440.新バージョンだョ! 全員集合!
お待たせしました。バージョン2、開幕です。
1月11日。バージョン2開始日だ。
いきなりレギュラー役を与えられた前期と違って、今期はドラマ方面のスケジュールが少し楽になっている。準レギュラー役がひとつあるんだけど、それが後半部分のライバルキャラということでちょうど折り返し手前あたりの撮影にあたる今は出番が少ない。だからこそ年末年始に詰めたスケジュールを作れたんだけど、今後は撮影が増えていくだろう。
とはいえ、メインキャストに二人も学生がいた『デウス・エクス・ブレイン』とは違って、今回の『翼を歌えバーチャルシンガー』は撮影が土曜日ばかりになったりはしない。どちらにしろ今日に被ることはなかった。
DCOのサーバーオープンは決まって午後一時だ。この日もちょうどに配信開始の照準を合わせて、ログインと同時に始められるようにしていた。
果たして、ぴったり午後一時。ログイン遅延も発生せず、ギルドハウス二階からログインした。すぐにロビーに降りて開始だ。
《ルヴィア / Ruvia DCO の配信が開始しました》
〈待機〉
〈待機ー〉
〈はじまた〉
〈こんルヴィー!〉
〈DCOだー!!〉
「はいみなさんこんにちは、Dual Chronicle Online公式プレイヤーのルヴィアです。バージョン2、やっていきましょう」
画角は横向きにして、カメラの後ろにも通路を残しておく。映りたくない人はあっち、映っていいよって人は好きなだけ来なさい。まあ映りたくなければそもそもここからログインにしていないだろうけど。
と、さっそくあっちこっちに大量のプレイヤーが出てくる。当然ながら知り合い率が高い。
「今日のお品書きはー?」
「……一緒にやるつもり?」
「さすがに初日は触れるものが同じになるからね。このほうがルヴィアさんの負担も減るよ」
「まあいいけど……これで全員?」
〈開始30秒経たずに配信者が数人集まるゲーム〉
〈さすがサープリ〉
〈ルヴィアさん今「まあ面白くはなったかな」って思ってそう〉
コメントさん心読むのやめて。その通りで、私はそういうやつだから。
早々に集まったのが、まずはイルマさん。それから年末には私と一緒に九津堂ブースに現れてすっかり公式化したイシュカさんと、ユニット名をANZというアズキちゃんとカレンちゃんのコンビだ。加えて普段は動画勢である圏外組のルイさんも、今日はたまにやる配信モードで来ている。
あとは電ファン組だね、ソフィーヤちゃんはもちろん、ハヤテちゃんにフロル、あんな経緯を辿りながらあの日まで無所属だったツッコミどころ満載の都。この二人はもう呼び捨てでいいや、向こうもそうしてきたし。それからルフェちゃんと、ImitateAlice最後の一人であるエティアちゃんも当然とばかりにサークルプリズムに来ていた。
さらにマギアちゃんと、まだ関わりが少ない面子ではパンドラちゃんと星夜さん、マリエルちゃんにもずさん、それから揺ちゃん……いや、改めて見ると多くない?
というのも、私がフロルとの関係を暴露してからというもの、その月雪フロルと特に関係の深いライバーはみんな入ってきたのだ。まあ電脳ファンタジアは全部で40人ちょっといるから、実はおおよそ均等なんだけど。
加えて@Projectからも数名いるけど、さすがに紹介しきれないからあくまで場を共有するだけということで。つい先日オーナーにされてしまった以上、私が電ファンを優先するのはもはや当たり前といっていいし。
「@プロといえばインターバル中に動いたみたいで、DCO特化型の新人を六人も仕入れたみたいですけど……それはクレハたちが関わっているので向こうで。というかなんか知らないうちにジュリアが加入してるんですよね」
「アレたぶんソフィーヤちゃんと同じノリだよね?」
この場にいる@プロライバーから肯定が返ってきた。やっぱりシトラスの嗅覚はさすがといえるか。
他の事務所ももっと入ってくると思っていたんだけど、この二事務所以外は動きが鈍いんだよね。
改めて、お品書きから。
「まずは今から、トレーラーで示されていたバージョン2からの開放要素を紹介していこうと思います。その後は関連する場所を回ったりしつつ、今日中に紗那さんのもとにお呼ばれですね」
「じゃあ集まってやるのは新要素紹介までだね」
そうなりそうだね。ここまで人数が多いと、ずっと固まっていることにもデメリットがあるから。
ではさっそく。
「バージョン2のメインコンテンツ……要はストーリーと進行方向ですが、夜は《アスガルド》」
「やっぱり北欧神話からの引用だったね」
「位置としては、フランス南部とイベリア半島にあたるようです。キーキャラは《リュナー・クローチノイル》、キーワードは《リュナポーター貿易》と《ブルーフロントライン》ですね。特にジュリアはあれのガチファンなので、私としては二人にある程度丸投げの予定です」
「九津堂四天王の五番目だよね!」
「四天王なのに五人いる……」
「ブルフロだけ特にダークで、何より年齢制限つきだったから、ちょっと別枠扱いされがちなんだよ」
「ファンは多いけど人を選ぶタイトルでもあるからね」
《ブルーフロントライン》は九津堂第五の人気タイトルで、拠点制圧系のシミュレーションゲームだ。ストーリーが多少重くなろうが妥協しない九津堂の中でも特に重く振り切っていて、D制限、つまり15禁のレーティングがついていた。リュナーというのは主人公の名前である。
実はハロウィンの時点で示唆情報が出ていて、あの天城架純さんもそこからのスターシステムだったりと関わりはいくらか。……私は標準モードで裏ボスまで倒したけど、上級はやっていない。フリューがやり込みすぎて生活リズムを壊したのを見てしまったから。
「一方の昼はというと、《忠武》。字は違いますが、おおよその位置は読んでの通りですね」
「だいたいあのへんで、しかもこの字面。こっちは元ネタが示されてないけど、戦国モチーフっぽいよね」
「特に東海といえば戦国みたいなところはあるのです」
「私はもともとこちら中心にやるつもりでしたが、都合がよかったですね。以前からたまに言っていますが、日本史は特に好きなんですよ」
〈よくもまあこんなぴったりな字面あったよな〉
〈読まなくても一発で戦国ってわかる〉
〈まあ地理を引用した和ファンタジーなら一度はやるわな〉
〈歴女出たわね〉
〈そっかお嬢経営系だろうから文系か〉
そう、経営学科だから文系選択なんだよね。ひいては高校二年以降のクラスメイトは全員そうだった。近しい中で理系はクレハだけだ。
以前はなんで律が同学科なんだろうと思っていたけど、今ならわかる。彼女はたぶん電脳ファンタジアの経営陣ルートだ。私から見れば将来的には近めの部下確定演出ということになる。……いつからそういうことになったんだろうね、かわいそうに。
さておき、《忠武》。言うまでもなく中部地方がモチーフとなる。事前情報の時点で函峯の向こうに行くとはわかっていたから、それは想定通り。名前が出たのは先日公開されたティザーPVでのことだ。
そこではとにかく城が目立っていて、加えて日本史好き的には「元ネタはこれかな」と思えるようなものがいくらかあった。ただ、敵味方侍だらけ、というわけではなさそうだ。……特に敵は賢明だろう、ドロップアイテムと戦闘体験の都合というものがある。
「おおよその傾向としては、夜はブルフロよろしく海戦が多めになりそうです。昼は……合戦ベースなら多人数戦が増えそう」
「どっちもマクロな戦いになりそうだよね。求むさらなる圏外組」
「開発的には《異界に通じる暗路》のときのやり方に手応えがありそうなので、エンドコンテンツは最前線以外に置かれそう。かといって厩橋のときより難易度が下がるかは微妙ですが」
ただ、ひとつ期待というか、計算に入れてよさそうな要素もある。それが完全解放組のレベルで、バージョン1のレベルキャップ後の期間のおかげでそれが追いつかれつつあるのだ。これによって圏外組は大幅に増えてくれそうと私たちは思っている。
現に大半が完全解放組であるVtuberがそれで、クロニクルクエストのあたりでちょうど追いついてきてくれていた。……ルフェちゃんは外れ値である。
「そういえば、それ。レベル差問題ですが、バージョン2からはいわゆる『圏外レベル』が引き上げられます」
「プレイヤー最高値マイナス5になるんだってね。まあ現状を見ていると、そうしない理由がないか」
「最初はある程度慎重に作られていたんでしょうけど、わかってしまいましたからね。正直これレベルの問題じゃない、って」
〈おお!〉
〈つまりレベルが上げやすくなった?〉
〈上との戦力差が縮むのか〉
〈新アーツの待ち時間とか減るの嬉しい〉
〈まあそもそも俺ら圏外レベル以下は楽させてもらってるわけだから、据え置きでも文句は言えなかったけどな!〉
DCOには「プレイヤー内最高レベルからマイナス15までは、プレイヤーレベル・スキルレベル双方が上がりやすい」という仕様があった。これを俗に『圏外レベル』と呼んでいたんだけど、これがマイナス5まで一気に縮んだ。
カンストで今のトップ勢のプレイヤーレベルが80だから、これまで上がりやすい上限が65だったところが75になったことになる。スキルレベルはキャップ130だったから、115から125だね。
当然、バージョン1終了時に65近辺にいた中堅勢上位から圏外組にかけては大騒ぎだ。
これについては、いっそ縮めてしまったほうが楽、ということだろう。圏外組の一定割合とトップ勢に15レベルも差があったのも実力差の原因のひとつだし、そもそもバージョン1を経て「プレイヤースキルの面でどちらにしろトップ勢の優位は保たれている」ということが露呈した。
対象者はより楽にレベル差を縮められるし、トップ勢的にも圏外組のプレイヤー戦力が増すのは負担軽減となりむしろありがたい。一方でトップ勢の特権たる「強さ」については、もうプレイヤースキルでどうとでもなるから気にもならない。
「他にも大きいのが、これでこれまで忙しくてレベリングしきれなかったせいで圏外組に留まっていた怪物たちが目覚めるんですよ」
「そっか、レベル差が縮むってことは実力でどうにかなりやすくなるってことだものね」
「そう。レベル差5くらいなら、プレイヤースキル次第でトップ入りできちゃいます。……もっとも、最新アーツや5レベル分のステータスも軽視はできないので、逆にそちらでカバー、なんてことも」
といった具合で、いろいろ変化や恩恵がある。他にもサービスが長くなるほど出てくる復帰勢にも優しくなったりして、接続料式であるDCOとしては売り上げにも間接的に繋がるといいことずくめだ。
といったように、他にも新バージョンにはいろいろ新要素や改善点がある。ざっくりとだけど、このまま話していこうか。




