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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1-final 総力戦すぎてもはや盆踊りだと判明した第一回ラストダンス
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396.一方その頃はいくらでもある形式

 視点はフリュー。

 ルヴィアが想定外の那夜に全力投球して、どうにか倒した頃。

 苦しい戦いを強いられていたのは燎戦だけではなかった。


「また来るよ! 気をつけて!!」

「やっぱり圏外組にこれはキツいな……!」


 紗那はエアリーの精鋭を多めに投入していることもあって、前半では特に強いもののどうにか戦線維持ができている。燎はルヴィアとフロルちゃんを中心に辛うじて持ちこたえて燎に最集中できるところで、揺葉は長期戦ながら安定はしている。ハツネも同じく攻めあぐねてはいるが、こちらも敗北の危険は薄い。

 シグレは強者ではあるけど、向こうが苦手な夜界の昼間にジュリアとイルマさんを軸に戦力を注ぎ込んでいることでどうにか。想定より早く進んでいる紗那に目処がつき次第クレハも向かうそうで、それまでは問題なく持ちそうだ。


 問題は残る一箇所。以前の竜形態との戦いでも壊滅一歩手前まで翻弄された、《“氷翼竜” サツキ》だった。


「ルフェちゃん、四人凍った!」

「わかりましたっ! ……ほんと艱難辛苦です……!」

「エティアさんとマギアちゃんが頑張ってるのが救いだけどねえ。だけどもぉ……」


 ここの担当配信者はルフェちゃん。今回の13人のキーストリーマーの中ではゴトーさんと並んでトップ経験に乏しいから、ある程度サポートメンバーを手厚く取った布陣で臨んでいる。

 名の知れたトップ勢からは私とルプストのほか、ミリアちゃんたちやジュンくん。配信面からも電脳ファンタジアの圏外組が多く詰め掛けている。このうち特にエティア・アレクサンドレイアさんとマギア・ワルプルガさんは本当によく活躍してくれている。


「そら、《フレアプロード》!」

「火遁、《陽散(ソルブレス)》」

「……どっち見てるの! やらせないよ、《トリプル・フォトンランス》!」

「こっち見ろっ!」


 加えて嘉渡決斗さん(デュエ兄)野々宇(ののう)千依(ちより)さんもギミック解除役としてとても重宝している。この五人はコラボのような形でやっているけど、いずれもよく動けていた。なんでもフロルちゃんと親しいメンバーは特にDCOに力を入れているとのことだけど、あの子が教えたのだとしたらさすがだ。

 そんなフロル仕込みの四人が傑出しているからこそ……言いづらいけど、それ以外の圏外組をどのくらいサポートしないといけないかは目立ってしまう。


「ノノちゃん、もうちょっとだけ任せていい?」

「はいっ! ……ほんとごめんなさいちよりん、紛らわしくて!」

「大丈夫です。私が過剰反応しているだけなので……」


 今戦闘中のタンクは私とノノちゃん。この子はどうやら最推しである千依さん(ちよりん)の苗字と本名を掛けたプレイヤーネームにしているようで、彼女の名前を呼ぶとたまに千依さんも反応してしまうことがあった。四人ともVtuber好きとは前にも言っていたね。

 とはいえ、そこはルヴィア仕込みのトップ勢。意識はしつつも完璧な動きで引きつけられたサツキを戦いの土俵に引きずり下ろしていた。おかげで私は少しでも長く戦うためのこまめなMP補給ができる。


 ここだけを見れば順調に見えるだろう。確かに安定している。今は。




「来ます! 範囲内に!!」

「早い!?」

「くそ、戻れねえ!」

「ちよりん張って! エティアせんぱいも!」


 サツキは前回のラストゲージ同様、通常攻撃として氷ブレスを放ってくる。これが属性防御でないと防げず、当たると《氷漬け》の状態異常になってしまう凶悪なものだ。

 前半はまあ、それだけといえばそれだけだった。それでもライバー以外の大半の圏外組にとっては大変な相手だったけど、あくまで以前見られて研究済のものだけ。


 それが変わったのは、やはり最後のゲージに入ったときだった。このゲームのラストゲージは何をしてきてもおかしくない。

 具体的には、これまでパターンがあった氷ブレスのタイミングがランダムになったのだ。これによって先読みで《ガード》を詠唱しておくことができなくなった上に、今のように救出中に再びブレスが飛んでくることまであるように。


「《ジュピターガード》、入ってください!」

「《ウラヌスガード》」

「間に合わせます、《火護(アレスガード)》!」


 そしてもうひとつ。このブレス、見てから《ガード》を間に合わせるにはスキル外技能である短縮詠唱が必須になっている。そもそも氷ブレス対策で魔術師を多めに編成したのに、これによって半数ほどの圏外組魔術師が事実上の戦力外になってしまった。

 有用だとはわかっていても、どうしても得手不得手の出る技能だから圏外組にはできない人も多い。もれなくこなしているトップ勢がおかしいのだ。


「本部、回答は!?」

『揺葉班とシグレ班はOK、ハツネ班は無理だって! あとメイを精霊界経由で向かわせてる!』

「うーん了解! ルフェちゃん、トレードするよ!」

「わかりました! ソフィーヤちゃん、イルマさん、送るよ!」

『こっちはもう送ってるのです! 余裕あるので、気にしないでほしいのです!』

『悪いけどこっちは着いてからでいいかな。気を抜いたらやられかねない』


 だから判明してすぐに本部を通じて戦力トレードの打診をしていた。あくまで短縮詠唱が苦手なだけで他のところなら圏外組としての活躍はできるから、よそにいる短縮詠唱ができる圏外組と持ち場を入れ替える。

 ただ、ハツネ班は短縮詠唱持ちを手放せない様子。仕方ない、向こうはボスがヒットアンドアウェイ式だから手の早さがダメージに直結する。残り二箇所が応じてくれただけで重畳だ。特に揺葉班は余力があるようで、先んじて送ってくれているらしい。


 担当の配信者と部将はどうしてもこういう部分を考えないといけないから、戦力として集中しきれない。私の召喚術は比較的操作の手数が少ないジョブだけど、それでもノノちゃんに負担を持ってもらっている状況だった。


「っと、フリューさん!」

「うん。《サモン・プロテクター》」

「よし今、《トリプル・スパークルロア+》!」


 召喚術はあくまで術師とは独立した召喚体を出すから、非生物に効かない状態異常は無効だ。加えて効く状態異常でも止めはするし術師まで通ったりはしないから、こういう搦手系のボスとは相性がいい。私がサツキに回っているのは、午前中はアマネちゃんが来られないことの他にはこれが理由だった。

 とはいえ、状態異常になっている召喚体は召喚解除で戻ってくるMPが少なくなってしまう。それにクールタイムも短いながらあるから、あくまで保険だ。氷漬けになるよりはマシなだけだし、さっきのように攻撃を召喚体で受けた直後にブレスが来ると当てにならない。






「また来る! ほんと窮屈な戦いだよ!」

「頭パンクする、やっぱり動けないや……」

「ごめんなさいフリューさん、届かない……!」

「あー、どうしよ。一回凍る……?」

「無理は禁物ですよ! フリューさんが落ちたらこまりますから!」


 ブレスは広範囲攻撃で、私は最後衛だ。守るように広げられた翼のせいで射線を探る必要がある魔術師と違って必要はないから、考えることの多い立場もあって足が止まりがちになってしまう。本当はよくないんだけど。

 その結果として今回のブレスは誰の《ガード》範囲内にも入れなかった。だけど自分で盾を召喚すると、回収できなくなったMPで下がらなければいけなくなる。これが召喚術師のタンクとしての弱みで、物理盾よりMP消費が激しい。もう酔っているのだ。

 一方でHPはほぼフルを保っているから、いっそ一度受けてから溶かしてもらうほうがいいかもしれない。今回用意している溶かし専門部隊はMPに少し余裕があるから、その方がより有効活用できそうだ。


 やむなくライフで受けようかとしたところだったんだけど……。


「《アレスガード》。……その様子だと、まだまだ余力はあるみたいですかね?」

「メイさん! そうですね、ワンミスでピンチとかではないので」

「よかったよかった。ま、司令部に余裕できたんで加勢しますね」


 さっき来ると聞いていた助っ人、メイさんだ。この人はサツキとは竜形態のときに戦っている。

 苦しいとはいえ切羽詰まっているというほどではないここに来てくれたということは、前半の他の戦場は全て問題なしということだろう。後半開始の前に少しでもリソースを注ぎ込んで有利にしていこうという段階に入っているのだ。その事実が救いになる。


「私も後半開始に間に合うように一度出し切っちゃうので、ここはひとつガンガンいきましょ」

「はい。私もやれるだけサポートするので、やっちゃってください」

「ほんと、ルヴィアちゃんがいないとこだとクールビューティーですね。……じゃあまずは挨拶代わりに…………」

「……っ!?」

「え!?」

「な、何事!?」

「やば、《サモン・プロテクター》!」


 メイさんの助けも得られるなら、押せるだけ押してしまったほうがいい。トップ勢は回せているし、そろそろ圏外組はトレード勢が着く頃だ。

 何やら自信ありげなメイさんの視線の先には、サツキの背後から忍び寄る人影。そのまま手に持った刀を振りかぶって……サツキが振り返った。


 反射的に出した盾がなんとか間に合って、人影が攻撃範囲から出る。温存のためすぐに戻した盾をよそに、慌てて駆け戻ってきたのは……スズランちゃんだった。


「ごめんなさい、ありがとうございました!」

「それは大丈夫だけど、何があったの?」

「《変若水》を入れようとしたんですけど……まだ何もしてないし《隠密》もしてたのに、サツキに気付かれちゃって」

「あー、もしかして前のを覚えてる?」

「うわ、かもしれないです! なんかめちゃくちゃ狙われるー!」


 スズランちゃんの《蝕ミ、変若水》は対象からのヘイトが0でないと発動できない。だから来てすぐ出会い頭にやろうとしたみたいだけど、あろうことかその前に本来ないはずのヘイトが発生したようだ。

 考えうるとすれば、竜形態のときの戦いを覚えていること。実はここまでのサツキ戦では前回の経験者はいなかったし、一緒に来たメイさんが何やらずいぶん狙われている。この二人はかなり活躍していたから、その可能性は高そうだ。


「じゃあ別のとこ行ってきていいよ、特に揺葉。今ここが一番進捗悪いみたいだから、終わって余裕あったら戻ってきてくれたら嬉しいかも」

「わかりました。じゃあ行ってきますね」


 それなら、スズランちゃんを活かすなら他に回した方がいい。一緒に来たらしいジェヘナさんと連れ立って飛んでいく。

 これは12ものボス戦を行う世界全体の戦いだ。隣が早く終われば加勢が来るものと思って、他のところを優先することも必要だろう。……大丈夫、私はルヴィアとみんなを信じているから。

Q.《変若水》壊れてない? なんで許されたの?

A.通ったら困るボスは「察知した」で無効にできるから。所持者のスズランが本来自分で火力を出すタイプではなく、無効化の上でヘイト吸っても通常の活躍はできるのも大きい。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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