229.AIの反逆とかはないって言ったでしょ?
疲れたから少し休んで、中断していたことの続き。せっかくだから配信で一緒に見ていこうか。
「あらためて。私もまだ飲み込みきれていないのですが、新種族ですね。《カースドソード・スピリット》……直訳すると『魔剣の精霊』といったところでしょうか」
「浮気しようとした悪い子のルヴィアには、強制的にわたしと一緒になってもらったの」
〈あまりにも急展開すぎる〉
〈こんないきなり新種族が発見されるの面白すぎない?〉
〈選ぶ余地すらなかったが〉
〈呪われた剣とか草〉
カースドソードというのは、魔剣の英訳のひとつだろう。
一概に魔剣といっても、おおよそ二つの種類がある。単に魔法的な力を持つ特別な剣というだけのものと、呪いがかかっていて何かしらの対価があるものだ。
前者がマジックソードとされて、こちらは聖剣とあまり明確な区分がない。代表例は北欧神話の魔剣グラム、『南総里見八犬伝』の妖刀村雨あたりだね。
そして後者、こちらがカースドソードとされる。代表例は北欧神話のダーインスレイヴやティルヴィング、『ニーベルンゲンの歌』のバルムンクあたりだろう。
「つまり、アイリウスは後者のほうということになるんだけど……」
「きっと気のせいなの。わたしはルヴィアを危険に晒したりはしないの。絶対に守ってあげるの」
「…………ということなので、考えないでおきましょうか」
〈圧〉
〈アイリウスェ……〉
〈ヤンデレかな?〉
実際のところは、某RPGなどに見られるような「装備解除できない呪いの装備」と掛けられているのだろう。アイリウスのために言わないでおくけど。
ものすごい押しの強さだから勘違いされそうなんだけど、私はアイリウスのこと大好きだからね。こういうことを言ってくれるならすごく嬉しいし、それでいいと思っている。
「あとは……ちょっと鏡を見ますね」
〈おう見ろ〉
〈ばっちりカースドソードだぞ〉
〈攻めたよなぁ〉
進化に伴う外見の変化。……私もちょっと禍々しくなったかな。元々の淡い雰囲気の精霊からはやや変わって、少し混沌的な要素が増していた。ピンクに近い色だった瞳が真っ赤になっていたり、髪の銀色がやや薄くなっていたり。
ちょっと王道ヒロインからダーク気味に比重が寄ったけど、これはこれで好きかもしれない。うん、悪くないと思う。
さてと、そろそろやりますか。
「すごく怖いんですけど、そろそろステータスを見ます」
「任せてなの! エルさまと一緒に頑張って作ったから、期待してほしいの!」
「うん、今ステータスをアイリウスが作ったって言った?」
あの、アイリウス、心臓に悪いんだけど。ただでさえこれから怖いものを見るのに、今の時点で怖い要素を増やすのやめてほしいなー、なんて。だめ?
なんでこのゲーム当たり前のように登場人物が開発に一枚噛んでるの?
「それは、《カースドソード・スピリット》という存在自体がこれまでなかったからだよ」
「……エルヴィーラさん、さも当然のように出てきましたね。ここに執務室置いてるの、隠すのやめたんですか?」
「わからない? アイリウスは今、私たちから『そちらの言葉で“メタい”とされることをしてはいけない』という制限を取り払ってくれたんだよ」
「だめだ、ツッコミが追いつかない」
〈は?〉
〈え、エルヴィーラさん!?〉
〈普通に出てくるじゃん〉
〈*ソフィーヤ:最近よく見かけるなーって思ったら、そんなところにいたのですね〉
〈*メイ:ルヴィアさんのマスタールームに執務室繋げられてるの面白すぎません?〉
〈なんかふつーにメタ発言解禁宣言したが〉
〈九津堂の技術力おかしいって〉
〈メタAI量産してるよこの会社……〉
〈お嬢、俺らの頭を休ませてくれないか!?〉
ごめん無理。私ももう頭いっぱい。
だけど話は進めなきゃいけないんだ。ただここに出てきた事実だけで頭が痛くなってくるけど、エルヴィーラさんは同時に気になることも言っていた。
「つまり、アイリウスが全くの新種族を作ったから、それに合わせてその種族の性質を新しく定義したんですか?」
「うん。《九津堂》の助言も受けて、綾鳴さんとも相談して新しく作ったんだ。これも来訪者がこの世界に与えてくれたいい影響のひとつだよ」
「そうなの。ルヴィアたちが頑張ってくれてるおかげで、この世界もよくなりはじめてるの!」
〈そんなことできるのか……〉
〈世界神みたいなもんだからできるってか〉
〈はえー……〉
〈もしかしてこれ固有種族ってやつ?〉
けっこう凄いことを言い出されたけど、これってつまり、唯装に近いノリで私たちに合った新種族すら作られる可能性があるってことだよね。
なんでもアリ……のようにも思えるけど、よく考えたら自然なことかもしれない。それだけ来訪者がこの世界に貢献できているということなのだろう。
「それは確かに、嬉しいですね。汚染対策以外にも、意味を成せているのは」
「だからもっと、積極的にいろいろやってみてほしい。そうしたらこの世界はもっとよくなるから」
〈*運営:意訳→何遠慮してんだテメーら、ちょっと暴れる程度で私たちの世界が壊れるとでも思ってんのか? そんなヤワじゃねーからもっと派手にやりやがれ!〉
〈言われてんぞトップ勢〉
〈それ公式が言うのかよ〉
〈運営にここまで言われるのか……〉
〈九津堂のことだからもっとガンガンやられても先回りして想定済っつって対応してくるぞ〉
〈*リョウガ:おうやってやろうじゃねえか〉
〈*ミカン:あーあ、ぼくたちに火をつけちゃった〉
閑話休題。
「で、そうしてアイリウスたちが作ってくれた《カースドソード・スピリット》ですが……なるほど」
まずは基礎ステータスの種族値を並べてみようか。
“
VIT+2
STR+0
AGI+5
DEX+2
INT+6
MND+7
”
こんな感じ。
「思っていたより無難で安心してます」
「実際のところ、ルヴィアはもう今の形で確立されているからね。大きく変える必要はないと思ったの」
「寄り添って支えるのもわたしの役目なの!」
〈つよ〉
〈なんだろう、すごい妥当〉
〈ザ・こんなもん感〉
〈でも無駄を減らしたお嬢ヤバそうだぞ〉
アイリウスの守るという発言の通り、VITとMNDが+2。代わりに本当にほぼ必要のないSTRと足りているDEXが-1になっている。私としてはとてもありがたい、それでいて常識の範疇の数値だ。
正式サービス開始後は各種族に正当進化が配られている(私は触れていなかったけど、9月30日のアップデートでは新たに四つの種族が進化を得ていた)けど、これらによる種族の増加はそれぞれ2点だ。それに合わせてなのか、《カースドソード・スピリット》も合計値は精霊の時からさらに+2点となっている。
これを踏まえた上で、数字は配信に載せられないけど今の私のステータスがこちら。
“薄明の魔剣精” ルヴィア Lv.60
性別:女
種族:カースドソード・スピリット
属性:幻
特殊:《魔力生命体》、《本質の精霊・薄明の徨魔剣アイリウス》、金属装備不可(唯装・想装除く)、《虹の魔術》、《魔力覚》、《魔力飛行》、《魔撃》、《魔剣の虜》
状態:正常
VIT:162(+0)
STR:78(+0)
AGI:474(+10)
DEX:232(+0)
INT:523(+25)
MND:600(+5)
種族スキル
戦闘:《虹魔術》Lv.107 《植物魔術》Lv.104 《ソードガード》Lv.102 《魔剣術》Lv.99 《精霊の唄》Lv.49
探索:《エレメンタルステップ》Lv.100 《魔力察知》Lv.96 《精霊眼》Lv.95
生活:《浄化》Lv.84 《薬草看破》Lv.44
汎用スキル
戦闘:《攻撃予測》Lv.96 《魔術学》Lv.95 《回避》Lv.86 《威嚇》Lv.51 《治癒術》Lv.46
探索:《直感》Lv.94 《解体》Lv.75 《罠探知》Lv.52
汎用:《生活魔術》Lv.86 《鑑定》Lv.63 《採集》Lv.57 《瞑想》Lv.52
こう見るといろいろ変わったね。特に最低限の耐久力を得たから、掠りダメージすら怖いオワタ式ではなくなったのが地味に大きい。
かなり大幅にMNDが伸びてくれたおかげで、課題のMPもけっこう増えている。本格的にSTRはお亡くなりになったけど、《魔撃》のせいでほぼ完全に腐っていたから惜しくもない。
それ以外の大きな変化は二種類だった。特殊欄と、種族スキルだ。
まず特殊欄だけど、その《魔撃》がアイリウスから私のステータスに移されている。どうせ二度と離れないのだからこれは見やすくなるだけだけど、一心同体というフレーバー的にはいいかも。
そしてもうひとつ、《魔剣の虜》。なんだろう、これ。
《魔剣の虜》
魔剣を操るうちに魅了され、また魔剣に魅入られた者の証。既に自身の存在が魔剣そのものとなっている。
体内に自身の魔剣を持ち、随意に取り出して使うことができる。自らを除く武器に触れることができない。
「…………ある意味何も変わってないですね」
〈そうか?〉
〈えぇ……〉
〈まあ確かに元々触れることすらできてなかったが〉
〈これにその感想出るの末期では〉
一体化したことで体内から取り出す形になったのは変化点だけど、それについてはさっき驚いたし。他の武器に触れないのは元からだ。触ってからアイリウスに叩き落とされるか、そもそも接触すらできないかの違いくらいしかない。
デメリットがあるとすれば、たとえアイリウスが理解してくれたとしても荷物持ちや運び屋すらできないことかな。私はSTRがないから実害はほぼない。
次に種族スキル。あくまで現時点ではだけど、《片手剣術》が《魔剣術》に、《パリィ》が《ソードガード》に変化している。
《魔剣術》のほうは割と単純で、これまで通りのアーツに若干の追加アーツが含まれたものだ。なかなか面白そうなものもあったけど、これは追い追い実戦にて。
「《ソードガード》は……既存の《パリィ》に加えて、腕を硬質化させて攻撃を弾けるようになったみたいです。これは面白そう」
「これからはルヴィア自身も魔剣なの。だから体でパリィができるのは当たり前なの!」
〈ええやん〉
〈カースドソード要素だ〉
〈絶対面白いやつじゃん〉
〈固有の戦闘モーションいいぞ〉
〈ぽい感じでよき〉
他にもやはり追加アーツがあった。固有種族とだけあってなかなか豪華だ。
楽しみになってきた。また改めて戦闘に出て、そのときにいろいろやってみよう。
というわけでタイトル回収でした。これまでもそうだったけど、これで余計にタイトルに忠実になったって寸法よ。




