32.(プレイヤースキルが)ばけものフレンズ
今回からサイドストーリーである狐花にとら氏《Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜》との実質コラボ回となります。興味を持たれた方は目次あるいは本文下のリンクからどうぞ。
《異世界剣客》から来た方、こちらではあちらよりもいくらか状況が進んでいます。あちら独自の展開にはあまり触れていませんが、ご注意ください。
「みなさんこんにちは、ルヴィアです。まずはお知らせから」
〈こんー〉
〈お?〉
〈いつもとなんか違うぞ〉
バージョン0は早くも16日目、三度目の日曜日。現在時刻は午後一時。
昨日の夜、私のログアウト後に《天竜城の御触書・弐》がクリアされたらしい。私たちが救出した翠華さんを探し出すためのクエストだったんだけど、残り二つのダンジョンからはその配下と翠華さんのものらしき私物が回収されたとのこと。
なぜかゴスロリのドレスとかあったみたいだけど、人の趣味は不可侵領域だ。きっとそんなこともあるのだろう。
それはさておき、これによってイベントが発生。私は午後二時に城門まで来るようお達しを受けた。
「というわけなので、おそらくイベント進行があります。プレイヤーの皆さん、ログインするならぜひ準備を」
〈クリア直後は何もなかったのにな〉
〈意地でもお嬢に来るのほんと草〉
〈朝も潜ってたの?〉
「いえ、午前中は潜っていなかったんですけどね。ARを使ってたら、なんか電話がきました」
〈は?〉
〈草〉
〈アレNPCからARにも来るのかよ〉
〈そういやチェック欄あったな……〉
実はDCO、ゲーム内のチャット通話をAR起動時限定でリアルへ繋げることもできる。連絡先登録済かつAR呼び出し可のチェック欄をオンにしておくことが条件だけど、設定しておけば自動的にアバターに変換されるのがありがたい。
AR通話がかかってきて、出たら紗那様だった時は本当にびっくりした。なぜかNPCの欄にもチェックがあったから、面白がってオンにしておいたのだ。
本当にNPC側から能動的にゲーム外まで連絡を取ってくるとは、さすが異世界型VRMMOを名乗るだけはある。どうやらこのゲーム、時々こちらの常識を叩き壊しにくるらしい。
まあ、プッシュ通知の延長線上と考えれば有り得なくはないんだけどね。そういうコンセプトのアプリは昔から存在していたし。
「人を選ばなければすぐに進行できたはずなので、まだ緊急ではないかと。翠華さんは衰弱していましたし、彼女の快復までは《御触書・壱》のようなお使いを任されそうです」
〈なるほど〉
〈せやな〉
〈余裕があるなら待ってまで選ばれるお嬢の好感度よ〉
「好感度というよりは、配信あってこそですよ。昨日はブランさんも早く切り上げていましたから、配信者が残っていなかったんです」
そのあたりは以前本人が言っていた。早く簡潔な情報よりも、詳しい情報を多くに届けたいという女王陛下の意思だ。
……キーNPCがゲームシステムを信用しないのはどうだろうとも思うけど、これもリアリティなのだろう。少しでも広く正確な伝達を、と考えるのは、既存のNPCの常識を考えなければ自然なことだ。
〈ところでお嬢、そこ見覚えがあるんだけど〉
〈どこ?〉
〈まだ一時間あるし、ログインしてないんでしょ〉
〈クラブハウスってアバター持ち込めるんだ〉
「はい。今日はゲーム外の《クラブハウス》からスタートしているんです」
ここは《VRクラブハウス》、私と幼馴染たちが集まる仮想空間上の拠点だ。私の配信では初めてだけど、初日に紫音が宿題をしながら同時視聴配信をしていたのがここである。
その後も時々ここでゲリラ配信を起こしているから、そちらも見ている人には見覚えのある景色だろう。
もちろん、ここから始まるのには理由がある。
「次に開放されるであろうグランドクエストは、私のリアル幼馴染たちと一緒に攻略しようということになったので」
「まだ顔見せしてない子もいるし、ちょっと早く始めて雑談しよう、ということになったんです」
〈!!〉
〈絵面がちんまい〉
〈ついにきたか!〉
ミカン、フレームイン。幼馴染組の中では彼女が一番配信へ適応していた。フリューあたりはカメラに向かって話そうとした時に緊張でフリーズしていたけど、ミカンはほとんどあがらない。
ともかく、そんなわけで今回は全員集合。このクラブハウスを使っているうち、紫音を除くプレイヤー6人で集まった次第だ。
「では、カメラ切り替えますね」
〈お〉
〈暴走天使お久〉
〈久々のルプスト構文だ!!〉
〈知ってる顔しかおらん〉
〈見覚えあるんだが???〉
〈あの二人お嬢のリアフレだったの!?〉
〈錚々たる面子すぎるだろ〉
うん、おおむね予想通りの反応だった。プレイヤーは特に知っている人も多いよね。最前線組だし、いい意味でけっこう暴れているし。
一方で私の配信ではこれまでノータッチだったし、ブランさんたちが配信を始めてからはそちらも避けていた。非プレイヤーが二人を見る機会は公式で公開された《御触書・壱 田園街道の化生》の攻略ハイライトと、もうひとつの動画くらいのものだったはずだ。
……そのハイライトで、これでもかと目立っていたけれど。
「というわけで、今回のメンバーです」
「改めて、ヒーラーのミカンです」
「えと、タンクのフリューリンクです」
「キャスのルプストよ。今回もよろしく」
ここまでの3人は、過去に配信に出たことがある。
ミカン。《治癒術》だけでなく《巫術》もハイレベルにこなし、サポーターでありながらソロということで前線から引っ張りだこになっている。
フリュー。《召喚術》による盾の召喚を得意とする、後衛のタンクという稀有な存在だ。多少とはいえ《巫術》も扱え、最近は鎧騎士ごと出せるようになったらしい。
ルプスト。ステータスの伸び的にやや不利な魔族で魔法火力を選び、魔術が得意そうな悪魔への進化を目標としている。種族のハンデがありながら、魔術の火力は最上位層。
「そして?」
「メレー、《刀術士》のクレハといいます。どうぞよろしく」
「クレハの妹で、《槍術士》のジュリアですわ。以後お見知り置きを」
〈濃いなぁ〉
〈キャラつええ〉
〈似非姫騎士ktkr〉
黒髪をストレートに伸ばし、中華風らしき衣装を身にまとって刀を腰に佩いたのが姉のクレハ。運用難易度の高さから習得者の少ない《居合術》を使い、物理一辺倒で高火力を出す刀使いだ。
洋風の軽装を着て赤いツインテールを下げ、なぜかお嬢様口調をした槍使いが妹のジュリアだ。こちらは《火魔術》を牽制などに使いながら、《槍術》の大きな一撃を当てていくスタイル。
私の幼馴染でもある年子の姉妹で、クレハは私と同学年。つまりジュリアは紫音と同い年だ。
このパーティでは唯一の一歳後輩であるジュリアだが、彼女はRP勢である。それも割とガチガチの。
「初日に言っていた社員の娘の残り2人がこの姉妹ですね」
「私たちと一緒に、四人でアルファテスターもやってたのよ?」
「クレハはほぼ素ですが、ジュリアはロールプレイヤーです。本人は姫騎士ロールと言っていますが……」
「姫騎士って言葉自体、割とよくわかんないからねー」
〈姫騎士……オーk〉
〈それ以上いけない〉
〈わかるようなわからないような〉
まあ、意図する方向性はわかるけど……ジュリアはカリスマで人を導くというよりは、まず自分が動いて道を切り開く一番槍タイプ。言動は一応それっぽいものの、愛読しているネット小説のせいか微妙に違和感がある。
一方のクレハは、内気そうな見た目からは想像がつかないほど多弁で社交的な本の虫だ。正直、最近の私やミカンよりよっぽどお嬢様していると思う。
「この二人は開始直後にいきなり決闘したことで有名ですね。アレを見た人にはわかると思いますが、腕は確かです」
〈例のアレな〉
〈なに?〉
〈運営GJだったわ〉
知らない人のために概要欄へ動画のリンクを追記。
この二人、実は早くも《決闘》モードを使って直接対決したことがあるのだ。それもベータ四日目に。
刀による《居合術》を駆使するクレハと、《火魔術》をサポートに《槍術》で攻めるジュリア。一進一退の接戦の末に、ぎりぎりのところでクレハが押し切っていた。
この大立ち回りの迫力がかなりのものだったということで、その時点で《四方浜》に到達していたプレイヤーへの知名度は非常に高かった。しかもその決闘を、運営が動画化して公開している。
「あの決闘は、お父さんからテストを頼まれていたんですよ。動画は決闘モードのPRでしょうね」
「私も動画は見ましたけど、私と違って戦闘民族なのでPvPでのキレも相当なんですよね。PvEも含めて、火力として単純に優秀なのでむしろ私がサブです」
〈またまたー〉
〈とりあえず動画見てこい。ガチだから〉
〈でもお嬢も大概だぞ〉
〈人形狩りの時のお嬢とどっこいなんだよなあ〉
〈直接対決見てみたいよな〉
ソロでの総合力ならともかく、タンクやサポートが充実した状態でのDPSは確実に私より高いはずだ。
今回は面子が揃っているから、私が補助火力を兼ねた便利屋になるのは間違いない。
「実際に手合わせしたら……互角くらいじゃない?」
「勝敗はわかりませんが、相当骨が折れそうですね。ルヴィアはそこらのトップタンクより硬いですし」
「いや、そんなことないと思うけど……」
…………たぶん。
コラボ回第1パート、キャラ紹介編でした。なにぶんキャラが濃いので……。
クレハとジュリアの二人はこちらでは稀なサブキャラ止まりですが、サイドでは主人公を張っています。どちらもリアルスキル持ちのプレイヤースキルお化けですね。
お気づきになられたかとは思いますが、便宜上今回から章が切り替わっています。話は直接連続していますので、このまま気にせずご覧ください。
次回は水曜日、6人で行動を開始します。クレハとジュリアにも特に仲のいい主要住民がいるようです。
余談ですが、なんとレビューを頂きました。ウレシイ……ウレシイ……。しかも意識している点を立て続けに褒められて有頂天です。いよいよ報われた気分です。こんなに嬉しいことってあるんですね。いや本当に、ありがとうございます……!




