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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.0-1 戦いの始まり、《天竜城の御触書》
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8.九鬼朱音包囲網(完成済)

 引き続き《及波》の町を探索。


 《DCO》では死に戻りの際に教会に飛ばされたりはしない。もちろん神父に煽られたりもしない。転移も《緊急退避》(いわゆる死に戻り(リスポーン))も、どちらも中央広場の噴水前へ送られるらしい。まだ経験したことはないけど。

 ただ、今のところは転移手段はない。王都のポータルをアクティベートしないと動かないそうだ。何しろバージョン0(ベータテスト)は一本道、自力でレベルを上げなければ仕方ないものね。

 この広場はまさに町の中心にあるから、《世束(はじまりの村)》を見るにそこそこ賑わうだろう。今はまだそもそもの到達者が皆無だが、明日はまともな時間帯に人が絶えることはないはずだ。




 そんな広場から少し外に出て、まずは商店街らしき区画へ。明らかに規模が大きく、見るからに賑わっている。まあ、町の規模が違うからね。

 まずはウサギと鹿で貯まった肉を売り払った。素材の段階で4人で折半したけれど、それでも鹿肉はそこそこいい値段になるものだ。

 そして残りの素材は冒険者組合……ではなく、専門と思われる店へそれぞれ持っていく。そうした方が少し売値がいいのはお決まりだ。

 そこそこ暖かくなった懐に満足したら、今度は消費に走る。まずはポーション補充。ミカンのおかげでこの道中での消費はなかったので、消費した彼女のMPポーションを折半。回復とバフを任せてしまったから、今回はそうしないと負担が一方的になってしまうのだ。ちゃんとブランさんとカナタさんもそれだけの費用は渡してくれたから、心配は無用だ。

 それと保存食を補充……干し肉がウサギから鹿に変わっていた。誤差レベルで安くなって、効果は同じ。ほかの小物はまだ必要なさそうだからスルーして、いよいよ本命へ。


「武器屋に来ました」

「純銅は卒業だね」

「パリィは武器耐久が削れるので、早めに更新しておきたかったんです」





○青銅の剣

分類:武器

スキル:《片手剣》

品質:F-

ATK+3 DEF+1

・バランスが取れていて扱いやすい、店売りの青銅剣。武器として最低限充分な性能を持っており、初心者には扱いやすい。


○青銅の神楽鈴

分類:武器

スキル:《魔術》、《巫術》

品質:F-

MAT+1 MDF+3

・支援系の術の効果を強める、店売りの青銅鈴。媒体として最低限充分な性能を持っており、初心者には扱いやすい。





「え……強くない?」

「強いよねこれ」


〈雲泥じゃねーか〉

〈銅の武器使ってるのが馬鹿馬鹿しくなってくるぞ〉

〈別物すぎて草〉


 なんというか……本当に繋ぎだったんだね、銅の武器。どのゲームにも増して早く攻略を進ませる気満々だ。F-の時点でこれとは。

 まあ、ここまでのものはベータの間だけだとは思うけど。


「でも、お高いんでしょ?」

「いえいえ。こちらなんと、ひとつ5000エルでご提供致します」

「おーっ」

「……本当に安いね、これ」


 そう、すごく安い。私の手持ちがおよそ3万エルだから、正攻法で《及波》まで到達したプレイヤーならまず問題なく買える。ある程度稼いできた人は防具を用意する余裕もあるだろう。至れり尽くせりとはこのことである。

 というわけでそれぞれの主武装、さらに装備を更新できた。





○ブレストプレート

分類:装備

品質:F

DEF+3

・店売りのブレストプレート。耐久性は最低限で範囲も狭いが、軽く動きやすい。


○鹿革のグローブ

分類:装備

品質:G+

DEF+2

・店売りの革手袋。攻撃を受け止めることは難しいが、手にかすった程度の攻撃では傷を受けにくくなる。


○巫女の装束

分類:装備

品質:F

MAT+2、MDF+3

・店売りの巫女服。見た目に違わず、魔術支援をブーストする低位のマジックアイテム。





 さすがに巫女服は他より高かったけど、これでミカンは見た目ががらりと変わる。

 金髪狐ロリ巫女。最序盤とは思えない属性の盛り方だ。


「どう、ルヴィア?」


〈かわいい〉

〈かわいい〉

〈は? かわいい〉

〈背伸び感がたまんねえな〉


「はいかわいい」


 はいはいスクショスクショ。ばっちり配信済だけど、後であらためてみんなで鑑賞しよう。ミカンのご両親にもお送りしないと。


「る、ルヴィア……目が怖いんだけど……」


 なお、私の格好はあまり変わっていない。強いていうなら手袋が好きな人には刺さるかな、というくらいだった。

 いつか可愛い服も着たいな。基本的には前衛だから、難しいかもしれないけど。




 他の場所も見て回ってみたが……まだまだ二つめの町。施設は最低限だった。町の規模も少し大きいくらいで、特別な場所はない。薄々感じていたが、おそらく王都に行くまでは本当にただのチュートリアルなのだろう。

 そしてもうそろそろ、ひとまず時間となる。午後6時を回ったから、今から狩りに出るのは時間が微妙なんだよね。


「というわけで落ちます」

「あ、私も。このあたりで一旦休んどこ」

「やりたいことが残っているので、今日はもう一回配信しますね。21時から、たぶん一時間くらいになると思います」

「あー、アレまだやってないね。私は……たぶん別の人探すと思う」

「それならあの二人が来そうだね。21時半くらいに」

「配信で一方的に時間指定してるよこの子」


 それで来る子たちだからね、さもありなん。一人で試す時間を取りたかったんだ。


「では皆さん、また後で」


〈乙〉

〈おつ〉

〈乙カレー〉

〈おつおつ〉






  ◆◇◆◇◆






 現実世界へ二度目のただいま。また軽く体を解して、階下へ。リビングの扉を開けると……予想通りのカメラだった。さっきと違うのは、お母さんが夕飯の支度をしているところ。


「お疲れ、お姉ちゃん」

「お疲れ様、朱音。なかなか堂に入ってたわよ」

「ありがと、紫音、お母さん」


 まさかの親子キャス。国民的歌手が夕飯作ってるところをネット配信。まあ、フットワークが軽いのはこの家族の美点だと思うよ。うん。


「やりたいことって?」

「いきなり聞くんだ、それ。今日のうちに魔術も使っておきたいの」

「《風魔術》と《植物魔術》だったっけ」

「あと《治癒術》も。上手く使えたら動きやすくなるから」


 大人しく隣に座ると、紫音はぴとりと肩を寄せてきた。さすがに何度も抱きつくつもりはないらしい。姉妹百合営業そのものはやめる気なさそうだけど。

 ……お母さん、そんな顔で見ても何も出ないよ。


「それと、アノ二人ですか」

「本人達次第だけど、初日のうちに顔見せしておいたほうがいいかなって。キャラ濃いし」

「キャラ濃いからねぇ、二人とも。片方はお姉ちゃんがいると、だけど」

「好意はわかるし、嬉しいんだけどね。放っておくと怖い」


 あの二人、主に姉の方は、出番を引っ張れば引っ張るほど大変なことになりそうだ。かといって向こうでの初邂逅を配信外にはしたくないから、配信予定のある今日のうちに済ませておきたいのが本音。


「あとの二人は?」

「急ぎではないかな。割と正統派だし」

「本当は?」

「キャラがまだ固まっていないとメッセージが届きました」

「黎明期のRP(ロールプレイ)勢は辛いとこだねー」


 まったくもってその通りで。

 私たちは6人組で固まることが多かったんだけど、残る二人は当分こちらと合流できないらしい。

 片方は普通にやるみたいだけど、もう片方は姫騎士RPをすると言っていた。素が出ないようにキャラを定着させるには、まだ時間がかかるようだ。現に剥がれまくっているらしいし。


「朱音はやらないの?」

「ロールプレイ? ……やったところで、というか」

「もったいない、演技の練習にはなるでしょうに」

「配信のテンション自体が演技みたいなものだから」

「んー、ナビ妖精RPでもやってみる?」

「妖精族じゃないし……」

「お姉ちゃんの場合、妖精は選ばなくて正解だと思うよ、うん」


 このゲームには10を超える種族があるが、その中でも妖精族は特異だった。エルフ以上の低耐久の移動式魔法砲台。しかも空を飛べる。使いこなせれば楽しいのだろうが、少なくとも配信には向かない。

 その上サイズまで特殊で、他のプレイヤーの肩に乗れるほど小さいのだ。絵面的にも微妙だっただろう。


 このように、うちの家族は私に対してお芝居を勧めてくるきらいがある。妹だけではないのだ。四面、もとい三面楚歌。

 幼い頃から母にボイストレーニングや演技指導は受けているし、同じものを叩き込まれたおかげで妹は今や『演技派高校生女優』である。そして私自身、演技力には多少の自負がある。

 以前には演劇部へ助っ人に行ったこともあるし、その時は下手に目立ちすぎて大変な目に遭った。


「お父さんが言ってたわよ、朱音には楽しみにしていてほしいって」

「外堀が……」

「ぶっちゃけた話、私とお母さんの事務所がスカウト出してない時点でね?」

「…………」


 そう、おかしいとは思ったのだ。あの番組の後、紫音とお母さんが所属する事務所からだけはなぜかスカウトが届いていなかったこと。

 確実に結託しているとは思っていた。私たちは家族ぐるみの付き合いだ。その上でどの家にも親バカしかいない。しかもその付き合いの中に、九津堂の社員がいるのだ。

 つまり確実にペアレントネットワークで色々と共有されているわけで。間接的に九津堂と事務所が繋がっている。この時点でもう、何が起きてもおかしくない。


「でもお姉ちゃん、そのくらい最初から全部察してるでしょ」

「当たり前でしょ」

「その上で受けてる」

「受けない選択肢はなかったし、放置しても連絡は来ていたと思うの」

「なんなら私が言ってたかもね?」

「本当に味方がいないんだけど……」


 そもそも私が誘いを断り続けていた理由は、まだあまりついていない私の体力にある。私自身は嫌ということはなかったのだから、元々時間の問題ではあったのだ。最後にはイレギュラー気味に過程を飛ばされたとはいえ。

 それがわかっているから、妹も五人の親しい友人たちも、さらにはその親たちもことあるごとに結託して私を囲い込んでくる。結果がこれだ。血も涙もない。


「お父さんも《九津堂》に直接アプローチしてたし」

「もう外堀どころか内堀も埋まっているよね」

「プロデューサーさんも乗り気だったって」

「あれ、天守閣が燃えてない?」

「ふっふっふ。さあ、いい加減負けを認めるのだ」

「それでも私は諦めないよ……!」

「帰る城がないのに?」

「九州かモンゴルに落ち延びるから」

「秀頼か義経かハッキリして?」






 ……遊んでいるうちに夕飯ができたので配信はお開き。後は素直に団欒となった。

 食事と入浴を済ませて雑事をいくつか片付け、午後九時前になったのでログイン。今日はもう少しだけ頑張ろう。

今回の更新と同時に相方のサイドストーリーが投稿開始されているはずですので、そちらもよろしければ。こちらだけ単体で読めるようにはしていますが、こっちで拾いきれないものを拾ってくれます。ここから下の方にURLがあるはずです。

毎度のことですが、ブクマ評価感想ぜひぜひお待ちしております。作者の精神に重篤な好影響をもたらしますので。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] ふらっと見つけてはまりました! まだ序盤ですが…このノリ大好きです。 序盤で天守閣炎上なのですねw 後も楽しく拝見させていただきます!
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