった。
そのままぐるぐる歩き回ってみると、ルーレットのように近いマークだけが光ってそれ以外が消える。ということは、これは三属性が限界?
……そろそろ聞いてみてもいいか。
「さっきから微妙そうな顔をしているセレニアさん、もしかして何かご存知ですか?」
「……もしかして皆さん、《並行詠唱》をご存知ありませんの?」
「並行詠唱?」
「まだわからないということは、《魔術学》についても?」
「《魔術学》……あいにく聞いたことは」
〔〔条件が達成されたため、《魔術学》が開放されました〕〕
「……たった今」
「あら。小耳には挟んでおりましたが、来訪者とは便利なものですわね」
「それは私たちも思います……」
「その《魔術学》の中に、複数の魔術を同時に詠唱する技術があるのです」
〔《魔術学》を獲得しました〕
〔条件が達成されたため、《連唱》が《魔術学》に移動しました〕
〔〔条件が達成されたため、《並行詠唱》が開放されました〕〕
〔《魔術学》のスキルレベルが遡及されます〕
〔《魔術学》スキルレベル40到達。アーツが開放されました〕
〔《並行詠唱》の最大数が3になりました〕
一同、硬直。助っ人たちも新規組も平等に、一人残らず思考がフリーズした。
……ええと?
まずセレニアさんから話を聞いたことでスキル 《魔術学》が開放された。これは全体向けメッセージだから、誰かが聞けば全員に開放されるタイプの条件だったのだろう。
さっそく取得してみたところ、まず《連唱》が《魔術学》内のアーツへ移動した。《連唱》はこれまで所属不明の技能という特殊な立ち位置にあったんだけど、これで元の位置に落ち着いたことになるのだろう。
……たぶん、私が偶然見つけてしまったせいでややこしくなっていたのだ。なんか、ごめんなさい。
そして、その《魔術学》内のエクストラアーツとして《並行詠唱》が自動習得された。この条件は《魔術学》の取得と、その話を聞いたことだろう。まだ使ってはいないし。
で、これまでに多用した魔術の経験値が遡及されてスキルレベルが上昇。私をはじめとしたベータ出身魔術師は、少なくともこの場ではみんな一気に40を超えたようだ。
この時に取得したのはどれもパッシブアーツで、魔術のMP効率や威力、詠唱速度などに補正がかかるものだった。その中にしれっと《並行詠唱数増加》が混ざっていた。私に対して祭壇が三属性だけ反応したのはこのためだろうか。
「……機会があれば、もっと色々教えて差し上げますね」
「そうしましょう、私たちが知っていることなら教えられますし」
〈*ペトラ:すごい微妙な顔してるんだけど〉
〈可哀想な子を見る目だ〉
〈まあそうなるよなぁ〉
〈住民も苦労してるんやなって〉
セレニアさんだけでなく、ずっと様子を見ていたフィアさんにまで同情するような眼差しを向けられてしまった。
……ほんと、揃いも揃って無知でごめんなさい。
閑話休題。仕方ないものは仕方ないとして。
何はともあれ、今ここにいるメンバーだけで祭壇を起動できることはわかった。となればさっそく動かすのみ……と言いたいところだけど、その前に。
「少し練習しますね」
〈せやな〉
〈かしこい〉
〈練習を欠かさない優等生〉
〈お嬢の強さは裏の努力にあるからな〉
結局待ちぼうけになってしまっているカイさんをはじめとする新規組の視線が私に集中しているが、気にしない方向で。
……というか、なんでそんなに目を輝かせているんだろう。《並行詠唱》がファンタジーロマンだから?
私は普段は剣を媒体にして魔術を使うことが多いけど、今は納刀したまま。杖ならともかく、一般に魔剣や魔導書よりは素手のほうが発動はしやすいのだ。威力はともかく。
右手に光属性、左手に闇属性をイメージ。それぞれ個別にこれまで通り詠唱するイメージで……。
「…………あっ」
〈なんだ?〉
〈失敗とか珍しい〉
〈難しいのか〉
失敗。周りで同じように練習していた魔術師たちも、揃って失敗に終わっている。《並行詠唱》は習得しているはずだけど、やり方が違うのだろうか。
「ただ二つ同時に詠唱するだけだと、けっこうシビアですね」
「できなくはありませんけれど……それは並行詠唱ではありませんし、相当な高等技術かと。高位の術者になると、並行詠唱をずらしたりしてさらに不規則な魔術を使う方もいらっしゃいますが」
へえ、並行時間差詠唱。使い勝手は《連唱》と近そうだけど、あちらは同一魔術でしか使えない上に適用できる術が限られる。マスターできれば戦法の幅が広がりそうだけど、少なくとも今は難しいだろう。
ただ同時詠唱するのは難しい。それならどうするかだけど、これはセレニアさんが続けて教えてくれた。
「並行詠唱とは、普通にやれば今のように難しい同時詠唱を簡略化させる方法のことなのです。魔術の種類だけを先に決定して、そこから複数個に増やす工程を挟んで、それから詠唱して……こう! 《ダブル・ファイアバレット》!」
〈はえー〉
〈*ケイ:なるほど、わからん〉
〈ベータの時お嬢がなんか言ってたよな〉
「……ええと、これを、こうして、《シャイン/シャドウバレット》!」
「えっ習得早くない!?」
「いや今の聞いてもよくわからんのだが?」
「これがトッププレイヤーか……」
〈い つ も の〉
〈*ミカン:安定のルヴィアクオリティ〉
〈*リュカ:やっぱお嬢はこうでなきゃな〉
〈ほんとやべえなこの子……〉
なんとなくわかった。確かに、正しく使えればかなり有用だ。
以前話した通り、この世界において魔術の使い方は、基本的には意識→選択→照準→詠唱→発射。私はここから照準と詠唱を入れ替えて命中率を上げているけど、検証の末にそこ以外は入れ替えられないことが判明している。
このうち、選択の後に一工程多く挟むのだ。発動を意識して選択された魔術を、詠唱する前の段階で二つに複製する。それから改めて詠唱し発射することで、《並行詠唱》が成立する。
この複製は《連唱》と同じ要領で可能だ。だから実質的には、少し応用しただけで新しいことはしていない。
しかもその前にある選択の工程で属性を保留にしておけば、違う属性の術を並行して使える。これが特に強烈で、これまでの戦法が大きく変わるほどの影響があるはずだ。
このやり方ではバレットはバレット、ロアはロアとしか一緒に使えないようだけど、それでも革命的といえるだろう。
ただ、そのあたりの細かいことは後でもいい。並行詠唱も習得できたことだ、まずは祭壇を起動して結界を消そう。
「この祭壇、何をすればいいのかはわかりますか?」
「ああ。どうやら、足元のマークに向かって《エッジ》系を撃てばいいらしい」
「ああ、それでスキルレベル40なんですね」
《エッジ》系というのは、射程がかなり短い代わりに低消費短詠唱で高威力な魔術の刃を射出する魔術だ。スキルレベル40に相応しい汎用性を持つものの、純後衛の魔術師には少しリスキーな射程というデメリットも抱えている。
前衛でありながら魔術主体の私にとっては、メインウェポンといっても過言ではない。ちなみに《植物魔術》レベル5で取得される《リーフエッジ》はこれと近い性質の術である。
これの取得が、属性魔術ではスキルレベル40。この祭壇の要求はそういうことだったらしい。
ちなみに待機している新規組の魔術師たちは、壇上のこちらを食い入るように見つめている。少しでも盗めるように、ということだろうか。さすがは新規組ルート最前線だ。
「では、さっそくやりましょうか」
「ああ」
ちなみに全員、ノリノリだった。皆で合わせて同時に魔術を撃つの、楽しいよね。
「《ブルー》」
「《グリーン》」
「《レッド》」
「《パープル》」
「《イエロー》」
「《ブラウン》」
「《ホワイト/ブラック》」
「「「「「「「《───エッジ》!!」」」」」」」
新ギミック判明の巻。
本当は《連唱》も一緒にアンロックされる予定でした。誰かさんがやらかさなければ。
また、《並行詠唱》も同じように誰かが気付いて、自力再現するか住民に訊くかしていればその時点で開放されていました。
結果はこうです。二度しっかり撮れ高を稼ぐあたり、ルヴィアはプロですね。
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