58.このゲームの進化、ヤバい
さて、改めて。
「新しいステータスを見ていきましょう。お見せできるのは一部だけですが……」
〈いーのいーの〉
〈一部見せてくれるだけでありがたい〉
新しい種族に進化したわけだから、変化したステータスは気になるところ。さすがに詳細まで配信に載せるわけにはいかないけれど、大まかにはその興奮を共有してもいいだろう。
というわけで、ステータスオープン。
虹剣の精霊・ルヴィア Lv.25(MAX)
性別:女
種族:精霊
属性:幻
特殊:《魔力生命体》、《本質の精霊・虹魔剣アイリウス》、金属防具・アクセサリー装備不可、《虹の魔術》
状態:
VIT:42
STR:76
AGI:188
DEX:151
INT:220
MND:193
種族スキル:《森林歩法》Lv.40(MAX) 《植物魔術》Lv.40(MAX) 《薬草看破》Lv.15 《鷹目》Lv.32
汎用スキル:《片手剣術》Lv.40(MAX) 《パリィ》Lv.40(MAX) 《回避》Lv.39 《虹魔術》Lv.40(MAX) 《治癒術》Lv.20 《索敵》Lv.40(MAX) 《解体》Lv.38 《直感》Lv.36 《攻撃予測》Lv.40(MAX) 《鑑定》Lv.17 《採集》Lv.21 《罠探知》Lv.20 《生活魔術》Lv.20
…………んん?
「えっと、ひとつずつ確認していきましょう」
〈おっなんだ〉
〈そんな反応するレベルでいろいろあったのか〉
〈絶対面白いじゃん〉
〈神回の予感〉
「まずひとつめ。これは私のネームタグ表示をオンにしますね」
〈ん?〉
〈なんぞこれ?〉
〈なんかある〉
〈虹剣の精霊?〉
〈二つ名ついてて草なんだが〉
〈*明星の騎士団:待ってルヴィアさん何それ〉
《虹剣の精霊・ルヴィア》。ネームタグにはそう表示されていた。プレイヤーネーム自体に変更があったわけではなく、新要素の解放になっているらしい。
「虹剣の精霊……?」
「あ、それ? 精霊王様の洗礼を受けたら、みんなそれをもらうの。自分が象徴しているものを、称号としてね」
「……あ、ほんとだ」
○二つ名について
特定の条件によって、プレイヤーも二つ名を獲得することがあります。二つ名は所持しているものの中から一つだけ、ステータスやネームタグに装着することができます。任意に付け外しが可能ですが、中には外すことができないものも……。
私が取得したことでだろうか、ヘルプが解放されていた。どうやらバージョン1から本格実装されるカスタム要素のひとつらしい。割と定番のシステムだ。
最後の外せない二つ名というのは、思いつく筆頭でいえば犯罪者プレイヤーへのペナルティだろうか。DCOはこれまでプレイしてきたところを見れば分かるように、PKをはじめとする他プレイヤーの妨害行為にかなり厳しいタイトルだ。見せしめのようなものは充分に考えられる。
ヘルプ解放によって見えるようにもなったようで、ニムさんのネームタグは《昼の精霊・ニム》となっていた。これはさっき聞いた通りのことだ。
つまり私は、文字の通りこの剣の精霊ということになる。《本質の精霊》というのはそういうことのようだ。この特殊要素は特に効果はなく、それを示すだけのものであるらしい。
「次、《魔力生命体》ですね。たぶんこれは精霊の固有です」
「精霊の体は魔力でできてるからね。普通の肉体とはちょっと違うの」
〈うわ何これ〉
〈くっそ盛り沢山で草〉
〈詰め込みすぎじゃない?〉
〈二つ目つっよ〉
〈デメリットも大きい気がするけど〉
《魔力生命体》
魔力で構成された体を持ち、魔力を生命力へ変換する特殊な生命。周囲の魔力の影響を常に受け、代わりに肉体へ対する影響を受けない。
ただし口から取り込んだ食物や薬は体内で魔力へ変換し、本来の効果と同じ影響を受ける。
・極端に魔力の濃い場所で全ステータスが上昇し、極端に魔力の薄い場所で全ステータスが下降する。
・周囲の魔力を吸収し、常にSPを微回復する。回復量は空間の魔力濃度による。
・物理系状態異常の効果を受けず、《魔力吸収》で継続ダメージを受ける。《循環不良》ではHP最大値が減少する。
・《マナシフト》系統の魔術を使用した時、MPではなくHPが減少する。
そもそもの身体の作りが違うから、同じ状況にあっても他の種族とは受ける影響が違うようだ。……それにしても、効果が多い。
空間の魔力量でステータスが変わる、とあるが、これはひとまず無視していいだろう。今後出てくる専用のマップで精霊だけ影響を受ける、程度のものだ。わざわざ「極端に」と書かれている時点で、大抵の場所では気にしなくていいはずだ。
気になるのは二つ目の効果。SPの自動回復だ。このゲームではふつうあらゆる行動でSPを消費するから、例えば街を歩いているだけでも減少する。回復するには食物系アイテムが必要となる。
それが自動回復するのだから、それはもうありがたい。さすがに回復は微量のようだけど、それでも破格だ。
ただ、これについては脈絡がなさすぎるような……。何か裏がありそうな気がするから、一応覚えておこう。
次に状態異常の無効。物理系というと、毒や麻痺などだ。体内に生物毒を注入されたところで、そこにあるのは肉体ではなく魔力なのだから関係ない、ということだろうか。一方で魔力にかかる状態異常は、これはかえって大きく影響が出る。
そして《マナシフト》でのHP減少。これは私にはあまり影響がないものの、純粋にデメリットだ。後続の精霊志望ヒーラーが覚えておけばいいだろう。……命を削って自分の魔力を与えると思うと、少し怖いデメリットだ。
そして、デメリットがもうひとつ。
「精霊って、金属防具は着けられないんですね」
「そうなんだよねー。精霊は防具は体の一部として《魔化》するから、それができない金属は着けられないみたい」
そう、金属防具とアクセサリーの装備ができなくなった。精霊への進化ではこれが最大の難点といえるだろう。
魔術的な種族だから鎧を着るような前衛職は少ないとしても、お守り代わりの鎖帷子や脛当てなどの防具を選択できなくなるのは痛手だ。アクセサリーについてはもっと致命的で、装備の自由度がやや薄れてしまう。
もっとも、ここまでを補って余りあるメリットはあるのだけど。
先に代償は見た。ここからが本番だ。
「精霊の基礎ステータスと、魔剣の本来のスペック。皆さん、どちらからにします?」
〈ステータス〉
〈魔剣〉
〈ステータス〉
〈どっちも面白そうだな〉
〈精霊〉
〈特大のが二つもあるじゃん〉
〈ステータス〉
〈魔剣〉
〈精霊〉
やや精霊のステータスが優勢かな。ではそちらから。
「まず前提からいきましょうか」
《DCO》ではオープンとなって自由に割り振ることができるステータスは6つだ。VIT、STR、AGI、DEX、INT、MNDである。
これらがレベルアップで上昇するのだけど、その上昇値は固定値と自由値の二つに分けられる。自由値は任意割り振りでレベルごと10点。これは今回は置いておくとして。
人間や獣人をはじめとする、デメリットのない種族の固定値はレベルごとに12だ。人間は全ての値が2ずつ、狼獣人はINTとMNDが0で他が3ずつ、といった具合。
一方でエルフはというと、VITが0でAGIが4、それ以外の四項目は3ずつとなっている。合計値は人間よりも4多い16である。
ただしその分の代償として、ステータスの多い種族にはデメリットがある。エルフの場合は「《火魔術》取得不可」と「被火属性ダメージ2倍」の二つだった。前者はともかく、後者はなかなか大変なものだ。
「ここまでが前提です。プレイヤーさんや掲示板を見ている方、以前からのリスナーさんは知っているかとは思いますが、改めてここまで押さえておいてください」
〈OK〉
〈確かにそんな感じだったな〉
〈なるほど〉
〈初見勢には助かる〉
精霊もエルフと同様、デメリットのある種族だ。金属装備不可は明確にそうだし、魔力の影響を受けやすい性質も全体的に見ればデメリットだろう。
ではそんな精霊の固定値はどんな感じかというと。
“
VIT+0
STR+1
AGI+5
DEX+3
INT+6
MND+5
”
「以上です」
〈ん!?〉
〈多くない?〉
〈つっっよ〉
〈えぐいて〉
〈やべぇ〉
〈いや草〉
〈エクストラ種族やべーわ〉
ひとつずつ見ていくと、DEXと元々増えないVITは据え置き。STRが2点減っている辺りは、エルフよりも魔術に極端に振った種族だということだろう。
一方でAGIは1点増えて敏捷性が増したし、INTとMNDは驚きの伸びを見せた。INTはなんと+3点、MNDも+2点だ。魔術系の能力は末恐ろしいことになっている。
合計すると驚異の20点となり、エルフ時代からさらに4点も増えていた。これを人間と比べてしまうと、1レベルごとに8点ものステータス差が生まれることになる。重装備の前衛やタンクでもない限り、金属装備ができなくなることなど吹き飛ぶメリットだろう。
デメリットの方向性は変わったとはいえいきなりステータス1.25倍とは、厳しい条件解放のエクストラ種族は格が違う。
「じゃあ早く進化した者勝ちじゃないか、と思ったそこのあなた。ご安心ください。ステータス内にストックされた既存の固定値も、どうやら進化時に全て進化後のものへ変化するようです」
〈ファッ!?〉
〈は?????〉
〈やば〉
〈え、お嬢今レベルいくつだっけ〉
〈おい誰かお嬢を止めろ〉
私は現在レベル25だから、例えばAGIは+25。STRは50点減ってしまっているが、MNDは50点、INTに至っては75点も増加している。VIT以外はある程度バランスの取れたステータスだったはずが、急激に尖ってしまった。
魔術威力はかなり上がったようだけど、いっぽうでSTRが下がったのはしっかり覚えておくべきだろう。しばらくは《パリィ》を慎重に扱う必要がありそうだ。
ステータスには他にも変わっているところがありますが……そこは次回。精霊も凄ければ剣も凄いんです。