表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.3 魔物も妖怪もいる世界でハロウィンをやったら
257/473

249.主人公がただ主人公ムーブするだけ

 お ま た せ

○“クイーンローパー” 天城架純 Lv.70


属性:水

状態:手加減





○黒い仔山羊 Lv.65


属性:闇

状態:HP共有





 不穏なイベントのボスとして意味深な登場の仕方をした割には、架純さんは静かな立ち上がりを見せていた。まずは本体は何もせず、眷属か何からしい黒山羊をけしかけてくるだけだ。

 この黒山羊も強いとはいえ凄まじい存在ではなく、圏外組でも充分に対処可能な代物。力試しと明言しているだけあって、ずいぶん良心的だ。


 ……数以外は。


「多すぎんだろォ!!!」

「そこの運営! 六人パーティに含まれるプレイヤーの数は六人だぜ!」

「単純に手が足りねェんだよ!!」

「トップ組! 四頭ずつ抱えろ!」

「無茶言うなこんにゃろ!!!」


 あれだよね。このゲーム、数の暴力でゴリ押しすること多いよね。

 たぶん攻略を楽しめるプレイヤーを増やすための方策だ。そこそこ強い敵を大量に出せば、一頭ずつなら中堅勢でも一応なんとかなる。一方のトッププレイヤーは二頭以上を同時に相手できて、そこで貢献度の差別化が可能という寸法である。


 ただね、何事にも限度というものはあって。単純にボスエリアを訪れているプレイヤーの総数に対する黒山羊の数がおかしい。だって明らかに向こうの方が多いもの、私たちユニオン組んできたのに。

 それが多少の猶予こそあれ雪崩込んできているから、とにかく倒す速度を維持しないと飲み込まれてしまうのだ。

 中堅勢はおおよそ一パーティで一頭を相手できている程度のエネミーではあるんだけどね。圏外組はパーティごとに二頭、トップ組は三頭くらい止めないと間に合わないし、それでもかなり怪しい。


「人外組ィ! マジヤバだから五頭!!」

「ほざけェ!!!!!」

「雑魚でもやらないよ五頭は!」

「四頭でも死にそうなんだがァ〜〜??」

「喋れてるならもう一頭ずついけますね!」

「おい嘘だろあいつ一人で三頭抱えてんぞ!?」


〈草〉

〈地獄絵図じゃん〉

〈忙しすぎてわけわからん〉

〈めちゃくちゃおもろいわ〉

〈おなかいたい〉

〈フロルちゃんおかしくね〜〜〜?〉


 基本的にこのゲームでは、一度に戦う敵はフルパーティで四頭までという形に暗になっている。適正レベル帯の場所では五頭以上で固まってくることはない。

 だけどここでは、仮にもレベル65という圏外ダンジョンより強い敵がとんでもない勢いで溢れてくるのだ。それこそ最前線のトップ陣はパーティごとに四頭抱えても足りないくらい。


 そんな中だからか、次々に人外たちが目覚めた。ツル一本ごとに一頭を足止めし始めたフロルちゃんを筆頭に、特にソロ能力に長けたトッププレイヤーたちが一人で三頭を抱えて倒す荒業に出たのだ。

 ブランさんが大剣とは思えない三連撃をそれぞれ別の個体に当て、イシュカさんが三並行詠唱を全て急所に叩き込み、クレハが刀と《八卦》と足で別の山羊に同時攻撃している。もうどこを切っても絵面がファンタジーだ。


「《トリプル・ポップフルーツ》……なんなんですかあの人たち!」

「「「「「お前もだよ!!!!!」」」」」


〈〈〈〈〈お前もだよ!!!!!〉〉〉〉〉


 よかった、まだみんな元気みたいだね。私も三頭くらいならなんとかするから、みんなで頑張ろう。






「それにしてもキツいですね」

「それルヴィアが言うの?」

「まだ余裕ありそう」

「もう一頭は無理!」

「三頭抱えてる時点でおかしい? おかしいわよ?」


〈はいブーメラン〉

〈お前らも言うな〉

〈タンクと純魔とヒーラー一人ずつで四頭抱えてる…………?〉

〈なーにが四頭でも死にそうだ人外共!!〉


 しばらくやっていると、だんだんみんな慣れてきた。トップ勢はパーティごとに五〜六頭くらい普通に抱えられるようになってきたし、圏外組も三頭くらいなら持てるようになりつつある。火事場の馬鹿力というやつだろう。

 成長しつつあるというか、私たちの限界がこれまでの慣例より上のところにあったのだろう。ずっと一パーティごとに魔物は四体と言われてきたけど、もっといける人たちもいるという。


 私はというと、さすがに三頭が限界。これは他の人外たちも同じで、これ以上は手が追いつかない。

 ……ああ、そうだ。アレを試してみようか。




「ミカン」

「うん。重点的にサポートいくよ」

「お願い、アイリウス!」

「任せるの!!」


〈キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!〉

〈アイリウスたそ!!〉

〈絶対面白いぞ!〉

〈剣が動いてるゥ!?〉


 《カースドソード・スピリット》に進化した私たちの特徴のひとつ、自我を持つアイリウスによる《二魂一体》。普段出ている化身が中に入ったアイリウスが私の手を離れて、勢いよく飛び出しながら斬撃を叩き込む。

 私が振った時ほどの威力は出ていないけど……なんか思っていたより火力が高い。というか、物理的に力が乗っていないはずなのになんであんなに斬れるんだろう。


「……あ、もしかして《魔撃》のせい?」

「その通りなの!」


 そして気付いた。よく考えたら私、普段からSTR(筋肉)で剣を振っていないのだ。《魔撃》でINT(魔力)を使っているから、物理的な威力がなくても魔力でカバーできるのかもしれない。

 おかげでアイリウス、当たり前のように剣だけで二頭を相手にしている。回避や受け流しも勝手にやってくれるから、その分楽でいいね。




 思っていたよりも実用的だと判明したソードビットだけど、一方でその間は私のもとに剣がないという代償も存在する。だから、進化とともに取得したあのスキルの見せ場だ。

 残り一頭の黒山羊が襲ってくるのに備えて、無手の右腕を掲げて、スキル発動。


「《ソードガード》、()()()()!」


〈おお!!!〉

〈wwwwww〉

〈やっべこれ〉

〈これノーダメなんだよな〉

〈やっぱこのスキルヤバいって〉


 《カースドソード》専用スキル、《ソードガード》。自分の体の任意の箇所を剣として扱って、硬質化した状態で《パリィ》を発動できる。ただし私はロンググローブをつけているから、ぎりぎり生身ではない。……このスキルはどうやら装備の上からかかるようだ。

 もちろんパリィと同じ判定で、決まればノーダメージだ。失敗すれば本来武器にかかる分のダメージが追加で入るけど、《セーフティパリィ》以上で成功させればなんの問題もない。


 ちなみにこのスキル、硬質化の副産物として意識するだけで腕や脚以外への物理ダメージも減少するらしい。意識的にジャストガードをする必要がある上に、アームブレイク属性持ちの攻撃には被ダメージが増えるデメリットはあるけれど。

 本番で実運用したのは今が初めてなんだけど……。


「このスキル強いですね!」

「ああっ、ルヴィアがまた一歩人間から離れた!」


〈今更だろ〉

〈とっくに人間やめてるしな〉

〈むしろ人間要素残ってたか?〉

〈こいつ神だから〉

〈何言ってんだミカンちゃん〉

〈てかミカンちゃんも人間要素ないだろ〉


 あまりにも散々な言われようだけど、私自身このスキルが人間を卒業しかけたものだという自覚はあった。そのくらい強いし、見た目的にも凄まじいのだ。

 だって、傍から見たら生身の人間が腕で攻撃を弾いているんだよ? 完全にファンタジーだし、なぜか刃物も銃弾も効かないタイプの人外だ。


「よし、もう一頭もらいますね!」

「うぇぁ!?」

「お嬢が四頭抱えたァ!?」

「えっ」

「負けてられない……けどいけるかこれ!?」

「無理無理無理無理カタツムリ!!」

「ツル一本足りないよー!」


〈まあそうなるな〉

〈さす嬢〉

〈wwwwwwwwwwwwwww〉

〈なぜなら腕は二本あるから〉

〈はーおもろ〉


 問題なくやれると把握した私は、黒山羊を一頭追加で抱えた。これでアイリウスと合わせて四頭だ。

 アイリウスは平然と二頭を翻弄しながら削っているし、私も一頭の対応は右腕だけでできている。つまり私の左腕が余っていたから、そちらも使えば可能なのだ。


 そう、これも《ソードガード》の強い要素。実際の剣は一本しかなくても、腕なら二本あるのだ。……当たり前のことを言っているようだけど、つまり防御の時だけ二本の剣を使えるということ。

 右腕でパリィしながら、左腕でもパリィする。そして同時に唱える魔術でまとめて反撃する。これで立ち回りが成立してしまう。


「《トリプル・シードプロード》!!」

「ルヴィア、こっちも終わったの!」


〈*運営:誰か奴を止めろ!!〉

〈無理です!〉

〈無茶言うな!!〉

〈あんなの止められるわけなくね?〉

〈こんな奴と同じ配信にいられるか! 俺は部屋に帰るぞ!!〉


 あとは魔術でサクッと仕留めて終わり。倍にこそなっていたけど、大まかな立ち回りは《魔撃》習得前と同じだ。剣の代わりに腕を使っているだけで。

 そしてその間にアイリウスも二頭を倒していた。《魔撃》の火力に加えて、どうやら途中から踏ん張りが弱くても済む突きを多用したらしい。賢い子だった。


 なんか運営さんは焦っているけど、私は楽しくなってきた。この調子でどんどん倒していこう。みんな、ついてきて!






 しかしそんな順風満帆な状態は長く続かなかった。誰とも交戦していない黒山羊がいなくなったタイミングで、さらなる動きがあったのだ。


「へえ、なかなかやりますねぇ? それなら」


 得心顔で頷く架純さんに、一同が何事かと身構えると。

 どういうわけなのか、()()()()()()()


「これも耐えてみてもらえますかぁ?」

「うっそだろお前!?」

「最近のボスは火山まで操るのか」


 どうやら彼女、ここの火山を任意に噴火させられるらしい。原理も何も、クイーンローパー(触手女王)が火山を操れる意味も何もかもわからないけど、今はそういうものだと理解するしかない。

 そもそも問題はこの攻撃の原理なんかではなくて、戦闘中にすぐ近くで噴火した火山への対処だ。


「上から来るぞ! 気をつけろ!」

「言ってる場合か!」

「合ってるじゃねーか!」

「いいから対処しろォ!!」


 とはいえ、ここはゲームの中。突破が前提となっている場面である以上、天災が相手でも対応策は用意されている。

 …………力業である。降ってくる火山岩塊を避ける、という。


「単に回避ゲーが増えただけだった!」

「トップ勢の多い前線の方が降ってくる量が多いんだが!?」

「そらそうよ」

「俺たちのことなんだと思ってんだ運営ァ!!」


〈*運営:大抵のことはやっても耐えてくれる人外集団〉

〈草〉

〈草〉

〈草〉

〈そういうとこやぞ〉


 運営さん、イキイキしている。まあ彼らはイベントの度にこうなるけど。これだから愉悦民は……。


 とはいえ、思っていたほどの脅威ではないかな。火山灰にはダメージ判定がないし、小石程度の火山礫は避けようがない代わりにダメージも無視できる程度のもの。溶岩が流れてきたりはしないから、時々飛んでくる大きめの石を避けるだけだ。

 しかも面白いのが、このダメージはステージギミック扱いであるところ。つまり、敵にもダメージが入るんだよね。さすがに架純さんは頑丈そうな傘を差しているけど、黒山羊には普通にダメージが蓄積している。


「つまり、こういうことですね」

「ギャゥッ」

「まーーーーーたお嬢がなんかやってるよ!」

「落下点誘導!?」

「演算能力おかしいって」

「人間の頭にスパコン載せちゃいけません!」


〈*運営:あのさあ?〉

〈wwwwwwwwwwwwww〉

〈【お嬢】お嬢、お嬢【お嬢】〉

〈ほんまこいつ……〉

〈これがお嬢だ!!〉


 敵味方を問わないダメージ系のステージギミックがあって、敵が俊敏な時。少しでも効率的にダメージを与えるには?

 そのギミックに当たるよう誘導しながら戦えばいいのだ。あえてギリギリで避けて深入りさせて、そこから私がタイミングよく避ける。黒山羊には岩塊を咄嗟に避けるほどの性能が備わっていないようだから、うまくやれば当たるのだ。


 …………あ、うん。ごめん引かないで。悪いとは思ってるから。普段はすっとぼけたりするけど、さすがに自分の何が普通じゃないかくらいはわかってるから。

 みんなこういうの好きでしょ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] お嬢なら「天地魔闘の構え」っぽいことが出来そう。
[一言] ソードガードの時に「体は剣でできている・・・」とか言いたくなる。剣は射出できないけど
[気になる点] 体は剣でできている(ガチ)なら手刀とかでも魔撃が乗る? [一言] 飛行系を混ぜれば足でもパリィできそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ