55.また一人だけゲームジャンルが違う
さあ、ラストバトルだ!
午後10時10分、全レイドが《夜草神社》に到着。被害も最低限で済み、かなりの人数で《植物神の娘・梨華》を取り囲む。
ここからは最終決戦だ。各々とにかく近くの敵を倒して、その合計ダメージによってボスを倒し切る。
「『カンスト組、できるだけ中央付近に!』」
『レベルが低い人から外縁部に! 死に戻りしたカンスト勢が戻ってきたら道を譲ってやってくれ!』
ここまで来れば、もう布陣も何もない。敵のレベルが高い中央をトップ勢が受け持ち、それぞれ自分の実力に見合った位置で片っ端から片付ける。
これだけの人数だから混沌とすることも懸念していたけれど、パーティ単位でそれぞれのMobに集中できていた。中には周囲のプレイヤーと即席で手を組んで、効率よく戦いを進める者もいる。
幸いにもこのアルラウネ、地面のところどころに生える大きな薔薇のつぼみからしかポップしてこない。こちらから攻撃を当てて開かせないと敵が反応してこないから、背後から突然襲われて阿鼻叫喚ともいかないようだ。一度も攻撃を受けていないパーティにはそもそもターゲットしてこないようになっている。
私もその横を難なく素通りして中央へ合流。ここからは私も大勢の一員として参加するつもりだ。ただ、総指揮官がやられるとクリアランクが落ちるようなので、間違っても死なないよう安全重視で。
「最後はソロでいきましょう。あのくらいの敵なら一対一でいけますから」
〈おう周り見てみろ〉
〈中央付近にはほとんどソロいないんだよなぁ〉
〈30相手にソロ余裕とか……〉
〈30アルラウネにタイマン張ってるのお嬢と竜姉妹だけだぞ〉
さて、なんのことやら。
手近なところに開いていないつぼみがあったから、さっそく倒していこう。
梨華の分身 Lv.29
属性:土
状態:汚染
備考:HPリンク(植物神の娘・梨華)
斬撃を一度当てると閉じた花びらが開いて、中からボスそっくりのアルラウネが現れた。これは「いわゆるアルラウネ」だから花の中から人型が生えていて、下半身の植物は根を張っている。当然ながら動かないから、攻撃を当てるだけなら簡単だ。
だがこのアルラウネ、かなり攻撃手段が豊富。防御力やその手段もやはり強力だから、そう簡単に倒されてはくれない。まずは攻撃を把握して見切るまで守りを重視した方がよさそうだ。
「腕を上げて後ろへ引いたらツルの鞭」
〈斬ったww〉
〈いやそんな簡単に斬られても〉
〈パリィ潰しの鞭を斬るのヤバ〉
〈いや無理だってそんなん〉
「握り拳を作って力を込めたら毒花粉」
〈さすがに避けるんだな〉
〈普通の対応で安心したわ〉
〈風は……二次被害出るのか〉
「右手を胸元に当てたら属性魔術」
〈はいお家芸〉
〈やると思った〉
〈バレットアローエッジは跳ね返すもんな〉
〈いつもの!〉
「手で銃を作ったら種鉄砲」
〈お嬢が避けた!?〉
〈速いしさすがに無理か〉
〈初見で余裕回避の時点で充分おかしい〉
「両手を胸元に合わせたら植物魔術、っと」
〈ほい余裕回避〉
〈感覚狂うな〉
〈結構ムズいからなこれ〉
モーションは分かりやすいけれど、見せてから攻撃までがかなり速い。反応で動けるようになるまでは危険なプレイングは慎むべきか。
え? もう充分危険なプレイングをしているじゃないかって? 知らないね。
「あと二回ほど見ますね」
〈二回でわかるのか……〉
〈反射神経に刻み込むの早すぎない?〉
〈初見でコレなのにまだ速くなるのかよ〉
しばらくこの個体に付き合ってもらって、それぞれの攻撃を3、4回ずつ確認。固有攻撃は最初に見たもので全部で、魔術系はプレイヤーと同じ仕様。このレベル29の個体の場合、スキルレベルは属性魔術が40。《植物魔術》は30台のようだった。
属性魔術は魔力エフェクトの形で一瞬早く種類がわかるから、返せるものは《パリィ》で跳ね返す。植物魔術はエフェクトによる判別が利かないから、唯一跳ね返せる《リーフエッジ》が飛んできても無理せず避けることにした。
〈待ってその仕様知らない〉
〈なんて?〉
〈トップ層レベル高すぎて草〉
「掲示板にまとめられていますよ。見分ければわかるので、今後も有用なはずです」
〈まず見分けられないんスよ〉
〈わがんね〉
〈全部同じじゃないですか〉
これが《ロックバレット》、これが《クレイアロー》、これが《グラウンドロア》。ちがいますよーっ。
まあ、エフェクトの雰囲気と色は全て同じだ。なんとなくの形を見分ける必要があるから、確かに少し難しいかもしれない。
ともかく、大方のことはわかった。ぼちぼち攻めに転じていこう。
後ろへ引いてから投げつけるように振り下ろしてくる左腕を見ながら《氷魔術》を詠唱、飛んでくるツルを切り落として隙ができたら懐へ潜り込んで《フリーズロア》を撃ち込む。
右腕が握られたのが見えたので、すぐに右斜め後ろへ回避。噴射された毒花粉に巻き込まれないよう、今度は左斜め前に切り込んでから近付き斬撃を当てて再び退避。
背後を取られた分身は自身を中心に《ランドプロード》を撃ってきたので、これは後退して避ける。もちろんその間に魔術詠唱は忘れない。
魔術効果が切れたらまた隙ができるから、こちらへ向き直っていたその胸元へ袈裟斬り。同時に追撃の魔術を叩き込めば、存外あっさり倒すことができた。
「《コールドプロード》!」
〈鮮やか〉
〈無駄がなさすぎる……〉
〈何手先まで考えて動いてるんだこの子〉
〈キルマシーンだわやっぱ〉
〈竜姉妹も暴れてたけど、やっぱお嬢が最強では?〉
そんなこんなでしばらく順調に戦えていたのだが、20分ほどしたところでふと気づいた。そろそろ本体のHPが半分を切る。
「『本体が黄色ゲージに入ります! 全員、できるだけ警戒を!』」
『2、1、ゲージあと半分! ……ルヴィアさん、本体がそっち見てる!』
「え、待って。私ものすごい狙われてません?」
〈うわマジだ〉
〈ガン見されてて草〉
〈君のハート(物理)にロックオン☆〉
目と目が(略)。
いや、そんなことを考えている場合ではない。あのボス、明らかにこちらを狙っている。
庇いに来ようとする周囲のタンクを手で制しておく。VRでも感じるこの殺意、明らかに普通の攻撃ではない。私の周りからプレイヤーが離れたその瞬間、ボスは胸の前でそっと両手を合わせた。……え、待って、これって。
次の瞬間。その目の前に現れた魔法陣から、私目掛けて薄緑色のレーザーが飛んできた。
「な───っ!!」
『ルヴィアさんっ!?』
『大丈夫、ルヴィア!?』
「『……な、なんとか』」
今回ばかりは、さすがに死ぬかと思った。
分身があの挙動を見せた時に使ってくるのは、《リーフエッジ》、《フラワーストーム》、《グラスケージ》、《サップアンバー》の四つ。ゲージ直後の攻撃だから純攻撃技で来るだろうと踏んで回避準備をしていたら、撃ってきたのはまさかの新規魔術だった。
あれ、たぶん《ロア》系統の魔術だ。《エッジ》系と比べると、威力はさほど変わらないが速度がかなり速い。反射で緊急回避行動を取ったのに、回避はかなり紙一重だった。もしボス本体に攻撃が通る仕様だったら、《リーフエッジ》を打ち返そうとしたまま回避が遅れて即死だったかもしれない。
「たぶんあのボス、《植物魔術》レベル50超えですね。あのモーションからロア系が来るとは……」
〈っぶねー〉
〈あれ避けるのおかしいって〉
〈あんなん初見で狙われたらふつう死ぬだろ〉
〈今のを総大将に撃ってくるのヤバすぎひん?〉
『また来るよ、ルヴィアさん!』
「《風魔術》ですね。今度は避けます」
〈わかってさえいれば平然と避けるの草〉
〈ほんと軽々とまあ〉
〈パリィビルドなのに回避もトップクラスだもんなぁ〉
〈狙われてんのがお嬢でよかったわほんと〉
問題なく避けることはできたものの、ボスからのターゲットは外れてくれない。どうやらずっと私を狙うつもりらしい。
さすがに私でも、ボスから即死級攻撃で狙われながら取り巻きを倒すのは無理だ。
「『あー……たぶんこれ、ボスマーク複数取得者狙いですね』」
『なるほどなぁ』
『確かにぽいね』
「『私はできるだけタゲ引いて避けに専念するので、攻撃続けてください』」
『了解!』
『無理はしないでね!』
〈そういやボスマーク3つ持ちはお嬢だけか〉
〈たぶん2つ持ちもほとんどいないぞ〉
〈まあ総大将はふつう救援班やらないわな〉
それはそう。確かに普通はその二つは兼任しないだろう。開発側もおそらく、総大将はどれかのレイドリーダーを兼ねると思っていたんだと思う。
私がなぜか救援班で、しかも唯一ボスマークを三個持ちしてしまったがために、即死級攻撃がぽんぽん飛んでくるターゲットが総指揮官に向く羽目になってしまったのだろう。
〈*運営:ルヴィアさん、避けてください〉
〈たぶん運営も想定外だよなこれ〉
〈でなきゃこんな素直に応援しないわ〉
〈運営もベストクリア見たいんやなって〉
「正直、けっこう申し訳ないと思ってます。許してください、ちゃんと避けるので」
かくして私は今から、数百人がボスの分身と戦うのを見ながら避けゲーを行うこととなった。
……なんか私、こんなのばっかりだね。
次回、クロニクルミッション終了。