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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1-epilogue ちょっと長いエピローグ、あるいはやることの尽きないインターバル
424/473

416.どうにか読もうとして解読を試みる人もいる

 同日更新の『月雪フロル』の若干のネタバレを含みます。気になされない方なら問題ない程度ですが、どちらもお読みの方はフロルの方をお先にどうぞ。

「さて、時間を潰……もとい、配信を少し早めに始めてあれこれ見てきましたが、今日はひとつイベントがあります」


 何も私たちもボス戦が終わって二日も何もしないわけでも、2日目にしてもう駄弁るしかなくなっているわけでもない。ギルドハウスに集まって喋り倒していたのはそれが楽しいだけじゃなくて、時間を調整していた部分もあったのだ。

 では何があるのか。


「それがここ、関東王立図書館の開放です」

「けっこう待ちに待ったって感じだよね、特に生産職の人たちは」


〈おお、図書館〉

〈ついに来たか〉

〈V1の間じゅう閉じておくのも挑戦的な判断だったよなあ〉


 MMOで図書館というと、やはり情報の宝庫であることが多い。楽しいだけのフレーバーテキストからお役立ちどころか必須級の情報まで、いろいろあるのが通例だ。

 DCOでもそれは例外ではないようで、以前から双界人は図書館にある情報を示唆することがあった。ただ、そんな図書館にこれまで入ることができなくて。


「というのも、紗那さんが汚染に伏せたときにたまたま閉鎖状態の図書館の魔術鍵を持っていて。近付けば暴れる状態のまま寝込んでいたせいで回収もできず、そのまま失踪してしまっていたんですよ」

「……失踪中に失くしてなくてよかったの」

「紛失してたらみんなで函峯一帯を大捜索からするところだったねー」


 その影響でずっと入れないままだった。……まあ、実は内部のデータが完成していなかったらしいんだけど……それは確定情報ではない噂止まりだから置いておこう。

 そんなわけで長らく未実装だった図書館が、ついにDCOでも使えるようになった。メタ的にいえばバージョン1クリアが開放条件だった大量の情報が解き放たれるわけだ。


「また道を譲られてるの……」

「ほんとがめつさがないよね皆」

「そうでもないと思うわよお? 絶対にとんでもなく広いもの、ルヴィアにある程度探ってもらってからのほうが効率がいいんじゃないかしらあ」

「あー……確かに」


〈堕落している〉

〈俺らが言えたことではないな〉

〈全員がお嬢を信頼しすぎてどんどん依存してるからな!〉


 プレイヤーたちが配信者を使った楽を覚えている。今に始まったことではないけど。コメント欄に至っては開き直っているし。

 まあ、ウィンウィンではある。ありがたく先に行かせてもらおう。同じ判断をしている配信者も少なからずいるし、ここならたぶん彼女も……いたいた。




「いると思った。ご存知の方も多いと思いますが、あそこにいるのがおそらくDCOで一番図書館が似合う配信者です」

「あ、ルヴィアさん。来ると思ったよ」

「そうでなくても来るつもりだったけど、いざこうなるとエティアちゃんの紹介にはちょうどいいよね」


〈エティアだ!!〉

〈ようやく……ようやく出てきたか……〉

〈ちゃんと絡んだのオフコラボの時くらいだしなぁ〉


 この綺麗な白い髪をショートボブにしている、どこか浮世離れした雰囲気を持つ幼げな少女は、名をエティア・アレクサンドレイアという。私の配信の画角に映ったのは初めてではなくて、決戦中はフロルちゃんのサポートとしてずっと頑張ってくれていた。

 彼女は電脳ファンタジアの二期生で、私としてもいずれ特に絡みが増えるとわかっていたライバーの一人だ。……というのはエティアちゃん、ルフェちゃんやフロルちゃんと一緒に『Imitate(イミテート)Alice(アリス)』というユニットを組んでいるから。完全解放組で出遅れた分二人にはしばらく遅れたけど、そろそろトップ勢に差し掛かる。


 そんなエティアちゃん、自己紹介が「バーチャル大図書館の主」であるように、キャラクターとしての造形の時点でとても図書館に縁深い。名前からしてゴエティアとアレクサンドリア図書館だものね。


「エティアちゃんには私としても触れたかったところがあって。実は種族が文車妖妃なんですよ」

「そういえば、ルヴィアの知り合いにはあんまりいないの」

「わたしは迷う余地がなかったけど、ちゃんとかなり強いから人間の魔術師にはおすすめだよ。あと諾さんがかわいい」


〈なんと〉

〈文車妖妃の枠が埋まったの配信的にも美味いな〉

〈魔導図書館の番人にハマり役だし〉

〈諾さんかわいいのか〉

〈香さん(仮)はまだいないんだっけ〉

〈エティアにちゃん付けしてるの違和感あるな……〉

〈鬼畜ドS偽ロリ不老不死にちゃん付け、お嬢も超越者の風格出てきたな!〉


 そう、あれだけちゃんと触れる機会があったのに結局配信に出るような進化者が現れていなかったあの文車妖妃だ。今となってはエティアちゃん以上の適役が想像できないけど。

 ……エティアちゃんは私のほうから可愛がるような子ではないという認識は私も同じだけど、これには深いわけがあってね。具体的には、本人に「ルフェちゃんとフロルちゃんはちゃん呼びでわたしは違うんだ?」と否定しづらい詰め方をされた。ImitateAlice、通称イミアリは“偽ロリ”と呼ばれる幼い外見からのギャップ萌えで売っているから、その可愛らしさをスルーしてしまうと営業妨害になるし……実際可愛いのは確かだし。


 ……少し遠くで、フロルちゃんらしき反応がそっと離れていく様子が魔力覚に引っかかった。気を使ったのか、それともエティアちゃんの持つドSを私の前で発揮されたくなかったのか……時間の問題だとは思うけど、無理もないか。

 あの子はある程度は仕掛ける側に回っている子だけど、イミアリには相性が悪いのかやられっ放しだから。






 午後9時ちょうど。紗那さんとクレハたちが連れ立って来て、王立図書館の鍵を開けてくれた。私たちはそのまま中に入って、めぼしいものから探っていくことになる。

 フリューたちはそれぞれ見たいものを見に行った。配信者と一般プレイヤーでは見たいものが異なるのは当たり前だから、これは事前に打ち合わせてあることだ。だから図書館探索は一人でやるつもりだったんだけど……流れがよく配信者同士で行動が一致する上にお互い絡んでおきたかったこともあって、エティアちゃんと二人で動くことになった。


「さてと……何から見ていきましょうか。予想はしてましたけど、とんでもなく広いですよここ」

「とてもじゃないけど、一日で回れる規模ではないよね。めぼしいところや触っておきたい情報がありそうなところを優先したほうがよさそう」

「あとは一応、他の配信者となるべく被らないように……かな」


 満遍なく見ていける規模ではないから、結局どこかで選り好みする必要がある。どれが王道なんてものもないし……適当に選んでしまうしかないかな。

 エティアちゃんには特に希望がないようだったから、少し私の目的も含めてまずはこのあたりの区画からいこう。


「種族関連の区画だけでこんなにあるんだ……」

「あ、でもさすがに全部読めるわけではないみたい。光って見えるもの以外は日本語で書かれてないから、そういう意味では最低限どうにかなるかな」


〈なんか急にゲームっぽくなったな〉

〈わかりやすくて良き〉

〈さすがに全部読めるものにしたら開発班パンクしちゃう〉


 各種族についてまとめられた本が集まっているようで、それだけで本棚五列分はあった。そのうちプレイヤーが読めるものとして用意されている本だけが光って見えて、背表紙のタイトルで中身も判別できるようになっている。

 ちなみに他の本はというと……ファンタジーものの漫画によくあるような判読不能な異世界文字で埋められていた。メタなことをいえばランダム生成だろう、それでも相当作り込まれていると思う。


 その中からまずは『双界種族大百科』とある大判の書籍を引っ張り出して、すぐ近くにあった机に置く。……これを真っ先に見たのは、半分はちょっとした懸念だけど。

 もっとも、それはすぐに解消されることとなった。


「……あ、さすがに対策されてますね」

「ああ……まだ判明してない種族は読めないようになってるんだ」

「ここで片っ端からネタバレになってしまうかと思ったんだけど、随時開放の形にされているみたい」


 ちょうどゲーム内の図鑑のようになっていて、どうやら一度読むとメニューからいつでも読み返せるようになるらしい。基本種族も進化先の部分はまだまだ埋まらないままで、エクストラの部分ともなれば開いているほうが珍しい。未読ページが光っているから、見つけやすいのが親切でありがたい。

 片っ端から流し読みしてみるけど、特に基本種族を中心にある程度知れている種族は新しい情報は載っていない。詳細は本棚にある各種族の専門書を参照、ということかな。


 となると、めぼしいのは……あった。


「スノーリアです。ソフィーヤちゃんの種族の、精霊でないバージョンですね」

「ああ、あの子の。西洋風雪女、くらいのイメージだけど……」

「うん、記述的にだいたい合ってるみたい……というか、単に雪女のことをこの世界、特に夜界ではそう呼んでるだけかな」


〈出たスノーリア〉

〈結局今でもよくわかってないやつ〉

〈だっていないんだもの〉

〈なんやかんや珍しいよね、わかってるのにまだいない種族〉

〈なんでスノーリアが特に気になってるの?〉


 うん、珍しい。大抵のエクストラ種族は、その種族の先達である双界人が登場してから進化へのキーキャラクターとなっているから。ちょうど文車妖妃の諾さんあたりがそれで、金華猫のマオマオさんもこれにあたる。一方で覚の心羽さんのように、登場しているのにキーキャラクターにならないパターンもあるけど……いないのに進化できる例はほとんどない。

 その例外になるのが、精霊を複合しているパターン。つまり唯装魂がキーキャラクターの代わりを務めた場合だ。スノーリアの場合はこれで、リスタちゃんがこれまで唯一の手掛かりだった。

 ……もっとも、読み込んでみてもおおよそ予想していた内容が合っていると追認できるくらいだった。双界人のスノーリアはやはり北の方、まだ行けない地方に住んでいるようだ。


 スノーリアに目をつけた理由はもちろんある。とても個人的なものだ。


「……ありました、これを探していたんです。……カースドソード」

「そっか、スノーリアと扱い的には同じなんだ」

「そう。だからスノーリアがあるならあると思って」


〈あー〉

〈確かに〉

〈それもそうだな〉

〈精霊複合って可能性の塊?〉

〈裏口入学みたいなもんだしな〉


 精霊複合での進化が初登場で、その種族自体の人物は一人も登場していないエクストラ。スノーリアとカースドソードは現状、立場が酷似しているのだ。それもあってこの二つは今はこういう形でしか情報を探りづらい。

 カースドソード・スピリットはこれまで存在しなかったと言われていたけど、単にカースドソードならそうとは限らない。むしろ発想元としてあってしかるべきだと思っていた。結果としては当たり、しっかりページがあった。


「……『強い魔力を宿し続けた武器が変異する付喪神の一種。全体的にやや好戦的な傾向にはあるが、個々の性格による範疇である』」

「アイリウスちゃんも、別にバトルジャンキーってわけじゃないもんね」

「『元の持ち主の死後に発生することもあるが、存命中に発生した場合は持ち主に強い執着を持ち行動を共にすることが多い』」

「……アイリウスちゃんの微ヤンデレは種族特性ってことかな?」

「『また、明確な人格を持たずに発生することもあり、その場合は持ち主と一体化することで存在を保つ生態を取る。ただ、この手法は人格を持つ個体も行う場合がある』……なるほど、アイリウスはこれで、全くの突然変異というわけではないんだ」


〈アイリウスだ〉

〈思ってたよりアイリウスっぽいこと書かれてる〉

〈まあアイリウスって割とちゃんとカースドソードっぽいことしてたもんなぁ〉

〈なんか伏線回収されてる気分〉

〈このパターン普通にも存在するの!?〉

〈これプレイヤーのカースドソード存在しうるな〉

〈進化するなら一体化しかないな?〉


 予想以上の収穫だ。アイリウスはちゃんとカースドソードらしいことをしていた、ということになる。……アイリウス自身が元々カースドソードだったのか、それとも私と合わさってようやく『種族:カースドソード』たり得たのかは、これだけだとわからないけど。

 一番大きいのは、本当に大まかにだけど進化手段がわかったことだろう。武器のほうが条件を満たした状態で、何らかの手法か条件で一体化……あの日アイリウスと私がやったようなことをすればいい。


 詳しいやり方は結局、カースドソードのキーキャラクターを待つことになりそうだけど……どこにいるんだろう。武器製造、鍛冶あたりが鍵になるのだとしたら、堺やヴェルンドの伝説に基づくゲルマン系あたりが思いつくけど、どちらもなかなか遠い。だとしたらしばらく先になりそうかな。

 微コラボ回と呼べるかも。

 どこか淡々としていてふとした拍子に何かを教えてくれたり助言してくれたりする謎めいたサブキャラ、好きです。まあこの子は見た目だけですが。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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