223.子供の頃にやった○○ごっこの延長
【問】
○○に入る言葉を答えよ。
なお前半はフィート視点です。
さて、ルヴィアさんがいない間の前線はというと。
「なかなか、手強いですわね……!」
「傍から見てる感じ、ここまでヤバい印象はなかったわよね」
「ああ。さっきより、明らかに強くなってるよ」
思ったよりもだいぶ、苦戦していた。第一ゲージでの順調な戦いが嘘みたいに。
ルプストさんとロウの離脱が痛いわけではない。いくらあのプリムがボスといってもタンク二枚はさすがにかなりの余裕があったし、ルプストさんと新しく来たトトラちゃんのプレイスタイルはかなり近い。ルプストさんが見せていたハイテンポ攻撃も踏襲しているし、そこにジュリアさんの超火力が加わっているのだからむしろ戦力は上がっているかも。
なのに、妙にダメージ効率が落ちている。なぜ?
「《スペルリロード・フリーズロア》……《トリプルショット》なのだ!」
「いいよトトラ! ……でも、これだけか」
「考えてても仕方ないよ! ケイさん、そのままお願い!」
「ああ、わかってる! 次、3、2、1、今!」
「「《スタブレイド》!!」」
「《トリプル・ウォーターバレット+》」
ケイさん、やっぱり上手い。斥候という前線ではまだ珍しいジョブでギルドマスターになっているだけあって、普通なら有り得ないくらい攻撃しやすい隙を作り出してくれる。敵の攻撃と動線をぜんぶ把握して操っているとしか思えない。
しかも攻撃のタイミングをカウントまでしてくれるから、なおさら攻撃しやすい。私とジュリアさんがそれに合わせて《槍術》の高火力アーツを叩き込む。さらにイシュカさんも追撃、今の純魔のサブウェポンはこの《バレット+》だ。
これでようやく、それなりに削れる。……やっぱり硬い。体感だけど、前線の耐久系ボスに近いほどの防御力がある。《ヴァンパイアハンターハンターズ》のプリムは、むしろ打たれ弱いくらいだったのに。
「効いてはいるよ! とにかく攻め続けるしかない!」
「フリュー、いける?」
「任せて、いくらでも!」
うん、効いてはいるんだ。それに、私たちは最初から妥協なしの攻撃を続けている。これ以上の打つ手なんてありはしない。
だけどどうにも、疑問が拭えない。どうしてこんなに硬いの?
この疑問に応えたのは、関係者以外では誰よりも《ヴァンパイアハンターハンターズ》をよく知るであろうイシュカさんだった。
「たぶんだけどね。プリムさん、没設定だったものを持ってるのよ」
「没設定?」
「開発者インタビューで明かされたことがあるの。吸血鬼たちの固有能力を、主人公たちも持っている設定も考えたって」
「あ、それ聞いたことあります。いろいろ複雑になりすぎるし、武器だけで充実できたからやめたって話」
フリューさんもそれに同意していた。たしか彼女のお父さんが九津堂のスタッフだって話だから、そこから聞いたのかな。
私もあのゲームはそれなりに遊んだから、固有能力と聞けば何のことかわかる。《VHH》の吸血鬼は、それぞれが吸血にかかわる固有能力を持っているのだ。
たとえば、DCOにも出てきているサブキャラのロレッタなら「吸血した相手の状態異常を治す」という能力だった。そんな感じの能力がそれぞれに設定されていて、たまに主人公や敵を吸血して助けてくれるのだ。
だけど、主人公であるプリムとエヴァはそれを持っていなかった。まだ大人になる途中で、半人前だから発現していないだとかで。
この世界の二人は弟子をとっていたりと《VHH》より年頃が上のようだから、一人前の吸血鬼として固有能力を持っているのはむしろ自然な話だ。
でも、それがあったとして、現状にどう関係が……あっ。
「さっきの魔弾が、汚染のせいで暴走して固有能力と妙な反応しちゃったってこと?」
「そう。……っと、《サモン・ナイト》。呪化のせいで暴走して、魔弾に吸血の性質が混ざっちゃったとか」
「《トリプル・ハイドロランス》……突飛だけど、そう考えるしかないわよね」
なるほど。確かに、それしか今の戦闘におかしな要素はないものね。……じゃあ、その能力っていうのは?
「没になったプリムの固有能力は、《スキルコピー》。……血を吸った相手の技術を、一時的に自分のものにする力よ」
「つまり、この硬さはロウのものだってことかい?」
「ええ。そう考えるべきでしょうね」
……確かに、それならしっくりくる。プリムが急に硬くなったのは、ロウに魔弾を当てた直後からだし。
そして同時に、それはとんでもなく面倒なことにもなる。
「つまり、次の魔弾で誰かがやられたら……」
「わからないわ。二つ以上持てるのか、上書きされるのか」
「少なくとも、間違ってもユナさんに当たられちゃいけないのだ……」
「全員避けるのが理想ですけれど、っと!」
厄介だね。元ネタが没設定だから、詳しい仕様がわからないなんて。ゲーム的に複数持ちは運用が難しそうだし、上書き式のほうがありそうだけど。
ここにいるのは私やロウでも下限付近になってしまうようなトッププレイヤーばかりだから、こういう考察をしながら鈍らずに戦い続けることもできる。というか、それくらいできないと初見の強いボスを攻略できない。
そうこうしているうちに、なんとかもう少しのところまできた。
「次のゲージに合わせて私は下がりますね。後ろにヒーラーは二人いるみたいですし」
「トトラもそろそろ空っぽなのだ」
「OK。それじゃトトラ、最後に一発デカいの頼むよ」
「了解なのだ! 《スペルリロード・ブリザードランス》……《トリプルショット》!」
「…………ッ」
最後の一撃でトトラさんが下がり、同時にゲージが半分を割った。フルスロットルだったこともあって、このゲージは半分近くトトラさんが削った気がする。
彼女が素早く撤退したのは、下手に《魔竜人》であるトトラさんがさっきの話通りに吸われたとしたら洒落にならないからだろう。同じ理由で機動力のあるジュリアさんもかなり下がっている。
魔弾の態勢に入ったプリムは、次の標的を狙う。……ユナさんもしっかり下がっているから、この場にいるのは四人だ。
だけど、そのうちイシュカさんは心配いらない。いくらあのプリムでも、この状況でわざわざ妖精サイズを狙いはしない。あのひとが下がっていないのは、狙われても避けられる自信があるからだ。むしろ狙わせようとして注意を引いてさえいる。
となると、可能性があるのは三人。中でも当然……。
「《疾風ノ鉄槌》ッ!!」
「やっぱり、私だよね!」
「させな……」
「だめっ!!」
狙われたのはフリューさん。当然だ、残った中では間違いなく、フリューさんの防御力が厄介。避けようとはしているが間に合わないフリューさんの前に、ケイさんが立ち塞がる。
だけど、ダメだ。今ケイさんがいなくなったら、ましてプリムがケイさんの状況支配力を手に入れたら、大変なことになる。どうせ全員が避けることができないなら、ここで後続へ繋ぐべきは……。
「フィート!?」
「フィートちゃん!!」
轟音、吹き飛ばされる体。
射線に飛び込んだ私はロウみたいに受け止めることなんてできず、HPゲージが空になったまま数メートルは転がった。
驚きながら眉をひそめているプリムに、私は最後の最後で勝ち誇ってみせた。後方から戻ってきたルヴィアさんたちがこちらに飛んでくるのを見ながら、私はロウのように自分の体が操られるのを待つ。
…………あれ?
発生しないオートパイロットの代わりに、私の目の前にはメッセージウィンドウが現れた。
───《“魔弾の射手”プリム》に立ち向かった勇敢な来訪者へ。
───攻略の礎として身を捧げた見返りとして、《傀儡》状態を遊ぶ特別な機会を差し上げます。望む場合は、素敵なロールプレイをお楽しみください。
◆◇◆◇◆
小憎たらしくも話に参加してくれなかった(むしろ当然なんだけど)ソフィーヤちゃんとアズキちゃんを連れて、ちょうど発生した二度目の汚染現場へ。実は向こうの話は聞いていたから、このあたりの仕様がプリムさんの没設定から来ているらしいという話はわかっている。合流前に少しだけ時間があったから、配信でもそれを話してきたところだ。
「やられたのは……」
「フィートさんですか」
「ああ。私を守ってくれたんだ。自分が落ちた方がダメージが少ないと思ったのかもね」
〈ええ子や〉
〈実際そうでも簡単にはできないでしょ〉
〈ロウたそもフィーたそも健気な子やて〉
〈ケイが吸われたら大惨事だろうしな〉
その判断は、客観的にはとても正しい。放っておくと本当に隙の少ないボスであるプリムさんと戦うにあたって、攻撃の余地を作ってくれるケイさんは本当に貴重な存在なのだ。少なくともこの場においては、私よりも重要だろう。……私の力が吸われた時にプリムさんがどうなるかわからないから、私から庇いに行く気はないけど。
だけど、だからといって自分から、しかも自己判断で咄嗟に庇うのは簡単ではない。ロウちゃんもフィートちゃんも、とても信頼できる最高の仲間だ。
…………で、美談で済めばよかったんだけど。
「…………る、ゔぃあ、サン……?」
「……え?」
「タ、すケ……ぅ、ッ……ガァッ!!」
「うひぃっ!?」
「わあ」
「フィートちゃん!?」
〈!?〉
〈え?〉
〈何があった!?〉
〈怖い怖い怖い!!〉
〈ホラゲかな?〉
〈ジュリアが可愛い声出しとる〉
〈てかキユリちゃんなんだその反応〉
〈なんかヤな予感しない?〉
〈*ロウ:……ふふ〉
〈えっロウたそ?〉
汚染で起動状態になったフィートちゃんが私のことを呼んだかと思うと、凄まじい迫力で汚染に苦しみ始めたのだ。
イントネーションも変になっているし、ゾンビ映画で変異しつつある犠牲者のようになっている。全年齢向けゲームとは思えない演出だ。
予想以上のものに全員驚いているし、実はホラーにすこぶる弱いジュリアが物凄く怖がっている。私は驚きすぎると落ち着いてしまう性質的にこういうのがなんともないんだけど、キユリちゃんは随分と淡白な反応だった。ホラーが得意な人って本当に驚かないよね。
じゃなくて、
「いやフィートちゃん中にいるでしょこれ!?」
「さすがに即席AIにできる再現度じゃないよね!」
「おっ、おおお、驚かさないでくださいまし!?!?」
「……そんなシステム入ってるの今回?」
〈フィートちゃん何してんの???〉
〈そのままフィートっぽい感じで襲ってきとるが〉
〈いや当たり前のように受け止めるお嬢はなんなんだ〉
〈ジュリアかわヨ〉
〈って待てそれって〉
〈*ロウ:はい。今回、この魔弾で死ぬと傀儡ごっこできます〉
〈!?!?〉
《傀儡》フィートちゃんの対処に回りながら驚く一同。フィートちゃんに驚かされたこと自体のみならずその演技力、そして何よりそんなことができる仕様そのものに。しかもコメント欄に経験者である様子のロウちゃんが現れたことで確定してしまった。
精霊がいろいろやったのはイベント中だったけど、今回は普通のボス戦中だ。……まあ、体感的に戦闘にほとんど影響が出ないような調整にはなっているけど、それにしても挑戦的な試みだ。
……実際どうだったかって? みんな驚きこそすれ怒る様子はないのと、何よりジュリアを見ればわかると思うよ。
めっちゃ楽しい。
「大丈夫。今助けてあげますからね」
「…………っ、グ……うァ、ァ……」
「……VR女優が二人見つかったわね」
「イシュカ、雰囲気」
「手遅れでは?」
そこ、うるさい。私は今ちゃんとやってるの。……ああフィートちゃん、向こうを睨まない。ちゃんと役に入ってこっち見て。
何はともあれ、フィートちゃんの献身もあって二度目の節目攻撃は凌げた。これで二ゲージ目も折り返し、全体でも半分だ。
……え、まだ半分あるの? 撮れ高的にはもうお腹いっぱいだよ?
A.ゾンビ
リリア「たのしそう」
水波「わかる」
紫音「楽しいよ!」(※ゾンビ映画にゾンビ化する女子高生役で出演経験あり)