47.ゴスロリを着たあらあらうふふ系巫女様は好きですか?
夕飯休憩を済ませて、午後8時半から再開。
「あ、ルヴィア。ちゃんと休めた?」
「大丈夫、万全だよ」
「それならよかった」
「まあ、しばらくは私は直接戦闘はなさそうだけどね」
「トップが調子悪そうだと士気に関わるからな」
「どっしり座っててくれや」
先に休憩を済ませていたミカン、シルバさん、リュカさんと合流して、進捗を確認。ほとんど見るまでもなく、準備は万全だった。
夕方には両方が100%に到達。以降は手が空いたプレイヤーは特別稽古や資材調達に回り、クラフターはさっそく生産を始めた。今は既に集まっているレベルカンスト組が、これも貢献度にカウントされる西方面の偵察に向かっている。そろそろ帰ってくる頃だろう。
「お待たせ、今どんな感じ?」
「特に問題なし。輸送は150%、設営はなぜかまだ上がってて170%ちょっと。資材組は希望者を除いて撤収を始めていて、偵察隊も戻ってくるところ」
「ここまでは順調だな」
「お嬢の《桜怪道》の時の件が効いたか?」
「やめなさい」
不測の事態や問題に対処するのが仕事な私たちだが、さしたる問題が起こらないからたまに調整をするくらいしかなくて暇。途中で提案を受けて偵察を出したものの、見回りながら漫才じみた雑談をしていた時期の方が長かった。
こんな指揮官でいいのだろうか、と軽く零したところ、「それでいいから大きく構えてろ」の大合唱を受けた。なんでさ。
「ルヴィアさん。偵察隊、戻りましたよ」
「お疲れ様です、アークさん。どうでした?」
「『王都西平原の入口付近はウサギ、鹿、猪、熊、それに狼なんかの獣系が中心。平均レベルはざっと22。群れは精々十匹程度までなんで、今の練度ならちゃんと隊を組んで戦えば問題ないっスね』」
「『序盤は非カンスト勢を優先的に割り振って、その分の経験値を有効活用しましょうか』。30分前ですし、そろそろ組んだほうがよさそうですね」
〈おお〉
〈いよいよだ〉
〈待ってた〉
〈テンション上がってくるな〉
〈見てるだけなのにワクワクする〉
〈早くやりてえなあこのゲーム!〉
「『イベントユニオンを作成します。私がリーダーとして募集をかけるので、ソロまたはパーティを組んで申請してください。ユニオンに入ってさえいれば組み分けは適宜自動で割り振られるので、細部は臨機応変に』」
ユニオンというのは、今のところプレイヤーが作成できる最大規模の組み分けだ。複数のレイドが寄り集まることで形成され、第一レイドのリーダーがユニオンリーダーを務める。
今回のように数日の長期間にわたってユニオンが組まれる場合、イベントユニオンとしてシステム上でも区別される。こちらはシステムはかなりルーズで、レイド間の移動や脱退も難しくない上に人数制限も緩い。
今回は私が率いる第一レイドを指揮系統として用意し、第二レイド以降に実際の進軍を受け持ってもらうことにした。後から追いついてきたプレイヤーについては、まず私のレイドに入れてから戦力比を見て適宜投入する予定だ。
まあ、少なくとも最初のうちは深く考える必要はない。現場は周囲と協力や分担をして目の前の敵を倒しながら進み、私たち指揮系統はマップや斥候隊からの情報、ユニオン専用UIの戦力データを見ながら隊が崩れないように調節する。
つまり前線は人数が多いだけで普段と同じだ。一方で私たち指揮系はというと、感覚としては戦略シミュレーションゲームなんかが近いかもしれない。懸念していたほど戸惑ったりはせずに済みそうだ。
そして30分後、午後9時。西門広場のさらに奥、西門の前に人だかりができていた。
今ログインしていない人、まだここに到達できていない人、後方で追いつくための稽古や追加資材の調達を担っている人、後方で戦ってくれるクラフターたち、残念ながら個別クエストの進捗が間に合わなかった人。ここにいないプレイヤーはさまざまいるが、それでも数百人がここに集まった。
〈クレジュリいなくね?〉
〈エルフトリオもいないぞ〉
〈フリューとルプストもいないな〉
〈ブランなんてまだ個別クエの配信してるぞ〉
「個別クエの途中で引っ張り戻しても後味が悪いですからね。今は彼らには人類軍の戦力強化に専念してもらいましょう」
〈なんか魔王みたいなこと言っとる〉
〈奴らも全て我が手の中ってか〉
〈実際プレイヤー軍の総指揮官だしな〉
そう、そのままでいいのだ。どうせ最初のうちは、レベルカンスト勢の出番はそもそもない。最後にどれだけ強いボスが出るかわからないのだから、彼らには今のうちに戦力増強をしておいてもらおう。
「まあ、従軍はしていないと貢献度は稼げないんですけどね。私も最後は戦闘に出るつもりですし、指揮官の分稼がせてもらいますよ、くふふ」
〈うわぁあくどい〉
〈きたないさすがエルフきたない〉
〈くふふってなんだよ〉
〈何やっても可愛いなお前な〉
「まあ冗談はこのくらいにして、出撃の時間ですね」
『あ、始まる? 間に合わなかったかー』
『大丈夫ですよ。ルヴィアさんなら、私たちが合流するまで順調に進めてくれるはずです』
任せて。
時間になって、紗那様が即席の段に上がった。その横には翠華さん……ってあれ?
「翠華さん、その格好は……?」
「私服です。神社は占領されているのですから、巫女服では少し違うかと思いまして」
〈いやその服のほうが違うやろ〉
〈ゴスロリ!?〉
〈予想外すぎて草〉
〈緑肌に黒ゴスロリ……アリだな〉
びっくりした。翠華さん、これまでの巫女服ではなくゴスロリを着てきたのだ。なんというか、びっくりである。同じことを二度言ってしまうくらいびっくりした。
セルフ千日手はさておき、これが意外なほど似合っていた。落ち着いた大人の女性といった印象の薄緑肌アルラウネにゴスロリという、なんというか……奇跡的相性。
……こほん。
私も混乱しているのかもしれない、思考を切り替えよう。
まあ、本人がいいならそれでいい。巫女服でもゴスロリでも、私たちは夜草神社まで送り届けるだけだ。
……たとえその最後、ムービーシーンに神社の本殿へ入っていくキーキャラクターがゴスロリでも、それは変わらないのだ。
「改めて。よく集まってくれました」
紗那様の最後の演説は、その一言から始まった。
ここにいない来訪者は多いけれど、面と向かって言えない彼らに対しても彼女は同じことを思っているはずだ。純真にして可憐、それでいて誠実で、人の上に立つ器。紗那様が持っているのは、「人に愛される才能」だから。
王都に残る彼女は西へ発つ私たちに、短く、それでいて響く激励を贈った。
「私は、皆さんに感謝しています。きっと王都の皆もそうだと思います。皆さんになら、私たちの世界の命運を託せる。少なくとも私は、そう思いました。
だから、これだけ。──信じています。どうか、この世界を救ってください!」
おお、なんて文字では表せないような、力強い雄叫びが上がった。もしかしたらそれは鬨の声だったのかも。
反転したユニオンが、ゆっくりと開く門を、その奥に遠く見える世界樹を見据える。翠華さんは最後尾に位置する私の横へ立って、今いるトッププレイヤーが集まった第一レイドで周囲を固められた。
門が開ききって、一瞬の静寂。この瞬間はたぶん、この場の誰もが思い出すと恥ずかしくなってしまうような浮ついたものになるのだろう。でも、それでいいはず。
これはゲームなんだから、楽しんだ者勝ちなのだ。
「───進軍、開始ッ!!」
『第三レイド、交戦開始』
『第五レイドも交戦開始』
「『第三、第五は敵を外側へ誘導しつつ戦闘。第四と第六で間を抜けてください』」
出発から三十分。今のところ順調だった。ひとまず全軍を八つのレイドに分けて、第三から第七までの五つで戦線を進める。第八レイドを飛行種族や斥候ビルドで固めて偵察と遊撃を任せ、カンスト勢は主に第一と第二に集めて予備戦力として用意。
暇になったプレイヤーは希望次第で後方や素材ダンジョンへ送りつつ、高レベル帯で随行クラフターと翠華さんを守る形とした。
充分な戦力が集まってくれたおかげで余裕を持って進めているし、まとまって動いてくれていることもあって効率的に経験値を配分できている。この形を継続できれば、敵のレベルが上がっても問題なく進めそうだ。
とはいえ、今日はまだ序盤。このイベントは非常に道中が長いから、この戦力をもってしても3、4日はかかるだろう。時間経過や日によって臨機応変に対応していく必要があるから、気は抜けない。
とはいえ、その時の人数によって組み合わせやレイド数は調節する予定だし、私が信頼できると判断して任命した指揮官がいない時や人が少なすぎる時は進軍を止める。ある程度は考えて動かしているから、変に焦ったりはしないように。
「そろそろ、ひとつめの祠があるはずです」
私と一緒に第一レイドの中央付近にいる翠華さんがぽつり。さっきから雑談はしていたけれど、これはイベントだろう。実はこの件、前もって情報が開示されている。
○phase2.攻略隊西進
・夜草神社を奪還するには、まずはその手前にある王都西地域を平定しなければならない。隊を組んで魔物を倒しながら西へ進み、道中の安全を確保しよう。
・ユニオンパーティ
今回のような大型イベントでは、レイドパーティをさらに複数集めた「ユニオン」が組むことが推奨される。適切に編成を行って攻略を楽にしよう。
備考:ヘルプ(ユニオンについて)
・精霊の協力
今回は精霊たちの全面協力により、道中にある《精霊の祠》が中継地点となる。従来のセーフティエリアに加え、HPとMPの回復や転移が可能だ。ありがたく使って戦いを有利に進めよう。
HP回復:精霊界の生命力を分け与えられることにより、対象の祠圏内へ入った時に選択式でHPを最大値の半分まで回復できる。一度使用したプレイヤーは再使用まで一時間のクールタイムを要する。クールタイムは対象の全ての祠で共通。
MP回復:精霊界から魔力を供給されることで、対象の祠圏内へ入った時に自動でMPを全回復する。イベント期間内なら何度でも使用可能だが、ボスと交戦した場合はそのボスを倒すか《緊急退避》を行うまで使用不能になる。
備考:精霊 《セレスティーネ》救出に伴い、回復速度が向上します
転移の灯火:来訪者のために作られた簡易的な転移ポイント。対象の祠へ到達して設置すると、その祠に一度でも到達したプレイヤーは転移対象として選ぶことができるようになる。転移の仕様は通常と同じだが、クロニクルミッション終了後は撤去される。
備考:御用職人 《八兵衛》の協力に伴い、運搬時の重量が減少します
・道中の平定
前方の祠を解放することで平定が行われ、手前側地域の敵の出現率が減少する。ただし祠周辺に存在するプレイヤーの戦力が一定を下回ると、襲ってくる魔物によって祠が再汚染されてしまう。これは進行を止め《王都隊》に守備を依頼することで防ぐことが可能。
つまり、かなり心強い補給ポイントだ。祠周辺のセーフティエリアまで戻ってくる必要があるとはいえ、ボス戦以外では事実上MPは無尽蔵。本来フィールド上のセーフティでは回復は行われないが、今回は擬似的に街の中に近い状態になってくれることになる。
街中はHPも無限に回復するのだけど、そこまですると悪用されると踏んだのだろう。正直、クールタイム付きでも充分ありがたい。《治癒術》を上手く使えば、現状店売りでしか手に入らないポーションをかなり節約できる。
あと、セレスさんの影響はここに出るんだね。同様に誰かがクリアしたクエストの報酬として、《転移の灯火》の補給隊の負担が減っている。
こういうところに個別クエストの影響が出るようだ。こうして貢献が可視化されることで、以降はより一層クエストクリアを促されそう。
〈ほぉー〉
〈さすがに最初だからなのか緩いな〉
〈なあお嬢、この書き方って〉
「はい。不充分な箇所があることは把握していますし、用意もしてありますよ」
「そのための編成だもんね」
まあ、そこは実際にことが起こってから。
と、ここで第八レイドを率いているイシュカさんから連絡があった。
『ルヴィア、祠の前まで来て』
「……また私ですか。無理もないですけどね」
「ニムさん」
「あ、ルヴィアさん!」
〈まーたイチャついてる〉
〈ほんと懐かれてるよな〉
〈まあ無理もない〉
私が顔を出すや否や、とてとて歩み寄ってくるニムさん。そのまま抱きついてくるくらいの勢いだったが、周囲に人がたくさんいることを思い出したのか踏みとどまった。
私が代表者として出てきたことを察して、改めてイベント開始。
「やっぱりリーダーなんだね。そうかなって思ってたけど」
「なんというか、流れで。他の人がやっても良かったのですけど……」
〈おいプレイヤー組〉
〈揃いも揃って目を逸らすな〉
〈他にリーダーできそうなのは個別クエ中だしな〉
ニムさん、祠の扉へ手をかける。ちなみに少し苦笑気味だった。
「それじゃ、これは私たちからできる精一杯の支援。受け取って」
「はい。……この世界、絶対に救いますから」
「よろしい」
付け加えた台詞はもしかしたら本来は問われる文言で、親密度や信頼で省略されていたのかもしれない。応えたニムさんは嬉しそう。
扉が開く。転移ポイントが起動し、その場の全員のMPが全回復した。HPが減っているプレイヤーには、手元のポップアップを押している姿もちらほら見える。
「それじゃ、頑張ってね。……それから、今回の件が終わったら祠に来て」
「……それって」
「準備、できてるみたいだから。ね?」
ちかちかと、私の左腰の剣がはっきり瞬いた。
本格始動、ベータラストスパート。しかしルヴィアの出番はまだ先のようです。いよいよMMOっぽくなってきたかな?
次回は金曜日。サブタイを予告しますと、「暴走天使リターンズ」です。
面白かった、続きが気になるという方は是非、この下にある「ブックマークに追加」ボタンと「更新通知 XX/400」ボタン、そして「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」の下の星型ボタンの右の方を押してくださいな。
そして。いよいよ本作は残り17話、期間にして1ヶ月でひとつめの区切りを迎えます。作者はその瞬間を、一人でも多くの読者様と一緒に迎えたいと思っています。
もしよろしければ、本作をご家族やご友人の方にお勧めしていただけるととても嬉しいです。今でも2000人以上の方に見守っていただけていますが、どうやら私は自分で思っていた以上に欲張りなようなので。




