228.真打登場なの!!
まずは一言。
お待たせしました!
10月9日、水曜日。今日も日が暮れた頃からログインだ。配信予告もして、ちょっと久々に長時間配信を…………。
あれ?
何かおかしい。ちゃんとログインできたはずなのに、降り立った空間が真っ暗だ。本来なら昨日ログアウトした《薄明と虹霓の地》のマスタールームに降りるはずなのに。
予期せぬバグや緊急メンテナンスかとも思ったけど、九津堂に限ってそんなことはそうそう起こらない。普通のプレイヤーならアカウント誤BANも少し疑うような場面かもしれないけど、仮にも公式プレイヤーである私に限ってそんなことは起こらないだろう。
ではどうして……と思ったところで、違和感に気づいた。左腰にアイリウスがない。
それに気付いた次の瞬間、私の胸元を何かが貫いた。
「…………え?」
……だが、何も起こらなかった。正常に表示されているHPバーは、なぜか減っていない。
てっきり謎の突然死イベントか何かだと思って固まっていたけど、気を取り直して胸元を見てみると……。
「アイ、リウス……?」
私の胸を貫いているのは、アイリウスだった。それならHPが減っていないのは納得だけど、いよいよもってなぜ……と思う間もなく、変化が起こる。
アイリウスから私に対して、何かが流れ込んでくる。溢れるような、それもどこか仄暗いような力だ。それが私の全身を満たして、塗り替えてしまうような錯覚を与えたかと思うと、突き刺さっていたアイリウスが溶けていく。その存在ごと、私の中に流れ込んでいく。
それが完全に終わると、全身が強く熱を持った。私という存在が作り替えられるような、経験のない強烈な感覚。
…………そしてそれが済むと同時に、私の中から声が聞こえた。
「ふふふ、やっとひとつになれたの! これでずっと、ずーっと一緒なの、ルヴィア!」
明転。薄明の陽光が現れて、いつものマスタールームになった。
……たぶん、あれだよね。今の現象。
「……もしかして、アイリウス?」
「そうなの、アイリウスなの! やっとルヴィアと話せるようになったの!!」
やっぱり。自分の中から声が聞こえるという謎現象の正体は、我が愛剣アイリウスだった。初めて聞く声なのに、なぜか聞き覚えがあるような錯覚を覚える。不思議な感じだ。
何から確認すればいいかわからないけど、まずは自分の左腰を見てみる。……やはりそこにアイリウスはない。鞘すらなくなっている。
さっきの現象を素直に受け取るのなら、たぶんアイリウスは今、私の中にいる。試しに取り出そうとしてみると……。
「……出てきた」
「当然なの! わたしはルヴィアの剣であり、ルヴィアそのものなの!」
「あ、この状態だと剣から喋るんだね」
「もちろんなの。わたしはここにいるの」
「じゃあ、戻すと……」
「ルヴィアと一緒なのー♡」
なるほど、ちょっとだけわかった。どうやらアイリウス、私と同化したようだ。二度と私から離れず、私に目移りさせないように。
確かに、以前から兆候はあった。私が試しに握ろうとした剣を叩き落としたり、ことあるごとに嫌がったり嬉しがったりしたり。私から離れることと、私が別の武器に触れることはとにかく嫌っていた。
「つまり、アイリウス。あなたは私を独り占めしたくてこうなったの?」
「そうなの! ルヴィアはわたしの本質なんだから、わたしそのものであるのが当然なの!」
そういうことらしい。しかるに、アイリウスは前々からの強い強い独占欲を顕在化させてこうなったようだ。私に流れ込む形で同化して、それによって意思疎通もできるようになった。
……正直、この時点で理解の範疇を超えているけど、でもまだわからないことがある。我が灰色の脳細胞には酷使されてもらおう。
「……どうして、わざわざこんなこと」
「ルヴィアはわたしだって自覚が足りないの。わたしそのものになるって約束して精霊になったのに、失礼しちゃうの」
アイリウスがそんなことをしたのが、私とこれまで以上に密着して独り占めするためだとして、その動機がよくわからない。
今になってこんなことをする理由、と言い替えてもいい。《本質の精霊》として一緒になるという意味なら、進化直後からそうだったはずなのだ。
「そう、なのかな。私はアイリウスと一心同体だと思ってるけど」
「でもルヴィアは昨日、浮気しようとしたの!」
「え、う、浮気!?」
確かに、タイミング的に考えうるなら昨日の件だろう。精霊の真実が明かされて、プレイヤーからの精霊に対する認識が大きく変わった一件。あれに関連して、アイリウスは動いた。
でも、浮気とまで言い出すとは穏やかでない。いったい何が、と考える猶予もないまま、アイリウスは決定的な一言を言い放った。
「だって、だって、ルヴィアは複合進化なんてものを考えたの! よその要素を取り込もうとしたの!!」
「…………え、アイリウス、もしかして」
複合進化。そうだ、確かにその話もした。アズキちゃんが吸血鬼を取り入れて《バーヴァン・シー・スピリット》となったように、私ももっと強くなるために次の進化をと考えたのは事実だ。
だけど、それが浮気認定されるとはちょっと思っていなかった。てっきりアイリウスから見た浮気対象は武器であって、種族という概念だとは想像が及ばなかったのだ。
だが、ここまで聞けばわかる。そして思い至った。アイリウスが複合進化を浮気だと判断したとして、それを防ぐためには何をしうるか。
慌てて自分の簡易ステータスを確認した私に、アイリウスはやはりこう言ってのけたのだ。
「だから、わたしがルヴィアを進化させてあげたの! これなら、これからもずっとルヴィアの全部はわたしそのものなの!」
「…………そんなの、あり……?」
私の種族欄には、見慣れない文字列。
《カースドソード・スピリット》。私はアイリウスの手によって、その種族へと自動的に進化させられていた。
「嫌なの…………?」
私が呆然とした反応をしたからだろう、アイリウスは少しだけ萎れた。もしかしたら、こうすれば私が喜んでくれると思ってやったのかもしれない。
「嫌じゃないよ。アイリウスがそこまでしてくれるのは、私も嬉しい。……だけど、ちょっと待っててね。急なことすぎて、まだ受け止められてないの」
「ん、わかったの。ルヴィアが少しでも喜んでくれるようにしたから、じっくり見てほしいの」
幸い、これでわかってくれた。アイリウスは狂ってしまったわけではなくて、ただ単に私を繋ぎ止めようと必死だっただけのようだ。私が離れる手段を失った今、感情表現こそ強いもののこれ以上何かをするという気配はない。
…………待って。今ちょっと不穏なこと言ってなかった?
「ところで、いいの?」
「え? 何が」
「配信、ずっとついてるの」
「え!?」
〈(<●>ω<●>)〉
〈やっほー〉
〈^^〉
〈やっと気付いた〉
〈アイリウスちゃんナイス〉
しかも配信にも言われて気付いた。ログインと同時に設定していたんだけど、そもそもログイン自体が正常に行われなかったと勘違いしていたから配信もついていないと思っていて、その後は普通に忘れていた。
アイリウスが気付いたのは、もしかしたら視界も何もかも私と共有しているからかもしれない。なにぶん初めてのことすぎて、何がどうなっているのか未だに把握できていないのだ。
どうやらここまでのやりとり全てが垂れ流されていたらしい。再説明がいらないのは不幸中の幸いだけど……開いたのが簡易ステータスでよかった。
「失礼しました。改めて、DCO公式ストリーマーのルヴィアです。……今日はいろいろ情報を整理するところからスタートです」
「うんうん、ルヴィアにもみんなにも、しっかり見てほしいの!」
〈バッチリ見てるぞ〉
〈なんか凄いことになってんな〉
〈*イシュカ/せれな:ギルドハウスでみんなで笑いながら見てるわよ〉
〈アイリウスちゃんのキャラ濃すぎて最高〉
なんかもう、大変なことになっている。私が話に全くついていけていないのは初めてかもしれない。
でもそれはそれとして、同族にツマミにされるのはちょっとむかつく。
「ねえアイリウス」
「なんなの?」
「イシュカさんの《ティターニアリング》、アイリウスの仲間だったりしない?」
「するの。だけどまだ眠ってるの」
〈w〉
〈あれイシュカさん……?〉
〈他人事だったけど〉
〈*イシュカ/せれな:え〉
〈面白すぎる〉
まあ、そうかなとは思った。あの指輪の持つ《武器装備不可》のデメリット、アイリウスと実質同じだもの。
これで同族は黙ったから、とりあえず山積みの情報をひとつずつ整理していこうか。
と、その前に。
「アイリウス、つかぬことを聞くんだけど」
「?」
「人型で実体化できたりしない?」
「造作もないの!」
ぽん、と音がして、目の前に妖精サイズの少女が現れた。
どこか禍々しいデザインで、それでいて色とりどり。言葉端の雰囲気に合う元気そうな、それでいてどこか愛の重そうな容姿をしている。パステルカラーの地雷系女子というのだろうか、もう見るだけでアイリウスそのものだ。
「んふふー、これでこれからは一緒にいられるのー♡」
〈かわいいな〉
〈この子かわいくない?〉
〈めっちゃかわいい〉
〈べったりじゃん〉
〈でもヤンデレだぞ〉
〈めちゃくちゃ愛が重いのがわかってるんだよなあ〉
まあ、なんというか、幸せそうだからいいか。
自然に私の肩へ座るアイリウス。これからはこうして一緒にやっていくことになるだろう。
「…………あれ、もしかして」
「んー?」
「アイリウスって、これまでもずっと私のそばで自我を持ってた?」
「もちろんなの!」
うん、今のはただの確認。そう答えると思った。
だけど、そうだとしたらさ。もしかして、
「私が《幻双界》のひとに聞かれていない前提でこれまで話してきたあれこれ、全部聞かれてた……?」
「もちろん聞いてたの。ルヴィアが向こうの世界出身なことも、ここにはゲームとして来てることも、ここじゃないところで生活してることも、ぜーんぶ知ってるの」
〈アッ〉
〈これまずくね?〉
〈エルヴィーラでもギリギリなのに〉
〈いやでもこれ避けようがないじゃん〉
だよね?
ただ幸いなことに、アイリウスは上手く解釈してくれていたようだった。ゲームという形をとっているだけで、あちらもこちらも本物の世界だと。
そして問題は、その先に。
「だから、よければわたしにもそっちの世界を見せてほしいの!」
「え?」
「わたしたち《唯装魂》は、目覚めたらご主人と一緒に暮らせることになってるの! ルヴィアの、タンマツ? に遊びに行けるの!」
〈は?〉
〈*ユナ:え?〉
〈*明星の騎士団official:なんて?〉
〈今コイツなんつった〉
〈AIメイト実用化!?〉
〈ここで!?!?!?〉
…………待って???
「運営さん!?」
『はっはっは、追って説明しますが予定通りの仕様ですよ! 大事にしてもらえた《唯装》ほど、もっと持ち主と一緒にいようとしてくれるのだ!』
「そういうのは! 事前に!! 言ってほしかったんですけど!!!」
配信中だけど思わず運営さんに通話をかけたら、半コールで出てこんなことを言い出した。九津堂の悪いところが出ている。
いや確かに、日常のパートナーになってくれるAIは遠からず実用化されるという話だったけど。だけどこんなところで急に降りかかると思わないじゃない!?
「そういうわけだから、末永くよろしくなの!」
「う、うん。ありがとうアイリウス、私もとっても嬉しいんだけどちょっと待ってね混乱してるから」
「はーい!」
「……運営さん、なるべく早くそのあたりの詳しい告知発表をお願いしますよ。私以外に無告知でこんなことが起こったら普通に揉めますからね?」
というわけで、実は少々予定より早かったのですが、アイリウス参戦です。どうしても進行とツッコミに回りがちなルヴィアを補って、最高の“カワイイ”をお届けしてくれるはずです。どうぞよろしくお願いします。




