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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1-final 総力戦すぎてもはや盆踊りだと判明した第一回ラストダンス
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400.通常攻撃が先制攻撃で痛恨の一撃なドラゴン娘は好きですか?

 ではそんな夜霧はどんな戦い方をしてくるのか。……まあ、これは夜霧さんを知っていれば簡単に予想がつくところだろう。


「レギュラー陣の皆さんは、先日そちらにアメリア・フォン・アズレイアを連れて行ったときのことを覚えていらっしゃると思うのですが」

『ああ、あったね』

「ありましたね」

「アメリア、戻ってきてたんだ。ちょっとややこしくなるから一旦待ってて」

『なんか普通に出てきた……』


 アメリア、てっきりまだ巡回に時間がかかるものと思っていたんだけど。本人に聞かせるつもりはなかったんだけど、調子に乗るタイプではないしいいか。


「あのときは彼女のことを、主に立場や『セイサガ』との関連性、つまりスターシステムの側面を重視してお伝えしました。ただこのアメリア、幻双界最高のヒーラーという側面もあるんです」

「……面映ゆいです」

『かわいい』

『セイサガ好き出とるで』


 うん、かわいい。私も危うく意識を持っていかれるところだったけど、一旦先に進むね。


「そのように、当然ながら幻双界にもそれぞれの分野のスペシャリストというのは存在します。中でも少し面白いのは、純粋な単体戦闘力ではない部分のスペシャリストの中にはアメリアのように、総合力ではまだ最強論争に参加できていない若い才能がいるところなんですが、それはいいとして」

『若い方に尖ったヤツが多いってことか』

「夜霧はそんな尖った才能の一人です。分野は《陰術》、つまりデバフですね」


 彼女の初登場はなんとベータ初日。形を問わなければではあるけど、最初に私たちを召喚した綾鳴さんを除くと最初に遭遇した主要人物だ。

 ただこれ、決して普通の形の出会いではなかった。最初の街の近郊に黒猫の姿で現れて、誤って攻撃したプレイヤーに大きめのデバフで反撃して去っていく、というものだ。後から聞いたところによると、私たち来訪者が本当にやれるのかを確認するために紗那さんに代わって視察に来ていたのだとか。


 その時点から謎の存在として取り沙汰されて、やがて当初から追っていたクレハを筆頭に何人かが接触した。一方で俯瞰気味だった私とはあまり縁がなくて、しっかり会ったのはバージョン1に入ってからの失踪直前だった。

 その要因は彼女の能力が安全圏からのサポートにはあまり向かなかったことと、紗那さんと違って代表的な立場には立っていないことだろう。役回りがどうしてもサブイベントの案内になりがちだったから、私の手が回るところまで出てきていなかった。


「具体的には、相手をしているプレイヤーの一部または全体に、ステータスダウンや状態異常を与えてきます」

『うわ、相手したくないやつだ……』

「毒で継続ダメージを与えてきたり、攻撃力を下げてきたり、麻痺や目隠しで行動しづらくしてきたり。その分どうやら他のボスよりは単純な戦闘力は低めのようですが、コントローラーを使うこれまでの方式と比べてもダイブVRだとデバフの苦しさがより大き…………」


 まあこの場では言葉を選ぶけど、言ってしまえばとてもウザい。特に行動阻害系は顕著で、たとえば体が痺れて動きにくくなるのはかなり邪魔だ。精霊は無視できてしまっているけど、目隠しあたりもかなりひどい。

 そんなデバフのオンパレードになってくるのが夜霧戦だ。同系統に天陽の眠り猫がいたけど、あれとは頻度も種類も比較にならない。種類が多すぎてランダム性があるけど、毒と行動阻害が噛み合ってしまってはめ殺しのようになるパターンも存在するし。

 だからあのとき以上にヒーラーの状態異常回復、特に全ては手が回らない分取捨選択が重要になって……なんか袖、はないからロンググローブの裾を引かれた。




「……紗那さん?」

「あ、ごめんなさい……なんでもないです」

「なんでもなくはないでしょう? 汚染から解放されたばかりで苦しいんだったら、いっそ発散して楽になってしまってもいいんですよ」


 手を繋いでながら作業の浄化を続けていた紗那さんだ。そろそろ離してもしばらくは問題なさそうになってきているけど、それは数値上の汚染の話。まだ四ヶ月にわたる汚染の影響が抜けていないのは無理もない。

 特に精神的な負担に関しては注視する必要があるだろう。ベータで助け出した八葉の巫女やプリムさんとエヴァさん、さっき目を覚ました那夜さんあたりとは、今回のボスたちはわけが違うのだ。何ヶ月も汚染されていた影響がどれだけ残るかはまだ把握しきれたものではない。


 だから紗那さんの様子がおかしいのなら、変に負担がかからないようにケアするのが肝要だ。実はこれに対応するためも兼ねて、前半では別の場所にいてもらっていたレスキュー班も後半はこのマスタールームに置いている。

 自分から快適でないことを言い出してくれるのはありがたいことだった。そんな紗那さんが口にしたのは……


「その、馬鹿馬鹿しいことでごめんなさい。……夜霧が、私にはない第一人者の分野を持っていることを再認識したら、なんだか心細くなっちゃって……わっ」

「ぜんぜん馬鹿馬鹿しくなんてないですよ。目の前でこんな言い方になってしまってごめんなさい。……だけど、紗那さん。紗那さんにもこの世界で一番のことはあるんですよ」


 少しだけ、共感もできることだった。誰よりも近しい存在が、自分にはない特別を持っている。その苦しさは私もわかるつもりだ。

 だからこそ、今の紗那さんに必要なものがわかる。自信、アイデンティティだ。自分は胸を張って夜霧の真横にいていいんだ、という。

 傍から見れば些細で当たり前のことでも、自覚は案外しづらいものなのだ。弱っていればなおさら。


「幻昼界は紗那さんのもとでないと回っていきません。いくつもの国がある夜界と違って、一人の女王が多くを治めている昼界のトップは、関東だけでしかもただの代行でも、それも悠二さんでも音を上げそうになるようなものなんです」

「……そうだったんですか?」

「それはもう、大変そうでしたよ。この四ヶ月、ずっとてんやわんやでしたもの。……そんな国をひとつにできる、紗那さんの愛される才能は、間違いなく唯一無二です」


 モチベーターなんて言ってしまえば冷たいものだし、徳治主義なんて言葉で片付けてしまうのももったいない。《幸運の招き猫》という得難い性質を持つ紗那さんは、とんでもない資質の持ち主なのだ。────本当に全ての双界人に好かれて、誰一人に嫌われもしないだなんて、私たちの世界ではとても無理な話である。


「この戦いが終わってから、それをじっくり堪能してください。私たちがそうなるように取り戻してみせますから」

「……ありがとう、ございます」


 なんてことはない。……放っておけなかったのだ。私自身、かつては同じようなことでどれだけ悩んだことか。

 でも案外、大丈夫なものだよ。自分自身ってけっこう捨てたものじゃない。








 そのままの流れでひととおり後半のボスを見ていったけど、こちらは前半のような緊急事態が挟まれることはなかった。各戦闘それぞれ想定内の戦況で、問題なく進んでいくうちに次が最後だ。

 そんなタイミングで、また朗報が届いた。


『キョウカから本部へ! ハツネ撃破したわ!!』

「よしっ! 本人を本部まで搬送したら、休息が足りている人から他に合流してください!」


 前半の置き土産、ハツネの撃破成功だ。これでついに後半組に完全に集中できるようになって、いよいよ心理的にも余裕が出てきた。あれこれとありはしたけど、これで完全に前半組が、今日の全タスクの半分が完了した。あとは後半組に集中してこのまま走り抜けるだけだ。

 とはいえハツネ班、特にトップ勢は延長戦を含めてかなり長い間戦い続けていた。休息が足りているなら止めないけど、あまり無理をさせるわけにはいかないだろう。他が劇的に楽になるということはないはずだ。




「そんなわけでいよいよ光明が見えてきたところで、最後。これが全体で12人目のボスですね」

「ルヴィアにとっても因縁の相手でもあるね」

「《“咆撃竜” 暮奈》。ここまでの誰よりも単純で、かつ強敵であるパワーの怪物です」


 今朝の揺葉を含めて、私は三回にわたって露喰姉妹に対して単独で遅滞戦闘をしたことがある。残る二回は同じく後半組でジュリアが相手をしている火燐と、この暮奈だ。中でも一番厳しかった相手は誰かと問われたら、私は迷わずこのフィジカルモンスター・暮奈を挙げる。

 私たちも最大限警戒してイシュカさんをぶつけているこの暮奈は、話すことはほとんどない。他のボスたちのように特徴的な行動だとか、固有の能力だとかがそもそも存在しないから。


「その性質はとてもシンプルです。とにかく身体能力、ステータスが高い」

『何もしてこないけどただただ強いやつか……』

「小細工なし、だけど全ての通常攻撃が特殊攻撃並みの脅威度を誇るんです。この手のタイプ、こちらの搦手も効きづらくて」


 その暴虐のほどはというと、そもそもトップ勢以外のタンクだと受け切れないほど。それでもトップ勢でさえあれば対峙できているあたり、モンテッチでやり合ったときよりはマシになっている。

 ここばかりは強い人を集めて力押ししかないのが現実だ。必要になったらレスキューも入れるつもりだけど、どこまでもってくれるか。暮奈戦線が瓦解しないことが攻略に直結するのは間違いなさそうだ。

 見た目はかわいいけど戦い方はかわいくないやつしかいない。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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