表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1-epilogue ちょっと長いエピローグ、あるいはやることの尽きないインターバル
438/473

430.真面目な子のぞんざいな態度からしか得られない栄養素はある

 さて、もちろん用意してくれているのはマナ様だけではないんだけど……。


「今回アメリアは大人しかったんですよね」

「あら、もうもらってあるの?」

「あの子ったら風情とかそういう乙女心はああ見えてぜんぜんないんですよ。普通に向こう(地球界)でデータで渡してきました」


〈あー〉

〈やりそう〉

〈アメリアだ……〉

〈それは解釈一致〉

〈徹頭徹尾リアリストってわけでもないんだけどな〉

〈アメリアって手を抜けるところは抜けるだけ抜くから……〉

〈つまりお嬢はもう媚を売る必要がないくらい攻略できてると思われてる〉


 アメリア・フォン・アズレイアは傑物だ。なんだけど、だからこそ常人とはどこかズレている。いや、もちろん私が常人だとか言う気はないけど。

 ある意味で省エネ主義なのだ。告白は面と向かってはするけど、わざわざそのために呼び出したりはせずに偶然二人きりになったタイミングでしてしまうタイプ。私相手にいじらしいところは見せてくるくらいに乙女心はあるものの、それが最優先にならないのだ。


 普通ならサバサバした子がそんな性質を持ったらけっこうキツい性格になりがちだけど、アメリアの場合はそれらがそれを向けていい相手にしか向かないからかわいい。

あの子が寝間着で自室にいるときにふと「そういえば、これをお渡ししておきますね。一区切りでの感謝の気持ちです」と報酬データを送ってきたら、最大級に気を許されている証というわけだ。もちろん他の人たちにはそれぞれ会って渡していると聞いている。


 ちなみに内容はアズレイア特産品セット。特別希少なものではないけど高品質で、今の進行度だとまだ手に入らないものがけっこう混じっていた。もらいすぎて“報酬疲れ”とかいう謎の現象を起こしている今のトップ勢への配慮が行き届いたチョイスだった。


「なので、まずは翠華さんですね」

「あの女のところに行くの?」

「あなたの親友ですよね?」

「うちの子たちが絡んだらライバルよ」

「……まあ実のところ、行きません。翡翠堂で済ませます」

「あのひとは自分の眷属でもないのに与えすぎなの。姪っ子にプレゼントあげすぎて親に怒られる」

「ストップアイリウス」


 それ以上はまずい。あと二文字発していたら半殺しにされていたかもしれない。

 ただ別にあながち冗談ではなくて、これ以上あのひとから特別なものを受け取るのは怖いんだよね。このあいだ《百華千変》を強化してもらったばかりなのだ。ここで素直に追加を受け取ったりしたら、確実にマナ様が対抗してインフレが始まる。


 だからこちらから、強く要望する形で「翡翠堂のスイーツ大量テイクアウト」で手打ちにしてもらった。それでもバフ効果の高いものはなかなか高価だし、かなり役に立つ。何よりカロリー摂取のない甘味は年頃の女子的にとても嬉しい。

 もう用意してもらっているから、今から行って受け取ってこよう。大丈夫、翠華さん本人は今ちょうどフロルちゃんの配信に映っているから。






 余裕があったからついでにひとつイートインしてきた。別に配信で飯テロしたかったからとかじゃないよ。ほんとだよ。


「ここからですが、昼界をぐるっと回ります」

「どれだけ呼ばれてるの……?」

「もう受け取ってあるのを含めても十の位は1だよ」

「普通は十の位は存在しないの」


〈二桁か……〉

〈まああるでしょ二桁は〉

〈お嬢だしな〉

〈むしろないわけがない〉


 そこはまあ、祭り上げられた分というか。代表者だったから、で呼ばれたところもいくらかあったから。

 実はここ一週間で会ったひとたちにはもうもらっている。火刈さんたち(特に結乃さんの汚染を防いだことをいたく感謝されて、あのときの《フェイトチェンジャー》対象者にかなり豪華な返礼があった)、水葵さん(唯一のSクリアで正史扱いになったAサーバー全員に高級魚セットのプレゼントだった)、海佳さんと暮奈さん、それから揺葉さん(それぞれ参加者に故郷の品を贈ってくれた)と……当人が遠方にいるから、つがいのツィルさんからゲーム友達の女媧さん経由で渡してくれたノアさんだ。

 どうやら当人を解放したレイドの参加者には基本的に一律で用意されているようで、金華猫と心羽さんの連名、諾さんら文車妖妃一同。他にもプリムさんとエヴァさん、ザダクロ領主あたりからはしっかりお誘いが来ていた。これからぐるっと回るんだけど、ザダクロは最後にしようと思う。最悪帰してくれなくて予定が狂いかねないし。


「というわけで、那夜さんのところに来ました。私は燎さんの解放には全く関わっていないので、こちらだけですね」

「まあ一緒の場所で療養してるの」

「ちなみに燎さんの《厩橋》での解放にのみ関わった方は彼女に呼ばれていないようです。ここからわかったこととして、DCOではB判定は勝ち扱いになりませんね」


 まあ解放されていなかったからね。攻略が難航してより苦しんだ人ほど累計参加者が増えたわけだし、全員に渡さないからといって文句をつけるのはナンセンスだろう。露喰姉妹で揺葉さんだけとてつもない人数になったりとか、可哀想すぎるし。向こうも病み上がりなのだ。

 だから聞いた話では、一部の人たちは折半で返礼を用意したとか。那夜さんはそのひとりだ、なにしろ順当に渡したら対象が六人だけになって那夜さん自身が納得できなかったから。


「そういうわけだから、別に六人にものすごく豪華に、とかじゃないけど……このくらいはもってって」

「ありがとうございます。大切に使いますね……いや豪華ですけど」


 メタいことを言うと、クロニクルクエストの12人は均等にしたかったんだと思う。どれかにしか基本的に参加できなくて、どれに参加するかも自由とはいかなかったから。こういう選択要素はなるべく均等になるように作られているのは、バージョン限定商法とかであるあるだよね。

 一方でそれが実際には均等にはなっていない、というのもあるあるなんだけど……そこは運営さん、頑張ったらしい。売値も需要もお役立ち度も、だいたい似たようなところで収まっていた。


 ……という話を、その12人のうちフルでボス戦に参加していないひとからも受け取っている私がしてもあんまり説得力がないし、そもそも那夜さんは12人の範囲外なんだけどね。

 そのあたりは貢献度の問題らしい。スズランちゃんのような遊撃隊もそうだったんだけど、何かしら傑出していればちゃんと報酬は増える。まあ、それはそうだ。


「映像を見たの。随分苦労してるのを見て、迷惑かけたなって」

「いえ。それをやるのが私たちの役回りで、しかもそれをゲーム扱いしているわけですから」

「あなたたちにとってゲームでも、私たちにとっては現実だから。 本当はもっと用意したかったんだけど、止められて」


 しかし那夜さん、渡し足りないらしい。《百鬼戦録》では警戒心の強いキャラでありつつ、責任感もとても強い子だったから、これは想像がつくというか。……誰に止められたのかは、那夜さんの名誉のためにも聞かないでおこう。

 本当に、こういう役目がことごとく私に回ってくるのはもはや星のもとなのかもしれない。悪い気は別にしないんだけどね。


「それなら、今後助けてください。これからの解放で、私たちでは力不足になる場面がどこかにあるはずですから、そのときに」

「……わかった。それなら、好きなだけ頼って」

「はい。持ちつ持たれつでいきましょう」






 ────あちこち回って、いよいよ行くべき時がきた。


「なんか、ウンディーネさんは今ザダクロにいるらしくて」

「ドMなの? それともドSなの?」


 どっちなのかわからないのがあの街の凄いところだよね、じゃなくて。

 どうやらあの雰囲気がなんだかんだで肌に合う精霊もいるらしい。特にウンディーネさんは四大精霊でマナ様の直の娘、直に崇められることの多かった身だろうから、それに慣れているのかもしれない。

 とはいえ彼女は解放後も普段はウティヌムにいるんだけど、個別報酬解禁とともにザダクロに移っているらしい。なんでも、「そのほうがまとめてできて楽だろうから」とのこと。いや本当に、そのくらい自然にあの扱いを受けられるひともいるのだ。あくまで中身は一般の人間であるプレイヤー精霊とは感覚が違う。


〈一般人……?〉

〈もしかして紛れ込もうとしてるか?〉

〈お嬢を一般の人間と呼ぶの違和感ある〉

〈お嬢、無理すんな〉


「言いたいことはわかりますが流してください。他の子と私の差の数倍は離れた感覚をあちらは持っているんです」

「ついに自分が一般ではないことは認めたの。成長なの」

「余計なちくちく言葉を吐くのはこの口かなー?」

「きゃーなの!」


〈アイリウスが新しい甘え方を覚えてる〉

〈たのしそう〉

〈お嬢も言い返せない横槍入れられたらじゃれて誤魔化す術を覚えたか〉


 それを言語化されたらおしまいなんだよ。


「……ところで、これによって割を食っている人がいます」

「ねえルヴィア、ちょっと服の中に隠れさせて」

「私の服に隠れる場所ないでしょ」

「ふとももの裏なら……」

「無理あると思うよ」


 そう、イシュカさんだ。正確には水属性の精霊。

 ウンディーネさんは水そのものを内包して司る上位精霊だから、より同属性の精霊への愛着が強い。他の例のように傘の下の関係でなくともあれだけの好意を向けてくる(たぶんアメリアはもはやそれに限らないけど)のに、それが自身が内包する概念の中だったら?


「(にこにこ)」

「(ぷるぷる)」

「言わんこっちゃない」

「あー!?」

「(ふへ)」

「吸われてるの……」

「まあアレは極端なじゃれ合いとしても、けっこう重めの気に入り方になります。もはや愛、愛ですよナ○チ」

「んなぁー!」


 こんな雑な展開に即ノリしてくるあたりまだ余裕あるねあの人。

 じゃあ私はさくっと受け取って帰ろうかな。ザダクロの代わりに自室で同属性精霊が待ってるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ