24.世の中って世知辛いですね
「ソラ、続きは後でな。敵のお出ましだ」
アークさん、《索敵》スキルもかなり上げているようだ。ソロ中心で上げざるを得ない私と気づくのがほぼ同時だった。
気を取り直して前を見ると、第一層でも見たからくり人形が二体。それに加えて、奥にはそれらへ伸びる糸を持った人型の影がひとつ。
傀儡師の影 Lv.16
属性:闇
状態:正常
「操り手がいるのか……」
「アレは厄介そうですね。まずは慎重に行きます」
薄々わかってきたんだけど、状態が汚染となるのは元々は自然な状態であったものだけのようだ。人形は汚染状態だが、影のほうは正常。つまりあの影はそもそも汚染の影響で現れたモノで、本来は存在していなかったということだ。
今のところ影響のないステータスではあるけど、いずれ影響が出てくる可能性は高い。覚えておくに越したことはないか。
「……っ!」
〈お?〉
〈反応が全然違うぞ〉
「普通に重いですね。一層とは全くの別物です」
「やっぱりっスか」
予想はしていたが、操り手がいるだけでほとんど別の敵だ。挙動もいくぶん洗練されていて、よりPvPに近い感覚。
とはいえ、わかってさえしまえばこちらのものだ。私には対処法が見えるし、アークさんには掛けるべき術がわかる。
「《ディクリースアタック》」
「助かります。次は隙を作るので、ソラさん」
「はい」
アークさんが両方の人形に対して物理攻撃力減少のデバフ。マルチターゲットは高等技術のはずだけど、さすがは前線クエスト参加プレイヤー。まったく淀みない。
とはいえ、私は想定より守りを優先すべきだろう。幸い、この場にはもう一人アタッカーがいる。
「よし間に合った、《ディクリーススピード》!」
「ちょっと邪魔。 ……ここです!」
〈恒例行事〉
〈2回目=確定演出〉
〈「ちょっと邪魔」で敵を弾き飛ばす系ガール〉
片方の人形をどかして、デバフで出遅れた方を弾いて隙を作る。すかさず懐に潜り込んだソラさんに任せて、次の防御に備えていると……。
「もらった……っ!」
〈は?〉
〈おおっ!?〉
〈草〉
ひしゃげるような音をさせて、ものすごい勢いで人形が吹っ飛んだ。すぐ後方が丁字路だったから止まったけど、直線だったら傀儡師ごと飛んでいたかもしれない。
糸から魔力が送られるような演出があって、傷が少しずつ修復される。……が、ソラさんが与えた傷が大きすぎて、しばらくは使い物になりそうもない。
「ソラはかなり守りが弱いけど、火力だけならトップクラスっスからね」
「もうトップ火力こんなことになってるんですか!?」
〈やべえ〉
〈とんでもないのが出てきたぞ〉
〈やべーやつしか出ないチャンネル〉
〈並の奴が下手に出たら恥かきそう〉
いくらタンクやサポート必須といっても、ここまでの超火力があるのならお釣りがくるだろう。そう思えるほどの光景だ。現に向こう、ぶつかった壁の方もひび割れている。
…………うん?
……とにかく、こうなってしまえば随分楽だ。今のうちにもう片方を倒して、傀儡師もそのまま叩いてしまおう。
というわけで、元気な方の人形をロックオン。
「どこを弾けばいいかわかりやすい分、実は獣系より楽……っと」
「よしきた、《ディクリースディフェンス》!」
〈なんで三回目で完璧なん〉
〈もうデバフすら要らないのかよ〉
〈ほんと慣れるの早いな〉
人形のモーションを確認して、どこからどの方向に力が入っているかを分析。ほぼ人間と同じように動いていると判断して、それを挫きながら流すように弾く。
胸元ががら空きになった人形に防御デバフが入り、ジャストタイミングで潜り込むソラさん。
「そこッ!!」
あたかもリプレイ映像のように、二体目の人形も一撃で軽々と吹き飛んだ。
「……意外と、楽でしたね」
「ソラさんが初手で連携を粉砕していなければ、もう少し難しかったと思いますよ……?」
「各個撃破ができたのはデカかったっスね」
相互に連携してくるからこその難敵なのだろうが、一撃で吹き飛ばしてしまえばその特性も水の泡。ちょっと理不尽なほどのギミック破壊になってしまったが、これで正攻法なのだから処置がない。
敵に苦戦さえしなければ、ただの宝探しゲーム。かなり楽な攻略になりそうだ。
しかもその宝、目の前にあるし。
『ルヴィアさん、鍵の在り処がわかりました。そこからすぐ近く、というかちょうどその辺りです』
「ええ、わかってますよ。……それを聞く前に、壁、突き破ってしまったので」
『……はい。見ていました』
その在り処というのが、ここ。ついさっきソラさんが人形を当てて壊した壁の裏だ。
まあ、察していたことではあった。第一層で確認した通り、ダンジョンの地形は破壊不可なのだ。それなのに、ここは壁が壊れた。
そうなれば想像は難くない。「ああ、ここに鍵があるんだろうな」と。
「……ありましたね」
「あったっスねぇ」
〈草〉
〈草〉
〈漫画みたいなことしてんな〉
「なんか、ごめんなさい……」
「配信的には面白いのでむしろOKです」
そんなこんなで鍵を回収。第一層攻略で学ばれていた全滅ケアのため、一旦セーフティまで戻ることとなった。
ちなみにこの鍵、死んだら確定ドロップ。全滅したらその場に残るものの、そのプレイヤーを倒した敵が守り続けるそうな。
……試した人がいたらしい。世の中はいつだって酔狂だ。
気を取り直して再出撃。
先ほども触れたように、ダンジョンの壁は本来は破壊不可。何も気に病むことはなかったのだから、ソラさんにはガンガン人形を吹き飛ばしてもらっている。私は守るだけでいいから、実のところいつもより楽だ。
薄々感じてはいたのだけれど、ソラさんは戦闘になると人が変わるタイプらしい。内気で引っ込み思案な子だと思っていたら、敵に対してだけ鬼という種族に見合った顔つきを向ける。
本番に強い人って、こんな感じなのだろうか。私からすれば撮れ高的に大歓迎だけど。
「それにしても、私に寄ってくるプレイヤーって若そうな方ばかりなんですよね。社会人っぽい人が少ないというか」
〈お嬢がキラキラしてるからなぁ〉
〈おじさん達には眩しいんだよ〉
〈遠くから見守るくらいがちょうどいいんだ〉
「こういう時だけ年寄りぶりますよね。もっと寄ってきてくださいよ」
「難しいと思うっスよ。俺もソラがそわそわしてなければ近寄る気なかったっスし」
「……アークさん、私と二つしか違わないのに」
とはいえ、わからなくはないのだ。私の配信は早くもVtuberと近い扱いになってきた節がある。背景の非現実性も相まって、良くも悪くも「画面の向こうの出来事」。自分たちと同じ世界ではなく、夢を見る場所になっている。
「異世界に行ける」ものであるVRMMOでこの現象が起こるのは皮肉だが、そういうものなのかもしれない。現実とはかくも世知辛い。
……話題を変えよう。
「今更なんですけど、アークさんとソラさんってどんな関係なんですか? 四つ差ってことは、学校の先輩後輩ではないですよね」
これは最初から気になっていたことだ。部活か何かの関係かと思っていたのだが、この年齢差ではそれはない。
「……兄さんの、幼馴染なんです」
「なるほど。では、小さい頃から」
「そっスね。たまに三人で遊んだりはしてました」
仲のいい兄妹のようだ。ソラさんの頬が少し緩んだのが見えた。その経由で幼少期から顔を合わせていたのなら、今の二人の仲もうなずける。……いや、引き合わせた身ともなれば複雑だろうか?
しかし、となればそのお兄さんは……。
「ベータへの応募も三人で?」
「兄さんだけ、落ちました」
「ああ、やっぱり……」
とはいえ、むしろ二人も当たった時点でかなりの豪運だ。一人でも当たれば大ラッキー、という倍率だったのだから。
そうとはわかっていても、一人だけ落ちたとなれば哀愁は感じてしまうものだ。
「でも、お二人の気持ちは伝わりますよ。……お兄さん、正式サービスが始まったらお二人のこと、守ってあげてくださいね」
リアル達人級にゲームのSTRを与えるとこうなる。正拳突きは映えますよね。
ちなみにお兄さんはちゃんと出てきます。50話くらい後に。
次回は月曜日、次のクエストへ向かいます。あのキャラたちの再登場も……?
さて、恒例の謝辞を。昨日の夜、自己最高の日間4位をマークしました。そして通算100000PVに到達! いつもありがとうございます!!
そしてブックマーク、更新通知、評価点の3点セット、まだの方はぜひ。感想もいただけたら作者は自室で五体投地します。きっと。