28.僕と契約して精霊になってよ!
前回のあらすじ
無事にボス戦経突入したプレイヤーたち。ルヴィアの指揮のもと攻略レイドは順調に討伐を進めていたものの、ゲージが切り替わったタイミングで一人のプレイヤーが飛び出してしまう。
制止をかけたルヴィアたちだったが、構わず暴走する少年を前にルヴィアは彼の放棄を決定。その直後に案の定ボスのゲージ攻撃へ巻き込まれ、誰にも助けられず魔物の海に沈んでいったのだった……。
なんとかボス戦に戻った私たちだったが、ラストゲージはその後も定期的に雑魚が追加されるようになった。
これに対応するため、下がっている隊をさらに半分ずつの交替で露払いに回すことに。幸いにもボスを受け持っていない方の隊は思いのほか暇だったから、これで対応。
ラストゲージが半分を切って雑魚呼びペースが上がると、勝負どころと判断して途中から全員での戦闘に。この決断はなんとか成功して、無事にボスを削りきることができた。
「終わったぁ」
「皆さん、お疲れ様です。なんとか被害も最小限で済みました」
「まあ、これで死に戻りを過剰に怖がる必要もなくなったってことで」
〈熱かったなぁ〉
〈ウサギとは大違いだ〉
〈ウサギと比べてやるな〉
アルさん、案外バッサリ言う。喜色満面とはいかなかった私を励ますための調子かと思ったら、表情を見るに本気だった。
今回のレイドボスはDCO通算で三体目。前の二体は犠牲者が出なかったから、死に戻りを出したのは今回が初めてだったのだ。
そして現金なもので、いい方向にも悪い方向にも「初」を重視する人はMMOにも多い。そんな彼らもこれで、過剰にレイド初デスに怯えることがなくなったというわけ。
〈さっきの小僧大炎上してら〉
〈そりゃなあ〉
〈支離滅裂だし、お嬢の配信はウン万が見てるし〉
「一般層の反応は心配でしたけど、おおむね同情的みたいでよかったです」
「全くだな。こんなことでイメージダウンでもしようものならどうしたものかと思っていたが」
……普段は温厚というか、穏やかな印象が強かったエルフ組が真っ先に怒るのは予想外だったが。
どうやら先の少年は怒りに任せて掲示板に書き込もうとして運営に弾かれ、「なんで送れねーんだよ」とだけ書き込んだ末にSNSで燃え盛っている模様。……いや運営さん、なんでそれだけ通したんですかね?
ともあれ、何事もなく終息しそうで一安心だ。
「ただ、次からはしっかり周知徹底しないとですね。指示をすれば理解してくれる、と過信していたかもしれません」
〈せやな、そういう配慮は大事〉
〈反省して次に活かせるの偉い〉
さて、この話はここまでにして。
「そういえば、《ダンジョンコア》は」
「……私のところにありますね。一度レイドリーダーの手元に落ちるというのは、やっぱり間違いなさそうです」
《ダンジョンコア》というのは、ダンジョンを攻略した際に一つだけドロップするレアアイテムだ。そのダンジョンの力が封じられているようで、これを出したダンジョンは一度機能を失う。
素材アイテム扱いではあるものの、今のところ例外なく強固な汚染に閉ざされていて使えない。それとなく聞いてみたところだと、《晶魔剣アイリウス》を浄化してくれた結乃さんでも手に負えないのだとか。
そしてこのダンジョンコア、浄化に成功すると該当ダンジョンが再開放されるらしい。汚染は除去した上でダンジョンの力を利用できるようになるとのことで、余計に期待がかかるところだ。
これは《酒蔵地下の不思議迷宮》のようなボス不在のダンジョンでは最奥部に鎮座していて、今回のようにボスがいるダンジョンでは討伐時にレイドリーダーのところへドロップする。ただし仕様がやや特殊で、特殊なテンポラリーストレージへ分けて保持されるのだ。
これはおそらく、ドロップしたプレイヤーが隠したりして勝手に持ち逃げすることを防ぐ仕様なのだろう。こうなるとレイドメンバー全員に『ダンジョンコアを《ルヴィア》にドロップします。よろしいですか?』というメッセージが送られ、過半数が承認しなければ取得ができな…………あれ?
○大霊樹の琥珀珠
分類:素材
属性:風
品質:Epic
性質:《ダンジョンコア・落花繽紛桜怪道》
状態:汚染
・《呪染の大霊樹》からドロップした、ダンジョン《落花繽紛桜怪道》のダンジョンコア。ダンジョンの力が封じられていて、染まっている汚染のせいでそのままでは使うことができない。
強力な汚染を除去することで本来の性質を発揮し、極上の素材として使えるようになるだろう。
「誰ですか私のインベントリに勝手にコア入れたの」
〈草〉
〈草〉
〈さすがに草〉
〈勝手に入れたwwww〉
いやだって、少し目を離してからもう一度テンポラリーストレージを見たら空っぽになっていたのだ。何事かと思って通常インベントリを見ると、コアはこちらに移っていた。
「そりゃなあ」
「さすがに今回のMVPはルヴィアさんでしょ」
「逆に貰えないと思ってたの?」
うーん、それはそうなんだけど。揃いも揃って当然のようにドロップ譲りを即断されると、MMOプレイヤーとして困惑するというか。……まあ、見渡す限りでは不満がありそうな表情は全く見当たらなかった。貰えるものは貰っておこう。
ちなみに、DCOではダンジョンは初回攻略が明確に区別される。初回攻略に一定以上参加していれば、ステータスの履歴のほうに『《落花繽紛桜怪道》攻略者』といった具合で明記されるのだ。
それに加えてボス討伐レイド参加メンバー、または最奥部到達者には、自動的に《ダンジョンチップ》というレアアイテムがドロップする。これはコアの廉価版のようなもので、それでもなかなか高性能。しかも汚染されていないから、すぐに使うことができる。まだ使っていないけど、私も《酒蔵地下》のものは持っている。
なお、コアを取得するとチップは自動的に消滅する。だから即戦力を強く求めるならコアを受け取らない選択肢も一応あるのだけれど……まあ、そうそうないだろう。コアが将来的に化けることはわかりきっているわけだし。
「それで、巫女さんは……」
「お嬢、こっちだ」
ボスを倒したということは、ここに囚われている巫女の反応を探せるということ。意識を本題に戻した私を、ボスだった大樹の脇にいたリュカさんが呼んでくれた。
「彼女が」
「ああ。頼んだ」
果たして、そこにいたのは緑肌の美女だった。裏側の目立たないウロの中に閉じ込められ、長い睫毛を合わせて昏々と眠っている。間違いなく巫女だろう。なにしろ衣装が巫女装束だし。
これを覗き込んだ瞬間、カメラがムービーモードに移行した。それを見て自然に画角から外れるプレイヤーたち。モブって呼んでやろうか。
「…………っ、ん……?」
「起こしてしまいましたか」
現実にはない筋力で抱え上げる。ウロから出ると、巫女は重そうな瞼を上げた。数度瞬きをして、瞳が知性を取り戻す。
「あなたたちは……」
「《来訪者》といいます。この世界を救うため、綾鳴様に召喚されました」
「あら……それは、お手数をお掛けしてしまいましたね」
「いえ。あなたのお力が必要なんです」
そっと地面に降ろす。ふらつきながらも二本の足で立ち上がったが、すぐによろめいてしまった。いったいどれほどの間、ここに囚われていたのだろうか。
近くにいた前衛の女性プレイヤー二人が肩を貸して、なんとか立っている状態だ。すぐにでも休ませた方がいいだろう。
「そう、なのですか?」
「はい。詳しくは、紗那様からお聞きください。私たちが把握していないことも知っているはずですから」
「わかりました。……ああ、まだ名乗っていませんでしたね」
ダンジョンの出口は既に開いている。先んじて完遂報告に王城まで走ったプレイヤーからコメントで連絡もあった。すぐにでもダンジョン入口に迎えが来るだろう。
支えられながら出口へ向かう直前、《デュアル・クロニクル・オンライン・バージョン0》最大級のキーキャラクターである彼女は、私たちに名前を教えてくれた。
「私は《翠華》。《夜草神社》の巫女であり、主でもある植物神です。本当にありがとうございました、来訪者の皆さん」
「どういたしまして。しっかり療養して、どうか私たちに手をお貸しください」
◆◇◆◇◆
巫女と聞いて救出したところ、しれっと神様であることが暴露された翠華さん。そのあたりも気になるところではあるが、彼女のことはひとまず任せて私はダンジョン内に残った。私のパーティと、先のボス戦を戦ったエルフのプレイヤーが残っている。
目的はもちろん、祠の捜索。というのもこのボス広場、奥に一本だけ獣径があったのだ。なんとなく目算をつけた通りに祠があるのか、別にそんなことはないのか。この影響なのか、どうやらここの攻略メンバーはエルフの比率が高めになっていたようだ。……パーティメンバー三人の存在が特に大きいのかもしれないが。
十人程度の集団で小路を進む。すぐに視界は開けて、隠れていた小さな広場に出た。その端には、やはり汚染された祠。
「もしかしたら、また何か仕掛けがあるかもしれません。少しここで待っていてください」
「いや、俺が先行しよう」
ここはダンジョンの中、それもセーフティではない。だからこそ王都の祠のようにはなっていないだろうけれど、何があるかはわからない。
精霊と縁がないはずなのに名乗り出てくれたゲンゴロウさんに続く形で広場に踏み入ると……。
「うおっ!?」
「《グラスケージ》!」
〈自分を閉じ込めた?〉
〈おお、防げとる〉
〈それそんな使い方もあるのか〉
〈このギミック妖精専用だな〉
周囲から急にツルが伸びて、ゲンゴロウさんを雁字搦めにしてしまった。私は咄嗟に《植物魔術》を起動して止める。スキルレベル20で習得した《グラスケージ》、本来は敵を閉じ込めて足止めする術。ちょうどよさそうだったのでシェルターにしてみたが、上手くいったようだ。
……止めはしたけど、これでは進めない。ここを通ることができるかもしれないのは、間を縫うことができる妖精くらいだろう。
「イシュカさん、お願いします」
「らじゃー!」
御札を抱えたイシュカさんが飛び出すと、またもツルが殺到。しかし高速機動を存分に発揮する彼女を捉えることはできず、イシュカさんはツルの網目を抜けてあっさりと祠まで到達した。
ちなみにこの御札、知り合いのプレイヤーに少しずつ分けている。私も全ての祠を回れるわけではないし、他に汚染された建物があるかもしれないから。ニムさんからはかなりの量を貰っているし、適宜補充してくれるそうだ。
祠に御札が貼りつけられると、ツルたちは引っ込んでいった。元通りの広場に戻って、扉が開き……。
イシュカさんの姿が消えていた。どうやら彼女、私と同じ体験をしているようだ。
「ただいまー」
「おかえりなさい。案外早かったですね」
「ルヴィアから色々聞いてたから、その分短縮ね」
イシュカさんはすぐに戻ってきた。私の精霊界滞在は情報収集が長かったから、それを省いて短くなったようだ。
それに続いて、祠から光が溢れる。今度は王都の時と同じように、その光はニムさんを形作った。
「ん、ありがとね。ダンジョン内の祠は手が出しづらいから、どうしようかと思ってたの」
「別の目的で来たダンジョンですから」
「それでもね。……で、っと。ほんとだ、エルフいっぱいいるね?」
〈だんだん緩くなる系精霊〉
〈ルーズさが癖になるな〉
イシュカさんから聞いていたのだろう、多めに集まったエルフにあまり驚かないニムさん。名前と面識を交換しながら、一人一人に御札を手渡す。
それが一通り済むと、最後に私の前へ。剣を気にしている様子だったので、その場で抜いてみせた。
「へえ、これがあの時の。いい剣だね、使い手の力を引き出せるようになっているのがわかるよ」
「ありがとうございます。たぶんこの子とは、ずっと付き合っていくことになりますから」
「ああ、そうそう。それなの」
妙なところに反応するニムさん。彼女は次の瞬間、その小さな口から衝撃の発言を吐き出した。
「ルヴィア、いつ精霊になれそう? もうすぐだよね?」
「……ええっと、どういうことですか?」
〈は?〉
〈!?〉
〈うん?〉
〈なんだって!?〉
〈精霊になるって〉
〈とんでもないこと口走ったぞ今〉
言葉の意味が理解できず、本気で混乱する私。それを見て首を傾げるニムさん。「ああ、そっか。先に伝えないとだった」と付け足すと、今度は説明してくれた。
「他の種族はまだわからないんだけどね、エルフと妖精の来訪者は私たちと同じ精霊になれることがわかったの」
「それは、本当ですか?」
「うん、間違いないよ。《精霊王》様が言ってたもの」
精霊王。まあ読んで字のごとく、精霊たちの王でありトップだろう。現状どのような立ち位置なのかはよくはわからないが、発言を間違いないとされる存在ではあるらしい。
ともかく、私たちは精霊になれるらしい。これには私だけでなく、周囲のプレイヤーやコメント欄も沸き立つ。
「精霊に……進化ですか。あるだろうとは思っていましたが……」
「エルフにもいくつか進化があるけどね。でも、私はルヴィアに精霊になってほしいなー」
「そうなんですか。……私も、なれるのならなりたいですけど」
「ほんと!?」
喜色満面のニムさん。紗那様もそうだが、私への好感度が高すぎる気がしないでもないが……。まあ、これだけ喜ばれて少なくとも悪い気はしない。
精霊になりたいというのは本音だ。魔術適性が高いであろう精霊は、おそらく私のスタイルにも合う。それに何より、精霊は画面映えするのだ。特徴にもなるし、おそらくは良いことずくめ。
「でも、どうやって精霊に進化するんですか?」
「実はそんなに簡単なことじゃないんだけど……ルヴィアなら、もうすぐだと思う。まだ象徴する精霊がないもの……例えば《唯装》とかね。そういうものと、ひとつになるのが条件なんだ」
「《唯装》とひとつに?」
「うん。通じ合って、それそのものというくらい一心同体になるの。そうすれば、それを象徴する精霊になれる」
「……前に言っていたように、その唯装が本質になる、ということですか?」
「うん。だからルヴィアは、魔剣の精霊、ってことになるかな」
〈いまいちわからん〉
〈俺はさっぱりわからん〉
〈そういえばそんな話してた気がする〉
〈湖の精霊とかだったっけ〉
この世界の精霊は、それぞれが本質となる事象や存在を持っている。それを司る存在となることで、精霊に進化することができるのだそうだ。
整理すると、まず《唯装》を手に入れる。その相棒を使いこなし、それと同化する。そして、最低でも一度は精霊界に入り、その空間のことを体で覚える。
これらの条件を満たせば、その唯装の本質として精霊になれるということらしい。
問題は二つだ。武器と同化する、というのがいまいちよくわからない。
武器の力を引き出して、正しく扱えば自然と近づくものらしいけれど……その度合いは当然見ても分からない。精霊に見てもらえばわかるかもしれないが、さすがに手間だ。主に精霊にとって。
あと、私はこの剣を使い始めて五日程度しか経っていない。大切かつ適切に扱うように心がけてはいたけれど、さすがにフラグが立つのが早すぎない?
まあ、これは何かあるのだろう。ニムさんは自信満々だし、よく考えたら私はこの剣を汚染から解放している。その分の補正があるのかも。
それと、もうひとつ。
「唯装でないとダメなんですか?」
「じゃなきゃダメ、ってワケではないけど……たくさんあるモノの精霊はもういるからね、先達がいないモノじゃなきゃダメなの」
これには周囲がややトーンダウンした。私は偶然……ではないか。一連の流れによって手にしているけど、唯装なんてどう考えても簡単に手に入るものではない。それを条件として要求するあたりに、門戸の狭さがわかる。
だが、道があるとわかっただけで充分。ここにいるのはそう考える猛者ばかりだった。
そして私は、精霊になることが目標に追加された。もっともこれは急がば回れ、これまで通りにしていればいい。ニムさんを喜ばせることができる日を、楽しみに待つこととしよう。
いよいよ精霊への門戸が発見されました。進化まであと半分。そろそろベータ編も折り返しです。
次回は火曜日、ひと休みしながらパリィとかのお話。
最近は感想もいただけるようになり始めて、本当に大きな励みになっております。前回のボスは某リンゴを落とす顔つき大樹リスペクトでした。
ついに月間ランキングでもトップテンをマークしました。そちらから見に来てくださる方も増えるといいな。本作がもっと多くの読者様の目に触れることを願うばかりです。
最後に恒例行事。もし面白いと感じていただけたなら、ブックマーク、更新通知、評価点の3クリックをどうぞよろしくお願いいたします。
余談ですが、作者はこの半定型文を「オペレーション・スリークリック」と読んでいます。特に意味はありません。




