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34.これでも突出していないこのゲームのトップ層が魔境すぎる

お待ちかねの戦闘パートだ!

 というわけで、やってきました洞窟の入口。

 謎屋敷、森ときて、今回は洞窟だ。あくまで私はだけど、攻略ダンジョンの傾向が被っていない。

 配信的にはうれしいけれど、立ち回りが変わってくるということでもある。気をつけていくべきだろう。


「今回は一番乗りかな」

「なんかいいですわね、最初って」

「さ、突入しますよ」


 ダンジョンの内装は……まあ、まさに洞窟といった感じ。少し薄暗い上に湿っぽく、ファンタジーのお約束で謎の光る苔がそこらじゅうにくっついている。

 細い通路が続いているような感じだったので、とりあえず直進。マップを埋めに動きながら、分かれ道は適当に選んでいく。


「ダンジョンっぽい感じねえ」

「入るたびに構造が変わりそうだよね」

「モンスターハウスとかありそうですね」

「クレハ、変なフラグ立てないで」


〈みんな不思議のダンジョン履修者か〉

〈リアフレ組の雑談いいぞ〉

〈たまにはこういうのも面白いな〉

〈フリューちゃん幸せそうで何より〉


 小さい頃から一緒だった人たちと一緒に非現実そのものの場所を歩くというのも、VRMMOらしさを感じていとをかし。

 当選率の低いベータテストにおいて、早くもこんな気分に浸れるのはまさに血縁とコネと契約のおかげである。コネバンザイ。公式プレイヤーバンザイ。ビバ、アルファテスター。






 そんな思考停止の妄言はさておき。


「トラップ対策を考えると、光源がほしいところですね」

「カンテラとか?」

「カンテラはさすがにないんじゃない? じゃないかしら?」

「すぐに来たから、用意がないんだよねー。即席で定番というと松明だけど……」

「あ、木材ならあるよ」


 もう少しゆっくり準備してきていれば、もしかしたら雑貨屋に提灯あたりがあったかもしれないけど……ないものは仕方ない。せっかく手に入れた一番乗りを手放すつもりがない程度には、私たちもMMOプレイヤーだ。

 なので、代用品。細かいところがやたらとリアルなこのゲームなら、燃える木さえあれば松明にはなるはずだ。





○木霊の木材

種別:素材

品質:E-

・《桜木霊》の体となっていた木材。加工はやや難しいが、通常の木材よりも軽く丈夫。





 インベントリに残っていた前のクエストの道中ドロップだ。一応確認したが、他にちょうどいい可燃物はなかった。


〈マジかよ〉

〈草〉

〈前線ダンジョンのドロを松明にする女〉


「けっこういい素材なのでは……?」

「他にないし、燃えればいいでしょ。今から戻ることを考えれば、配信経費ってことで。ジュリア、お願いできる?」

「ルヴィアさんがそれでよろしいのなら……《パイロットライト》」


 ジュリアの魔術で松明に火がついた。これは《生活魔術》というスキルの魔術だ。攻撃などには使えないが、火や水などが手元に欲しい時に重宝する。最近になって情報が出回った便利スキルで、私も最近になって取得した。

 ……のだけど、一応これも属性の扱いになる。つまりエルフである私には火属性は使えないわけで、この《パイロットライト》だけ習得できない状態になっていた。さすがエルフ、歪みない。






「あっつ……え、微妙にHP削れてるんだけど」

「わわ、ルヴィア、とりあえず貸して!?」

「はい。……フリューは削れてないね」

「エルフってそこまで火に弱いの……?」


〈うっそだろお前wwwww〉

〈松明持つだけでダメージ入るとか〉

〈エルフってもしかして芸人なのでは?〉


 いや本当に、ギャグじゃないんだから。感じる熱も明らかにリアルで同じことをするよりも強かったし、この世界のエルフはかなり燃えやすいらしい。

 村どころかエルフ自体が燃えるとか、いっそ風潮が退化してない?


 風潮が退化するってなんだよ、という自問自答も置いといて。

 結局そのままフリューが松明を持つことにして、ようやく本格的な探索に入れた。


 このパーティではフリューがタンクを担当するのだけど、彼女のタンクは召喚術のため探索中ずっと出ているわけではない。

 普通のパーティではタンクが務める隊列の先頭は、前衛の中では防御力 (ただしパリィ)のある私が引き受けることになった。サブタンクも一応できるし、索敵も私が一番育っていたから当然の帰結だ。


 綺麗に一列というわけではないけれど、前から私、クレハ、ジュリア、フリュー、ミカン、ルプストの順になる。火力姉妹では魔術も使えるジュリアが後ろ、後衛では種族的に打たれ弱いミカンが前だ。

 フリューが最後尾に行くのも手だったけど、戦闘になった時にフリューが松明を持つのが一番よかったのだ。せっかくの光源も遠すぎれば意味がない。








「……敵だね。前方の分かれ道、右側から飛行系が三体」

「洞窟で飛行系ね」

「コウモリでしょうね。……フリュー」

「うん。《サモン・ガード》」


 私がやや前に出て、その横にクレハとジュリア。その前にフリューが《召喚術》で鎧の騎士を召喚した。その間に私は魔術を詠唱開始。

 初日に見たのは盾だけだったけど、今や騎士ごと召喚できるらしい。フルプレートメイルに兜で完全防備をした大盾の白騎士……の召喚体だ。前線で通用するレベルではあるが、さすがにまだ守ることしかできないとか。

 飛んできた向こうが攻撃態勢に入る前に、こちらから先制攻撃。


「《ウィンドアロー》!」

「!?」

「完璧ねえ」


 三発の《連唱》で用意した《風魔術》。昨日発見されたばかりの技法だけど、かなり使い勝手がいいからすぐにマスターしておいたのだ。

 空中を切り払った剣先から飛び出した矢が、三匹の敵にそれぞれ命中。悲鳴のような鳴き声とともにやや高度が下がったが……ここは最前線。この程度でなんとかなる相手ではない。





ダークバット Lv.19

属性:風

状態:汚染





「やっぱりコウモリだったね」

「このレベルで三体ですか……」

「……余裕だね!」

「サクッと倒しちゃいましょ」

「それじゃ、《サモンナイト》!」


〈ダークなのに風属性〉

〈普通に強いんだが???〉

〈やっぱ上位組向けだな〉

〈この敵を見てあのノリである〉


 まあ、このくらいなら苦戦のしようもない戦力なのも事実なのだ。

 私はレベル15程度の人形とはいえ11体を一人で倒しているし、クレハとジュリアも私と同等以上の実力。レベルに至っては、私より早く現カンストとなる25まで到達している。

 後衛はというと、派手ではなくとも堅実に実績を重ねている異色の天使と魔族。そして現在最前線で引っ張りだこの野良ヒーラー。

 下手をすれば目下最強にすら名乗りを挙げられるフルパーティをもってして、格下のコウモリ三匹程度では遊びにもならないのだ。

 現にほら、フリューの《召喚術》で出てきた騎士の大盾を抜けていない。一対一でもあの様子だ。


「クレハ、いくよっ」

「参ります。……はっ!」


〈うぉ!?〉

〈うわかっけえ〉

〈浪漫って感じ〉


 盾に弾かれて進路を変えたコウモリを迎え入れるように、真正面から閃く銀色。一度鞘に収められていた刀が、目にも留まらぬ速度で抜き放たれる。

 フリューの誘導でお膳立てされた、クレハの《居合術》だ。ゲージ管理によってDEX依存のカウンターや撃ち返しが発生する、《刀術》最大の特徴でもある派生スキル。

 使用タイミングの見極めやステータス振りが難しく、《居合術》前提の性能である《刀術》自体が今のところマイナー武器に甘んじている。しかしクレハの場合、既にちょっと恐ろしいほどの精度で使いこなしているのだ。


「私も、《ファイアバレット》!」


〈お?〉

〈魔術使うのか〉

〈お嬢と近い?〉


「今っ!」


〈ファッ!?〉

〈跳んだあああああ!?〉

〈当たるのかよ〉

〈牽制うっっっま〉


 向かってくるコウモリの一匹を、ジュリアが《火魔術》で怯ませる。動きが止まった隙に《跳躍》スキルを絡めて大きく跳び上がると、動き出す直前のコウモリに《ジャンプアタック(槍突き下ろし)》。ただでさえ威力の高い両手槍の威力が底上げされて、まともに喰らったコウモリは一撃で落ちた。


 ジュリアはというと、こちらは重い一撃と即離脱(ヒットアンドアウェイ)でダメージを稼ぐタイプだ。敵から離れずに《パリィ》で隙を作る私や、攻撃をカウンターでそのままダメージ源にするクレハとは少し違う戦い方。

 そして彼女の場合、隙の埋め方がとにかく上手い。大技を決めるために必要な隙を敵に作らせる技術、というのだろうか。《火魔術》を主とした牽制が絶妙で、今は見せなかったが着地後に起こる硬直のカバーも見事。プレイヤースキルが活きているとは、まさにこのことだろう。




「はい、《アッシュアロー》。……終わりねえ?」

「まあ、こんなものでしょう」

「わかってたけど、私やることないね」

「やっぱり歯応えないなぁ……」

「仕方がありませんわ、フリューさん。私たちがレベルを上げすぎたのです」


 完膚なきまでにその通りだった。

 ……まあ、普通、今このレベルの敵と戦った直後に出る会話ではない。しかし彼女たちは何一つおかしなことを言っていないのだ。


 プレイヤースキルもさることながら、このパーティの平均レベルは24。レベルキャップが25のゲームにおいて、何もない道中の雑魚程度で苦戦するわけがない。

 フリューが一人で受けきれるから私が攻撃に回り、そのせいで余計に火力効率が上がって瞬殺。誰も下手を踏まないから、特にミカンには適当に一つ二つバフをかけるくらいしかやることがない。

 ……だんだんこの道中の配信が面白いのか不安になってきたけど、このまま行くしかないか。リスナーの皆さんが無双シーンで楽しめるタイプであることを祈ろう。

メインストーリークエストの道中くらいで苦戦されても困るんですけど、まあこうなりますよね。レベルとプレイヤースキル、どっちも暴力の域です。

そんな彼女たちですが、サブタイの通りこれでもこのゲームにおいては最強と胸を張って宣言はできません。ブランやカナタ、今後出てくる猛者たちとはほぼ拮抗しています。この前線、奇跡的なレベルで怪物だらけなので……。


一昨日から調子が上がってきて書き溜めが若干増えました。隔日投稿しながら一日一話書けばストックは理論上なくならない(なお好調時に限る)

次回は日曜日、目の前の敵が遊び相手にもならないことを悟った少女たちの雑談回です。ルヴィアは総愛でられ固定。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今日更新日じゃないんですか、早く更新しってください
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