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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.4 異界の歌姫は号砲を謳う
259/473

251.お母さんのお腹の中に二人分の初々しさが置き去り

 お気付きでしょうか。今日は10月13日です。

 そして今日は10月13日です。

「新時代!」

「「「バーチャルアタック!!」」」


 ……いきなり何事かと思うかもしれないけど、今日は10月13日。ハロウィンイベントの翌日で、レギュラー出演しているバラエティ番組『新時代! バーチャルアタック!』の収録だ。

 一日に二回分収録するうちの一本目で、通算だと私不在の初回特番を合わせて6回目。スケジュールの都合で先々週の分の収録が前にずれていたから、三週間ぶりの収録だね。ホワエレ座談会の時以来だ。

 最初期だからこその基礎解説は徐々に減ってきて、バラエティらしい企画やトークも増え始めてくる頃だ。


 ……ちなみにタイトルコールのやり方は毎回違う。ノリと気分で変わるらしい。


「ありがたいことにですね、この番組の評判はかなりいいそうです。たくさんの声やお便り、ちゃんと届いてますよ」

「そんなファンレターのひとつに、こんなものがありました。『ルヴィアさんはドラマ出演を二本断ったとのことでしたが、その二本はどうなるのでしょうか。他にもVR部門の俳優さんはいらっしゃるのか、気になります』」

「というわけで今回は、VR俳優の卵大集合スペシャルー!」


 ここでカメラが、まずひな壇上段とARホログラムのレギュラーメンバーを軽く映す。タレントの上田優太(うえだゆうた)さん、アイドルグループ『いろは坂48』の郡司(ぐんじ)(あい)さん、元プロ野球選手の高橋文宏(たかはしふみひろ)さん、それにジュニアアイドルの天香ちゃんだ。ここに司会であるホワイトエレファントの大野さんと木下さん、講師役の明日ハルカさんと私でレギュラー陣となる。

 続いてゲスト。第二回では紫音と水波ちゃん、第四回では木崎さんと金坂さんが座っていた場所だけど……。


「今日のゲストはこちら!」

「女優の新条リリアです。今日はよろしくお願いします」

「VR女優の安倍(あべ)観鈴(みすず)と申します。……まさかデビュー前にバラエティ番組に出させていただけるとは思っていませんでしたが、精一杯やらせていただきます」

「ガチガチじゃん」

「ここは緩いバラエティなんだから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよー」


 リリアさんは自然体だ。とても芸歴半年とは思えない落ち着いた様子で座っている。彼女はたぶん、近い将来大物になるだろう。

 既に私との繋がりとVR方面での指導があるせいで、この番組との相性もいい上に以前より知名度が上がっている。これ以上は余計な尾ひれになるからと、紫音が公的な接触を断念したのが記憶に新しい。


 一方のもう一人、安倍観鈴さんは緊張気味。それもそのはず、彼女はデビュー作のクランクインすらまだなのだ。確か明後日だったかな、だからテレビ出演自体が初めて。がちがちになるのも仕方ないというものである。

 ……え、私の初出演時? ちょっと記憶にないなぁ。


「ルヴィアちゃん、確かこの二人が」

「はい。私がお話をいただいて、やむなくお断りさせていただいた二本のドラマに出演予定の女優さんです」

「へえ、リリアちゃんが。普通の女優のほうでも順調そうなのに」

「二刀流です。欲張ってみようと思いまして」

「ルヴィアさんに教えてもらってるんですよねっ」

「うん。同事務所のよしみで指導をお願いしようとしたら、なんか役のおまけ付きで快諾されて……」

「キャスティング……?」

「これが芸歴二ヶ月の風格か」


 や、それはね。監督さんに「代わりの候補を紹介してくれ」って泣きつかれていたから。実態はどちらかというと都合のいい生贄だ。

 もう一人も似たような流れだったんだけど……うん、本人がすっかりフリーズしてしまっている。私から助け舟を出そうか。


「観鈴さーん」

「ひゃいっ」

「落ち着いて。ロケすらまだだって言ったのに企画通したスタッフさんのせいなんだから、多少ミスしても大丈夫だよ」

「こらこら」

「カメラさん、ディレクターを抜かない。『犯人はこの人です』じゃなくて」


 乗ってくれたホワイトエレファントの二人のおかげで、少しは解れたかな。瞳は多少しっかりしたように見える。


「いやー、初々しいね。俺達にもあったわこんな頃」

「ですよね。懐かしいです」

「ルヴィアちゃんにはなかっただろ」

「なんならシオンちゃんにもなかったよね」

「一般人の頃にサプライズ通話生中継されて平然としてた子が寝言を……」


 よし、うまく誘導を……待って待って。なんで当たり前のようにあの時の映像を用意してるの? いや局は同じだけども。

 その映像をバックに、観鈴さんも落ち着いてきたところでカミングアウト。


「ところで観鈴さん、実は私と同級生でして。一昨年は同じクラスでした」

「「「「「え?」」」」」

「ええ。朱音さんとはそれなりの仲だったのですが、幼馴染のひとりと懇意で……その縁でここに」


 安倍観鈴。彼女は高校から編入してきた同級生で、深冬(クレハ)の友人だ。その縁で私とも連絡がついて、残っていたもう一つの出演枠を送り付けることになった。


 とはいえ、まだあまり仲を深められてはいなくて。そこはおいおい、具体的には今日から。

 というのも観鈴さん、


「それと、私は最近DCOも始めておりまして。O.A.の頃には周知されているかと」

「おお!?」

「配信もしていますからね。近日コラボ予定です」

「わかった、今日やれ。座談会やるから」


 そう。彼女、実はプレイヤーなんだよね。それもクレハのもとで鍛えられているから、始めたばかりといってもそれなりに強い。

 なんとあの精霊ゲリライベントにも参加していたという。さすがにレベル差で落ちていたそうだけど、ボス()戦までは生き残ったというから驚きだ。


 そのままフリートークパートの尺が足りて、おまけに次回の企画が「天香ちゃんのDCOロケ」に仮決定までしたから今日の収録はかなり手早く済んだ。残る企画やコーナーのパートはホワイトエレファントの二人もハルカさんも得意だから、さすがの手際だった。

 ……たぶん、早く座談会したかっただけだろう。人間の欲って……。








 そんなこんなで。


「よし、準備できたぞ」

「えぇー…………?」


 実はホワイトエレファントって愉悦部コンビなんだよね。たぶん手早すぎる準備に驚いている観鈴さんを見て楽しんでいるし、それを見るために急いだに違いない。

 今回は収録が予定時間の半分強で済んでしまったから、出演者全員のスケジュールが空いて全員集合だ。というか、あろうことかスタジオをそのまま座談会に使っている。


「スタッフさんも認めてるから」

「それ配信サイト分の追加パートが同時視聴で楽になったからですよ」

「観鈴さん、ダイブルームはこちらです」


 あまりにも全員がテキパキすぎて、観鈴さんだけ置いてけぼり。慌てて案内のスタッフさんについて……外から見ていた二人の付き添いと一緒に下がっていった。

 あの二人はマネージャーと、所属事務所のオーナーだね。といってもどちらも同級生だ。


「それじゃルヴィアちゃんも」

「はい。まだ配信告知から10分ですけどね!」

「HAHAHA」

「……アイリウス」

「はーいなの」

「あ、その子が」

「はい。……この子まわりのことについては、またテーマの回の時にでも」


 その時はアイリウスのことはエルヴィーラさんにでも預けるけどね。彼女たちに「AIが云々」という話は、気持ち的に聞かせたくないのだ。開発者によると問題はないらしいとはいえ。





〔ルヴィア / Ruvia DCOの配信が開始しました〕


「皆さんこんにちは。ゲリラです。今回はルヴィアとなります」

「逆なの逆なの」


〈びっくりしたぞ〉

〈待ってた〉

〈わこ間に合った〉

〈公式配信者ゲリラのルヴィア配信ですって?〉

〈待ってたニキはダウト〉

〈なんか三週間前みたいだな。座談会か?〉


 鋭いコメントがあった。さすがだ。人間数千人も集めれば、一人くらいは鋭いひとがいるものである。


「そう、今回も座談会となります。ちゃんと繋がってますよ、ほら」

『どーもー』

『聞こえてるー?』


〈ノリが高校生〉

〈マジで座談会か〉

〈ハルカおるゥ!?〉

〈ハルカそっちなん??〉


 今回はレギュラー全員いるからね。前回は不在だったハルカさんたちには特に反応か集まっている。

 だけど、あちらはただの観客。今回のゲストは……。


「ときに皆さん。《ミスティア》という名前をご存知でしょうか」


〈知ってる〉

〈知らない〉

〈うーん知らない〉

〈あのやべーやつら?〉

〈寡聞にして〉

〈クレハのとこで見た〉

〈お嬢しか追ってないから……〉


 意外と知名度が高かった。他の配信を見ていない人もそれなりにいる私のところで、ざっと4割くらいは知っているらしい。

 そして場を持たせるまでもなく、きっちり待ち人は現れた。


「今回はそんなミスティアさんとコラボです」

「よろしくお願いします」

「なんか安心感ありますね、最近のゲストは初手からテンションぶっ飛んだ人だらけだったので」


 このミスティアさんが観鈴さんのこちらでの姿だ。配信もやっていて、知名度のためともあってVR女優の卵と隠してもいないから、座談会とも相まって魂胆もすぐにバレた。

 ……いいのかなあ、一ヶ月近く先の回のテーマをバラすようなことして。でもスタッフさんが「配信してください」って言うんだよね。


 ただ、基本ソロでやっている私と違って、ミスティアさんは普段からパーティプレイをしている。

 といってもガチガチに固めているわけではなく、友人との三人組(スリーマンセル)だ。その残る二人が……。


「こちら、私の仲間です」

「どうも。私はラメル、錬金術師……では残念ながらないがね」

「ヒルデですわ。どうぞよろしく」


 ミスティアさんは宣伝も兼ねているとあって、現実ほぼそのまま。色は少し変えている私と違って、色合いもほとんどそのままの黒髪だ。

 そしてどことなく胡散臭そうな見た目をした茶色の狼獣人がラメルさん、儚げな色白少女の雰囲気をぶち壊す大剣持ちがヒルデさん。取り巻き二人、見た目だけで濃いね。

 濃いのが見た目だけならよかったんだけど……。


「そしておわかりの方もいるかとは思いますが、三人とも私の同期生です」

「ええ。クレハさんとはよく関わっていますから、それなりにご存知のことかと」

「それ自体はいいとして……ヒルデさん、視線が強いのですが」

「あら、失礼。私としたことが」

「あの、隠す気あります?」

「…………どーせほぼバレてるもの」


 どうしてこうなったんだろうなぁ、この子。

 ラメルさんのほうはいい。彼女はミスティア(観鈴)さんの幼馴染で、マネージャー見習いというだけだ。かなり変人ではあるんだけど、今日はいいやそれは。

 問題はヒルデさんの方。彼女とは私にもちょっとした関係があるというか……。


「えー、彼女を知らない皆さん。このヒルデさんにはちょっとしたあだ名がありまして」

「まだ意地を張るのかい、タチバナントカさん?」

「ああああああっ!? 言った!? よりによって朱音さんの配信の前でそれ言ったわねラメル!?」


〈あだ名って?〉

〈ああ!〉

〈タチバナントカ?〉

〈まあそうなるな〉

〈これはミリも隠せてない橘さんが悪いやろ〉

〈濃いなーまた〉


 これまで一応申し訳程度に公表してはいなかったようなんだけど、ヒルデさんのリアルはほぼ割れている。何しろ彼女、「観鈴さんの事務所のオーナー」と思いっきり口を滑らせかけたことがあるから。

 そうなれば公式サイトにすら名前があるもので、ほぼ公然の秘密となっていた彼女の名は(たちばな)麗來(れいら)。実際のところは肩書き上は副オーナーで……私にとっては知人というか、腐れ縁である。


「まあいいもん……どーせもうバレてたし? 別に困るものでもないし?」

「むしろ配信でポンを晒してから好感度上がってるからね」

「ラメル? それ以上囀ったらその口を縫い付けるわよ?」

「はっはっはっは」


 彼女の家が舵取りしている『シトラスグループ』は、九鬼(うち)と同程度の規模を持つコングロマリットだ。その娘同士が同い年ともあって、昔はよく対抗心を燃やされたりもした。どうして紫音じゃなくて病弱な私に、とよく思ったものだ。

 ……が、今となっては九鬼と橘は割と仲がいい。麗來さんが私に向けてくる表情も、どこか様子をうかがうようなものになっている。

 自惚れでなければ、私と仲良くなりたいんだろうね。高校で同級生になった3年前くらいに麗來さんの進言で九鬼との関係が改善したのも、危うく九鬼の縄張りになりそうだったVR女優に麗來さんがいち早く手を出したのも、なんとなくそう見える。

 ちなみに九鬼としては一貫して歓迎の姿勢だ。そこには私の父のちょっとした狙いがあるのだけど。


 だから私としても、ヒルデ(麗來)さんとは近づきたいんだけど……。


「悪いね、ルヴィアくん。コレはこの通り、ちょっとカリスマブレイクモードに入ってて」

「ヒルデさん? ラメルにまともに気を遣わせるなんて、大概ですよ……?」

「だって……ぜったいしっぱいした……」


 どうしようね、アレ。普段は完璧令嬢そのもので、あんな風にポンコツを丸出しにするのは稀なはずなんだけど。

 ちなみに美音お母さんはあれで昔デビューの時に凄まじく初々しい映像が残っているので、先に使ってしまったせいで娘たちの分が残ってなかった説が有力。


  質問回答コーナー⑤

Q.Dual Chronicle Online のプレイ人口、圏外組の人数はそれぞれどのくらいなのでしょうか?


A.アクティブユーザー数で、だいたい70万人くらいですね。……売上本数だとどうだろう、実は私、このあたりのリアルな数字をあまり知らなくて。とはいえ始まったばかりな上に今流行りのゲームなので、全くの新ジャンルで気後れが根強い点も含めてもかなり売れています。特に観光プレイヤー(本編ほぼノータッチ・アクティブには数えられていない)がかなりいるので、200万本は突破していることでしょう。

では圏外組はというと、まだ5000人もいません。あれだけ後続に優しい仕様になっていてもこうなるくらい、上位勢まで到達するのは難しいわけですね。そしてだからこそ、みんな後続育成に励んでいるわけです。


(※今回はいつもより雑な推測で数字を出しています。なるべくないようにはしますが、やむにやまれぬ理由があった場合は後々変わる可能性がありますので、ご留意くださいませ)

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

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