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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.0-2 魔剣精霊の誕生

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55/505

54.レアスキル育ててるといいことあるよ

昨日の午後5時頃、バージョン0前半の分のキャラクター紹介を公開しました。

31話「掲示板 -王都-」の後に挿入されているので、よろしければ。初公開の情報がけっこうありますので。

 9時52分、私が第1レイド、ユナパーティが第5レイドへ。それぞれ態勢を立て直して、第5レイドはそのままユナパーティが参加を続け、後続プレイヤーも戦列へ加えて戦闘継続へ。

 9時54分、クレハとジュリアがついに到着。クレハが他の後続アタッカーとともに第7レイドの救援へ向かって膠着状態を打破し、ジュリアは第1レイドへ合流して反攻の中心へ収まる。

 この間に第3レイドはボスである《増殖・白菜》の討伐に成功。奥の夜草神社の防戦援護へ向かった。


 これによって第2、第3、第6レイドがクリア。第1、第5、第7レイドが戦線を押し戻した。数分前にはどうなることかと思われた並行レイド攻略だが、なんとか立て直しに成功している。

 残る苦戦状態のレイドボスは一体。第4レイドが相対する《策謀の間》、鎮座するボスは《策謀・吹野》。立ち直った第1レイドを任せて一度下がった私は、救援の詰めとしてここへ向かっていた。








 《策謀・吹野》。道化じみた無機的なパペットの姿をした、四番目のレイドボスだ。どんな素材でできているのか光沢を持った下半身はほとんどダメージを与えられず、足を引っ掛けて転ばせることで上半身へ攻撃を与えるのが主な攻撃方法となる。

 それなら遠距離攻撃で直接上半身を狙えばいいのでは、と思いがちなところは見透かされて、MDEF(魔法防御)がかなり高い。魔術が効きづらい上に近接攻撃は手間がかかるときて、相性のいい弓使いはそもそも絶対数がかなり少ないのだ。普段どちらかといえば不遇な職業でもあるし、後衛がやりたいなら魔術があるのだから無理もないけれど。


 主な攻撃は通常の物理攻撃と、種類さまざまな罠の設置だ。存在は分かりやすいグラフィックをしているものの、仮想世界特有というべきか罠の種類がわかりづらい。

 落とし穴、網の罠、大型ねずみ捕りの罠、毒の罠、どこからともなく飛んでくる矢の罠の5種類があるのだが、このうち落とし穴以外の四つはプレイヤーに害しかもたらさない。だから基本的には除去の必要があるのだが、厄介なことに落とし穴だけはボス攻略に必須なのだ。

 落とし穴以外の罠は除去しながらボスの攻撃をいなし、落とし穴へ誘導して転倒したところを総攻撃。これを繰り返すのが、基本的なボスの攻略法ということになる。

 現に途中、最終ゲージに至るまではこの方法で順調に進んでいた。






 ところが現状はというと。


「ルヴィア! 待ってたよ」

「お待たせしました、ケイさん。現状は……?」

「見ての通りさ。正直、お手上げだね」


 《策謀の間》の様子は、大まかに二つに分けられる状態となっていた。ボスとその相手をする近接職、減らすそばからばら撒かれる罠を片っ端から除去する罠消し班だ。

 罠消し班の多くは今回のクロニクルクエストでもところどころで重要な偵察を担ってくれた斥候プレイヤー、ダンジョン探索時における罠探知と除去のプロだ。かき集めた彼らをもってしても、ボスが狂ったようなハイペースで撒きまくる罠は消せども消せども減ってくれない。


「打開するとすれば、虱潰しにボスに罠を踏ませるとか」

「それがアイツ、三回連続でハズレを踏むと一分間落とし穴に引っかからなくなるんだよ」


〈うわ鬼畜〉

〈まあでなきゃこんなばら撒かないか〉

〈スマホのロック解除かよ〉

〈ならなおさら誤爆防ぎに罠減らさなきゃなのか〉


 さすがに対策してあるらしい。さすがに自分からハズレを踏みに行くことはないようだけど、今の密度では一分間で罠を踏ませないこと自体が簡単ではない。罠除去は隙が大きくなるから、ただでさえボスの近くではやりづらいというのに。


「……それなら、罠以外で転ばせるとか」

「できればそれがいいね。転んでる間に攻められるし、罠無敵も減るし、その隙に罠も減らせる」


〈お、さっきのか?〉

〈やりましたね……〉

〈またころばし屋やるのか〉

〈聞き覚えがあるぞう?〉


「だけど、反動で転ぶような強い攻撃は来ないよ。ないお陰で耐えてるのもあるけど」

「だとしたら……ちょっと試してみます。もうひとつ手札がありますので」


 それはそうだ。あれができたのは広めのフィールドと敵の強い攻撃、万全の味方が揃っていたから。何一つ揃っていない現状でやろうとしても、中途半端に仰け反らせることすらできるかどうか。

 だが、別に転ばせる方法はそれだけではない。


「前衛隊、少し下がってください!」


「わかった!」

「正直どうしようもない、悪いが頼む!」


〈毎度のことながらこの信頼度よ〉

〈いきなり来て口出してるのにみんな従うもんな〉

〈こういう時のお嬢だいたいなんかするからな〉


 まあ、今回は別に難しいことではない。()()()()()()()()私にしかできないだけだ。

 他のプレイヤーが下がったことで、自然とボスのヘイトは私に向けられる。……忘れてはいけないのが、このボスは火属性であること。打ち合う分には問題ないにしても、一度ミスをすればその時点で即死すら有り得る。当然、このレイドにエルフのプレイヤーはいない。


 たぶん運営は、だから大丈夫だと思ったんだろう。エルフ限定のスキルを育てきって、かつ7択でわざわざ火属性のボスに挑むプレイヤーはそうそういないだろうと。

 それなら私が遊撃に回ったのが運の尽きだ。……それとも、柔軟な対応でこの光景を作らせること自体が運営の意図通りだったのだろうか。






「……《スタンブルルート》」


〈!?〉

〈え?〉

〈躓いた!?〉

〈なに今の〉

〈お、〉

〈新技?〉

〈転んだ!!!〉


 その大きさと無敵性、森の中なのに平坦なフィールドで転倒を防ぎ、レイドを対策不能に陥らせていた《策謀・吹野》は、たった魔術ひとつを前に鼻頭を地面へ打ち付けた。


「前衛隊、総攻撃! 斥候隊は罠を潰せ!」






 《スタンブルルート》。これまで一切の情報がなかった、《植物魔術》スキルレベル40の習得魔術だ。

 《植物魔術》は難易度のせいで全体的に伸びが悪いこともあり、おそらく最速で育てている私も覚えたのはつい昨日だった。私がその時の話題の流れで話しそびれていたこともあって、掲示板にもまだ報告がない。


 効果は「地面に張り出した根を張らせることで足場を悪くし、敵を躓かせる」というもの。……正直、微妙だ。大抵の敵はちゃんと足元も認識しているから、普通に使うだけでは少し迂回させたりステップさせたりする程度で終わってしまう。

 だが今回は綺麗に刺さった。というのも、このボスは足元を全く気にしないのだ。条件付きの罠無効を持っている上に下半身が無敵だから、本来は足元へ気を配る必要がないのだろう。おかげで根を用意しただけで簡単に転んでくれた。


「助かったよ。これ以上前でやらせるのは風のエルフにゃ悪い、後ろで見ててくれ」

「いえ、起きたらまた転ばせますよ。この際徹底的にギミック壊しちゃいましょ」

「わかった、頼む。攻撃はうちのに任せな」


〈平然と酷いこと言いやがる〉

〈開発者泣かせにも程があるな〉

〈*運営:まあ、ルヴィアさんに倒されるなら吹野も本望でしょう……多分〉

〈珍しく運営が萎れてるぞ! 今だ煽れ!〉

〈NDK? NDK?〉

〈*運営:二人ほど10分のコメ禁に処しました。私を怒らせたな……?〉

〈あーあ〉

〈調子に乗るから……〉

〈10分で済んでよかったな〉


 ……まあ、そこからは特筆することはなかった。能動的に転ばせる手段さえあればギミックごと崩壊するボスだから、罠を潰して根に引っ掛けて攻撃するだけだ。


 私、ルヴィア。エルフの18歳。ころばし屋をやっているの。








 午後10時8分、第4レイドと第5レイドがほぼ同時にボス討伐に成功。第1と第7レイドは先に終わっていたから、これで全レイドボスが攻略されたことになる。

 ちなみに私は途中で抜けたものの、第1レイドのボスマークも付与されていた。どうやら討伐時にいる必要はなく、討伐にある程度貢献していればそれでいいらしい。


「さて、いよいよバージョンボスですね。他のレイドから情報が来ているので、今のうちにおさらいしておきましょう」


〈予習は実際大事〉

〈移動時間を無駄にしない配信者の鑑〉






 ダンジョン《生い茂り過ぎた樹海》を突破して、舞台は《夜草神社》に移る。扱いの上ではダンジョンということになるが、事実上のボス専用フィールドだ。おそらくバージョン1以降では施設の扱いになるのだろうけれど、今はまだセーフティ圏外になっている。

 神社と名はついているものの、実際のフィールドはボス部屋をさらに広くしたような領域だ。さらに奥に神殿や社務所があるのかもしれないけれど。


「バージョンボスは《梨華》、翠華さんの娘さんですね。これは決戦前に知らされていたことですが」


〈娘!?〉

〈翠華さん娘おんの!?〉

〈若いお母さんだなぁ〉

〈まあ異種族だし〉

〈男は誰だ!〉


 この反応を見ての通り、一度話したからといってリスナーさんが知っているとは限らない。私も大事なことは意識的に繰り返し話すようにはしている。


 バージョンボス《植物神の娘・梨華》。親や7人の巫女の本来の姿と同様、夜草神社に住むアルラウネだ。幻双界ではアルラウネは必ずしも下半身が花になっているわけではなく、種族共通の特徴は植物を操ることと緑肌であることくらいであるらしい。植物系の人型種族、といった程度の位置づけなのだろうか。

 ただしこの《梨華》、変異状態では巨大な「いわゆるアルラウネ」だった。腹部から下を大きな花に沈めて、デフォルメされたポ○モンみたいな顔をしたビキニ姿の女性だ。……この全年齢のゲームで、かなり頑張ったと思う。隠す方向にも、曝す方向にも。


「で、ここからが重要なのですが、ボス本体には全くダメージが入りません」


〈ひょ?〉

〈わあお爆弾〉

〈身代わりとか出てくるのか〉


「さすがに人数が多すぎて、真っ当な多対一のボス戦はできそうになかったんでしょうね。今後もこういう形式は多そうです」


 ボスエリアの中央に鎮座するボス本体には攻撃が全く通らず、代わりにボスが生成する小さなアルラウネを倒すことになる。この小アルラウネとボスがHPを共有していて、一定数倒すことでボスを討伐できるというわけだ。

 小アルラウネといっても、元が大きすぎるだけでほぼ通常サイズ。普段の戦闘と同じ感覚でパーティを組み、各個撃破を図る方針で仮決定していると聞いていた。私もそれで異論はない。


 レベルには若干のばらつきがあって、おおむね20から30。フィールドの中央に近いほど高レベルな個体が湧く傾向にある。

 攻撃方法はツルによる物理攻撃や毒花粉の噴射、テッポウウリのような種鉄砲。それとその個体の属性魔術に加え、全ての個体が《植物魔術》を使ってくる。《スタンブルルート》らしきものは確認されていないそうだから、スキルレベルが設定されているなら30台だろう。


 つまり、物量作戦だ。せっかくそれだけの人数を集めたのだから、最後は全員で押し切れということだろう。

 しかもゲージはわずかに一本。その一本が長いとはいえ、厄介なゲージ攻撃は行ってこない。これだけ個性豊かなボスたちを倒させてからのこれとなると、もしかしたらボーナスステージのようなものなのかもしれない。


「そのへんどうなんですか運営さん」


〈草〉

〈ついにお嬢もコメ欄の運営を使い始めた〉

〈まあ散々使われてるしな〉

〈*運営:ではクエストメニューをご覧ください〉


「クエストメニュー……なるほど」


 促されて見てみたところ、確かにクエストメニューが更新されていた。《生い茂り過ぎた樹海》はクリアされたから、フェーズ3は突破したということか。

 今の画面にはこう表示されていた。いよいよラストスパートだ。





phase.Final 神社奪還

・七人の番人を倒し、いよいよ夜草神社まで辿り着いた。アルラウネたちの救出と神社の浄化はもうすぐそこだ。最後まで全員で戦い抜き、彼女たちと神社を解放せよ!


・夜草神社

 世界樹の麓に存在する、幻双界の植物を司る大きな神社。《植物神・翠華》を筆頭に、その娘である梨華と八人の腹心たちによって管理されていた。現在は汚染されてしまい、機能停止状態。機能回復のためには《精霊の祠》を解放した上で、汚染されていない状態の10人のうち誰かに《払いの儀》を行ってもらう必要がある。


・《植物神の娘・梨華》

 翠華の愛娘であり、夜草神社のナンバー2。突如強力な汚染に襲われた神社を守るため、翠華を逃がすための時間を稼いだ末に汚染されてしまった。汚染の力によって暴走し、強靭な蔦で転移門を塞いでしまった張本人。

 七人の番人たちと違い暴走する力を外へ向けているため、ここまで到達したプレイヤーたちならば負けることはないはずだ。

ルヴィア、またボスを転ばせるの巻。今回ばかりは正攻法みたいなものなので仕方ありませんね。

ちなみに運営チームはルヴィアが《植物魔術》を取った時点で吹野ちゃんに合掌したそうです。

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『Dual Chronicle Online 〜幻双界巡りの物語帳〜』

身内による本作別視点です。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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