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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.4 異界の歌姫は号砲を謳う
286/475

278.あまりにも予定調和

 10月21日。圏外組レベリング待ち3日目の月曜日だ。


 といっても、このゲームのレベルシステムは少し特殊な仕様になっていて、プレイヤー内最高から-15のレベルまでは上がりやすいようになっている。スキルレベルもおおよそ連動だ。

 だから大半の圏外組を特定のレベルまたはスキルレベルまで押し上げたいのなら、トップ勢がその特定レベル+15まで上げてしまうのが手っ取り早かったりもする。そうしたら圏外組も上げやすくなるから。

 なんでそれが成立するのか、というのは……そもそもDCOがRPGとしては異彩を放つほどプレイヤースキル偏重主義だから。プレイヤースキルさえ高ければMobを倒す効率が跳ね上がって、それがそのまま経験値ペースの差になる。このあたり、DCOが《VRMMOA(アクション)》とか「実質アクション」とか呼ばれたりする原因だったり。


 とはいえ、ではトップ勢は必死になって魔物狩りばかりしているのかというと、別にそんなことはない。DCOには「そのエリアの魔物を狩りすぎるとしばらくポップ率が悪化する」という仕様もあるのだ。そして当然トップ勢のレベリング場所などそんなにないから、あまり無理な狩りレベリングはできない。

 つまり、一定値に到達すると「もう待つしかない」というところまで届いてしまう。多少はサブクエストの経験値で誤魔化せたりもするけど、結局はおおよそ運営が想定したペースでしかレベルは上がらないようになっているのだ。……まあ、その速度が一番楽しめるようにはできている。


「前置きが長くなりましたが、つまり」

「「「「「暇!」」」」」

「ということです」

「難儀なの」


〈草〉

〈なるほど〉

〈声が多い〉

〈言いたいことはわかった〉


 一応、どうせ後からいくらでも回収できるからと一部のトッププレイヤーに経験値を集中させてみたりもしてみたけど、なんと対象プレイヤーからだけMobが避けるようになった。狩りすぎて怖がられるようになった、という自然な演出で、こちらの小細工まで潰されてしまったのだ。

 なので、結局のところ速度は別に上がっていない。そのままメイン攻略の進行だけ止められてしまったから、特に昼界メインのプレイヤーは暇になっていた。夜界に出張しようにも、向こうにもフィールドの広さというものがあるから普通に溢れるし。


「一応、やろうと思えばできることはいろいろあるんですが……せっかくなので今日はまったりしましょう」

「いつもはあれこれ忙しいし、これも新鮮なの」


〈なるほど〉

〈別にサボりの言い訳じゃないってことだな〉

〈こういう時でしか見せられないものもあるって顔に書いてある〉


 というわけで雑談回。うちのギルドハウスにけっこうな人数が集まっていたから、みんなでだらだらしながらお送りします。


「……というのはいいんだけど、なんで普通に他ギルドの人がいるの。しかもけっこうたくさん」

「「「「提案があって」」」」

「「「「「「付き添い」」」」」」

「前半はともかく、後半は散ってもいいんだよ」


 まったりと言って数秒だけど、早くも意味のある話をする羽目になりそうだ。しかもそれを持ちかけてくるのが、まるで自分のギルドかのようにまったりしている人たちだから閉口するしかない。






「それで、何の話?」


 私はとりあえずソファに陣取りながら聞くことにした。……端っこでよかったのに、わざわざ中央が空けられる。こういうのを姫っていうんだっけ?

 目の前には圏外組養成所に挑む実況者の動画が映された大きなスクリーン、その手前のローテーブルにはパーティー気分であけられたお菓子の数々。もちろん遠慮なくいただくことにする。


「あれ。圏外組養成所なんだけど、もう少し増やさない?」

「……いや、それは好きにしていいと思うけど」

「具体的には、地方ごとに八箇所くらい」

「……やりすぎて怒られないようにね」

「で、ジムって呼ぶの」

「言ってるそばから!」


 うん、なんとなくそうなるかもとは思っていたんだよね。RPGで各地の腕試しに挑んで、その報酬がバッジとなれば。

 でもさ、数日と経たずに正面から提案されるとは思わなかったな。割とないんだね、節操とか。


「だってさ、誘ってるじゃん。バッジとか」

「それは、まあ」

「誘ったのルヴィアじゃん!」

「そういうわけじゃないよ。ちょうどよかっただけだし」

「でもこういう流れになるとは思ったでしょ」


 ノーコメント。


「でも、ちょっと違う気はするよ。ソレは8個集めないといけないけど、養成所はひとつでいいし」

「それは、まあ……」

「そこまでは考えたのよ」


 おっと、雲行きが怪しいぞ。ユナは丸め込めた……ように見えて笑みをこらえているし、イシュカさんは介入のタイミングが完璧だ。


「どこから台本?」

「最初からよ。……で、ひとつ気付いたのよ。『ちょうど属性、つまりルヴィアを除く初期精霊は8人いるじゃない』って」

「……嫌な予感してきた」

「だから、エルヴィーラさんに聞いてみたのです。せっかくだし私たちのダンジョンに一体感を出せないか、って」

「あっやばい嫌な予感を超えてきた」


〈お?〉

〈これ以上難しくなるのか……?〉


 なるほど、そのために九精霊揃い踏みなのか。で、それにかこつけて目ざとく見つけたのが何人かくっついてきたと。

 私は頭を抱えた。だって、そんなツボを押さえた提案、エルヴィーラさんが乗らないわけがない。だって私がエルヴィーラさんの立場だったら乗るもの。


「というわけで、近々あそこでは精霊バッジ【仮】が8個揃ってるとエルヴィーラさんが遊んでくれるようになるです」

「人のダンジョンのボスを勝手に……」

「本人のお墨付きやさかい」

「なんであのひとを迷守にしたんだろ私」


〈草〉

〈*盃同盟広報部:エルヴィーラさんと戦える!?〉

〈*リョウガ:マジか〉

〈*ラジアン:いいことを聞いたな〉

〈何人か乗ってきたぞ〉

〈盃とかいう戦闘民族〉


 いや、面白そうではあるけどさ。そういうのって先に私を通さない?

 ……っていう撮れ高だってことかな。うん、ありがとう。軽率にカメラ()の前でネタ()バラシしそ()うになった人()を止めてくれたカナタさん。






 それを皮切りに、しばし雑談。


「そういえばルヴィア、《薄明》のクリア率って実際どうなの?」

「どうって……リニューアル後に限れば、私から見て顔と名前が一致してる人しかクリアしたことないよ」

「んっと……クリア率は0.002%なの」

「えっそんな低いの!?」

「そもそも最後まで来る気がなくて、お目当てのMobに会いに来ただけの人もけっこういるからね。そういう目標達成しての生還をクリアに入れると、たぶん0.05%くらいにはなるよ」

「それでも低くない……?」


 うん、低い。たぶん全ダンジョン中でもダントツで低い。のべ1000人来たら999人は死んでいるということになる。だからあのダンジョンはDP(ダンジョンパワー)の回収率が意味不明な数字になっていたりもする。

 ただこれには、《薄明》特有の要素というか、薄明だからこそ発生する現象が大きくかかわっている。


「あそこ、私の代名詞みたいなものでしょ? しかも最難関でもある」

「あー、もしかして軽いノリで体感しに来る人が多い?」

「最初の会敵での死亡率が90%以上あるの」

「母数がめちゃくちゃ多いのか」

「リニューアル後って、まだ数日なのに……!?」

「なるほどねー……」


 記念ということなのか、昼王都に入口があって誰でも入れてしまうのがよくないのか、明らかにクリアどころかまともに挑戦する気すらないような身投げがとても多いのもあのダンジョンの特徴なのだ。いやまあ確かに、「実はDCOやってるんだ。話題のあそこにも行ったことあるぜ」とは言えるだろうけど……。

 さすがに入口付近はある程度加減してあるから、最初に出会うであろうMobとの戦闘くらいは圏外組がちゃんと戦えば勝てるようになっている。つまり、データ上の挑戦者のほとんどが中堅勢か初心者ということになるんだよね。……これ、DCOそのものの分布にかなり近い。


「本気で攻略しに来た人だけに絞ると、たぶん目標達成率が10%くらいになると思う」

「圏外ジムと同じくらいかー」

「まあそんなもんですかね?」

「もっとも、それはあくまで目標達成率だから、クリア率にすると0.3%くらいかな」

「ひっくいですけど……まあ、クリアしたら精霊になれると思えば、むしろ思ったより高いんですかね?」

「圏外組上位からトップ勢の中の0.3%はとんでもない数字じゃないか?」


 設定した私自身の感覚でいうなら、案外高い。ここをクリアさえしてしまえばあとは手間をかけるだけで精霊になれるのだから、押しも押されぬトップの証だ。現にそういう人たちしかクリアしていない。

 それで私の感覚より高いということは、私が思っていたよりみんな挑戦に来ているということになる。精霊なんて全く興味なさそうな人でも、けっこう腕試しに来るんだよね。


「じゃあちなみに、精霊になるためにクリアできた人っているの?」

「いるよ。もうマナ様が動いてる」

「へえ、意外と動きが激しいんだねぇ」

「エルフと妖精はもっといるし、これから精霊はそれなりに増えると思う。ドラゴニュートがどうなるかは知らないけど、精霊全部をひとくくりにするなら最少数クラスのエクストラではなくなるんじゃないかな」


〈あれで???〉

〈世の中は広いなあ〉

〈アレクリアする奴そんなにいるのかよ〉

〈つってもクリア者ほとんど有名人だし〉


 私の友人もその中にはいるし、いずれはもっと増えると思う。精霊一同、楽しみに待つとしよう。






 ……そんな感じで雑談していたんだけど。


「ごめんくださーい」

「ん? 加入希望者かな」

「見てくるね」

「うん、ありがとうフリュー」


 玄関のほうから訪ねてきた声がした。ちょうど立っていたフリューが迎えに行ってくれる。

 設立当初やギルドハウス設置直後はすごくたくさんあったんだけど、最近は落ち着いてきている。それでも絶えはしないものだけど、加入希望者なら歓迎だ。うちは加入に“消費税”呼ばわりの会費以外、条件を設けていないから。


 ……それにしても、聞き覚えのある声だったようn


「来ちゃいました♡」

「水波ちゃん!?」

「えっそんなあっさり!?」

「大仰に出てきてたらよかったんですか……?」


〈ファッ!?〉

〈!?!?〉

〈水波ちゃん来たぁ!?〉

〈なにごとォ!?〉

〈びっっっくりした〉


 水波ちゃん、参戦。

 いや、突然すぎて状況が理解できない。ちょっと説明願えるかな、水波ちゃん?

 章タイトルに到達するまで長かったですね。


 ルヴィアとエルヴィーラ(ルヴィア配信を面白くするためだけに逃亡中)は立場だけ入れ替えたらお互いほぼ同じ反応をします。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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