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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.4 異界の歌姫は号砲を謳う
275/473

267.とりあえずごり押せば最悪なんとかなる

 今日が木曜日であるという感覚を完全に失っていました。少し遅れましたが、どうぞ。

 さて、翌日。そろそろダンジョン攻略が落ち着く頃だ。


 え、昨日あの後どうしたかって? ユナとアイリウスに精霊界探訪を任せて配信を預けている間にマナ様と少し遊んで、その日のうちに大歓迎されながら《ザダクロ》に戻った。日を跨いだら騒がれそうだったから。

 ユナたちに任せてまで配信を切り上げずに続けたのは、この帰還シーンが撮れ高だと察していたからだ。案の定だった。初めて来た時とほとんど同じだったけど、天丼は一杯までなら無条件に美味しいからね。




 あとは突発的なクエストをこなしながら街の中で過ごして、攻略完了を待つ。全敵がそうなのだから、ボスも精霊特攻持ちだろうと踏んでボス戦も不参加。

 私たちは配信を見る側に回って、無事にボスが倒されるところを見届けた。このゲームの配信はゲーム内で見るとステータスが反映されて見えるんだけど、案の定ボスは精霊特攻(大)持ちだったのが私たちには見えた。


 獅子奮迅だったブランさんのパーティから、ダンジョンコアを持つMVPはベルさんが選出された。まず精霊に進化することはないであろうヒーラー、という理屈だろう。

 ……さて、問題はここからだ。私はこれから、天敵だらけのダンジョンを所持品ほぼなしで強行突破しなければならない。


「というわけで、特別なパーティをご用意しました」

「っし、任せろ」

「……なんとも魂胆が露骨なパーティだな」


〈なるほどね〉

〈妥当オブ妥当〉

〈そらそうなるよ〉

〈やりたいこと見え見えで草〉


 セージさんとラジアンさん、それにリョウガさん。三人とも《ドラゴニュート》だ。一方でこの中にタンクはセージさんだけと、私をとにかく守り切るためだけのパーティとするには防御力に振り切っていない。

 ……もはや言うまでもないか。飛行の速度を活かすために、飛べるプレイヤーだけで固めたのだ。回避は最大の防御、戦闘そのものを避けることが最大の回避という機動力全振りパーティだ。


 残り二人も飛行種族。どちらも妖精の後衛で、片方がヒーラーだ。私の友人の妖精が精霊に偏っていることもあって、どちらも特に親しい間柄ではないけど。

 というわけで、もうダンジョンの土を踏むつもりがない。飛んで行って、帰りはベルさんに頼んでマスタールームを通してもらう。これしかない。






 さて、皆さんお気付きだろうか。


「前方に敵!」

「突破するぞ! ちょっと右!」

「「「「おー!」」」」


 この突破方法、派手に見えて実はあんまり撮れ高がない。

 というのも、このパーティで一番遅いのは人間サイズに《魔力飛行》である私なんだけど、つまり私が元々振り切れる敵とは接敵すらしないのだ。ただ速度を上げて、少し進路をずらして飛び去るだけ。それだけで敵が追いつく前に索敵範囲を抜ける。トレインにすらならない。


「右前方に三匹!」

「っし、次で左折!」

「「「おー!」」」

「やっぱ《魔力覚》ナビ楽だなあ!」


 そして覚えているだろうか、私は元々鳥系の魔物とすら有利にドッグファイトできる程度の速度はある。そんな速度を基準として、それより速い魔物が、しかも広々としているとはいえ遺跡系のダンジョンにいるだろうか?

 いなかった。しても困るんだけど、結局一度も接敵せずに済んだのだ。そもそものダンジョン内高速編隊飛行というインパクトも前半で味がしなくなって、後半は本当に謎のノリで飛びながらじゃれ合っているだけだった。


〈いや普通にずっと面白かったが〉

〈そんなすぐ飽きるかこんなん〉

〈お嬢が撮れ高にストイックになりすぎている……〉


 そうかな。いや、楽しめているならいいんだけど。

 とにかく、私たちはあっさりボスエリアまで到達できた。もっとも、これは進行上ほぼ必須イベントだから、さほどのプレイヤースキルがなくてもクリアできて当然ともいえるか。


「飛行速度は個人のセンスに依存するからにゃ」

「おうお前のことだな」

「《ドクターヘリ》がなんか言ってんな」


 ダンジョンマスターのベルさんが話しかけてきたけど、これはセージさんが正しい。ベルさん、ヒーラーなのにあまりに飛行速度が上がったものだから《ドクターヘリ》なんて異名を戴いているのだ。飛べるヒーラーならユナもいるのに、わざわざ後発のベルさんに与えられたあたりから察してほしい。

 ただ、ベルさんの発言そのものは正論だ。このゲームの飛行速度、システム上の限界がかなり高く設定されているから実力差が出やすい。特にVRへの向き不向きがわかる前からなれる妖精は顕著で、《移動砲台》と呼ばれるプレイスタイルは上手い人の特権のような立ち位置になっている。




「ともかく、無事に到着ですね。これで私は唯一このダンジョンの奥まで来た精霊ということになるでしょう」

「まあレベル帯固定の予定だし、ごり押せるレベルになったら……」

「怖いだけで旨みなくないですか?」

「それはそう」


 このダンジョンの推奨レベルはエルヴィーラさんの指示通り、65あたりで固定となる。推奨レベルが上がるダンジョンとは違っていつかは誰でもクリアできるようになるんだけど……そうなってからわざわざ来るかは別の話。討伐リスト埋めくらいだろうし、そこを狙って別のダンジョンに分散出現させるダンジョンマスターも出てくるだろう。


「先に断っておきますが、私のダンジョンには置きません。というか、置けないみたいです。私の視界にだけそういう表示が出たみたいで」

「そういうのもあるのか」

「とことん精霊とは相性悪いんだな……」


 このゲームのエクストラ種族はよく優遇されるけど、代わりとばかりに凄まじく厳しい扱いを受けることも少なくない。最近は竜殺しのたぐいも出始めているそうだし、これは精霊に限った話ではないのだろうけど。

 もっとも、そもそも出現場所であるここ《浄潔なる霊域》は閉鎖期間のない特例的なダンジョンだ。うちの《薄明と虹霓の地》の本分である「討伐登録したいけどどこにもいない」が発生しないから、問題ないはずだ。






 ともかく、本題だ。


「早く済ませて帰りましょう。なんだか後方から嫌な感じがするので、あまり長居したくありません」

「ここセーフティだけどな」

「特攻のサブ効果にはセーフティは関係ないみたい」


 なんかね、ゾワゾワするの。相手の格があくまで雑魚だからさほどではないけど、とはいえ千歳姫さんの時の感覚を弱めたような感じ。

それがセーフティ越しとはいえ大量に突き刺さっているから、かなり居心地がよくない。そもそも普通はこんなところに精霊は来ないから、その摂理的な異常状態を咎める警報でもあるのかな。


「ねえルヴィア、ベルベットさんに頼んで先に帰ってていいの?」

「アイリウスちゃんがルヴィアさんから離れたがるとか“ガチ”じゃん」

「だから言ってるじゃないですか。さっさと済ませて帰りますよ私も」


〈*イシュカ/せれな:えー? もっとそこの内装の雰囲気見たいのにー〉

〈*ペトラ:なら自分も行ってきたら?〉

〈*イシュカ/せれな:やだ〉

〈草〉

〈熱い掌返し〉

〈正体あらわしたね〉

〈本音出てんぞ〉

〈*ソフィーヤ:見てるだけでぞわぞわするのに、よくやるのです〉

〈えっ配信越しでもあるのそれ〉


 悪いけどアイリウスにはまだいてもらう。二度もルートを貸してもらう手間はベルさんに悪いし、アイリウス自身のイメージもよくないからね。

 別に、「アイリウスだけ逃げるのはズルいから道連れ」とかオモッテナイヨ。




「そもそも、やることは簡単ですからね」

「この台座に、持ってきた岩を置くだけなの」


 アイリウスも冗談だったようで、ちゃんとついてきてくれた。受け取り手であるベルさんと、見届け人扱いになっているブランさんたちが先導してくれる。

 往年のRPGならマップが切り替わるような通路を抜けると、わかりやすく用意された台座があった。その前に陣取って、浄化石を取り出すべくインベントリを開……ちょっとアイリウス、邪魔だって。ホロウィンドウにひっつかないで。

 ……ああ、いや。これはアレだ、インベントリ画面越しにほんの少し漏れている浄化石の聖気に触れたいだけだ。この子がついてきたの、浄化石に縋り付く方が早いと思ったからかもしれない。


「これを、こうして……せーのっ」

「ぬおっ……」

「……見た目の割には軽いな」

「仮にも私のインベントリで持ち運べてますからね」


 インベントリからそのまま出したら、その場に実体化した瞬間に落ちてしまう。台座の座標にぴったり出すのは少し難しいから、明星男子組の3人に手伝ってもらった。

 とはいえ、私一人の小さなインベントリにも入ったものだ。男三人で抱えれば楽々動かせている。見た目的には明らかにもっと重いはずなんだけど、何かしらの不思議パワーが作用しているのかもしれない。


 台座に無事安置して、ベルさんがダンジョンコアと一緒にもらったという飾りを乗せる。それで完成ということになったようで、所有権を移動させる特別メッセージがポップアップした。

 これに両方が承諾すると、譲渡が正式に成立。浄化石はダンジョンの一部としてベルさんのものになった。


「空が……」

「……晴れていくにゃ。それも、快晴にゃ」

「綺麗な星空ですねぇ」

「ちゃんと霊域っぽくなりましたね」


 どうやらこのダンジョンは、ここまでしてようやく完遂だったらしい。それまで分厚く暗かった曇り空が一気に晴れて、《浄潔なる霊域》という名前に相応しい雰囲気になった。

 よし、任務完了。


「帰りましょう」

「あっ余韻なし?」

「そんなに辛いのか」

「ちょうどインベントリ空っぽだし、死に戻った方がマシなくらいには」

「わかったにゃ、マスタールームから送るから、こんなところで初デスつけないでほしいにゃ」


〈いつになくお嬢が必死だ〉

〈お嬢が撮れ高より感情を優先させたの初めてでは?〉

〈竜の試練すら耐えたお嬢が……〉


 人のこと撮れ高の亡者だと思わないでください。

 ともかく、今回ばかりは本当にきつい。「実は正規攻略方法は一手間かけて信頼できる誰かへの譲渡を挟むやり方でした」と言われても納得するくらい。

 竜の試練の時は私が勝手について行ったから仕方なかったけど、今回は行けと言われて来ているからね。目的も終わった今、ここに長居する理由がない。


 というわけでベルさんの協力も得たから、さっさと帰ってしまおう。

 二度と来るかこんなダンジョン!!

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] こんなところにいられるか!オレは部屋に帰るぞ!! といったら別のフラグがたつところだった
[良い点] 二度と来るかって、滅茶苦茶フラグになりそうな予感w
[一言] でも、姫ちゃん様以外で精霊特攻持ちの敵はまた出てきますよね?(超推理)
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