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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1-final 総力戦すぎてもはや盆踊りだと判明した第一回ラストダンス
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405.ロマン戦法のバーゲンセール会場はここですか

 雫戦はそもそもが少数精鋭である《明星の騎士団》全体と、《サークルプリズム》のトップ勢を中心とした一部で戦うことになった。決して安心できる戦力とはいえないけど、序盤から苦しいのはおそらくヨルム戦のほうだ。泣き言は言っていられない。

 バージョン1後半あたりからはなるべく多くのプレイヤーが旗を振れるよう仕込んできたけど、これは最終決戦。最低限の消耗で私やブランさんがここからを戦えるように繋いできたのだから、最後は出し惜しみなしだ。


「分体生成なし! 単体型だ!」

「ブランさん、最初任せます。編成はこっちで」

「OK、任せた!」


 全体指揮は私とブランさんが交互にやる。開幕はどこよりも安定しているブランさんの固定パーティに任せるから、自然と先に俯瞰するのは私のほうとなった。

 偵察なしで初見のボスと向き合う開幕も、それを見て判断するのも、どちらもできればやりたくない難易度だ。だけど他にはいない、私たちが一番慣れている。……この場面に限らない、多くのトップ勢はそれを自覚して一番前にいる。




 まずはボスの特徴と性質を炙り出すところから。

 雫は単体型、つまりHPを共有した取り巻きを周囲に展開したりはしてこないボスだ。対処法は各地の解放攻略で多用したユニオンレイドをぶつける戦術ではなく、今日12戦すべてで行った対単体スイッチバトルとなる。

 ただ、体高4メートルほどとそれなりに大きいから的に困るということはない。二パーティほどの人数なら戦い続けられる、これも今日の面々と近い展開になっていきそうだ。


「ん、魔術来ますよっ!」

「《ハイドロランス》です!」

「っと、俺かっ!」

「属性魔術か……これヤバいかもですね!」


 今回、イシュカさんは暮奈を担当していたこともあってヨルム側だ。彼女の観測性能を当てにできないから、とりあえず私やメイさんあたりが見ておくしかない。……この場にそれが得意な人がいないか探しておこうか。

 モーションの判別はあちらの方が早いけど、魔術の特定は私。ランスの魔力パターンを見つけて注意を送った。出がかなり速い、これは予測が遅れれば間に合わなくなるかもしれない。


〈ヤバいって何が?〉

〈強いけど普通の魔術に見えるけど……〉


「まあ見ててください……来た。今度は《フレイムスロア+》!」

「やっぱりか……!」

「はっ!!」

「みんな気をつけて! 雫、たぶん全属性使ってくるよ!!」


〈え?〉

〈魔術斬ってる!?〉

〈うわぁwwwwww〉

〈カナタの魔術斬りいつ見てもやべーわ〉

〈これ最近習得者増えてるってマジ?〉

〈は!?〉

〈マジで言ってる!?〉

〈うわそっか〉

〈それお嬢専用じゃなかったん!?〉


 魔術斬り、当たり判定がかなり小さいだけで要領はパリィだからね。得意なトップ勢がしっかり相対することさえできればなんとか可能だ。自分が狙われたときだけだけど。

 ただ……そう、先に狙われたバスターさんは火属性、続けてカナタさんは風属性だ。ただ二属性を使い分けたというだけでなく、綺麗に弱点を突かれている。

 それにそもそも、表示にある通り雫は幻属性だ。名前からして水属性のように思えるのに違うところとか、二つ名の《黄泉還りの霊猫》とか、不思議なところはいくつかあるけど……こと幻属性で敵の弱点を突く属性魔術というと、私と一致している。そして私の所感として、このやり方は弱点を突けるのが当たり前だからこそのものだ。


「もっとも、別に私専用なんてことはありませんからね。現状プレイヤーにとって非効率というだけで全属性を使うこと自体は可能ですし、他の何かしらの手法もあって当然でしょう」

「……まして、雫さんは少々特殊な経歴を辿っておりますから」

「特殊な経歴……」

「……今考えるべきなのは、目の前のボスが全属性の魔術を使える可能性が高い、というだけですね」


 勘違いされがちだけど、プレイヤーも純粋な全属性魔術習得は可能だ。《虹魔術》がない限りスキル経験値が共有されなくて、属性を増やせば増やすほどろくに育たなくなってしまうだけで。だから力ある、あるいは何かの要素を持つ双界人なら、全属性を使えても驚くことはない。ノアさんなんかは私たちに見せていないだけで、たぶん平気な顔をして使ってのけるだろうし。

 ただ……口を挟んだアメリアの歯切れが悪かった。この既視感はアイリウスの過去のときに感じたものだ、あまり突っ込まないほうがいいのかもしれない。






 それはさておき、もうしばらく明星による立ち上がりが続く。

 普段ならそうしているうちに後ろで得意なプレイヤーが攻撃パターンを割り出して、こちらで対処法まで編み出しておくところなんだけど……。


「またパターン違うな!」

「なかなかループしませんね。異常なほど長いのか、それとも……」


〈うわぁ〉

〈いくらなんでも長すぎだろ〉

〈定型化なんぞさせんって感じだ〉

〈これ今何してるんだ……?〉


「あ、はい。ボスの行動を全部メモして、一定の周期で同じ行動をするパターンを割り出そうとしているんです」


〈ほー……〉

〈全部メモ?〉

〈それをあの場で割り出してるのか〉

〈新規さんには黒塗り蛇戦のときのアーカイブがおすすめだぞ〉

〈11月24日ね〉

〈日付が出てくるのが速すぎる〉


 ただ、なんだか妙に長い。まさにあのときの蛇の胴体部分がこれまでで最長のパターンだったんだけど、あれどころか頭と尾のパターン分を足したものより長くなってきた。

 ここまでくると一つ可能性を考えざるを得なくなる。汚染された攻略必須ボスとしてはかなり珍しかったものなんだけど、そこはラストということか。


「たぶんパターンなし、対応で動いてくるやつですね」

「だよねぇ!!」

「この難度と密度でそれはキツいですよぅ」

「そうですね。汚染者特有の本能が単純化されてしまう現象が、雫さんには起こっていないようです」


 なるほど、この行動パターンはそういうことになっているんだ。確かにそれなら辻褄が合う。

 これまでにも汚染されていない存在は完全反応対応、こちらの戦いに応じて動きをいくらでも変えてくる例はあった。特に高難度ダンジョンのボス、具体的には影ちゃんやユエイリアさんあたりが該当する。……そう考えると、あの蛇はあれでも自重されていたんだね。


 つまりあの蛇よりもさらにボスとしてのギアが上がったということになる。本当に厄介というか、なんというか。

 これを念頭に入れると、事前に転送が行われた理由もわかってくる気がする。こういうアドリブの対応は慣れそのもので、本当に一握りのトップ勢でないと遅れをとってしまうものだから。

 ……といっても、相当量の戦力を持っていかれてはいるから……まあ、双方の兼ね合いなのだろう。






「とりあえず落ち着いてはきましたけど……」

「常時これか、さすが最終決戦!」


〈落ち着いてくるのかよ〉

〈明星ってもしかしておかしい?〉

〈トップ勢全体がおかしいんだよ〉


 しばらく任せていたところ、なんとなくの立ち回りは少しずつだけど見え始めた。パターンが存在しない以上は出始めてから対処するしかないんだけど、その手の癖を読むのに少し手間取った格好だ。

 もっとも、本人たちが悔しそうなだけだ。この時点で、最初のパーティがそこまで確立することは、実際のところ前提としていなかった。

 それに彼ら、読めない初見ボスの開幕という有数の難所を犠牲なしで乗り切っている。……もっとも、それは明星のトップ2パーティにとっては当たり前なのかもしれないけど。


「メイさんのMPが黄色くなったらスイッチ! サークルプリズム、出ますよ!」

「任せて!」

「いつでもいけるぞ!」

「余力残しとかなあかんし、最初のうちに暴れさせてもらうで」


 難しい立ち上がりをほぼ完璧にこなした明星トップチームも、そろそろ最初のMP切れ。メイさんのポーション酔いに合わせて用意しておいた次のパーティが準備を整えて、タイミングを待つ。

 最初に酔った人も最後の半分は残して撤退に入り、それ以外はまだ戦えるとしても下がっておく。それでも回るどころか余るだけの人数はさすがにいるし、まだ無理をする段階ではない。


「合わせるよ、いつでもどうぞ!」

「はい。《チャージストライク》…………今」


〈うわ開幕から凶悪〉

〈いきなりフルチャージかよ!〉

〈えげつねぇ〉

〈でも当たるの?〉

〈さっきから明星が避けられまくってるんだよな〉


 攻撃範囲ぎりぎりに陣取って、タイミングを合わせる。少数精鋭の利点かそのあたりも明星は上手いから、入り込める隙はいくつも見受けられた。

 そこにまずは私が突っ込む。フルチャージの空中 《チャージストライク》、結局こういう移動速度で《魔力飛行》は大きなアドバンテージを持っているから。

 とはいえ当然、正面でこんな露骨な大技を構えれば雫もこっちを向いてくる。索敵ラインを越えたその瞬間から私に魔術を差し向けてくるけど……。




「《影縫い》」

「《蝕ミ、》」

「ニャッ、」


 おや、気付いた。さすがはバージョンボスだ。だけど、もう発動している。


「《───変若水》!」

「フギャッ!?」

「せー、のッ!!」


 もしかしたら、スズランちゃん単体なら察知できていたのかもしれない。だが今回のスズランちゃんは、チカさんの隠密行動用の《仙術》、《影縫い》に守られていた。あれは自分の他に二人まで、気配を消してエンカウント・ヘイト判定を消すことができる偵察系の術だ。

 お察しの通り、これと《蝕ミ、変若水》との相性はすこぶるいい。構える時点で条件を達成していないと発動できないとはいえ、ヘイトを向けられないまま刀の間合いまで辿り着く難易度を大幅に下げてくれるのだ。


 そして半端なタイミングでスズランちゃんに気付いたことで、振り返ってしまった。現在ゲージの10パーセントとは凄まじい大ダメージだ、無理もないのだろう。

 だが正面には、既に私が迫っていた。反応してしまった体は着弾するまでには戻し切れず、《チャージストライク》も直撃。不意打ち判定になって、それだけで都合2パーセントほどは削れただろうか。


「悪いな。この影縫いは盾も完備なんだ」

「ごめんなさい、雫さん。その戦闘経験の浅さ、今だけは利用させていただきます」


〈決まったァ!!〉

〈やっぱ変若水でけぇ!〉

〈2ゲージの10%でも充分つえーわ〉

〈これでクールタイムはないんだからほんま〉

〈おっ!?〉

〈クリった!〉

〈綺麗に入りました〉

〈これは痛い!〉

〈真後ろだったもんな今〉


 たまらず反撃する雫だけど、影縫いは三人まで効果を受けられる。残る一人の枠に入っていたゲンゴロウさんがしっかり受け止めてみせた。私はそれを見てヘイトを奪いすぎない程度に追撃しておく。

 ここで稼げたものがかなり大きかったから、明星組の撤退もつつがなく済んだ。残る交代メンバーの配置も余裕を持ってできて、万全の形から入ることができそうだ。

 今日だけで都合九発目だけど、変若水も雫戦では一度きり。活用できる分はし尽くして損はない。ここは上手くできたようだ。

 魔術斬り、隠密接近からの割合攻撃、フルチャージインパクト。ボスもボスでマニュアルパターン&全属性でやりたい放題です。

 ……ルヴィアは二つ目以外全部できるな。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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