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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.0-1 戦いの始まり、《天竜城の御触書》
7/468

7.ムービーは公式サイトから閲覧できます

月曜日に見に来ていて、次は木曜とあったから来てくださった方、ごめんなさい。毎日更新してました。目次に戻って未読部分からどうぞ。

 とりあえず鹿を《解体》しておこう。ドロップアイテムは……。





○ディアホーンの肉

分類:素材

品質:G

・気性の荒い鹿の肉。赤身が多く食べやすいが、やや臭みがある。


○ディアホーンの毛皮

分類:素材

品質:G

・硬く扱いやすい鹿の皮。防具の材料として一般的。


○ディアホーンの角

分類:素材

品質:G

・硬くしなやかな自慢の角。飾りなどのほか、武器の強化にも使われる。





 うん、普通。角で武器強化ができることくらいしか特筆すべきことがない。お肉もウサギのほうが美味しそうだ。


 ……そろそろ、三人のところへ戻りますか。


「ルヴィアさん、なんですか今の」

「何って、パリィですけど……」

「なんであんなに綺麗に当たるんですか!?」

「なんでって言われても、見えたものを予測して合わせているだけなので……」


 何やらカナタさんがヒートアップしている。もしかして、パリィってふつう当たらないものなのかな。

 ……そうなのかもしれない。あまり自分の感覚ばかりでものごとを考えるのはよくない。


「そういえばルヴィア、昔からずっと目はいいよね。それも動体視力」

「そうなの?」

「武術をやってる友人がいて、その稽古とかの剣筋はずっと目で追っているんです。私には残像でしか見えないんですけど、ルヴィアには完全に見えてるみたいで」


〈反射神経もおかしい〉

〈正確に当てる体のコントロールもな〉

〈空間認識能力もじゃないか?〉

〈そもそも喋りながら戦えるのおかしいって〉


 実はその通りだった。動体視力、反射神経、空間認識能力。このあたりは昔病院で受けた身体検査で医師が目を丸くしていた。なぜか物心ついた頃からスポーツをやっている子供よりもいい結果が出た、と。

 身のこなしについては、まる一ヶ月ローカルソフトでひたすら練習した成果だ。練習すればみんなこのくらいはできる。はず。

 マルチタスクも昔から得意だった。意識的にも無意識下でも、私は常に複数のことを考えながら動いている。そのあたりは感覚だから言葉にするのは難しいんだけど、全く別のことを複数同時に行うのが負担にならないのだ。


 そのあたりが仮想世界での動きに好影響を与えているのだとしたら、それは思わぬ好影響だ。積極的に活かしていったほうがいいかもしれない。






「何よりもとんでもないのは、ルヴィアさんってたぶんまだ《歩法》すら取ってないよね」

「えっ」

「あっはははは、嘘でしょルヴィア」


 続いての指摘には私が固まることになった。一瞬質問の意図が理解できなかったというか、《歩法》なるスキルの存在を知らなかったというか。


「歩法というのは、いわゆるステップのスキルです。戦闘時の立ち回りがしやすくなって、転倒の発生率が減少します」

「必須スキルじゃないですか」

「こういう実は必須級のスキル、他にもあるんだと思うよ。特におすすめスキルとかの提示がなかったのは……まだ運営にもノウハウがないからかな」


 聞けば、取っていないと首を傾げられても仕方ないほどの便利スキルだった。勝手に戦いやすくなって転倒率まで下がるとなれば、戦闘職はとりあえず取っておけばとりあえず役に立つだろうし。

 今の戦闘でもステップ移動は使っていたから、《歩法》も役に立ったはず。それがないのに今の動きが、と驚くこともあるのかもしれない。なるほど。


「さっそく取っておきましょう……ん?」

「どうしたの?」

「《歩法》を取った瞬間、別のスキルに変わりました。……《森林歩法》?」

「へえ。エルフ固有スキルかな」

「名前からすると、森の中での移動補正にボーナスでしょうか。……いきなりレベル7」


 確認してみたところ、だいたい合っていた。なんともエルフらしい効果である。ただ、それ以外の効果も少しだけ補正が大きいかもしれない。

 取った時点でスキルレベルが高いということは、取っていればこれまでも効果があったということ。遡及は嬉しいけど、同時に哀しさも突きつけられることを学ぶこととなった。






「次の町に行ってしまえば、こちらにも戻ってこられます。行けそうなら行ってしまいましょう」


 はじまりの村、本当に何もないからね。あの「さっさと出ていけ」と言わんばかりの村に長居しても、特に得るものはないだろう。村の北以外の出口も、せいぜい田畑と海があるくらいらしいし。西と南に至っては謎の柵でマップ的に締め切られていたし。

 しかもこの一番道路、気をつけていれば後半も特に危険さはないときた。ソロだと多少のPS(プレイヤースキル)要求があったけど、パーティでかかれば鹿も怖くない。もちろんこのパーティはPSも充分で、ブランさんもカナタさんも、あの後しっかりソロで倒していた。

 《鷹目》で確認してもみたが、このフィールドにはボスもいないようだ。本当に、たどり着いてしまえばそれだけなのだろう。

 で、その道中で《片手剣術》のアーツを習得していた。それがこちら。





○片手剣術

《ペネトレイト》

・剣を腰だめに構えて、突進しながら斬り上げる。効果発動中は移動速度に強化がかかるが、移動距離には制限がある。





 いわゆる突進技だ。使い方は選びそうだけど、先制攻撃にはもってこいだろう。まともに当てた時のアドバンテージが高い分、外した場合のリスクが大きそうではあるけど。


 それ以外にはこれといったことはなく、案外あっさり2つ目の町《及波(おいなみ)》へ到着。ここは地図的に……たぶん、実際の地名をもじっているんだろう。今後もそうなりそうだ。

 はじまりの村こと《世束(よつか)》と比べると、やはりこちらのほうが色々と充実している。早くこちらを拠点にすべきだということは間違いないだろう。


 ブランさんとカナタさんのお二人とはここでお別れ。町の中央にあったポータルに登録して、フレンド登録を交わしてパーティを解消する。二人は狩りとレベリングのために一番道路へ戻っていった。

 この街を先に見ていった方がいい気はするんだけど、配信と時間をずらしてくれるらしい。ありがたいけど、少し申し訳ない。埋め合わせはいずれ。


「というわけで、ここからはミカンと二人で町を回りたいと思います。私、今度こそ観光するんだ……」








「まずは挨拶から行きましょう」

「というと?」

「この町には《冒険者組合》があるの」


 私たちプレイヤーは《来訪者》という特別な身分でこの世界に迎えられているわけだけど、元々この世界にも私たちのように動物や魔物を倒して生計を立てる人は存在する。はじまりの村で怪我をしたという狩人もそれだ。彼らと、私たち《来訪者》のうち戦闘で稼ぎを得ていくつもりの者を《冒険者》と呼ぶらしい。なお、生産職向けには《商業組合》が存在する。こちらもこの町にあるようだ。

 そんな冒険者たちは各地の《冒険者組合》で登録していて、冒険者への様々なサポートを受けながら日々活動している。なので、《及波》の町に来てまずやるべきことはこれといえるだろう。

 ……ブランさんとカナタさんも、戻ってきたらするはずだ。私の配信は見ているようだから。彼らは私に遠慮して別れてくれたような気がしてならないのだが、そうだとしたらなんとも申し訳ない。


「ごめんください」


 口上はこれでいいのかな、なんて考えながら中に入る。配信カメラが妙な位置に回って、なぜか赤色に変わった。

 ……うん、この挙動はさっきもあったね。


「おお、もうおいでなすったか。《来訪者》さんだね?」


 造りが和風だけど大まかな形はまさに冒険者組合といった様相だった。受付があって、集会場所があって、掲示板があって、冒険者もいて、受付嬢もいる。一つだけ違ったのは、明らかに偉そうな袴姿の男性がいたところ。

 ネームタグがポップアップした。《及波町長》……雑じゃない? まあ、重要キャラではないということだろうし、覚えるのは楽でいいいんだけど。


「はい。もっとも、仲間のほとんどはまだ《世束》にいますが……」

「いや、構わんよ。先に聞いといてくれ」


 だんだんわかってきた。やっぱりこれ、メインストーリーイベントだよね。ストーリーで重要なイベントが起こった時、このゲームでは強制的にムービーモードに入るみたい。たぶん赤いカメラマークはそういうことだ。

 そうとわかればロールプレイ。こういう仕掛けは楽しむに限る。意図を察したのか、ミカンもしっかり乗ってきた。頼りなさげな雰囲気で、少し私の背に隠れ気味に。……あの、本気でロリになるつもりなのかな。




「実は、この一帯は現在孤立しておる」

「孤立……?」

「もしかして、街道が寸断されているのですか?」

「《四方浜(よもはま)》の先、王都の手前でな。ああいや、安心してほしい。この辺りを《来訪者》さん方が通ることはわかっておったから、充分な蓄えはある」


 ふむ、なるほど。ということは恐らく、アレだね。私もミカンも流れが読めてきた。

 なお、《四方浜》は三つ目の街だ。もじり元は……わかるよね、たぶん。


「その、街道を寸断しているのは」

「巨大な化け兎だ。こちらの冒険者も手を出しておるのだが、退かすには手が足りん」


 やっぱり。表情を神妙なまま保ちつつ、決定的なセリフを引き出しにかかる。


「それがいる限り、王都との連絡が取れない……と」

「そうだ。そこで、《来訪者》さん方に頼みたいことがある」

「化け兎を倒すこと、ですね」

「その通りだ。頼めるかな」


 とどのつまり、DCO初のボスイベントだ。それも、おそらくはレイドボス級の。

 そういうイベントだからもちろん断る選択肢はないんだけど、


「まだ少し時間がかかるとは思いますが」

「構わんさ。蓄えは十二分にあるし、いざとなれば兎を狩ればしばらくは食える」


 やっぱり。それなら、クエストを発動させてしまおう。


「わかりました。《四方浜》に到着したら、やってみましょう」

「ああ、頼むよ」





〔〔グランドクエストが発生しました:巨大化け兎を退治せよ〕〕


○巨大化け兎を退治せよ

種別:グランドクエスト

・巨大な化け兎が《四方浜》と王都を繋ぐ道を塞いでしまった。力を合わせて化け兎を倒し、流通を回復しよう。

報酬:経験値、報奨金、住民好感度(中)





 イベントが終わったらしく、町長さんは秘書を連れて出ていった。赤色のカメラも元の色に戻る。


「……なんでウサギなんだろうね」

「キング〇ライムみたいな感じ?」

「ああ、ゴブ〇ンキングみたいな感じなのかな」

「ボスク〇ボーっていなかった?」

「また懐かしいものを……」


 なるほど、最初の敵をボスにする手法は珍しくないと。むしろ定番なのか。






 突然のイベントも済んだので、改めて予定通りに動くとしよう。

 まずはカウンターへと向かって、受付嬢さんに声をかける。


「すみません。冒険者登録をしたいのですが」

「はい。お二人ともですか?」

「はい」

「では、一緒に済ませてしまいますね」


 DCOではステータスカードを実体化させることができる。誰にどこまで読めるかは生成時に細かく決めることができて、他人に受け渡すこともできるらしい。しかも交換したステータスカードにはフレンド申請ボタンもある。なんとも便利な名刺だ。

 ところが、冒険者登録時にはこれは使わない。冒険者はプレイヤーだけではないからね。受付嬢さんは大理石のようなものでできた石版を二枚、カウンターに並べてみせた。


「最初に、冒険者組合の仕組みについてご説明致します。

 冒険者組合は、魔物と戦うなどの危険な仕事を請け負う者達を支援するための組織です。各地の調査や情報収集と整理、依頼などの集約とクエスト難易度設定など、冒険者の活動をより円滑かつ活発にするために稼働しています」


 冒険者を管理するため、ではないらしい。馬鹿正直に言わないだけの可能性はあるけど……そもそも管理などを主題にしている場合ではない、という方が納得がいく。《来訪者》を大量に呼ぶくらいだし、聞く限りには王都すら孤立しているし。

 それだけの組織が今現在孤立しているはずの町にあるのだから、元来の冒険者は魔物が溢れる前からいたのだろう。だとしたら、足りなくなって当然というもの。


「住民などから直接クエストを受けていただいても構いません。ですが、組合を通したボードクエストの場合は、こちらで設定させていただく難易度でおおよその困難さがわかるかと思われます。

 難易度は星の数で表されます。 星一つは駆け出しの冒険者でも安心して受けていただけるクエストとなり、冒険者のほうも実績に合わせて星の数が増えます。ですが、実績で受けられるクエストに制限があるということはありません。あくまでも目安としてご理解ください」


 けっこう気楽なルールだね。ファンタジーものなんかではよく「この等級からしかこのクエストは受けられない」という話も聞くけれど、ここではその手の制限はないらしい。

 おそらくはダイレクトクエストの存在へ配慮したのと、この世界の冒険者組合は縛るための存在ではないことが大きいか。有用な戦力は一人でも多くほしいのが本音だろうから。

 ただし、自由度が高い分こちらで判断はしっかりしなければならない。どう考えても難易度が高すぎるクエストなんかは受けてしまわないように自分で気をつけなければならない。


「ただし、ボードクエストは報酬から一定割合だけ冒険者組合がいただくことになっております。そこはご了承ください。

 ひとまずのご説明は以上ですが、問題ないでしょうか?」

「はい」

「大丈夫です」


 最後の部分はよくある天引きシステムだね。組合の運営費に当てられる、ゲーム的には半ばフレーバー要素ともいえる部分。ただし、クエストによっては組合からの賞金とは別に依頼主から現物の追加報酬が入ることもある……と。

 特に問題はなさそうだ。ベータテストとはいえ、こんなところに見え透いた問題があっても困るんだけど。


「では、こちらの石版に手のひらを押し当ててください。…………はい、結構です。

 こちらのカードが冒険者としての身分証となります。失くさないようにしてくださいね」


 魔力パターンでも読み取ったのだろうか。手のひらを当てた石版は波打った光を発して、ほどなくカードを実体化させた。記入欄はほとんど真っ白だけど。

 それを手渡されると、手元にわたった途端にひとりでに情報が書き込まれていくではないか。全て刻み終えると光を散らし、そのまま虚空に消えていった。「大切なもの」フォルダに格納されたのだろう。失くすなとは言われたけれど、システム的に紛失できない仕様らしい。


「これで登録は完了です。今後この施設はご自由にお使いいただけます」

「ありがとうございます」

「では、あなた方の行く先に祝福がありますように」


 ……まあ、その祝福を与えるべき存在に直接召喚されているんだけどね、私たち。

ルヴィアちゃんの強みが見えた回でした。身体能力と体力だけがなかった子にステータスを与えたらこうなる。


次回も明日。書き溜めは減らすものですからね。ある程度減るまでハイペースにいきます。

ちなみに明日から相方によるサイドストーリーも始まります。URLを貼っておきますので、そちらもよろしければ。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

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