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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.2.0 武士道とゲーマー魂の相乗効果
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465.あいつらまた先読み習得して……あれ?

 聞いたところによると、伊豆方面の攻略は順調だそうで。向こうは圏外組が中心になってやっているけど、特に問題はないようだ。やはり圏外レベルの上昇が大きかったか。


 しばらく暇を出されている状態に近いトップ勢のほうも、それぞれやりたいことをしている状態だ。たとえば、二個目の唯装を手にしている人もちらほら。その人を代表するような存在感の強いものというよりは、脇を固めるようなものだったり単に一点物というくらいのものも多いようだけど。

 それ以外だと、双界人と交流を深めていたり、新しいダンジョンに挑んでいたり、使えるスキルを増やしていたり。


「私は今日はそっちです。お呼ばれですね」

「もはや日常なの」


〈ってことはなんか起きるぞ〉

〈驚く準備はできてるぜ〉

〈今度は誰に何を言われるんだ〉

〈*ジュン:待機〉

〈*スズラン:わくわく〉

〈トップ勢も来てます〉


 まあ、実際何かしらあるだろうなとは思っている。なにしろ相手が相手だから。

 来たるは夜王都。バージョン2は明確に昼中心でやっているから、ギルドハウス以外では久々になるね。


 呼び出された先は、ここ。《魔術学会リベリスティア支部》だ。……また大仰なところに。


「ああ、ルヴィア様ですね。話は聞いておりますので、こちらへ」

「…………ルヴィア、ここ来たことあるの?」

「初めてだよ」


〈話はや〉

〈まだ名乗ってすらないぞ〉

〈やっぱ顔通ってるんだなぁ〉

〈受付する暇すらなかった〉

〈初めてで顔パスとか草〉

〈貴賓待遇だ……〉


 入ってすぐ、エントランスに話を通そうとしたところで、その前に応対されてしまった。たぶん来客予定を聞かされていたんだろうけど、それにしても顔を覚えられている。当然ながら初対面なのに。見覚えのない場所で顔パスされると不思議な気分になるね。

 そのまま先導してもらえたからついて行って、魔動エレベーターに乗って最上階へ。明らかに他のところと違いそうな───言うまでもないけど、下の階の普通の扉を見てすらいないから完全に推測だ───豪華な扉の前に着くと、受付さんはそのまま扉横の呼び鈴を鳴らした。


「お連れしました」

「ああ、通してくれ」


 慣れているのだろう、動作には淀みがない。気後れする人も多そうな扉を引いた受付さんに促されて、私はそのまま中へ入った。

 中はスイートルームとでもいうべき広々とした内装の、執務室。ファンタジーもののアニメで王宮あたりに出てきそうなものだけど、ここでこれということは夜王宮のそれはもっと凄いのだろう。……あれ、ここ一応支部だよね?

 ……九鬼グループ本社の執務室は、こう広かったりはしない。うちは機能性重視というか、「広すぎると不便」と平然と言ってしまうような風情のないタイプの一族だから。


 そんな執務室……というか、会長室には、席について書類へ向かっていた男性が一人。彼こそが今回私を呼んだ張本人だ。

 立ち上がって机の前まで回ってくると、手を差し出してくる。彼の名前はところどころで聞かれる、世界単位の大物だった。


「いきなり呼び立てて悪いね。だけど、ぜひ直接話したかったんだ。───魔術学会会長、《ヒトニス・ヴァローナ》だ。よろしく」






 ヒトニス。さて、この名前を初めて聞いたのはいつだったかな。記憶が正しければ、八月の下旬頃に魔銃を見繕ったときだった気がする。彼は最上級の魔銃使いだとか、そんな感じで。

 それだけではないのだろう。魔術そのものの学会で代表をやっているということは、魔銃に限らず最高峰の実力を有しているはずだ。


 彼は先日のアスガルド方面への進行開始に居合わせていたそうで、そこでクレハたちが関わっている。そこで触れられていたのは、「魔術の体系化」という絶大な実績だった。

 それもそのはず、彼は千年前の紅葉界終末戦争と幻双界創世において英雄とまで呼ばれた、創世経験者にして人理超越者だ。早い話が世界有数の大偉人といって差し支えない。


「君とは個人的にも話してみたかったんだ。なにしろ、アーツと魔術をどちらも使うスタイルはこの世界でもなかなか特異でね。可能なことではあっても、なかなかそうした発想は持たれないんだ」

「発想……仕組み上は可能ですし、私たちの中で広まっていないのは特に練度不足が理由ですから、確かに双界人なら使い手がもっといてもおかしくないですものね」

「なにしろ、魔力消費という大きな壁がある。……学会(うち)は体系外の魔術やスタイルの蒐集もやっているから、できれば君がその問題をどう解決してきたかも聞いてみたいんだけど」

「構いませんよ、参考になるかはわかりませんが……」


〈興味を持たれている〉

〈お嬢、サンプルになる〉

〈まあこないだも言ってたしな〉

〈参考には……まあ……〉

〈双界人の参考にはなるかも?〉


 そんなヒトニスさんと長話の支度をしつつ、ついでだから浄化も回す。というのもヒトニスさん、これまで汚染に関する研究で成果を出していたのと引き換えに、相応に汚染に侵されてしまっているようだから。

 とはいえ今のところ動けてはいるあたり、以前のロレッタさんや結乃さんほどではないのだろう。……ただ、存在としての強度があまりに違うものだから、絶対値としての溜まった汚染がどれほどかはわからない。もしかすると精霊を中心に、彼を持ち回りで継続浄化したほうがいいかもしれない。


 普段ならここで大量の食事が必要になって会話もしづらく絵面も微妙になってしまうんだけど、なんと今回は秘密兵器があった。それが今私の右手にある、《三型充填式栄養補給装置》だ。使うことで食事を介さずにSPを回復することができる優れ物である。

 ところがこれ、致命的な問題があった。……不人気なのである。なにしろ人生最大のの娯楽でありプレイヤーにとってもお楽しみでもある食事を、味気なくスキップしてしまうから。まあ無理もない、食べてすらいない以上はもはやいわゆるディストピア飯以下だ。

 決戦中に救出者の浄化役が争奪戦になったように、たぶん精霊の間ですらあまり人気は出ない。とはいえ今はむしろありがたいから、学会の倉庫に適当に転がっていたという発明品(がらくた)も遠慮なく使っていこう。




「まあ、まずは本題を済ませてしまおうか」

「はい。……《魔術学》が一定のところまで伸びたことが理由、とのことですが」


〈魔術学か〉

〈あれ、もしかして強化イベ?〉

〈SL150でカンストなんだっけ〉


 インタビューは後に回すとして、先に今回の本題。もとはといえば《窩待大学》にて予告されていたことだ。《魔術学》が頭打ちになったら来なさい、と言われていたんだけど……この《魔術学》、スキルレベルが150に到達すると他のスキルと違ってMAX表記が出た。

 これはと思って向かおうと思ったんだけど、ちょうどそのタイミングで横槍が入ったのだ。曰く、「都合がついたから魔術学会のほうでやる」と。これに従ったのが今日のことだ。


「おおよそ想像がついているかもしれないけどね。《魔術学》というのは、いわば入門的な位置づけにあたるスキルだ」

「そうだろうとは思っていました。今のところ馴染みはありませんが、スキル進化……のようなものでしょうか」

「ああ。……これを読んでみてくれ」


 これまでもスキルが変化したことはあったけど、それらは種族の変化に応じて専用の同系統スキルへと切り替わったパターンだった。そうした種族依存ではないところで、スキル進化のような形になるのは初めてだ。

 浄化のため触れていないほうの手で渡されたのは、魔術書らしき大判の本。開いてみると……なるほど。




〔〔条件を満たしたため、《魔術理論》が開放されました〕〕




「いわばこれまでの魔術学は基礎教科で、ここからが学問だと」

「その認識でひとまず大丈夫だ。……今の君でも使えるものが二つあるはずだよ」

「ええと……《四並行詠唱》。sperが先取りしてた《クアトロ》ですね。シンプルに嬉しい強化です」


〈おっ〉

〈来たなクアトロ〉

〈じゃあアレはせいぜいSL20そこらの先取りなのか〉

〈あるとないとだと大違いだぞこれ〉

〈150に乗ってさえいれば全員に開放されたっぽい〉

〈*ジュン:急に使えるようになってびっくりしました〉


 sperが決戦中、ゲリライベント出演報酬としての特殊アカウントに与えられて使っていたものの片割れだ。あの《テンポラリー・リミットリリース》はたぶん私たちに吊り下げられたニンジンなんだけど、そこであった《クアトロ》そのものだった。

 もうひとつの《フォール》の魔術も属性魔術150レベルで習得できていたから、トップはちょうど手に入れたところ。先取りの感覚はこのくらい、ということだろう。


 効果はシンプル、同系統の魔術が四つまで並行で撃てるようになった。これまでも最大火力として必須技術となっていた《トリプル》のさらに上位版だから、当然ながら今後は主力となっていくだろう。

 単純計算、これひとつで魔術師のDPSと魔力消費効率が1.3倍になったといえる。……魔術そのものの消費と威力は固定だから、どうしてもレベルが上がるほど一発ごとの消費率は下がっていたんだよね。物理アーツと比べると、強化が曲線よりやや段階的になりがちなのが魔術の特徴だ。


「もうひとつは…………えっと」

「どうかしたかい?」

「いえ。……ペトラさん、あなた何ヶ月先取りしたんですか? 《詠唱短縮》、今になってアーツ化したんですけど!?」


〈え〉

〈草〉

〈うわぁ〉

〈そうきたか〉

〈まあ確かにありそうなやつだな〉

〈先にシステム外技能になっちゃってたけど〉

〈これは簡単になったほうの強化か〉


 読んで字のごとく、魔術の詠唱時間が少しだけ縮むアーツだ。これまで思考操作によるある種のシステム外テクニックとして同じことが行われていたけど、操作はぐっと簡単になっている。

 操作的に高等技術そのもので、圏外組でもできるかどうかが二分されるほどだった。おかげでサツキ戦は大変だったらしい。これが簡単になるのは、特に後発組にとって嬉しい強化だろう。


 ただ、それが得意だったペトラさんの強みが失われたわけではないようだ。アーツとしての《詠唱短縮》はわずかとはいえMPを追加消費するから、そのぶんの節約になる。

 ……ということは、結局トップ勢は手動短縮から逃れられないということか。ちょっと世知辛い。


〈*ジュン:あれ、これ短縮、重複するっぽい?〉

〈*ルリタテハ:両方やるとさらに速くなってるぅ……〉


 ……え?

 もしかして二種類の短縮、仕組みが違う?

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
アローマシンガンが更に凶悪になったパターン?
手動操作による回路最適化で詠唱量を短縮する方法と、 CPUに電流増やして処理速度上げるオーバークロックみたいに、MP追加投入して詠唱速度を加速させる方式の違いかな?
 ペトラさんの方は詠唱加速みたいなやつなのかな?  加速と短縮、速めると縮める、の違いだから重複するとか……?もしかしたら幻双界としても新規技術で、魔術理論にアーツとして追加になったりするのかな? …
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