230.剣とドレスと被告人
というわけで、素直な方向性ながらも嬉しい強化が立て続けに入った。特に《ソードガード》は新しいことがたくさんできそうで楽しみだ。
ちょっと特殊な例かもしれないけど、これが第二進化の基準になる……かもしれない。そのあたりがわかってくるのは、アズキちゃんから《バーヴァン・シー・スピリット》の詳細が公表されてからだけど。
ただ、これだけではない。
「よく見たらアイリウスの二つ名も変わってますね」
「よく気づいたの! そうなの、わたしも進化したの!」
「これも含めて今回の進化ということで、こちらも見てみましょう」
○薄明の徨魔剣・アイリウス
分類:武器
スキル:《魔剣術》、《ソードガード》、《魔術》、《巫術》
属性:幻
品質:Epic
性質:《唯装魂》、《魔装》、《不壊》、プレイヤーレベル連動、《迷核》、《二魂一体》
所持者:薄明の魔剣精・ルヴィア
宝石:妖桜魂
状態:正常、同化
JUD+15(+19)、MATK+75(+37)、MDEF+0(+12)
MPリジェネ+40
・自らの空間で力を得て完全に持ち主と一体化し、一対で同一存在となったことで本性を現した創世期の魔剣。もはや呪縛ともいうべき力と性質は半身の種族すら捕らえ、無限に存在した可能性を彼女の意思の中に限定してしまっている。
○固有能力:《虹の鏡》、《虹の魔術》
……うん、なんかあるね。
気になるものが追加されているけど、その前に。
「アイリウス、フレーバーテキストにけっこうネガティブなこと書かれてるけど大丈夫?」
「大丈夫なの。意地悪な書き方になってるだけで、なんにも変わってないし害もないの!」
〈ほんとぉ?〉
〈呪われてんじゃん〉
〈かわいい呪縛だ〉
〈呪縛=プチヤンデレ〉
〈開き直り方が人外思考だなぁ〉
まあ、そう言ってしまえばそうだ。ちょっと人間離れした考え方ではあるけど、別に呪われていようがそれを含めて操り切れてしまえば問題ないともいえる。それに、害はないからそれでいい、というのも事実だ。
あとはコウマケンの「コウ」が彷徨うの字に変わっているけど、本人(本剣?)は気にしている様子はない。どのあたりに彷徨う要素があるのかはわからないけど、ネガティブな字面の方が魔剣っぽさはあるね。意味はもしあるならいずれわかるだろう。
まあ本人が気にしてないことはいいとして、気になるのは二つ。
《唯装魂》
唯装に魂が宿り、それが開花して自我を持つようになった存在。唯装の性質を全て併せ持ち、テレパシーや仮想体の実体化による対外的な意思疎通が可能。
持ち主に大切にされて非常によく懐いた唯装がこうなることがあり、持ち主が求めた行動を取りたがる性質がある。《エルヴィーラ》か《綾鳴》に引き合せることで、現実世界にも連れて行けるようになる。
なるほど、まさに今のアイリウスというわけだ。他の唯装もこうなる可能性はあるんだね。条件は相棒を大事にすること……はっきり言われるとちょっと恥ずかしいし、まさに《カースドソード・スピリット》のような第二進化を求めていた私に応えてくれたことも照れくさいけど。
本来は連れていくには特定の人物に引き合わせないといけないけど、アイリウスの場合はその「特定の人物」があまりにも近くにいすぎたわけだ。実体化してから私がログインするまでに、持ち主不在のまま二人で接触してしまっていたらしい。
もっとも、私は公式配信者として、特殊なテスターのような立場を兼ねている。仮に未接触だったとしても、エルヴィーラさんに頼みに行っていただろうから変わらないけどね。
こちらはわかっていたからいいとして、もうひとつはというと。
《二魂一体》
自我を持った武器の特権ともいえる、自律機動による別行動。武器が自発的に行動し、攻撃や防御を行うことができる。
ただし、武器が受けたダメージは半分を持ち主が受ける。自律行動中に持ち主のHPが0になった場合、自動的に持ち主のもとへ戻る。
…………わぁお。
「アイリウス、自分だけで攻撃しに行けるようになったの?」
「そうなの! 褒めてほしいの!」
「うちの魔剣が有能すぎる……」
〈こマ?〉
〈やっば〉
〈本格的にバケモンでは〉
〈とんでもないことですよこれは〉
〈でもお嬢の場合……〉
〈『一見ぶっ壊れだけど意外と良調整』臭すごいな〉
剣だけが自分で攻撃しに行くことができる。しかも装備状態は有効なままだから、それに合わせて私は魔術を撃つこともできるわけだ。アイリウスが受けたダメージを私も受けるから脆くはなるけど、戦闘の自由度は大きく上がる。
ただ、私は元々両立ができていた。楽にこそなるものの最大火力はそう大きくは変わらないし、実は見た目ほど万能ではない。
それに、そもそも冷静に考えれば、普通は扱いづらい効果だ。大抵の近接武器は持ち主が使うのだから自律機動したらプレイヤーが暇になるし、魔術媒体は単体で動いたところであまり意味はない。大きな恩恵にあずかれるのは私のようにマルチタスクが存在したスタイルのプレイヤーだけで、基本的には楽な場面で使われるフレーバー要素だろう。
「ところで、ずっと聞きたかったんだけど最後にいい?」
「なんなの?」
質問に対して可愛らしく小首を傾げるアイリウス。……だけどさ、ひとつ気になることがあるんだよね。
「つい昨日、精霊はほかの種族に付属する追加要素のようなものって話をしてたよね」
「そうなの。わたしも聞いてたの」
「アイリウス、エルフどこやった?」
「……君のような勘のいいルヴィアは大好きなの」
私の新種族は「カースドソード・スピリット」。昨日の話に反して、明らかに私の元々の種族であるエルフの要素がないのだ。
どこで知ったのか……なんかコメント欄で出たことがある気はするけど定番の返しをしたアイリウスによると、《カースドソード》は全種族から進化可能でエルフに限らないらしい。そして狐獣人以外では今のところ《仙人》で統一になるように、元の種族要素はあるものの名前欄には残らないと。
まあもしかしたらこの子、エルフにすら嫉妬して独占欲を働かせたのかもしれないけど。だって、なんかフレーバーテキストにそんな感じのこと書いてあるし。
◆◇◆◇◆
というわけで。
「かくかくしかじかなので、これの染め直しをお願いできますか?」
「ルーヴィーアーさーんっ、はーなーしーてー!」
今日は元々ぶらぶらするつもりだったんだけど、この突発進化を受け止めるにあたって思いついたことがあった。
ダンジョンから昼王都へ降り、やってきたのは《メイカーズ工芸館》。お願いするのは私の衣装である《ヴェスティート・シンフォニア》の仕立て直しだ。といっても性能にも形にも文句ひとつないから、実際にやるのは色の変化だけ。
ちなみに本当に「かくかくしかじか」としか言っていない。それで通じたのは、ホーネッツさんが私の配信を見ていたからだ。
今の《ヴェスティート・シンフォニア》は、昨日までの明るい要素の強かった私に合っていた淡めの朱色だ。これもなかなかお気に入りの色だったんだけど、進化によってダークな成分が強くなった今の私にはちょっと明るすぎる。
「本当にいいの? いえ、その方が似合いそうなのは私にもわかるけど」
「ええ。……なにしろ、今の私は《カースドソード・スピリット》ですから。アイリウスに合わせてあげたいんです」
「んっへへー……ルヴィア、嬉しいの!」
「わあかわいい……じゃなくて、ルーヴィーアーさーーーん!?!?」
こういうのは形から入るべきというか、せっかく闇堕ちみたいなおいしい容姿になっているのだから、これも楽しみたいというか。仮にも私自身までどこか呪われたような見た目をしておきながら、似合わなくなったドレスを綺麗なまま着ているのは違和感があるのだ。
こういう堕ちたお姫様って、すっかりくすんで暗い色になってしまったドレスを着続けて、元を知っている勇者に絶望感を表現するものでしょう?
「わかった、ちょっと待ってて。コンセプトは『呪いの剣に冒されて血塗られてしまったお姫様』でいいのよね?」
「はい、お願いします。一度着てしまった以上、お姫様の大前提は受け入れてますから」
「私は受け入れてないんですけどー!? ねー、離してくださいよーっ!?」
「アイリウスちゃんはいいの? 自分が呪いの剣ってことになっちゃうけど」
「気にしないの! わたしにとって、ルヴィアと一緒に楽しめる以上のことなんてないの!」
私も割とオタク気質だし仮にも俳優だから、こういうのは好きなんだよね。立場やビルドや種族が違えば、スズランちゃんみたいに《傀儡》ごっこに志願していたかもしれないくらいには。
先月のゲリライベントのように、九津堂はそういうのを楽しませてくれることも多い。私もありがたく乗っからせてもらって、今回も最大限遊ぼうと思うのだ。
「ねえアイリウス、後でちょっとお芝居してさっきの貫かれるまでの映像と繋いでみない?」
「おお、楽しそうなの! ぜひやるの!」
「ルヴィアさん、それはいいんだけどさ……」
「なに、エルジュちゃん?」
「こっちは?」
「いーやーだー、私はマネキンになんてなりたくないーっ!!」
ああ、これ?
私はそれを握っている手を閉じたまま、エルジュちゃんとホーネッツさんに見せた。そこにいるのは不届き《フェアリー・スピリット》のメイさんだ。
彼女をわざわざここまで連行してきたことには当然意味がある。
「検察官、被告人の罪状を」
「はい。被告人メイは被害者のベルベットさんに対して不当に低い賭け金で勝負を仕掛け、被害者が実害を受けて以降も被害者を何度もからかい続けました。被害者は現在もその件の影響を受け続けています」
「なるほど。……判決、有罪」
「裁判長!? 私まだ弁明すらしてなかったですよね!?」
「被告人をスリーサイズ計測の刑に処する」
「裁判長ぉ!?!?」
そういうわけで連れてきた。以前からそういう風にベルベットさんと約束していたし、この間クローズドチャットでもその話が出たからね。
きっとこの精霊は、自分も少しは恥ずかしい目に合わなければベルベットさんを怒らせては絞られる日々を繰り返すだろう。これはそれを止めるためのものでもあるのだ。
「だからメイさんのためでもあるんです。大人しくお縄についてください」
「お縄も何も、とっくにお手手についてるんですけど!」
「でも離したら逃げるでしょ?」
「…………」
露骨に目を逸らすメイさんだけど、私にはわかっている。彼女は本気で嫌がってはいない。
なぜかって? 私は今、抜けようと思えば簡単に抜けられるような緩い持ち方しかしていないから。
でも言わないでいてあげるからね。だからちゃんと嫌がる振りをするんだよ。
余談も余談ですが、作者は人外価値観を持つ存在が割と好きです。
人外価値観に合わせる人間はもっと好きです。
合わせるまでもなく人外価値観に適応している子はそれはもう好きです。




