4.はじめてのぼうけん
ようやくプロローグが終わり、今回からVRMMOらしくなってきます。お待たせしました、いよいよ本編開始です。
「念願の武器を手に入れたぞ!」
〈やったぜ〉
〈ここでファンファーレ〉
〈▼ ころしてでもうばいとる〉
ダンジョン「武器屋」突破。……といっても、プレイヤー全員に配られているアイテム《初心者武器引換券》を使っただけなんだけど。
この武器屋、かなり簡易的な露店だった。綾鳴さんが手を回しただけで、普段はこの規模の武器屋など必要ない村だろうし。
サーバー的な問題なのか制限はあったとはいえ、インスタンスマップになっていたからさほど待たなかったのは救いだろうか。
中と外で人の出入りが一致していない、少し奇妙な感覚はあったけれど。とはいえ、今後このような仕組みは増えるだろう。慣れるしかない。
○銅の剣
分類:武器
スキル:《片手剣》
品質:G
ATK +1
・はじまりの村で手に入る量産品の剣。攻撃力も低く、もろい。早めに次の武器に乗り換えよう。
〈某国民的RPGにあるやつだ〉
〈赤っぽいな〉
〈純銅かよ〉
「最初ですからね、こんなものでしょう」
このゲームでは、生産アイテムには品質のパラメータがある。GからSとそれぞれのプラスとマイナスがあって、それ以上は星の数で表されるらしい。一部に特殊なものもあるそうだけど、今は関係ないだろう。
……まあ、つまるところ最低ランクだ。無料で武器が貰えるだけありがたい。
この街には他の武器はないらしい。無理もない、本来ここはただの農村だ。
次に別の店に入って、初期資金で買えるだけのポーションと保存食を購入。SP回復は最初のうちはこの保存食に頼ることになる。切れたら満足に動けなくなるそうだから、軽視せずに充分量を買っておいた。
こちらの店も急造らしさがありありと透けて見えたが、造りはこちらの方がしっかりしていた。武器と違ってポーションは需要が小出しだから、最初に捌いたら撤収ともいかない。継続的に営業するつもりなのだろう。
必要なものは手に入れたので、ここでフィールドへ出ることに。まずは地図を確認。
「北は……向こうですね」
〈今は横須賀あたり?〉
〈やっぱり王都は江戸か〉
〈王都までは町2つくらいか?〉
〈まあベータだし〉
では、いってみよう。
◆◇◆◇◆
「やってきました一番道路」
〈一番道路て〉
〈↑ト○ワシティ〉
〈↓マサ○タウン〉
〈ネズミと鳥が出てきそう〉
〈ネズミと犬だろ〉
〈イモムシとマングースとネズミじゃないの?〉
「世代パッチテスト……?」
それにしても某RPGでは脅威のネズミ率。そこのところ、《DCO》ではどうなんだろう。
前方には早くも数組のトレーナー……じゃなくて、プレイヤーが見える。近くのプレイヤーへ視線を向けると……。
「ウサギですね」
〈おおっ〉
〈なんかカメラがぐいっと〉
「私の視点もズームしていました。たぶん、《鷹目》スキルでしょう」
まだスキルレベルが低いからなのか、倍率はさほどでもないけれど。なんというか、双眼鏡を覗いたような感じ。これもVRならではの演出だろう。
現実のウサギより少し大きいだろうか。黄色と緑、二種類のウサギが3人組パーティと戦っていた。攻撃パターンは……たいあたり、かみつく。
《鷹目》を解除。ひとまずそのまま進んでいくと……ビープ音。音が聞こえた方を見ると、草むらに隠れた小さな影が視界に浮き出ていた。これは《索敵》の効果だろうか。
《索敵》は本来より遠くの敵を認識することができるようになり、同時に一定以内の距離なら遮蔽物の向こうの敵まで見えるようになる。パーティに最低一人は必要なスキルだし、ソロなら必須だろう。
「いました」
〈かわいい〉
〈かわいい〉
〈かわいい〉
〈かわいい〉
グリーンラビット Lv.1
属性:風
うーさぎうさぎ、なにみてはねるー。
緑色のうさぎと初エンカウントだ。まんまるおしりとお耳がキュート。前と左右をきょろきょろと可愛らしい仕草だけど、もしかしなくても後方の私には気づいていないねこれ。
風属性は私と同じだから、相性の有利不利はない。このゲームでは同属性は等倍だ。
足元の草で音を立てないようにそっと近づいて……。
〈ぐさぁーっ!〉
〈ぴにゃー!〉
〈いともたやすく行われるえげつない行為〉
〈それでいいのか公式プレイヤー〉
サーチ・アンド・デストロイ。気づかれる前に倒してしまえば戦闘にはならないのだ。
……後方からの奇襲でウサギを貫いて仕留めた私に、コメント欄で次々に浴びせられる罵声。アサシンごっこは不評だったらしい。きっとウサギが可愛すぎるのが悪いのだろう。
でも、今のクリティカル音らしきSEから察するに正しいやり方だと思うよ。現に一撃だったし。
「奇襲も立派な戦術です、毛利元就もそう言って……って、あれ?」
剣先から抜けて落ちたグリーンラビットの亡骸からドロップアイテムが手に入らない。それでいて消えたりもしない……どういうことだろうか。経験値は入ったんだけど……。
試しに指先で触れてみると、何やら注意書きがポップアップした。
〔獣系モンスターのドロップアイテム回収には《解体》スキルが必要です〕
「なるほど……取ってしまいましょう、減るものでもありませんからね」
というわけでスキル欄から《解体》を取得して、改めてタッチ。今度はドロップアイテムを出して、ウサギ自体はポリゴンの破片と消えた。
ええと……ドロップは《ラビットの肉》、《グリーンラビットの前歯》。リアリティ優先なのか、お金のドロップはない。アイテムを売って稼げということだろう。
RPGのスキルには取得制限があるタイトルも多い。そのような場合はスキルの組み合わせで個性を作っていくのだが、DCOでは違うようだ。
このような誰もが取得するスキルを用意してあるということは、さらに自由度が高い仕様になっているに違いない。スキルレベルで各行動の経験値を個別にストックして、より多く繰り返した行動の効果が高くなる方式なのだろう。
ただし、解放条件が限定的なエクストラスキルも存在するという情報も出ている。持っているだけで個性となるようなスキルは、そちらが担当するのかもしれない。
「おっと、次がきましたか」
ソナーに敵影あり。しかも今度は気づかれている。つぶらな瞳もプリティ。
まあ、これから倒すんだけど。
イエローラビット Lv.1
属性:雷
「わっ、と」
イエローラビットの たいあたり!
しかし こうげきは はずれた!
《回避》。ぬいぐるみのような黄色いウサギの頭突きをしっかり避けて、振り向きざまに一太刀。……浅い。背後への攻撃なのに五分の一くらいしか減らなかった。もう体勢を立て直しかけていたから、避け方と剣の当て方が悪いのだろう。
「それならっ」
イエローラビットの かみつく!
しかし うまく きまらなかった!
〈おおっ〉
〈うめえ〉
〈当てた!〉
今度は口を開いて飛びかかってきた。落ち着いて剣を構えて、タイミングを合わせて振り抜く。《パリィ》による武器での防御と、刀身が敵のダメージ判定箇所へ入ったことによるカウンター判定。
土手っ腹に剣を打ち込まれたウサギが私の横に落ちたから、今度はすぐに追って立ち上がる前に一突き。叩き落とした時のダメージもあったのか、黄ウサギはHPがなくなって動かなくなった。
〈やっぱり初めての動きじゃないよな〉
〈立ち回りができてるもんな〉
〈周りも動けてる人ばっかりだし〉
「実はベータ当選者宛に、運営から練習用ローカルソフトが送られているんです。基本的な動きはそれで確認してあります」
でないと混乱が起こると危惧されたのか、そのあたりはさすがに手厚かった。操作感も同一だから違和感もないし、魔法の発動練習までできる充実ぶりだ。
それをやっておいたことで、操作は一通り習得できている。周囲を見ても剣に振り回されるような初心者らしい初心者は思っていたよりは少ない様子だし、この試みは成功だったんじゃないかな。
二度目の戦闘が終わったのでもう一度解体すると、今度は《ラビットの肉》と《イエローラビットの前歯》。この組み合わせがデフォルトなのだろうか。
「しばらく狩りを続けながら、とりあえず奥へ進んでみましょうか。見ていて飽きないようできるだけ頑張りますので、お暇な方はお付き合いください」
◆◇◆◇◆
一時間ほど狩り続けて、いくつか分かってきたことがあった。
まず、ふつうこのフィールドに現れるエネミーはウサギだけ。どうやら他の敵は出てこないか、そうでなければ一時間程度ではそうそう出会えないレアモンスターだけだ。
次に、ウサギは四色がポップする。緑が風、薄めの紫が氷、青が水、黄色が雷とそれぞれの属性に分かれていて、攻撃パターンは同じ。ドロップ品も肉は全く同じで、前歯の属性だけが違っていた。
試しにウサギから攻撃を受けてみたところ、ブルーラビットから受けるダメージは他の4分の3強。つまり通常攻撃にも属性が乗っていて、弱点倍率はおおよそ1.3倍くらい。
また、攻撃を受けた時にわかったことだけど、少なくとも初期設定ではこの世界に痛みはほとんどないらしい。衝撃はリアルだったけど、あるのはせいぜい軽い痺れだけ。まあ、好きこのんで痛い思いをしたいなんて人は少数派だろうからね。
それとこれは今わかったことではないんだけど、私はパリィが得意らしい。実際にやってみると、剣を攻撃へ当てることは難しくないのだ。
どちらかというと、課題は回避後の体勢の維持または立て直し。これが上手くできないと、パリィできない攻撃の後の隙を突くことができない。
「人も増えてきましたね。いよいよ本格的にMMOっぽくなってきました」
〈ポーションうまそう〉
〈美味しそうな色してるな〉
〈さっきの干し肉も気になる〉
〈どんな味なんだろう〉
「これですか。何の変哲もないりんごジュースです。けっこう美味しいですよ」
〈りんごジュースかー〉
〈腹下すなよ〉
「喉元を過ぎると感触がなくなるんですよね。心配はいらないみたいです」
そう、ポーションが意外と美味しい。薬だし、味には目を瞑る覚悟はしていたんだけど。
なんでも味覚エンジンは大手食品会社の協力を得ているそうだ。SP回復用の干し肉もそこそこだったし、いずれ出てくるであろう料理にも期待できるかも。
……ところで、エルフってお肉食べていいのかな。SP回復アイテムは干し肉しかなかったし、大丈夫だと思いたいところだけど。
今から30分くらい前からはプレイヤーも増えてきて、少し心配だったポップ速度が問題ないこともわかった。奥の方で大量発生になっていないあたりも鑑みるに、プレイヤー密度に合わせて調節されているのだろう。
今は全部で1500人だけど、正式サービス開始時は一万人規模だからね。このあたりのテストは順調なようだ。
「……あ、レベル上がりましたね」
〈おめー〉
〈これで4か〉
〈恒例、控えめなファンファーレ〉
ポーションを飲みながら押さえ込んでいたウサギが倒れると、ちょうどレベルが4に。嬉しいものだね、自分のレベルが上がるって。
このゲーム、妙にファンファーレが小さいのも仕様らしい。もう少し祝ってくれてもいいのに。
「……あら?」
〈なんか新しいの出たな〉
〈レアドロか?〉
慣れてきた解体スキルを使うと、ドロップリストに何やら見慣れない文字が。《ラビットの肉》、《ブルーラビットの前歯》、《ブルーラビットの毛皮》……毛皮?
うーん、とりあえずステータスを見てみようか。
ルヴィア Lv.4
性別:女
種族:エルフ
属性:風
特殊:火属性取得不可(永続) 被火属性2倍(永続)
状態:HP回復・小(12)
VIT:25(+5)
STR:44(+9)
AGI:43(+4)
DEX:41(+6)
INT:36(+3)
MND:36(+3)
種族スキル:《植物魔術》Lv.1 《薬草看破》Lv.1 《鷹目》Lv.3
汎用スキル:《片手剣術》Lv.7 《パリィ》Lv.3 《回避》Lv.4 《風魔術》Lv.1 《治癒術》Lv.1 《索敵》Lv.6 《解体》Lv.5
カッコの中はこれまでに振り分けた分。改めて見返していなかったから、今は一括での表示にしておいた。
エルフはレベルアップだけではVITが全く伸びない。なのでこの通り、普通にしているとどんどん打たれ弱くなる。VITは半ば捨てるつもりではあるが、それでも多少は振り分けていく必要があるかもしれない。
「状態」の欄は初めて見た。HP回復とあるから、おそらくポーションによるものだろう。わかってはいたけれど、このゲームのポーションは割合制だった。……最大値がマスクデータである以上、数値で回復されても困るんだけど。
〈スキルレベル上がってるじゃん〉
〈パリィも回避も伸びが悪い件について〉
〈隙あらばアサシンしてるから……〉
「はい、そろそろ普通にスキルレベル上げますね……」
スキルレベルが取り残されたら面倒なことになりそうだし、しばらく暗殺者業は封印するべきか。レベリングとしては楽なんだけど、九津堂によくある罠かもしれない。
DCOでは、一部スキルはこのスキルレベルによって《アーツ》という固有技能が解放される。何かわかるかも、と言ったのはこれがあるからだ。
さっき通知が来ていたのをあえて無視していたけれど、これも見てみよう。
○剣技
《スラッシュ》
・体の左に剣を構え、水平に振り抜く。通常攻撃よりやや威力が上がる上に、隙が小さく使いやすい。
〈RPGにありがちなやつだ〉
〈そのうちまじ○ぎりとか出てきそう〉
いわゆる必殺技か。特定の動きに固定される代わりに、威力などが向上してエフェクトとかが出る。ただし通常攻撃に比べて隙が大きい。これはまだ通常攻撃に毛が生えた程度だけど。
《索敵》はアーツなし。スキルレベルは効果が上がるだけらしい。とはいえDCOではスキル取得無制限のシステム上、このスキルレベルによる効果上昇がかなり大事になってくる。
○解体
《解体技術(1)》
・パッシブ。解体スキルが発動した時、一部アイテムが新たに手に入るようになる。
やっぱり。
スキルレベルも5とあって、たぶんついさっき上がったのだろう。そしてこのアーツの効果で、新しくドロップアイテムが増えたとか。
そう思って、今度はアイテムの方を見てみると。
○ラビットの肉
分類:素材
品質:G-
・色とりどりなラビットの肉。美味だが、狩りが容易で数が多いため安価。どの色のラビットから取れた肉も味は同じ。
○ブルーラビットの前歯
属性:水
分類:素材
品質:G-
・ブルーラビット自慢の立派な前歯。持ち主の弱さに比例せず強靭で、属性が込められているため加工して様々なものに使われる。
○ブルーラビットの毛皮
属性:水
分類:素材
品質:G-
・鮮やかな青色をした毛皮。一匹から採れる量は少ないが、繋ぎ合わせれば様々なものに使える。火属性の攻撃に強い性質を持つ。
制限:解体技術(1)
ビンゴ。このアーツを習得したことで、ラビット一匹あたりのドロップアイテムが一つ増えたわけだ。
誰もが真っ先に取得する(させられる、かもしれない)スキルだろうから、差になることはないと思うけど。
その後もしばらく狩りを続けて、レベルが5になった頃にマップの半分ほどまで到達。同時に経験値ゲージの伸びが鈍くなってきた。もしかしたら経験値量的なマップごとの実質レベルキャップとかもあるのかもしれない。
「さて、あの丘を越えたらいよいよこの一番道路も折り返しですが……」
〈が?〉
〈どうかしたの?〉
「何かありそうなので一旦帰ります」
〈あらら〉
〈あからさまに転調フラグだからなあ〉
〈村に帰るまでが冒険です〉
たぶんここまでが第一ラウンドで、この丘より向こうは次の段階になるだろう。だとしたらこの辺りで一度はじまりの村に帰って、手持ちを精算してしまいたい。
狩りを続けながらゆっくり来た道を、ウサギたちを無視して走って戻る。
いくら走っても少ししか苦しくならないのはすごくありがたい。私、リアルでは本当に体力がないから……。
ルヴィアはこの練習用ローカルソフトをひたすらやり込むことで、身のこなしや立ち回りが感覚に染みついています。この徹底的な鍛錬が今後の彼女自身を大きく助けていくことになります。
しかし朱音は持病が完治してもなお、今後も現実の身体能力が向上することはありません。これが諸行無常です。かなしいですね。
次回は明日。来週からもしばらくは定期更新が続くので、ぜひぜひブックマーク押して行っちゃってください。お暇な方はそのまま下にスクロールして感想評価もなにとぞ。