457.ImitateAlice、一年ぶり三度目のメンバー追加(未遂)
三人それぞれが聞いたことの確認と練習に入ったから、私たちは少し離れて話をしつつ待つことに。それぞれが配信しているから、見たいものがあったらそっちでどうぞ。二窓でもいいよ。
こちらに残ったのは私とミカン、ソフィーヤちゃんに紗那さん。絶妙に誰が話題の中心になるべきかわからない組み合わせだね。
「気になるのは……紗那さんって都との距離感近いよね? 接点あったっけ?」
「実は、決戦後から一度召喚が切れるまでの間、何度も会いに来てくれていたんです」
ミカンが切り出したのは紗那さんに対して、都とやたら親しいことについて。当然ながら完全解放組である彼女は、失踪前から交流できていたベータ組と比べるとどうしても面識を持ってからの期間そのものが短い。
ただ、私は一応確認していたんだけど……都は解放直後からけっこうな回数を紗那さんのもとへ向かったりしていた。その場でそのまま仲良くなって、あれよあれよと言う間にトップクラスの仲を築いていたのだ。
「決戦当日にVtuberについて説明して、宣伝役としていいのではって紗那さんが目をつけて、下地はできてたんだよね」
「ちょうどそのときに、とっても親切な同じ猫のライバーさんが来てくれて、また何度でも来てって言ったら翌日にまた来てくれたんです。この子ならって思ったのはそのときでした」
「やっぱり熱意なのですね」
「とはいえ、宣伝とするなら一人二人でいいものでもないので……こうして複数のライバーさんがいるところも見てみたかったんです。コラボ、でしたっけ? それも魅力のひとつだと、都ちゃんも言っていましたから」
「それでちょうどそのコラボにルヴィアまでいたから飛びついて見てた、と」
その時点の都は位置的には中堅勢だったけど、自分のVtuberという性質と紗那さんの意思からチャンスを見極めて、いち早い行動もあって見事に心を掴んでみせた。DCOでは有力な双界人とコネクションを持つことがアイデンティティとして羨まれる風潮があるけど、その点でいえば都はお手本のような動きをしてみせたわけだ。
まあ、そんな紗那さんが真っ先に頼る対象はここ数日を見ての通り私になっているようだから、そうなってきてから確実に都は私と鉢合わせていたんだけど……まあ、あのタイミングでバレたのは結果的によかったんじゃないかな。あの場にいたのは璃々さん、すなわち「よくわからないけど仲よさそうなところを見てると楽しいタイプ」だったから変に深堀りされなかったし。
「それにしても、これでイミアリ全員がトップ勢で超越者か」
「今回でエティアちゃんと都、フロルとルフェちゃんとルヴィアは元々だもんね」
「ミカンまで私を入れようとしないでよ」
「えー? あんなにピッタリなのに?」
「ちっちゃい、ミステリアスで底知れない、多芸で歌もダンスも上手……完璧なのです」
「発案者はフロルだって話だし、ルヴィアが念頭に置かれて作られたユニットって線すら……」
「ないから。ライバーっていう一番最初の条件を満たしてないでしょ」
「オーナーだからセーフなのです」
この二人、言いたい放題だ。いくら実際に存在するからって……。
まあ、フロル当人からそんなことはないと聞いているのにこの場で言わない私も私だ。ちょっと美味しいとも思っているし。
「そういえば、私たちがいない間に、ライブなることをしていたと聞きました。大勢の前で壇上に上がって、パフォーマンスなることをすると」
「ああ、あったね。ルヴィアが引っ張り出されてたやつ」
「私も参加したかった……」
「だろうと思ったのです。いなかった以上は仕方ないのですけれど……」
〈あったね〉
〈紗那様ライブにご執心〉
〈やりたいんだ〉
〈やっぱ人前に立つの好きなタイプか〉
〈まあいなかったしな……〉
十月のゲリライベントの件だね。アマネちゃんと一緒にいろいろ準備して、テストライブと呼ぶには大規模なことをやった。
好きそうとは確かに思ったけど、やはり好きなタイプのものだったらしい。紗那さんは羨ましそうだ。彼女の性格なら歓声を浴びるのは好きだろうし、何より……。
「持ち曲もありますもんね」
「あれ、言いましたっけ?」
「ギルドハウスの蓄音機に最初から収録されていて」
「お母さん!!!」
〈あったわそういや〉
〈名曲よ〉
〈あれ好き〉
〈紗那さん……〉
〈かわいそう〉
〈綾鳴さんの差し金だったのか〉
ギルドハウスの蓄音機を触ってみて、真っ先に気になったのはそれだったのだ。もちろん他にも双界人のオリジナル曲はあったんだけど、ナンバー的に最初にあったし、インパクトもあった。その時点で本人は不在だったけど。
しかしこれ、どうやら本人の了承は取っていなかったらしい。失踪前の頃はまだギルドハウスの蓄音機のことまで考えていなかったのかな。さすがに勝手に聞かれるのは恥ずかしい様子。
「最初は実際に披露したかったのに……」
「そっちなんだ」
「聴かせることにはかなり乗り気なのです」
「あんなに恥ずかしいのに……」
「あ、『意志末』は聴きましたよ! 素晴らしかったです!」
「…………うん、ありがと」
〈あれ〉
〈この女王様強いぞ〉
〈直接聴かせたい……!?〉
〈草〉
〈お嬢……〉
〈これはお嬢の負け〉
〈べた褒めされて何も言えなくなってる〉
と思ったら、逆だった。実際に大観衆の前で披露することになった上で蓄音機にも収録されてしまった私からすれば相当な羞恥を伴うものだったんだけど、紗那さんの場合はむしろ生の反応を先に見たかったらしい。
……そして、私の曲はしっかり聴かれていた。そうだろうとは思っていたけど、改めて言われるとやっぱり恥ずかしいのは私が根本的に歌手ではないからだと思う。お母さんは「自信を持って聴かせてしまえばいい」と言っていたけど。
さすがにここまで褒められたら、受け取らないわけにはいかない。そもそもそれが恥ずかしいという感覚自体、紗那さんには通じないようだし。
話しているうちに三人ともなんとか形になったようだから、もう一度やってみることに。
「陣形はさっきと同じでよさそうだね」
「おっけー!」
「じゃあ任せて、《サモン・シールドナイト》」
出てきた敵はじゃんじゃん火2、一本だたら3、面霊気3と、さっきと少し配分が異なっている。総数も一体増えているけど、さっきも余裕があったからこれで危うくなったりはしないだろう。
最初にパンドラちゃんが引きつけたのは、面霊気3体と一本だたら1体。左右にそれぞれじゃんじゃん火と一本だたらを一体ずつ任せる点ではさっきと同じ形だ。
わかってそうだから言っていないけど、適切な割り振りだと思う。早い段階でじゃんじゃん火か一本だたらのうち片方は全滅させて意識するべき種類を減らす狙いもあるし、面霊気という他と組ませるの攻めにくくなる特徴的な敵を最初は押しつけないことで楽にしている。
そうしてタゲの取り方を選んでいるということは、それぞれに個別に《威嚇》を当てているね。実は並行詠唱に似たことができる《威嚇》、ちゃんと使いこなせるタンクはあまり多くない。
「《トリプル・グラウンドロア》」
「いいね、相手を見て手を選べてる」
「……《ダブル・ストーンランス》」
〈おっ柔軟になってる〉
〈トップ勢の立ち回りだ〉
〈お嬢ばっか見てるとこれが普通ではないことがわからなくなるから〉
〈ダブルだ!〉
〈マジでできてるじゃん〉
エティアちゃん。今度は縦に並ぶ形で敵が来たから、その場合はプロードより威力が高く直線上には貫通するロアを使える。しっかりそれを見て魔術選択ができている。
さらに続けて、追撃……教えた通りだ。今のは威力が高めなランスなら二重で足りる。難しいことを言ったはずなんだけど、もうものになっている。
「キメ合わせ! せー、のっ!」
「ドラムビート! 気持ちいいのです!」
「おおっ! 凄いねぼくの親友!」
〈うわいい音ハメ〉
〈急に来る速球めちゃくちゃ効果的じゃね?〉
〈これ相当ヤバいのでは……〉
〈ミカンさんすかさず親友アピ〉
そして都。流している曲のドラムパートのキメにぴったり合わせて、それまでの《蝶の型》からいきなり《蜂の型》へ切り替えてみせた。そしてこれ、いざ実物を見てみるとわかる。かなり強烈だ。
私たちがいかに普段から無意識にリズムで戦っているかわかる。そう考えると、チャクラム以外でも同じように意表を突く変拍子、リズム崩しを狙ってみるのも有効なのかもしれない。
……ただ、周りからの合わせやすさは考えないといけないから、リズムそのものは崩さずに不意を狙える型の融合はなおのこと魅力的だった。
ちなみにミカンが都を親友と呼ぶのは何も間違っていない。私から見たフロルと同じように、学科が同じで講義も意識的に合わせている関係だから。
「面霊気を一体ずつお願い!」
「へえ、器用だねパンドラちゃん!」
「これができるタンク、トップ勢でも少数派なのですよ……?」
〈おお?〉
〈狙ったように〉
〈糸で操ってる?〉
〈マジか〉
〈こんなこともできるのかよ〉
〈当たり前に横槍で受け取ってる両翼もなんなんだ〉
〈これが電ファンの呼吸ですか〉
さらにパンドラちゃん、ここでもうひとつ魅せてくれた。私が面霊気一体を引きつけている中で、手元に引き受けていた面霊気二体を自分のヘイト管理から外したのだ。するとダメージを受けていなかったそれらは即座にターゲットを外して、同時にそれぞれ横から攻撃を当ててきたエティアちゃんと都のほうを向いた。
これはどういうことかというと、それぞれ別個の《威嚇》でヘイトを引いていた四体の魔物のうち、二体の分だけその威嚇そのものを解除したのだ。平然とやっているけど、これはかなり難しい。それをさも涼しい顔で。
それだけできてしまえばもう事故要素も特になく、完全な各個撃破がほどなく完成した。プレイヤーの数より多い魔物というのは一般の大多数には非常事態とされるんだけど、揃ってなんとも涼しい顔だ。
「……三人とも、言ったばっかりのことをもう完璧にしてる。やっぱり教えることないよ」
「これはさすがに文句のつけようがなくトップ勢なのです」
「紗那さんに話の流れで超越者認定されるだけはあるね!」
次回からはもう生徒どころか、歴戦の仲間たちと同じ扱いでいいね。たくさん力を貸してもらうこととしよう。
ルヴィアはフロルのことを自分と似ていると認識しています。
フロルはルヴィアのことを自分とは違う位相の存在だと認識しています。
二人の自己評価の正確さは……いつも通りです。