268.途端に活き活きし出す現金なヤツら
10月18日。ようやく昨日で《ザダクロ》の攻略も終わって、長らく新しい景色を見られずに鬱憤が溜まっていた攻略勢はその日のうちに出発していった。……いや、いつも通りフィールド踏破の準備をしないといけないから、最初のうちは途中まで進んで戻ってくるんだけど。
私はそこまで急がないのと、少しだけどこの街にやることが残っていたから残る。とはいえ、今日中には外に出られるはずだ。
「行ってしまわれるのですか……?」
「そんなぁ……」
「精霊様…………」
この子羊たちをなんとかできればだけど。
私たちはなんとなく雰囲気で「クリアすれば出られる」と思っていたけど、そうだよね。住民たちにとってはできればずっといてほしいよね。
「僕らも来訪者やからね。解放に貢献せえへんと」
「しょーじきそろそろ息ぐr……いえ、よそで私たちの助けを待ってる人たちもいますからね!」
「まーた失言未遂してるのですこのひと……」
わざとギリギリセーフなように危ないことを言いかける芸人魂は放置でいい。だからソフィーヤちゃん、触れなくていいんだよ。
ともかく、ずっと彼らに執着されているのもね。ということで。
「そもそもこの街が精霊に縋ってしまうのは、汚染侵攻のせいで精霊が離れたからでしたね」
「うん。だから、それ以前のように精霊が行き来していれば問題ないはず」
「その通りよ。だからもう大丈夫、後は私たちに任せて」
「マナ様!?」
ではどうやって住民に日常復帰を伝えるか。特に効果的なのが、有力な精霊の再来訪だろう。
なんとマナ様、ここ《ザダクロ》はお膝元として以前も頻繁に訪れていたらしい。となるとやはり適任は彼女だ。
「伯爵、そして住民たち。……この街はもう、汚染前と変わりません。来訪者たちのおかげで、私たち精霊もこれまで通りに出入りできる街に戻りました。ですから、元の形に戻しましょう」
この一声で元通りってわけ。昨日のうちに《浄潔なる霊域》に私たちを送り込んだ件をちょっとつついたら、すぐに出てきてくれると約束してくれたのだ。
精霊王本人が出てきてまで元通りを宣言されて、異常といってもよかった最近の精霊への執着を続ける者は少ない。無事に私たちも元の冒険者に戻れるというわけだ。
もっとも、この街を訪れた精霊の扱いは元々かなりのもの。また歓待を味わいたければ、この街に来て住民の手助けや加護でもすればいい。
基本的にはそれで終わりなんだけど、私はもうひとつだけやることがある。そのための場所も選定済だから、そこまで飛んで移動を……またみんなついてくる。みんな、私のことを面白現象発生装置か何かだとでも思ってない?
その場所というのは、この街に一つだけある《精霊の小聖堂》。とはいえ、これは動いていない。他の街で祠や小聖堂が果たしている役割は、たくさんのしっかりした教会が果たしている。一応ここも精霊界に繋がっているのだけど、完全に余っているのだ。
「ここを入口とする」
〈キャンプ地かな?〉
〈あながち間違ってない〉
〈あー、なるほど〉
〈そんなことしていいのか〉
なので、ついさっきこの小聖堂をマナ様から譲り受けてきた。たくさんの教会に役目を受け継いだ後で住民ですら忘れかけているから、特に問題はないらしい。
……普通に考えれば、ハウジングでもないのに土地をプレイヤーに渡すなんてそうそうない。日本なら不動産税がかかるほどの領域を恒久的に、となるとなおさらだ。ただ、今回はむしろあちらに求められてのことだった。
「……よし。これで今から、ここは《薄明と虹霓の地》の夜界側の入口となりました」
「わー(ぱちぱち)」
「さすが面白現象発生装置!」
「よっ歩く撮れ高!」
「煽りが雑では?」
用件というのが、《薄明と虹霓の地》の入口設置。ゲリライベントの時点では当時の目的もあって昼界だけとしたけど、魔力が均衡した今は両方の世界にあった方がいいらしいのだ。
元々ザダクロは露骨なほど精霊に関するものが集められていることがアイデンティティだから、精霊進化のキーという形で連なる《薄明》もこの街に置くべきということになった。ちょうど余っている小聖堂もあったからね。
さっきもらった使い切りの特殊メニューで小聖堂を取り込んで、これをダンジョンの入口に設定。今のところ他のプレイヤーが使うことを想定されていないのか、表示があまりにデバッグモードじみているけど気にしない。
これを配信中に使わせるあたりも九津堂らしいといえばらしい。どうかとも思うけど。
「というわけで、精霊進化志望者はこの街で徳を積んでここから入ることを推奨します」
「ルヴィアさん、積極的にアレに巻き込むのです?」
「伯爵は狂喜乱舞しそうやね」
〈ポ○ット○ンスター 出会いの地/総本山〉
〈いや、昼王都にしとくわ……〉
〈スパルタお嬢〉
〈人の心とかないんか〉
〈運営と性根が同じなんだよなあ〉
アレというのは、ついさっきマナ様が伯爵に頼んでいた『精霊の徳計画』である。なんでも精霊のようにザダクロで人助けをしたり、浄化や加護を行う精霊の手助けをしたりすることで精霊への適合率を上げることができるらしい。
まだ検証していないから詳細不明なんだけど、「適合率が高いほど《薄明の影》は手を抜いてくれるらしい」という衝撃の情報も判明した。道中があるから結局大変とはいえ、少しでも楽になるのなら目指すプレイヤーにとっては大きい。なにしろあの子、全力だとトップ勢のフルパーティすら跳ね返すほど強いから。
運営さんと私の性根か同じだなんて、そんな当たり前のことを今更。私と彼らには、「とにかくゲームを面白くする」という共通の目標があるのだ。似通うのなんて当たり前でしょう?
最後の用事を終えて、みんなで精霊界に戻ってきた。
「外だー!」
「やっと帰ってこられたのです!」
「空気が美味しいですねぇ!」
「呼吸してないでしょ私たち」
私はつい一昨日に少し出ていたから感覚が薄いけど、みんなはまる四日間もあの街に軟禁されていた。この反応となるのも無理のないことだろう。精霊の体ではできないのに深呼吸の振りだけしているメイさんは置いといて。……芸人コンビがいないところだと彼女はことさらはっちゃけるね。
「ふう、やっと落ち着いたの」
「あ、アイリウスはん」
「ずっといたはずなのにえらく久々に出てきたね」
「あの街は息苦しかったの」
「アイリウスちゃんも呼吸してませんよね」
「ズルいな、黙って引っ込んでるだけで楽できたなんて」
「わたしは《唯装魂》なの。黙ってればただの剣なの」
「身も蓋もない……」
そして妙に影の薄かったアイリウス。元々まわりにプレイヤーが多い時は出てこないこともある子だけど、どうやら《ザダクロ》の精霊チヤホヤが苦手で隠れていたらしい。確かにあの街にいる間は出現率が低かった。
《唯装魂》は精霊の一種であるという知見が得られたのはいいとして、アイリウス自身の口から「黙ってればただの剣」なんて言葉が出てきたらダメだと思う。それをさせるあの街が凄かったということなのか……。
「とりあえず、ダンジョンを設定し直さないといけないのです」
「そやね。今日はとりあえず解散しよか」
「え? そんなに急ぐんですか?」
「アプデ当日に自分が取った行動忘れたの?」
もちろん、彼女の場合は覚えていた上でのすっとぼけだ。だけど、こう。芸人コンビはスルーして美味しいふざけ方なのに対して、メイさんはツッコミを入れた方が美味しい気がするんだよね。
なんにせよ、《ダンジョンリワード》機能実装から三日も放置することになっていた皆にはさっそくダンジョンに向かってもらうことに。精霊ダンジョンのマスタールームは全て精霊界から繋がっているから、さほど手間でもない。
しかし私の《薄明と虹霓の地》は浄化石持ち出しのついでに設定済みだから、ここで一度暇に……ならない。
「おかえりなさいっ、主様っ!」
「ただいま、芳乃ちゃん。待たせちゃってごめんね」
「いえっ。とっても大変な場所に行っていたのは知っていますのでっ」
〈芳乃ちゃんですらこの物言い〉
〈あいつらがおかしいのは共通認識なんやなって〉
〈*ペトラ:芳乃ちゃんも広義の精霊だからね〉
どうやらドリアードである芳乃ちゃんもザダクロは怖いらしい。ひとまず片付いたから、これからはものすごく持て囃されるだけで済むとは思うけど。
というわけで、《落花繽紛桜怪道》。一昨日は最短ルートで済ませていたから、こちらは未設定なのだ。
「それで、《リワード》は何にしますかっ?」
「まだ決めてない。素直にドロップにするのもありだけど……」
「せっかくならトクベツなものにしたいね、って話を」
「してなかったよね。ずっと引っ込んでたんだから」
いや、言う通りではあるんだけどさ。ザダクロに押されてあまり暴れられていなかったからか、アイリウスの言動がいつもよりツッコミどころ満載だ。
ともかく、ありきたりな報酬にはあまりしたくないのは本音だ。せっかくなら限定品にしたい、という功名心は私にもある。
「《薄明》は自動決定だったので、リワード設定でできることを改めて見てみましょうか」
「ええっと……けっこうできることが多いの」
「これもダンジョンの力なんですっ」
〈こういうの見てるとほんとダンジョン運営楽しそうだよな〉
〈ちょっとずつエンドコンテンツなのが惜しくなってきたな〉
〈低難度ダンジョンの拡充と譲渡機能はよ〉
〈俺らもダンジョン欲しいなあ〉
うん、中堅層へのダンジョン所有機会はあるべきだと思う。特にダンジョン譲渡機能については私も欲しくて、このままだと手が回らなくなるかもしれないから《荒れ果てた神宮》は信頼できる人に任せたいのだ。だって、もうすぐ私のダンジョンはまた増えるから。
そもそも開発チームも楽しくなってきたのか、最初はささやかなオマケ要素だったダンジョン運営が少しずつ充実しつつある。このまま風呂敷を広げていくなら、ダンジョン所有の敷居は低くすべきだと思うんだ。ね、運営さん、どう?
それはさておき、ダンジョンリワードの選択肢。まずはやはりドロップ品。ボスのレアドロップが分かりやすいかな。少なくとも複数パーティで倒すようなボスから一つしか落ちないアイテムが、討伐に参加して初クリアするだけで全員に得られるのはやはり嬉しいところだ。
他にも、ボスだけではなく固有種のレアドロップ、レアではないものの通常ドロップの高品質版、加工済の装備品など色々とある。このあたりはダンジョンごとの攻略目的や難易度に合わせて設定できるようだ。
とはいえ、このあたりはメジャーな、悪く言えばありきたりなものだ。先駆がウリであるところの私としては、やはり前例のないことをしてみたい気持ちがあるんだよね。
「それなら、これですねっ」
「えっと……《任意リワード》なの?」
「はいっ。《ダンジョンパワー》を少し多く使いますが、好きなものをリワードに設定できるんですっ」
「おお、それはいいの! ぜひそれにするの!」
「……もしかしてこの会話、私がいなくても成立する?」
〈おうサボるなお嬢〉
〈気持ちはわかるが〉
〈さすがに自分で先導しような〉
〈NPCに会話の流れ乗っ取られてる……〉
〈仲間が有能すぎる弊害だ〉
冗談はともかく、《任意リワード》か。ヘルプを確認したところ、どうやら自分で用意したものをダンジョンに納めることで、そのアイテムを複製してダンジョンリワードとすることができるらしい。システム的に量産が可能なものに限るとはいえ、本当に好きな物を設置できるわけだ。
ただもちろん、便利になりすぎないよう制約もあって、生産にややお高めのダンジョンパワーが必要になる。モンスターや宝箱や採集ポイントと同じようにリワード生成にもリソースが必要だから、経営状況に余裕のあるダンジョンでないと扱えないシステムだ。
だけど、前にも紹介したね。この《落花繽紛桜怪道》、どう足掻いてもダンジョンパワーが余るほど貯まってしまう。常に大幅黒字だから、むしろ消費方法を探してすらいたところだ。
これは都合がいいかもしれない。そして、では実際に設置するものを考えてみると……。
「《バッジ》にしましょうか」
「それはよさそうですねっ! どうやらここは、登竜門となっているようですしっ」
「特別感もあって、しかも今のところ他に聞かないの。なかなかいいかもしれないの」
誰もメイを責められない。




