52.もちろん掲示板のサーバーは落ちた
久々のルヴィア無双回です。
午後9時半ごろ。予定通りに開始したレイドボス戦は、ひとまず順調な滑り出しを見せていた。手元に置いた各ボスバトル画面は概ね想定内の推移を映しているし、七人のレイドリーダーからは今のところ非常時連絡もない。
今回の攻略では私を含む少々の戦力をセーフティへ残し、危うくなったところへ投入するよう備えることにした。あまり温存している余裕があるわけでもないから、本当に最低限だけど。
「この総指揮官の立ち位置、配信的には一長一短ですね」
「全貌が見える代わりに、自分自身はあんまり戦えないものね。ま、逆側にブランもいるから」
〈こういうの好きよ〉
〈いつもの二窓してる〉
〈ブランのとこだけ公式枠に入れない運営の配慮よき〉
〈お嬢の戦闘はどうせ後で見れるし〉
先ほどお試しで使われた公式枠の配信、どうやらこのボス戦のための予行演習だったらしい。配信で視聴型のエンターテインメントとしても成立させる方向性を示している運営にとっては、これは求めた形の一つなのだろう。
自分のチャンネルを持っている配信者の担当分は公式チャンネルには含めず、あくまで穴埋めの形で用意しつつリンクを貼る形式。運営にとっては、このような分割視点の全てをそれぞれ配信者が受け持てるくらい広まるのが理想なんだと思う。
今近くにいるのは同じ待機組。中でも目ぼしいところだと、ユナのパーティがそうだろう。イシュカさんの復帰で元の5人が集まりつつ、臨時で入っていたエルフのプレイヤーもそのまま臨時参加を継続。6人パーティを組んだ状態で、予備隊のエース格となっている。
目下わずか12人の唯装持ちを2人も擁するトップ級パーティを含め、私の他には練度の高いプレイヤーばかり2パーティを残した布陣となっている。助っ人として少人数で戦局を動かすのだから、影響力が高くなければ話にならないのだ。
今回のレイドボスたちに対しては、ただ戦力を七分割して送ったわけではなかった。少しでも戦いやすくするための施策は尽くしてある。
ひとつずつ見ていくと、だいたいこんな感じだ。
一、《豊穣・陽華》。属性は土。大鎌を持ったトレントで、回避困難なMPドレイン攻撃をしてくる。ダメージは大したことはないとはいえ、魔術師をここに投入するのは効率が悪い。
なので当然、ここに送り込んだのは物理職が中心。魔術アタッカーが少ない分、近接の攻撃力を上げた編成になっている。リーダーはシルバさんなのだが、意外なことに満場一致だった。お調子者には見えるけれど、彼とリュカさんの働きは見ている人は見ていたようだ。
二、《幻惑・雪花》。属性は氷。見かけはただの巨大アイスゴーレム。ただしこのゴーレム、見かけと実際の位置や形状が一致しないらしい。当たり判定を視覚で判断してはいけない、やや上級者向けのボスだ。
ここはブランさんを中心に前衛職、特にタンクの練度を高めにもった。ボス自体の耐久力が他より低いから、真っ先に突破してバージョンボスの足止め体勢を築いてほしいところだ。
三、《増殖・白菜》。属性は水。名前と同じく真っ白な大蛇。本体はそれだけなのだが、フィールドから超高速で草木が生えてくる。これを常に刈り続けておかないと、ボスの《植物魔術》で文字通り足元を掬われてしまう。
ここは対策さえしっかりすれば比較的苦労するボスではなさそうだから、比較的Bチームが多め。物理職は斬撃武器で固めてフィールド除去を優先し、護衛をつけた魔術師組の火力で削り切る戦法を狙っている。やや統率の難しいレイドとなったが、リーダーにはトップタンク職プレイヤーのセージさんが買って出てくれた。
四、《策謀・吹野》。属性は火。道化のような風貌の大型パペットだ。見た目通りフィールドに罠を撒いてくる。だけならいいのだが、なんと下半身にダメージ判定がない。近接攻撃を当てるには設置される転倒トラップにボス自身を掛けなければならない。ちなみに魔防がかなり高い。
魔術の通りが悪いので、ここもやはり前衛多め。特に余計な罠を除去できる斥候ビルドと、遠隔の物理攻撃ができる弓使いは重視している。レイドリーダーは満場一致でトップ斥候職のケイさんだった。
五、《誘惑・蒲公英》。属性は光。比較的わかりやすい大きな猫の姿だ。名前の通りではあるのだが、通常攻撃のノリで魅了攻撃をしてくる。《巫術師》の増員は必須だろう。
というわけで、ここも魔術師多め。攻撃そのものは比較的弱めだったから、ヒーラーを増やして護衛を固め、魔術師で攻める戦術を取っている。リーダーはミカン。《治癒術》最重要のボスだから、ヒーラーに扱わせた方がいいだろうという判断だった。
六、《復讐・桜草》。属性は雷。巨大な桜のつぼみの姿。通常攻撃は弱いものの、一定周期で花が開いて範囲攻撃をしてくるので観察重点。復讐の名の通り、この範囲攻撃はボスの被ダメージに依存するのだとか。
二つ名の物騒さの割にしっかり統率さえ守れば難しい相手ではないから、第3レイドと同じくBチーム中心の編成となった。リーダーは私のせいで知名度があり、王都西平原の偵察隊から推薦のあったアークさん。
七、《再誕・稲花》。属性は闇。ハエトリソウとウツボカズラとモウセンゴケを合体させたような巨大食虫植物。見た目通りの攻撃に加え、こちらは一定ダメージ依存で本体を枯らして種に戻る。その種から元の姿へ成長する際、高威力の範囲攻撃が飛んでくる。
やや高難度だが、専用の戦力構築を要求するギミックはないのでオーソドックスなレイド。単純なレベルがものを言うから当然Aチーム多めの編成となり、リーダーはフリューに任せた。あの子は人を使うのも上手いし、采配も観察眼も鋭いのだ。私が近くにいるとテンションが上がりすぎるだけで。
「以上七体が、暇なうちにおさらいしておいた今回のレイドボスなのですが……」
「……なんというか、聞き覚えがあるんだよなぁ」
「これに加えて《予言・蓮華》でしょ? アレよね、話に聞いたくらいだけど」
〈アレじゃねーか!〉
〈完全に○相で草〉
そうなんだよね。某有名RPGの八大ボスで聞き覚えのあるラインナップをしているのだ。一部はアルラウネらしく差し替えられているようだけど、知っている人なら一目で気づくほどわかりやすく。
しかもいくつかのボスに関しては、ステータスや外見から戦い方までリスペクトやオマージュをしているかのような点も見受けられる。おそらくスタッフにファンがいて、形を大きく変えた上で落とし込んだのだろう。
世界初のVRMMOの最初のバージョンで、MMOを題材とした作品の先駆けともいえるゲームのボスを彷彿とさせるボスが登場する。何かの意趣返しのようにも思える。
まあ、汚染されてさえいなければ全員アルラウネの少女なんだけどね。
しばらく戦況を見守りながら待っていると、まず一つのレイドが動きを見せた。
私のもとへ連絡があったのは、《幻惑・雪花》と戦っている第2レイド。着信の主はリーダーのブランさんだ。
『ルヴィアさん、他のところは大丈夫?』
「今のところは。全体的に順調ですよ」
さすがに集中力を要するボスだからか、ブランさんは私や公式の配信を開いていないようだった。そして今も、話をする程度ならともかく画面を見るだけの余裕はないらしい。目を離したら判定を見失いかねないボスだから、これは当然なんだけど。
ただ、他の心配から入るということは悪い状況ではないのだろう。事実、見るからに第2レイドは押していた。もう三段の最終ゲージが最後の段になっている。
『それなら、追加戦力が欲しいんだ。ボスの攻撃が激しくなってきたから、一気に決めに行きたい』
「わかりました。第2レイドが突破できれば、後のことも楽になりますからね」
〈ここで攻めに行くか〉
〈見所さん来た??〉
元々、第2レイドの戦力は他よりも厚く取ってある。バージョンボスと真っ先に対面して、他が来るまでの間を一レイドでも粘るためだ。
ここをまず押し込むのは最重要事項ともいえる。想定していたパターンのひとつとして私も手を打った。
「ここは私が出ます」
《生い茂り過ぎた樹海》第二のレイドボス、《幻惑・雪花》。氷属性の巨大なアイスゴーレムで、視覚的な幻惑の力を持つのが特徴だ。
私たちの目に見えている姿と、実際に存在する座標がズレているのだ。惑わされて攻撃を外すだけならともかく、近接職が空振って隙を見せれば手痛い反撃を受けてしまう。この仕様は俯瞰できる従来のMMOならまだしも、一人称視点が基本となるVRゲームではかなり厄介だ。
「増援、到着しました」
「ありがとう! たぶん、何かする気だね?」
「ええ。すぐに終わらせましょう」
現在はそんなゴーレムの攻略法も掴み、全力で攻撃して最後のゲージを半分程度まで削っているところだ。しかし敵の反撃も激しく、一人二人と犠牲者が出始めている。
だからこそ私たちがやる事も単純。攻撃に加勢して、とにかく早くボスを倒す。
「さて、久しぶりの本気の戦闘ですね」
〈ついに本気じゃなかったの認めたか〉
〈道中は軽々って感じだったもんな〉
〈ダンジョン入る前とか剣すらろくに抜いてないし〉
〈お嬢が本気で戦ったの、通算で数えるくらいしかなさそう〉
そんなことはない。これまでを通してみれば意外と全力の戦いを強いられることも多かったし、何度かあったボス戦で手を抜いたことはもちろんない。ここ数日は指揮ばかりで機会がなかったけど。
わざわざ私が来たのには、もちろん理由がある。ただ攻撃に参加するのではなく、少し違ったアプローチをしようと思っていた。
「ただ攻めるのもいいんですけど、今はもっと効果の高い方法を試してみようかと」
〈お嬢が奇行に走る時の雰囲気になった〉
〈おい誰かこいつを止めろ〉
〈何する気だ今度は〉
〈ぶっ飛びエピソード製造機〉
〈運営はこいつ囲えてウハウハだろうな〉
失礼な。私はいつだって効率的に敵を倒したいだけだ。やり方が少し人と違ったりするだけで。
剣を腰だめに構えて溜めを始めると、意図を察したらしい前方のプレイヤーが道を開けてくれた。さらには私の方へボスを誘導するように、ヘイトを多めに集めたタンクがこちらへ下がってくる。溜めのタイミングもばっちり、さすがは第2レイドの精鋭組だ。
同時に魔術も詠唱。どちらも実戦投入は初めての技だけど、可能なことは配信外で試してわかっていた。
「タンク下がって! 近接隊、カウントで一時停止!」
ブランさんも気づいて指示、意を察した近接隊はそれぞれ短く返事。皆まで言うまでもない。最低限の言葉で連携が取れている証拠だ。
常に最前線に居続けたDCOの最精鋭たちは、たった三週間でこれだけのコンビネーションを手に入れたのだ。正直、私も少し感動してしまった。
ゴーレムの虚像はまだ私から4メートルほど離れている。だが私の1メートル前の地面が、雑な六角形に足元の草を薙いだ。そこに本物のゴーレムがいる証拠だ。
目に見えないのが厄介だけど、足元を見ればどこにいるかはわかる。細かい動きにはブレがあるものの、本体も大まかには虚像と同じような挙動をする。
その上でMobの特性を合わせると、ゴーレムの現状はわかっていた。目の前で右腕を振り上げ、下がったタンクから移動したヘイトを持つ私へ振り下ろそうとしている。
「……二、一、今!」
前衛プレイヤー全員が、一斉に武器を引いて二歩下がった。その場で攻撃準備体勢を取って次の動きを待つ。
刹那、腕が振り下ろされた。私の頭上で大量の空気が動く気配、氷の大腕が叩きつけられる───。
私は、構えた剣を引き絞った。
「───はぁッ!!」
衝撃。上方向へ叩きつけた剣は溜めた力を解放し、ゴーレムは目に見えたダメージを受けてゲージの半分を割りながらながら後方へ尻餅をついた。その虚像の3メートル手前に、大きく雑草が薙ぎ倒された様子が見える。
私も反動で大きく吹き飛ばされたが、その目印目掛けてもう一つだけ仕事。
「《サップアンバー》!」
「───全員、総攻撃ッ!!」
そのまま地面を転がる私をよそに、待機していた攻撃隊が一斉に襲いかかる。本当ならここで最後のゲージ攻撃が来るところだけど、誰もそんなものは気にしていない。
《転倒》状態。狙うことは難しいが、一度決まれば大きな隙を作ることができる物理系の状態異常だ。
〈うおおおおおおおおおお〉
〈は?〉
〈なんだ今の〉
〈ファーwwwwww〉
〈何が起こった!?〉
〈すげえええええ〉
〈あのデカブツ転ばしたとかマジ?〉
〈やっべえ〉
〈嘘だろお前wwwwwwww〉
〈いや草だわこんなん〉
〈やっぱあんたがナンバーワンだ!!〉
「よしっ」
目で終えないほどの高速で流れるコメント欄。大チャンスにしても異様な高揚した雰囲気で攻め立てるレイドメンバーたち。呆然とするBチーム多めの後衛とその護衛。
私は勢いが止まるや否や起き上がり、総攻撃に加勢するべく駆け出す。それでようやく状況を理解したのか、魔術師隊からも強烈な援護射撃が打ち込まれた。
諸行無常、哀れなアイスゴーレムは転倒から回復することなく討伐されることとなった。彼女が最終ゲージ半分でどのような強攻撃を行うはずだったのかは誰も知らない……ままで終われるといいんだけど。ここにいるメンバーが全滅すれば復活してしまうから、気を抜いてはいけない。
討伐されたボスは緑肌のアルラウネ少女に姿を変え(というよりは、こちらが本来の姿である)、まだ汚染からは解放されることのないまま木の洞へ閉じ込められた。彼女を救出するにはこの先のバージョンボスを倒し、夜草神社そのものを解放しなけれぱならない。
「みんな、お疲れ様。……といっても、このままバージョンボス戦に入ることになる。気は抜かないように頼むよ」
「では、私は戻りますね。他をクリアするまで、奥の戦線をお願いします」
「わかった。任せてくれ」
私はこれからセーフティまで戻って、他のレイドの救援待機に戻ることになる。私がバージョンボスと相対するのは全てのレイドボスが倒されてからだ。
この短い救援戦闘の間にも、救援パーティがひとつ《増殖・白菜》と戦う第3レイドへの救援へ向かっていた。私にもまた出番が回ってくるだろう。
「ああ、そうだ。これ聞いていいのかな。……さっきの、どうやったの?」
「あれはですね、《チャージストライク》と《バスターパリィ》の合わせ技です」
これは偶然の発見だったんだけど、《片手剣》の一部アーツは《パリィ》と共存できるのだ。今回はこれを利用して《チャージストライク》を最大まで溜めて威力を上げ、《バスターパリィ》と併用してノックバックを狙った。
ある程度効果があるだろうとは思っていたものの、あの大型ボスが《転倒》までするとは思っていなかった。誰も使わない10秒溜めのマックス《チャージストライク》、想像以上の威力があったらしい。
「あと、あの《サップアンバー》。普通より多かった気がするんだけど……」
「実はアレ、《連唱》できるんですよ」
「え、ほんと?」
「私も気づいた時には驚きました」
そう、あの行動阻害の粘性樹液はなんと《連唱》で増える。その分ただでさえ多いMPの消費は跳ね上がるものの、硬直が解けた大型アイスゴーレムの行動を封じ続けるだけの量が得られた。
もっとも、これはそう単純な話ではない。効果の最大値は敵にかかった量で決まるようで、兎やネズミに大量の樹液をかけても無駄だった。今回は極端に大きい上にちょうど隙のできたボスだったから、上手く効いてくれたというわけだ。
「……なるほど、うん。やっぱり凄いよ、ルヴィアさんは」
「また凄さを再認識してしまいましたね。そろそろ打ち止めだと思っていたんですけど……」
ブランさんやカナタさんに褒められるのは嬉しいけど、なんだその目は。なんで若干引かれているんだ、私は。
…………むぅ。
こういうパート、いいですよね。私も好きです。こういう場面に繋ぐために普段お話を広げているまであります。
ちなみに難易度でいうと、上限まで溜めた状態で位置とタイミングの両方をクリティカルに当てなければこうはなりません。1フレーム技とかそのレベルです。




