59.あれ、一色多くね?
むしろこっちが本番まである。進化ステータス後半です。
「というわけで次、今のステータスから見える中ではこれが最後になりますね。最後ですが、特大です。もうステータスなんてどうでもよくなっちゃうくらい」
〈マジ?〉
〈アレが?〉
〈まっさかー〉
〈どんだけやべーんだ……〉
〈なんか怖いんだけど〉
私自身の《特殊》の欄にも載っていたが、これは剣の方のステータスだ。そちらから見ることになる。……が、その前にひとつ。
「これ、わかりますか」
〈剣?〉
〈何か変わったの?〉
〈あれ、一文字変わってんじゃん〉
「《唯装》、どうやら何らかの条件で名前が変わりうるみたいですね」
○虹魔剣アイリウス
分類:武器
スキル:《片手剣》、《魔術》、《巫術》
属性:幻
品質:Epic
性質:《唯装》、《魔装》、《不壊》、プレイヤーレベル連動
所持者:虹剣の精霊・ルヴィア
宝石:なし
状態:正常
ATK+8、JUD+10、MATK+24
MPリジェネ+4
・相棒を得て力が解き放たれはじめた、古代の神に鍛えられた虹の魔剣。ただ一人の相棒にのみ振るうことが許されたその剣閃は、その力を引き出す鍵によって虹色に変化する。
○固有能力:《虹の鏡》、《虹の魔術》
《虹魔剣アイリウス》。「晶」から「虹」へ、最初の一文字だけ変化していた。
ステータス面の変化はプレイヤーレベル連動によるものを除くと、まずフレーバーが少し。それともう一つ、入手時点では名前もわかっていなかったもうひとつの固有能力が開かれている。
「そして今回の最大の変化となる固有能力がこちら……え?」
《虹の魔術》
アイリウスが持つ真の力。共に戦い続けると誓った所有者を自身と同じ性質に引き寄せ、高い領域で同調した魔力を振るって戦う。
所有者の属性は《幻》となり、ユニークスキル《虹魔術》を取得する。《虹魔術》のスキルレベルは取得者の所持している属性魔術の最大スキルレベルと同じになり、属性魔術スキルは破棄する(再取得は不可)。
○虹魔術
系統:魔術
備考:ユニークスキル
《虹魔剣アイリウス》によって振るわれる特殊な魔術。全属性(火・風・水・雷・土・氷・光・闇)の魔術全てを同じように扱うことができる。ただし、その基礎威力は本来の0.95倍である。
このスキルは破棄することができない。
〈???????????????〉
〈なぁにこれぇ〉
〈は? いや、は?〉
〈待って待って待って〉
〈いや待てなんだこれ〉
〈いやヤバいでしょ〉
〈草〉
「……私の魔術、全属性になったようです。何を言っているかわからないと思いますが、私も何が起こったのかよくわかりません」
〈その割にはポーカーフェイスな気が〉
〈*ミカン:ルヴィア、驚きすぎると顔からも声からも表情が消えるからね……〉
〈そうなのか。ミカンちゃんthx〉
〈*運営:ふふふ、その反応が見たかったんですよ〉
〈運営ァ!!!〉
まず、《風魔術》が到達していたレベル40で《虹魔術》を取得した。この《虹魔術》、なんと全属性の魔術を同一のスキルレベルで使うことができるスーパースキルだ。
これまで取得して育てていた《風魔術》と《氷魔術》しか使えなかった私だが、これからは水も光も土も雷も闇も、それどころかこれまで取得すらできなかった火さえ自由自在である。
「そしてもうひとつ、これまで風だった私自身の属性が、事実上の無属性である《幻属性》に変更されました。これは《アイリウス》と同じ属性に染まった、ということになりますね」
〈おう〉
〈弱点がなくなった?〉
〈それは一長一短か〉
〈むしろ弱体化だな〉
〈染まって一緒になったとかエモい〉
幻属性はまさしく無属性で、他の属性への相性が全て等倍となる。耐性を持てる属性がなくなり、弱点も同時になくなったわけだ。
とはいえ、私にはあまり気にするものではない。これまで大抵のものが即死級だった火属性攻撃が、他の属性と同程度に受けられるようになった、というだけのものだ。
ただ、それを差し置いてもこれ自体は強化と言うには怪しい。エルフのデメリットは消える前提とすれば、風属性のままの方が少しだけ使い勝手はよかっただろう。
というのは、攻撃面での話だ。特に魔術攻撃の時。この辺りの計算も少ししておこうか。
「DCOでは、全ての攻撃に属性が発生します。物理攻撃の場合は、繰り出すキャラクターの属性がそのまま乗ることになりますね」
〈でなきゃ相性が出ないしな〉
〈それは当たり前だわな〉
〈1.3倍だっけ〉
火→風→水、雷→氷→土の二つの三すくみは有利側が1.3倍、不利側が0.7倍の補正。光と闇の相克関係はお互いの攻撃に1.3倍の補正が入る。この1.3倍という倍率はかなり大きいから、基本的には属性有利は積極的に狙っていきたいものとなっている。
だが物理攻撃の属性は変更ができないキャラクターの属性に依存する。基本的には相性を受け入れて立ち回るしかない。
一方、そうでないのが魔術だ。
「魔術のような特定属性を持つ攻撃は例外で、これは魔術ごとに設定された属性の攻撃が発生します」
属性魔術はその属性の通りの相性が発生するし、それ以外の魔術では攻撃時限定の独自の相性が発生する。これまで何気なく使っていた植物魔術は、実は水と土に強く、火と氷に弱いことが判明している。
そしてこれも当たり前なのだが、魔術にはもうひとつだけ特別な仕様があるのだ。
「そして、魔術攻撃には《属性一致補正》というものがあります」
〈おう〉
〈だから風魔術使ってたのか〉
〈ポ○モンみたいだな〉
この《属性一致補正》は名前の通り使用者と魔術の属性が一致した時に発生するもので、倍率は1.1倍。相性に比べれば地味だが、無視すれば痛い目に遭うだけの倍率ではある。
理論上は魔術では敵の弱点を突き続けるのが理想なのだが、それを常に行おうとすれば8スキル分の経験値が必要になる。普通に考えてほぼ無理だから、等倍の6属性に少しでも高い火力を出すために魔術師の第一魔術は属性一致がセオリーとなっているのだ。
「この《虹の魔術》、そのセオリーに二重の意味で石を投げる性能になっているんですよ」
〈いくらでも弱点突けるしな〉
〈最強じゃん〉
〈いや、万能ではないよな。強いけど〉
〈あー、見た目ほどではないな。強いけど〉
当たり前だけど、全属性が使えるということはあらゆる敵の弱点が突けるということになる。当然、今後は敵の属性を見て確実に弱点を突いていくことになるだろう。
とはいえ、ひとつ懸念点があるのだ。
「ただ、私は幻属性になったので、どの魔術でも一致は取れないんですよね」
〈あっ〉
〈あーなるほど〉
〈一致弱点の最大火力は出なくなるのか〉
幻属性は防御面では強いものの、魔術の攻撃面では一致補正を出せなくなるデメリットがある。全方位を見ることは容易になるが、その分だけ最大火力は落ちるのだ。
その上で《虹魔術》は威力が0.95倍になるから、実数値はさらに下がる。これはデメリットとして、見かけほどの強さが見せられない要因となる。
……んだけど。
「じゃあ結局このスキルは強いのかというと、強いです。激ヤバですよ、当たり前ですけど」
〈知ってた〉
〈やっぱり?〉
〈だよな〉
〈弱いわけねえんじゃ〉
〈お嬢にしては珍しく俗な言い回しだ〉
散々デメリットは列挙したけど、それはそれとして恐ろしく強いのだ、このスキルは。
確かに最大火力は落ちるし、相手を見て属性を選ぶ手間は増えるけど、常に弱点を突いた時の火力は1.12倍。つまり事実上、弱点を突けない代わりに全属性魔術を一致で撃てる。弱いわけがない。
しかもどの魔術を使っても、スキルレベルの経験値は統一。自分の属性やスキルとはずっと付き合っていくことになる一人称のVRMMOにおいて、手軽に全属性を扱えるメリットは計り知れない。
「それに、今後各属性の魔術は差別化されていくでしょうからね。少ない労力で8倍の手札が得られて、弱いわけがありません」
〈それもそうだ〉
〈もしかして全属性の状態異常を一気に使えるようになったりする?〉
〈アル○ウスかよ〉
〈うわぁ〉
「その分浮いたコストは《植物魔術》だったり、他のものを育てればいいですからね」
物理の方により時間を割いてもいいし、《植物魔術》や他のスキルを試してみてもいい。やれることは無限大だ。
まだ詳しい話は聞いていないものの、進化にともなってジュリアが魔術を自在に扱えるようになったらしい。魔法剣士という広いアイデンティティが怪しくなった分、全属性持ちの方向性で個性を出していこう。
……と一瞬だけ思ったんだけど、ピーキーながらクレハも全属性を扱うことができるようになっているらしいとも聞いていた。あの姉妹、そういうところがある。
私の個性は汎用性です。……それでいいのか、公式配信者……。
ちなみに最大火力はというと、《植物魔術》があるので大丈夫だったりします。
これで固有能力ひとつノータッチなんだぜ?