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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.0-1 戦いの始まり、《天竜城の御触書》
29/473

29.家庭教師のルヴィア

「日常回です」


〈そういうこと言っちゃうのな〉

〈確かにイベントクエストないの久しぶりだよな〉


 翌23日、土曜日の夜。今日は特に用事がないから、配信は短めの予定だ。ここのところクエスト続きだったから、習得していた魔術などをゆっくり確認したいのだ。

 そんなわけで、王都の武器屋に来ていた。定番RPGよろしく、試し斬り用のサンドバッグが用意されている。


「ここのところ攻略中垂れ流しみたいになっていましたし、二時間配信は実質お休みですよね」


〈*シルバ:あらやだこの子ったら感覚狂ってるわ〉

〈なんなら長めなんだよなあ〉

〈まあ普通に遊ぶついでに配信してるみたいな感じだろうし、わからんでもない〉


 お休みはさすがに冗談としても、息抜き的な感覚はあるのだ。私の役目は案内人、メインストーリーを面白く魅せること。普通に遊んでいるように見せているけれど、その上で気を遣っているのだ。

 裏を返せば、今回のようにあってもなくても変わらない時は、ある程度自由に動くことができる。


〈レベリングしなさそうだけどなんで?〉


「あ、レベリングはしません。というのも、ベータでのレベルキャップが発覚したんですよ」


〈そうなんだよな〉

〈まああるわな〉

〈早くない?〉


 最速到達したプレイヤーによると、《バージョン0》でのキャップはプレイヤーレベル25だ。スキルレベルにも上限があって、こちらは40。

 私はプレイヤーレベル23で、スキルは《片手剣》が38、《パリィ》は39だ。どちらもじきに届くだろう。


〈低いな〉

〈ストーリーまだ半分ちょいじゃなかったっけ〉

〈かなりのプレイヤーが届くのでは?〉


「これについては、いくつか意図がありそうですね」


 DCOではベータテスト時のデータがそのまま本サービスで使用できる。そこも鑑みて、たった1500人の元テスターが追いつけない速度で走り続けることを防ぐ意図はあるだろう。

 元々ここまでのレベルは妙に上がりやすかった印象もある。正式サービスで解放されるレベル26以上は、必要経験値が大きく上がるはずだ。


「もっとも、これはテスター的にも歓迎です。このゲームは人数が必要なシステムっぽいですし、最前線が数百人では足りないでしょう。早めに追いついてきてもらえないと、割に合わない狩場に縛りつけられそうですからね」


〈なるほどなぁ〉

〈このゲーム協力型だしな〉

〈今カンストするのはそのテストにもなるか〉


「そうですね、テスターのレベル均一化にも一役買うはずです」


 近い理由で、バージョン0終盤の局面で露骨な戦力集中が起こりづらくなる。少しでも多くの人に参加させたいのはコンセプトからも窺えるから、これが方針のひとつなのだろう。

 それでも目立つ立場や実力を持つプレイヤーは出てくるだろうけど、そのくらいは運営もわかっているはずだ。差を縮めようとするなり逆に利用するなり、何かしら考えているに違いない。


「有名プレイヤーというものは、どうしても出てきますからね。それをかえって売り出したりとか、この運営ならやりそうです」


〈もうやってるしな〉

〈もう出てきてるのでは?〉


「私以外にも、ですよ。そもそも私は順序が逆です」


 他にも皆が知っている有名プレイヤーが現れてきたら、それを利用されることもありそうだ。イベントなどの手もあるし、VRMMOはとにかく自由度が高い。

 まあ、目立ち続けるプレイヤーはどのみち受け入れることになることだ。精々覚悟しておいてもらおう。


 毒を食らわば皿まで?

 そんな言葉は知らないなあ。








「王都で武器屋に入るのは二度目ですね」


〈せやな〉

〈まだ二回目?〉

〈お嬢は剣買い替えてないしな……〉


 実は王都に来た初日、祠を浄化した後に情報収集がてら立ち寄っていたのだ。ただ、その時にはアイリウスを持っていたから、王都で更新することになる鉄の武器は買っていない。なんだかんだで柿拾いだけで済んだから、そこまでは青銅で通したのだ。

 ただ、全身の装備は揃えていた。ブレストプレートなどの軽金属はやめて、速度重視の革防具に。靴や手袋なども王都のものにした。


「お、お客さんか」

「はい、手袋を替えたくて。魔攻重視のものに」

「剣持って魔攻とは、嬢ちゃん魔法剣士か。珍しいな」

「ええ、まあ」

「それにしても、見たことない剣だな……。もしかして、《魔装》かい?」

「わかりますか」


 おっと、話が早い。やはり武器を専門に扱う人にはわかるようだ。これがプロの嗅覚なのだろうか。

 魔法剣士は珍しいとは言っていたが、皆無ではないようだ。剣を握れるグローブの中にも、魔攻(MATK)が上がる装備はしっかりあるらしかった。


「となると、このへんだね。右に行くほど良い品だよ」

「では、一番右はいくらですか?」

「お、羽振りが良さそうで嬉しいね。22000……いや、21000でいいよ」

「計6ですか、買いましょう。……せっかくだし、防具も替えようかな」

「そっちは今一番いいやつで30000だね。合わせて50000でどうだい」

「では、お願いします」


〈おお、買い物しとる〉

〈流れるような交渉〉

〈商店街かな〉

〈ファンタジーっぽくていいな〉

〈たっけえ〉

〈3万とか主武器じゃないと出せんわ〉

〈やっぱお嬢トッププレイヤーなんだなって〉





○魔木綿のソードグローブ

分類:装備

品質:E+

DEF+1、MATK+5

・王都の近場で穫れる中では上等な魔木綿を使った魔剣士用のグローブ。剣の振りやすさと魔力の通りやすさを両立している。


○堅革のブレストガード

分類:装備

品質:E+

DEF+4、SPD+2

・フォレストベアの革を固めて作った軽い胸当て。特に上質な部分を使っており、しっかり縫製されたことで防御力と動きやすさを両立している。





 バージョン0ではカンストで溢れた経験値は資金や一部アイテムに変換されるらしい。それを考えると、今のうちの散財……もとい投資はしておいて損をしないだろう。

 それに、ちょうど最上位ランクとしてE+が解禁されていたのだ。今の最新であれば、ベータの最後まで充分に使えるはず。


「まいどあり」

「店主さん、案山子(カカシ)をお借りできますか?」

「ああ、もちろん。好きなだけ使って行ってくれ」


 案山子というのは、武器屋で使える試し斬り用のサンドバッグのこと。某RPGでいう木人である。フィールドモンスターを相手にするよりは色々試しやすいから、できればこちらを使いたかったのだ。

 というわけで、案山子のある試用室に移動。装備更新がおまけだったわけではないが、ここからが本題だ。





  ◆◇◆◇◆





 試用室は大きく三つの区画に分かれている。近接武器用の何の変哲もない案山子置き場、任意で距離設定が可能な遠距離用の射撃場、疑似攻撃を受けることができる防具用の練習場だ。

 この試用室、王都の武器屋で初めて用意されたものだ。ここにきて防具練習場でパリィの練習を繰り返す剣士プレイヤーが後を絶たないとか。


「あ、ルヴィアさん」

「カナタさん。ここにいたんですね」

「ええ。今後のことを考えたら、できるだけ早く《パリィ》をマスターしたいですから」


 そう、我らが《明星の騎士団》副団長であるカナタさんもその一人である。一人きりの先客はひたすら剣で案山子の攻撃を弾く練習をしていた。

 彼らの担当した《奇々怪々の幽霊街》はつい二時間ほど前、眠ったままの別の巫女を救助して終わったらしい。残る《王都の水路を越えて》が長引いているようで、私たちと同じく今は空き時間というわけだ。

 彼女は盾を持ってタンクをしているのだが、その割にはAGIやDEXを上げている。いずれパリィを習得する前提でビルドを振っているのだ。


「ルヴィアさんは、何か意識していることってありますか?」

「そうですね……」


〈言うことないんじゃね〉

〈感覚でやってそう〉

〈最初から失敗してないしな〉


 コメント欄が好き勝手に言っているが、実際そうだからしょうがない。パリィ自体はなぜか最初からできていたから、この質問はなかなか難しい。


「敵の視線は見てますよね」

「はい。避けたり受け止める分には難しくないんですけど……」


 この敵の目を見るという点は、あらゆるプレイヤーが基礎として覚える戦闘術だ。このゲームでは基本的に、視線が向いたところに攻撃が飛んでくる。これができていれば、回避や盾防御は難しくない。

 これは魔術でも同じで、照準は視線がトリガーとなっている。視線が必須というわけではなさそうなのだが、見ずに照準をつける技能はほとんど神業だ。今のところ成功報告はないし、今後もそう簡単には現れないだろう。


 だが、パリィは話が別。そこから離れればいい回避や盾を置いて待てばいい防御と違い、パリィはタイミングを合わせなければならないのだ。これがネックになっていて、安定して成功させるプレイヤーはかなり少ない。

 だが、攻撃が見えていないわけではない。だから、これに対して何か言うとするなら……。


「剣を見る時に、先端の動きだけに集中してみてください。少なくとも今のところ、敵の近接攻撃が半ばから曲がることはあまりありませんから」

「先端、ですか。……やってみます」


〈へえ、切っ先だけ〉

〈まあ例外が目の前にいるんだがな〉

〈ツルが飛んできたの昨日のだけだし〉

〈なおそのツルもお嬢は弾いた模様〉





「先端だけ……こうっ!」

「あ!」


〈できた!!〉

〈すげえ〉

〈連続成功してるじゃん〉

〈そんな急に……〉

〈魔法かな?〉


 …………うん?


 なんか、成功し始めた。先ほどまでのぎこちなさが嘘のように。

 アドバイスしたのは私だけど、ここまで一瞬で変貌されるとそれはそれでびっくりするという。


「……できました。というか、見えてきました。パリィポイントって、こうやって見ればいいんですね」

「はい。攻撃の見方が他と違いますけど、基本は点での受けですから」

「ありがとうございます、ルヴィアさん。なんとかなりそうです……!」


 基本的に、防御と回避は相手の攻撃を線か面で捉える。もちろんパリィで弾く時も攻撃の形は同じだが、同じ見方をしてしまうとやりづらいのだ。

 パリィの場合、防ぐのは剣と剣が当たる場所。つまり点なのだ。これを意識しなければ、このゲームでは剣で受け止めることはできても弾くことはできない。


 だから私はパリィを当てる点を見て当てているのだけど、いきなり目印のないパリィポイントを正確に見るのは難しいらしい。そこで先端を見て、そこから逆算で剣を振る。

 これでも必要な空間認識力は決して低くはないものの、できる人の数は少なからず増えるだろう。一度できてしまえば、攻撃の見方も自然と変わってくるし。


〈なるほどわかりやすい〉

〈*アルフレッド:俺も試してこよ〉

〈大事なのは想像力やね〉

〈できちゃ!!!!〉

〈神様仏様ルヴィア様~~~〉


 早いことに、コメント欄にも成功者がちらほら現れていた。その数の多さこそが、パリィに挑んで散っていったプレイヤーの多さを物語る。

 やっぱりみんなジェ○イしたいんだね。このゲーム、ライトセーバーなんてないけど。


 MMOである以上プレイスタイルは色々とはいえ、私にとってはメインストーリーのクリアが最大の目標だ。そしてこのゲームは純協力型である。

 ならば、総戦力の充実は私にとっても嬉しいこと。これで少しでもミッション戦力が増えるのなら、このくらいの講義は大歓迎だ。

 家庭教師って、こういう気分なのかな。

※あくまで本作の世界での話であり、現実世界での実現性の一切を保証しません

ルヴィアは感覚派のプレイヤーですが、常に言語化しようとすればできる程度には理論化された行動をしています。ただ普段はそれを深く考えずに実行できるだけですね。

あと今更ですが、本作は完全な主人公最強ではありません。最強クラスの一角には位置していますが。


次回は木曜日、日常回でイノベーション。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] スライムみたいな目がない種族や、千手千眼観世音みたいな目が多い種族には苦労しそう・・・
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