73.運営のウワサ:言葉遊びが好きらしい。
八月六日、火曜日。幻昼界最前線の《万葉》で住民の浄化に努めた翌日。
可能な限り全体を取りこぼさずに拾っていくつもりの私は、今日は幻夜界に来ていた。
「では、まずは概説から」
ここ《フィーレン》は現在の夜界最前線で、一言でいうなら鍛冶の街だ。近くに優良な鉱山が立ち並び、火を扱うのに適した土地柄を活かして他の場所よりも強い武器を鍛えることができる。住民もドワーフが多めである。
そのドワーフたちは遠く東の地方出身だそうで、そちらにはもっと規模も質もいい鍛冶の都があるそうだが……まあ、当分先だろう。鍛冶の中心は今後長らくここになるはずだ。
〈確かにドワーフ多いな〉
〈プレイヤー鍛冶師も何人か来てるんだっけ〉
〈もしかして“Fire”nzeってこと?〉
〈ダジャレじゃねーか!〉
〈適した土地柄って?〉
「実はここ、街まるごと《火の精霊》の加護を受けているそうなんですよ」
《火の精霊》のように司るものが広い精霊は、それが内包する細かい概念の精霊にとっての上位存在であるらしい。例えば《虹剣の精霊》である私は、《剣の精霊》に内包されている、といった調子だ。
意外と縦割りな精霊たちの中で、このような特に上位に存在する精霊のことをまとめて《始祖精霊》という。エルヴィーラさんが名乗っていた《原初精霊》とはまた別で、あちらは彼女専用の称号らしい。
精霊王の直下に始祖精霊、そこから下に包含の関係で精霊たちが連なる格好だ。とはいえ上位互換というわけではなくて、上に行くほど力の方向性が広く浅く、下に行くほど狭く深くなる。
話が脱線したけど、つまりこの街には「火」に関する大まかな加護がある。……のだけど、当然ながらセーフティだから戦闘には活かせない。そこで盛んなのが鍛冶、すなわち鍛造。次いで料理だった。
なので当然、ここの特産品は様々な金属武器。名物は焼きや炒めなどの火を存分に使った料理。
……なのだが。
「まあ当然なんですけど、そう上手くはいきません」
〈えっ〉
〈まあそりゃそうだよな〉
〈来たばっかだぞまだ〉
後方への道もつい一昨日に開かれたばかりのこの街が、問題を抱えていないはずがない。
最大の問題は、その火の精霊に関することだった。
「画面左側に私の簡易ステータスがありますよね。ここの状態変化の欄、わかりますか」
〈実はこの欄の見方まだよくわかってない〉
〈ノリで見ればよろし〉
〈*ミカン:何もついてないよね〉
〈火属性強化は?〉
「そうなんですよ。今の《フィーレン》には、そもそも加護が働いていません」
街単位で加護があるということは、街の中にいる間は自動でこの欄に《火属性強化》の バフが表示されるはず。なのに今、私のステータスには何も表示されていない。
加護そのものが止まっているのか、街に届いていないのか。どちらにせよ使えないということだ。一応確認はしたんだけど、他のプレイヤーはもちろん、住民にも加護は残っていなかった。
「火の精霊は鉱山の奥に建てられた小聖堂に棲んでいるそうです。そこから街までに何かの障害物があるのか、精霊本人が汚染にやられてしまっているのか……」
○フィーレンの加護火精
区分:グランドクエスト
種別:メインストーリー
・フィーレンの街に与えられていた精霊の加護が失われてしまった。加護の主である《火の精霊》は《フィーレン鉱山・中央》に棲んでいる。まずは鉱山へ向かうため、道中を塞ぐ魔物を駆逐しよう
段階:1.山道確保(20%)
報酬:フィーレンの加護(火)、経験値(小)、住民好感度(大)、フィーレン施設稼働再開
こちらも万葉と同じく複数の段階に分かれた大型グランドクエストで、現在は第一段階にあった。まずは鉱山へ繋がる山道の確保、つまりダンジョンへ到達する前のフィールドだ。
予想はついていたことだけど、昼夜どちらも人手を要求してくるクエストだった。ベータ組をこのあたりで足止めして、今のうちに新規組のレベルアップを図るのだろう。
私たちベータ組からすれば、ステータスを引き継がせてもらえている時点でこの方式に否やはない。
「そういうわけなので、街の中は寂れてしまっているんですよね。今は見どころもないですし、さっそくクエストエリアへ行ってみましょうか」
というわけで、やってきましたフィーレン鉱山の入口。正確にはその手前。
「こんな感じですね。明らかにMobの密度が多いでしょう?」
〈うわ〉
〈さすがに多すぎひん?〉
〈ダンジョンより密度高くて笑う〉
本来はセーフティである万葉農地とは違い、ここの魔物は全て駆除する必要はない。ただ湧き率が凄いことになっているから、まずはそれを倒さなければならないのだ。
DCOでは本来、通常Mobの発生はフィールドやダンジョンごとのプレイヤー数に応じてペースが調節されている。人の少ないフィールドで大量に湧いて囲まれたりしないように、ある程度定められている。
しかし今のここは、どうやらそれが狂っているらしい。人口密度にかかわらず一定の量が湧くようになっているから、放っておくとしばしば少人数ではどうしようもない数になる。
「ただし、このフィールドの主を倒すと再出現までポップ率は激減します。主は四時間ごとに復活するので、情報共有しつつほぼ常に主を倒した状態にするのが第一段階ですね」
その状態を維持し、最前線ならではの人数を確保したまままずはMobを狩る。それをしばらく続ければ敵の数が通常フィールド並にまで減るから、それを保ちながら主戦力をダンジョンへ送って攻略を行うのだ。
万葉は絶対数が決まっているから気長にやればいずれ終わるけど、こちらは人海戦術が必須というわけだ。当然ながら山道フィールドのほうがダンジョン内よりレベルが低いから、追いついてきた後続組がレベリングがてらフィールド維持を担う想定となる。
「つまり、後進が継続的に来るようになるまでは非効率なんです。なので、前線プレイヤーの中からは『まずは万葉を攻略しながら新規組を待つべきでは』という声も上がっています」
〈なるほどなぁ〉
〈MMOらしくなってきたな〉
〈黎明期ならではだな〉
私やブランさんなど、比較的発言力の大きいメンバーの大方の意見は、ひとまず様子見。もうしばらく並行攻略を続けてみて、難しそうなら万葉優先を考えるつもりだ。
DCOのスタンスから考えて、片方ずつに集中しての攻略は望ましくないだろうと考えたのだ。二つのストーリーを同時に、リンクしながら動かすのが持ち味なのだから、どこかしらで両方の進捗を要求されるに違いないのだ。
予備知識はそのくらいにして、実際に戦ってみよう。
このフィールドには一種類の敵しか出ない。何が出るかは想像もつきやすいだろう。鉱山、岩場。つまり?
○ロックゴーレム
属性:土
状態:汚染
「ここにはゴーレムしか出ません。簡単でいいですね」
バージョン0の終盤、《御触書・参》で一時的に開放されていたダンジョン《良鉄眠りし魔鉱山》で先行登場していたが、ここでファンタジー定番のゴーレムも本格登場となる。ウサギや狼も出現したあちらと違って、ここは本当にゴーレムだけだ。
ロックゴーレムは土属性統一で、打撃系攻撃に弱い傾向にある。ただし他の攻撃が通らないわけではないから、ある程度のレベルがあればごり押しが利く相手だ。非効率だから周回には向かないし、腰を据えて攻略するなら打撃系が欲しいところだけど。
「ここから、《パープルエッジ》!」
まずは伸びたAGIを活かして肉薄、大きいが鈍重なゴーレムの隙を突いて一撃。身を翻して振り下ろされた腕を避け、出が早く高威力な《エッジ》系の氷魔術で追撃する。
弱点の高威力魔術を至近から受けたゴーレムは一瞬だけ硬直。その隙を見逃す私ではない。斬撃を繰り返しながら詠唱を続け、一気にHPを削り取る。
そこまで撃ち終えたら一度下がり、また改めて接近するとさらに攻撃。そのままダメージ量重視の立ち回りで一気に屠った。
「やっぱり物理は通りが悪いですね。当たり前ですけど……」
〈せやな〉
〈そら精霊だし〉
〈瞬殺しといてなんか言ってる〉
〈DPSの鬼一号がよく言うわ〉
「三号あたりまでは心当たりがあるんですけど」
この戦闘で物理攻撃が通りにくい理由は、主にふたつ。
ひとつめは、やはり精霊への進化。ステータス変更により急激にSTRが減ったから、その分だけATK自体が落ちている。
一方でそれ以上にINT、つまりMATKが上がっているから、私は魔術に頼った戦法にシフトしていた。
ふたつめはゴーレムという敵そのものの特性だ。
これまでに登場した通常エネミーの多くは生物の姿をしていた。要は有機物でそれなりに柔らかい。例外的に《糸繰り傀儡》は非生物だったけど、あれは木製だった上に関節があった。ゴブリンも鎧の隙間には急所がある。
一方でゴーレムはというと、全身が岩でできているのだ。有機物らしい柔らかさなんて望めないし、岩なのだから急所というのも難しい。ダメージ自体は通るとはいえ、刃物武器はやはり効率が悪いといっていいだろう。
「なので、攻略法はふたつ。鈍器を使うか、魔術を使うかですね」
〈鈍器て〉
〈打撃系武器な〉
〈鈍器のほうが日常に近い単語なのに物騒〉
〈日常つっても事件で出る単語だからな〉
「使えるなら特に鈍器がいいかと。ヒビさえ入れてしまえばこちらのものです」
そんなゴーレムだけど、魔術に対しては対刃物ほど有効な防御力を持っていない。この世界の魔術は物理的な制約にある程度縛られないから、硬いものにぶつけても攻撃力は計算されるのだ。
ただし、逆に魔術に強いものも存在する。MDEFが高い、つまり精神の強い存在には魔術は効きづらいのだ。抵抗できるということなのだろうか。
そしてもうひとつ、無機物系の敵に対して特攻を持つのが鈍器……打撃系武器。生物系の敵には柔らかい部分で衝撃をある程度吸収されてしまうが、硬いものが相手なら衝撃が直に響く。その分だけ攻撃力が上がり、壊れやすくなるのだ。
しかもこのロックゴーレムが相手の場合、一箇所を叩き続ければヒビが入ることがある。綺麗な岩の体に入ったヒビは弱点扱いになるから、余計にダメージを与えやすいのだ。
「そういうところの作り込み、地味にリアルなんですよねこのゲーム」
……しばらく魔術でゴーレムを狩っていると、何やらメッセージが入った。
送り主はフリュー。用件は……《リベリスティア》でイベント?
夜界最前線 《フィーレン》の攻略事情でした。
まあ、現時点で15000人、将来的にはもっと青天井のプレイヤーを要するゲームで、前線に数百人すらいないのは……ね。しばらくは遊びながら後進を待つ事になります。
これに対して多くのプレイヤーの感想は、「まあレベルの上げ直しを免除してくれたし、ありがたく遊んでるか」だったようです。
来週はちょっとしたイベントから。お待ちください。まだの方、よろしければブックマークと評価もお願いいたします!




