33.もしかしてこれ女王様の成長を見守るゲームだったのでは
「しかも《水路》のボスに至っては……」
「──うん?」
「あれ。クレハ、通話?」
「ええ。……サクさんですね」
どうやら先日の私と同じように、ゲーム外へ通話をかけられたらしい。頷いて返すと会話を中断して応答を始めた。
相手はサクさん、転移門を守っていた白い龍人だ。私はあのイベント中に話したきりだけど、聞くにクレハとジュリアは彼女と親睦を深めたらしい。
私が受けた呼び出しはプレイヤーの代表としてのものだから、個人の用事ではない。そういう意味では、クレハのほうが特定NPCとの友好度は高いのかも。
……いや、ニムさんあたりは用さえあれば躊躇なく掛けてきそうだ。現状特に用がなさそうなだけで。
とはいえ、私とニムさんはストーリー上誰かが確実に発生させるイベントからの関係だ。それを考えると、(おそらくは)完全に自力でここまで至っている二人は凄い。
「──はい。では、探しておきますね」
「何だったの?」
「捜し物系のクエストですね。発生自体はログイン時になるでしょうけど」
「このタイミングで、ですか……」
クエスト単体では何らおかしなところはないのだが、タイミングがやや不可解だ。
お互いを認識している関係である以上、今回のクエストも把握はしているはず。にもかかわらずこの直前にわざわざ掛けてきたということは、無関係は考えにくい。
ただ、ダンジョンに潜って連絡がつきづらくなる前に話をしたこと自体は納得がいくのだ。
「サクさんって、確か紗那さまにすごく似てたひとだよね?」
「だとすると、偶然じゃなさそうねえ」
「これから発生するクエストのうち一箇所が、その素材の入手場所かもしれませんわね」
その可能性は大いにあるだろう。クエスト内容を聞きつけて慌てて話をした、という流れなら通りもいい。
「そのお使いの内容は?」
「マップは後で確認しますが、洞窟の湧き水ですね。癒しの力があるそうです」
「では、クエストが出たら見てみますか。それらしいところがあれば、今回はそこに行きましょう」
話がまとまったところで、今度はフリューが口を開いた。
「……ねえルヴィア、今回は素のまま配信してみない?」
これまた急な提案だ。すぐには意図が掴めず、思わず聞き返してしまう。
「え、なんで?」
「だって、このメンバーと話す時は素になるでしょ? 画面に向かって話す時だけ変えるの、大変だろうと思って」
「確かにねえ? クール需要も根強いみたいだし、今回くらいはそれでいいんじゃない? いいんじゃないの?」
言われてみればそうだし、現に今のコメント欄は(なぜか)期待の声で埋まっている。まあ、別に断る理由もない。今回は楽な方に流れておこう。
「それなら、そうしよっか。今回はコメントにも丁寧語使わないからね」
〈きたあああああ〉
〈待ってた!!!〉
〈やったぜ〉
…………ここまで喜ばれると、逆に反応に困るな。
私としては不思議でしかないんだけど、素の愛想がよくない状態の私にも妙な人気が出始めているのだ。紫音のオフ配信は毎回やたらと人が集まるし。
なんでも、ギャップ萌えにカテゴライズされているらしい。普段クールな子が健気に配信しているのがかわいい(クラスメイト談)、だそうだ。
別にクールでも健気でもなく、不慣れな箱入り娘が得意な演技でごまかしているだけなんだけど……まあ、いいか。
「じゃあ、そろそろ行こう。……さすがに紗那様には敬語を使うからね」
◆◇◆◇◆
さて、時刻は午後二時の十分前。場所は王都城門前だ。相手は王族でありキーNPC、少し多めに猶予は取ってあった。
……のだが、私たちが到着したことを確認した衛兵がすぐに城内へ連絡。あちらも準備していたようで、二分とかからずに紗那様が現れた。もう少し早く来るべきだったかもしれない。
「わざわざ呼び立ててしまいましたね」
「いえ、いくらでもどうぞ。少し暇でしたから」
「そうですか、それはよかった」
本来、王族は立場をもって他の者と接する時、あまり安易に感謝や謝罪を口にしない方がいい。そのあたりを踏まえた言葉選びができているあたりからも、今回はこれまでよりも余裕があることは間違いなさそうだ。
公私のメリハリがはっきりした女王陛下とのことだったが、ようやく本来の公の姿が見られたというべきだろう。
「今回もクエストでしょうか」
「ええ。《夜草神社》の解放……といきたいのは山々なのですが、お察しの通りです」
「では、翠華さんは?」
「思いのほか衰弱が激しいようで。もうしばらくはかかりそうなのです」
これは予想通りだった。もちろん出撃の知らせも私かブランさんに伝えたいのは同じだろうけど、それほどの案件となれば情報の速さも大事。まず速報を出して、それから配信者に詳細説明をする可能性が高い。
どうやらその予想は少なからず当たったようで、紗那様は出撃準備ではないと確信していた私の様子に首を傾げなかった。
「それで、その間にもうひとつ《来訪者》の皆さんにお仕事を頼みたいと思いまして」
「わかりました。今回はどのような?」
「神社奪還や巫女の快復の役に立ちそうな物が採れるダンジョンがあるんです。それらの攻略をお願いします」
〔〔グランドクエストが発生しました:良鉄眠りし魔鉱山〕〕
〔〔グランドクエストが発生しました:天然の兵糧庫〕〕
〔〔グランドクエストが発生しました:洞窟に光る癒しの聖石〕〕
毎度のごとくかわいい女王陛下が帰っていったから、それぞれのクエストを見てみよう。
○良鉄眠りし魔鉱山
区分:グランドクエスト
種別:クロニクルミッション
期間:クロニクルミッション完遂まで
・質のいい鉄が採れる鉱山がダンジョン化した。ダンジョンは危険ではあるが、同時に好機でもある。再生力の高いダンジョンから純鉄を採掘して、良質な装備を来訪者に行き渡らせよう
推奨:《採掘》スキル
報酬:王都の鉄鉱石・鉄製装備の値段低下、品質向上
まずはこれ。今の王都は鉄装備こそ扱っているものの、さほど質が高くない上になかなかの値がする。その両方が改善されることにより、幅広いプレイヤーの戦力アップが見込めそうだ。
そのために必要となるのが、《採掘》スキルの保有者。鉱石を採ることに長ける彼らにとっては、攻略参加への千載一遇のチャンスとなるだろう。
ただし、《採掘》は専門にしている生産職である《鉱夫》が存在する。戦闘職が彼らを護衛して、その間に鉱石を採ってもらうのが良さそうだ。
また、しれっと期間が設定されている。クリアまで攻略するタイプの他に、このような採取型ダンジョンもあるようだ。今後は時々出てくるのかもしれない。
○天然の兵糧庫
区分:グランドクエスト
種別:クロニクルミッション
期間:クロニクルミッション完遂まで
・満腹度およびエネルギーの効率がよく、味もいい様々な食材が大量に存在するダンジョンが見つかった。魔物を倒しながら収穫し、前線で戦う仲間を助けよう
推奨:《採集》スキル
報酬:高品質食材・料理の供給
こちらはさらに継続が重要そうなクエストだ。王都到達直後のようなライト層のプレイヤーでも、こういった形で攻略に一役買えるのがこのゲームの特色だ。
《採集》スキルは《採掘》よりも敷居が低い分、所持者も多いはず。その分特化したプレイヤーは少ないけど、戦闘職が取得することも珍しくない。こちらはもう少しバランスのいい編成が作りやすそうだ。
○洞窟に光る癒しの聖石
区分:グランドクエスト
種別:クロニクルミッション
期間:翠華快復まで
・体の傷の治癒は順調だが、巫女《翠華》は快復する気配を見せない。どうやら想定以上にダメージが大きいようだ。特殊な癒しの力が込められた聖石のかけらを確保して、彼女の治療に役立てよう
報酬:翠華の回復速度上昇
「これだね」
「これねえ」
「これでしょうね」
〈これだな〉
〈まあこれだよな〉
〈間違いねえな〉
ほとんど即答、かつ全会一致だった。あまりにも条件が合いすぎているし、確実にクレハとジュリアのクエスト内容はここの湧き水だろう。
それに、以前のようなクリア型クエストはこれだけ。私たちを含む最前線パーティは、いうまでもなくここ一択だろう。
ただ、そうとしても期間が設定されているのは気になる。ただレイドボスをクリアして、一度アイテムを持っていくだけのクエストではないのかもしれない。
ともかく、このクエストには前線プレイヤーが確実に集中する。それ前提の高い難易度設定にされていた場合、もしかしたらあえて他に回った前線組に召集をかけることになるかもしれない。
「というわけだから、戦闘自慢は多めに集まった方がいいかも」
〈よしわかった〉
〈俺らも行くか〉
〈頼むぞトップ組〉
「それじゃ、早速行こっか。洞窟の入口は、南東の外れだね」
すくすく紗那さま。
やや短めでしたが、コラボ(?)回2話目でした。その割には二人の影が薄い? 気にするな。
次回は金曜日、戦闘パートに入ります。先にお断りしておくと、こいつら強すぎて苦戦なんてまずしません。
一部ワードで気づかれたコアな方もいらっしゃるかもしれませんが、彼女たちは某国民的RPGのMMO経験者です。最初の最初で示唆されていたやつですね。もちろんフィクションで、そのちょっとした元ネタとは全くの無関係です。
なお実際にプレイしているのは《異世界剣客》のにとら氏で、私はやっていません。PCスペックと時間がな……。