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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.4 異界の歌姫は号砲を謳う

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263.精神安定剤アイリウス

 まだまだあるから、もう少し称号を見ていこうか。誰にでも配られているようなものも増えているから、ちょっと飛ばし気味になるかもしれないけど。


「《クロスオーバー》。……待ってください、そんなの称号にするんですか」

「ネタにする気満々じゃないですか」

「愛されてるなあ、ルヴィアさん」


 「一部の双界人に平行世界の話を教える」だそうだ。それをネタにしてくる運営さんの胆力には感心するばかりである。

 目を奪われて順番が前後したけど、《ジャイアントキリング》なんてものもあった。「パーティ平均より10レベル上の敵を倒す」だけど、これは万葉防衛戦のクマさんかな。

 

「《フェイトチェンジャー》……ここまで見た中で二番目のレア称号ですね」

「お、なんかカッコよさそうだな」

「条件は?」

「『行動で運命を捻じ曲げる』としか書いてませんが……おそらく、想定外の行動をして後に起こるイベントの内容を変えることでしょうか」


 取得日時を見ると、《ヴォログ》近郊で《火燐》からフィアさんとセレニアさんを助けたときだった。あれで起こるはずだった二人の汚染がなくなった、とかなのかな。

 似たものとして、《人事を尽くして天命を待つ》が隣にあった。こちらは「取った行動によって、後に起こるイベントをよりよい形に変える」だから、たぶんエヴァさんに精霊水を渡した件だ。現に決戦時のエヴァさんは、プリムさんと違って汚染攻撃をしていなかった。


 《ギルドマスター》。そのまんまだね。称号としてのこれは、ギルドを解散したりマスターを交代しても残るらしい。

 《想装の絆****》、条件はそのまま「想装を取得する」。改めてみると、多いね、私の想装。今のところダンジョンの数もそのまま加算されているものね。

 《一本釣り!》。……うん、ネタ称号だ。初期はあまりなかったんだけど、思えば私自身のやっていることも少しずつおかしくなってきている。自覚はあるよ。

 《違う、そうじゃない》。同じくネタ称号で、こちらは「スキルを間違った使い方で役に立てる」。あれだね、《ガード》魔術での切断。


「《ゾーン》、《平和な情け》、《シュートチェイン》、《勝利の星》、《運動会MVP》……このあたりは運動会イベントですね。ちょっとところどころ物申したいところですが、スルーしておきましょう」


〈*運営:なんでさ〉

〈そういう反応するからだと思うよ〉

〈残当〉


 続いて《せいぜい足掻いてみせましょう》と《異能生存体》。それぞれ「単独でボスを一分以上足止めする」と「レベル表示不能な敵と戦って、双界人の助けを得ずに生還する」。どちらも《“砲撃竜” 暮奈》戦だ。まっとうな称号なんだけど、名前でネタをやりに来ている。

 《最終兵器来訪者》、「奥義を使用する」だね。さらに《VR青空レストラン》……なんかどんどんネーミングが怪しくなってきている。


 《仕掛け人》、《九精霊》。この二つはゲリライベントの限定称号だね。《十二神器》があった以上、案の定だ。

 《逃げない蛮勇》……えっと、「自分に特攻を持つ格上の敵から逃げない」。千歳姫さんの《特殊存在特攻》だ。これ、自分が戦わなくても取れるんだね。

 《ジェノサイド》。「一定時間内に50体以上の同じ敵を倒す」で、絜鉤の時のやつだ。いい経験値だったね、あれ。


「《唯装魂といっしょ》……これもわかりやすいですね」

「あれ、そういえばアイリウスちゃんはどこに?」

「本人が役に立ちたいって言うから、伯爵から今日のクエストの連絡を聞きに行ってもらってる」

「その手がありましたか!?」

「助かるなぁ、あの伯爵圧がヤバいし」


〈おお〉

〈えらい〉

〈アイリウスちゃんのおつかい〉

〈えらいなあの子〉

〈もう誰もヤンデレとか言わない〉

〈もっとヤンデレなもの見てるからな今〉


 ね、アイリウスは偉いんだ。あの子は色々なことができるし、頼んだことは基本的にこなしてくれる。しかも自分から学ぼうとする姿勢もいい。

 おかげで私もよく褒めるんだけど、その度に可愛い反応をするんだよね。ああいうところ、フリューとそっくりだ。


 あとは、《ダンジョン中毒**》。「一日に三つ以上のダンジョンを攻略する」だ。星二つは一日で五箇所クリアした証。こうして突きつけられると、ハロウィンの時に私が何をやらかしたかがよくわかるね。

 そして最新が、《信仰対象》。……いや、そうなんだけどさ。


「なんか、一気に現実に引き戻されましたね……」

「ね……」

「ルヴィアー! お使いは済ませてきたの!」

「アイリウス! ありがとう、本当に可愛いしいい子だなぁ……」

「?」






 ちょっと長く話したけど、アップデートに関してはこんなところだ。そろそろ今日の攻略に入ろうか。


「私たちがやらなければならないことは、まず街の解放。そしてこの街にあるというダンジョンの攻略です」

「経験則的にゃァ、解放条件がそのダンジョンになってそうだな」

「そうだね。結局そこは一致すると思うよ」


 おさらいだけど、最前線の街の解放条件はいくつかパターンがある。中でも特に多いのが、魔物からの防衛戦とキーダンジョン攻略のパターンだ。

 特に意味深なダンジョンが街の中、あるいは進行方向のすぐ近くにある場合は、そのダンジョンをキーとして攻略する展開が多い。おそらくは今回もこれだろう。


「となれば、実際にダンジョンに取りかかるには何をしなければならないのか、そしてそもそもダンジョンはどこにあるのかを突き止めるところからになります。片っ端から街クエストを進める段階ですね」

「というわけで、現時点での《内政組》の成果をまとめた資料がこちらになります」

「メイさん、そんなのいつの間に……」

「就活の終わった大学四年の暇さを舐めないでいただけると」

「つまりルヴィアの三年後の姿ってわけだな」


 そうだった、今年のこの人とカナタさんはけっこうな暇人だった。

 ブランさんの明星チャンネルは元々とんでもない自転車操業で、ブランさんと妹さんの二人で回していたのだ。しかしDCOに移ってからはどんどん伸びていて、DCOの異常な情報量もあって追いついていないから専業メンバーを増やすことにしたらしい。集まった六人で正式サービスから組んでいるのが今のパーティで、プラス裏方でやっているそうだ。

 中でもカナタさんとメイさんはまだ学生だから、正式加入は来年。今はまだ割と気ままにやっている。それが故の仕事の早さと。


 それはいいとして。


「ええっと……やっぱり精霊なしで拾える部分は網羅してある感じですね」

「はい。ハズレっぽいのは私が昼間のうちにいくつか潰しといたんですけど」

「それでも凄い量だね……」

「『これだけあって精霊待ちで時間あったから資料めっちゃ凝れて満足』だそうです。たくましいですねぇ」

「固まってやってたらいつまでかかるかわからないし、手分けしようか」


 さすがはお使い系とクエスト管理のプロである内政組。綺麗にチャート化された上で、精霊要求になったクエストを難易度と予測重要度までわかりやすくまとめてある。

 そこまでわかるなら重要そうなものだけやればいいのでは、とよく言われるんだけど、思い出してみてほしい、《モンテッキ》の悲劇を。DCOはちゃんと解放クエストを埋めておかないと、思わぬところから落とし穴が発生しかねない。


 というわけで、まずは“本筋ではなさそうだけど、後にまだ長く続きそうなクエスト”から埋める。どうやら全てのクエストに精霊が必須なわけではないようだから、止まっている精霊要求クエストさえ済ませればまた他のプレイヤーに任せられることがありうる。

 精霊が待たせたせいで精霊ばかり忙しい状況だけど、他の攻略勢、特に内政組は今は暇になっているからね。彼らにできるバトンタッチは先にやるのが効率的だ。




 というわけで。


「全てを精霊にしか進められないわけではないけど、精霊の一手間が必須というものから埋めます」

「ちょうど進めて待ってる来訪者がいるらしいの。さすがの手際なの」


〈お嬢のお悩み解決紀行だ〉

〈ナチュラルに飛んどる〉

〈飛んでるのはそのうち慣れるぞ〉

〈初見です。人間ってそんなに飛べるんですね〉


 私がずっと飛んでいるのにはいくつか理由がある。歩くより速いとか、普段から慣れているといざという時に動きやすいとか。

 初見さんには驚かれやすいんだけど……やっぱり多いね、初見さん。おととい思いっきりバズって以降、今も伸び続けているのだ。ごめんね、派手な戦闘の機会がないタイミングで。


 クエストの数に比して広さはそこそこ程度の街だから、すぐに到着する。ひとつめはお使いクエストの途中で、精霊の浄化が必要になったケースだ。

 そこまで進めていたパーティがこちらに手を振っているから、それに従って家の中に。浄化対象は……いた、ベッドの上の男性だ。彼しか知らない情報が必要なのだそうだけど、当人が汚染にやられて眠ってしまっている。


「うちの親父なんだが、魔物に噛まれちまってな。傷は治ったんだが、目覚めねえんだ。……精霊様、どうか頼む」

「ええ。お任せを」


 これまでの街でもよくあった浄化クエストなんだけど、他のところでは今は精霊必須ではない。軽いものなら聖水でも大丈夫だし、トップ勢の《治癒術》持ちは精霊以外でも浄化をできる。

 だけど、この街は特殊なようだ。精霊信仰の街のイベントらしいというか、精霊による浄化でないと効かないらしい。そもそも違う技能だから有り得ない話ではないけれど。

 実際に見てみると……なるほど。普通のものよりも、汚染が強くこびり付いている。治癒術の浄化はあまり綿密なものではなく、どちらかというと出力で吹き飛ばすイメージだから、こういう汚染には相性が悪いのかもしれない。


「…………」

「親父、なんとか頑張ってくれ……」


 だが、精霊の浄化は洗い流すイメージだ。燃費が悪く汚染の量には対応しづらいけど、このような頑固な汚染にはよく効く。

 思えば、二種類の浄化が存在するのだから差別化は起こりうることだ。そもそも治癒術浄化は精霊の負担軽減のために配られたものだけど、だからといって今回のようなケースが有り得ないわけではないということだね。


「……済みました。もう大丈夫かと」

「本当か!?」

「ええ。……目が覚めたようですね」

「…………っ、うう……」

「親父! ……ありがとう、精霊様……!」


 しきりに感謝してくる親子だったけど、似たような状態の人が他にもいると言うとすぐに送り出してくれた。後のことはここにいる内政組に任せていいだろう。






「……食べ歩きって、新鮮なんですよね。こっち(幻双界)では機会があるんですけど、向こう(リアル)ではしたことがありません」

「やっぱりお嬢様なの」


〈そうなのか……〉

〈育ちの良さ出てるな〉

〈夏祭りとか……〉

〈お前らお嬢の闘病歴思い出せ〉


 そう、そもそも中学までは日常生活が難しかったし、高校に上がってからも体力的に人が多いところは歩かなかった。夏祭りは行かないし、花火大会は家から見るだけ。当然街歩きで買い食いもしていない。

 しかしそんな食べ歩きも、DCOの中ではたまにしている。うちはマナーやら上品さにうるさい家でもないから、むしろ郷に入っては郷に従えだ。そもそも攻略プレイヤーの活動、店の中で食事なんて機会のほうがないし。


 今もそうだった。なにぶん精霊の浄化はSPを使うから、補充しないと足りないのはいつものことだ。それを見越してか、街のあちこちで料理人プレイヤーが出張屋台を出してくれている。

 こういう機会があればここぞとばかりに攻略に一枚噛もうとするのは、DCOの生産職の特色のひとつだ。内政組というプレイスタイルもあるくらいだし、『全てのプレイヤーが攻略に参加できる』というコンセプトがプレイヤーの意識単位で浸透しているのだろう。それが実際に貢献として計上されるのも大きそうだ。


 ちなみに精霊への補給所というだけでなく、一般プレイヤーや住民にも屋台料理を売っていた。これが大人気で行列もあったんだけど、目的を違えないためにか「精霊最優先!! ご理解を!」という張り紙があったから待たずに済んだ。余計にしっかりやらなきゃいけないと、気合いが入るばかりだ。




「さて、次ですが、二つ向こうの区画まで加護を届けに……」

「せ、精霊様っ!」


 さっそく次のクエストを、と思っていたところで、不意に横から声をかけられた。住民の、小さな女の子の声だ。

 切羽詰まった様子からして、何かのクエストフラグを踏んだだろうか。でも資料を見るに、このあたりにはポイントはないはずなんだけど……。


「どうしたの?」

「そ、そのっ、お兄ちゃんが、汚染でっ」

「……お兄ちゃんはどこにいるの?」

「わたしのおうち、二つあっちの通りなの」

「……そっか」


 ああ、読み違えていた。そうだ、この街で起こっているイベントの多くは、精霊にしか治せない汚染だ。当然ながら蝕まれている人は苦しいし、それを見ている方も辛い。……精霊が来ているという話を聞いて、街の中を探し回るくらいには。

 確かに効率的な攻略には適切な順序やルートがあるけど、それは必ずしも汚染を最優先しないもの。苦しんでいる住民を置いて、今すぐである必要はない加護を与えに行くようなものだった。


「『攻略本部にルヴィアより。予定を変更、五番通りの浄化に向かいます。三番通り南の加護の代替と、こちらのヘルプを』」

『こちら本部、配信見ています。倫理的判断を支持します、対応しますので向かってください』

「『了解』……じゃあ、行こっか。案内してくれる?」

「! うんっ」


 順序を入れ替えることにした。あちらを立てればこちらが立たないような切羽詰まった状況でもないし、ゲームはもっと直感的にやってもいいもののはずだ。ここは効率より感情を優先しよう。

 それにしても、倫理的判断か。……最初期からよく言われるけど、やっぱりDCOは倫理ゲームだね。

 不安で泣きそうになりながら勇気を出して呼び止めてきた小さな子は振り払えません。にんげんだもの るゔぃを

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『Dual Chronicle Online 〜幻双界巡りの物語帳〜』

身内による本作別視点です。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] あなた、精霊でしょ……。 いや、心(現実世界)は人間だけども……。
2022/11/24 12:31 通りすがりの人A
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