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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.0-1 戦いの始まり、《天竜城の御触書》
23/473

23.空手と拳闘術が同じでたまるか

 第二層に着いたから、ひとまずポータルを有効化。それからセーフティエリアを見渡すと、数人のプレイヤーが留まっていた。そのうち一人がこちらに気づくと、声をかけてくる。


「ルヴィアさんですよね。来てくれてありがとうございます」

「いえ。ちょうど本筋に戻るところでしたから、渡りに船だったんです」

「それはよかった」


 そう出迎えてくれた男性プレイヤーだったが、見れば私の配信も開いている。となれば、さっきのことも見ているだろう。

 その予想通り、彼はおずおずと聞いてきた。


「……一応見ていたのですが、上層での戦闘は」

「たぶん、ダンジョン内では固定湧きなのではないかと」

「やっぱりそうですか」

「これから増援は来るでしょうし、上層の掃討も必要かもしれませんね」


 予測ではあるが、フィールドとダンジョンではMobの湧き方が違うのだろう。フィールドでは範囲内にいるプレイヤーの数に応じて敵が湧くから、あのような私しかいない空間で10体以上も出てくることはない。

 私の推測でしかないけれど、ダンジョン内では定点ポップ形式になっているのでは。Mobが湧くポイントと数が固定で、先に湧いたMobが倒されるまで同じ場所からは湧かない方式だ。


 だとしたら、定期的に第一層の敵を掃除するパーティが必要かもしれない。まあ、引き受けるパーティはあるだろう。難易度の割に経験値が美味しいから。




「ともかく、まずはこのダンジョンの攻略状況をお話しますね」


 改めて見てみると、ここにいるプレイヤーのうち武装しているのは二人。それ以外に五人が武器を持たず、マップやメモを整理していた。その中に私の配信画面もあるのは、私がここに来ることがわかったからか。

 時折チャットを繋いでいるようで、細かい指示が飛んでいる。……なるほど、なんとなくわかってきた。


「ご存知の通り、このダンジョンは謎解き型のものです。その中でもフロア全体で一つのクリアを目指す、多人数同時参加型になっています。紆余曲折を経て、僕達は攻略を効率化させることにしました。

 まずフロア全体に散らばるヒントを見つけて、それを僕達に報告してもらいます。そのヒントが示す場所を特定して、近くにいるパーティに指示を出します。そこにあるアイテム、《鍵の欠片》を獲得したら、一度この安地まで戻ってきてもらうという形です」


 ヒントを探して中枢に集め、在り処を見つけて別のパーティに持ってきてもらうと。

 最適化された攻略法だ、よほど第一層で苦労したと見える。それはたぶん、


「攻略が進んでいないのは、第一層はパーティ単位で攻略していたからですね?」

「はい。もう見つけたヒントを何組も辿ったり、ヒントと在り処で端から端まで歩かされたりと、個別にやっている間はひどい有り様でしたよ。

 情報の共有と協力を進めて、ようやく進み始めたという状態です。それでも間に合いそうになかったので、女王様の増援には助かりました」


 《鼠掃除》はパーティ単位での攻略、《田園街道》はマップ共有のみ全体で協力となっているらしい。それに対して、《不思議迷宮》は全体での協力前提のダンジョンということになる。


「でも、ダンジョンではレイド内しかチャットが使えません。なので、ここに残っている謎解き班がそれぞれレイドリーダーとして現地組と連絡しています」

「なるほど、それなら50人以上でも連絡が取れますね」


 ここに残っているのはパズルや謎解きが好きなプレイヤーで、彼らが連絡役と頭脳労働を兼ねているらしい。そういうプレイヤーが進んで頭を使ってくれるのなら、戦闘職もやりやすいだろう。




「では、私もレイドに?」

「そうなるのですが……ルヴィアさん、確かタンクもできましたよね?」

「はい、一応やれますが……」

「それなら」


 謎解き班のひとが私の後方に目配せすると、そちらから別のプレイヤーが歩いてきた。二人だけいた武装プレイヤーだ。どちらも鉄の武器と王都の装備を揃えていて、一目で前線レベルとわかる。


 ひとりは鬼族の《拳闘士》らしき少女。鈍い銀色に光るナックルダスターを握り、腰からはサブウェポンらしき両手用メイスを提げている。この時期からサブウェポンを育てるのは珍しい。が、ナックルだけでは対応できない敵もどこかで出てくる可能性がある。おそらくそのためだろう。

 もうひとりは純後衛と見える猫獣人の青年。持っているのが錫杖だから支援職に違いない。ローブ装で身軽さ重視、《DCO》では少数派のパーティプレイ専門だろうか。

 魔法火力に杖と魔導書の棲み分けがあるように、支援職にも速度の錫杖と効果量の神楽鈴で棲み分けがなされているのだ。ミカンは効果重視で神楽鈴を持っていたけど、彼は回転速度を重視しているらしい。


 武器の性質上防御は捨てるしかない純火力と、支援に特化した純後衛。なるほど、タンクが欲しそうな組み合わせだ。


「俺は《アーク》、こっちは《ソラ》です。ルヴィアさん、よければパーティ組みませんか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 ソラと呼ばれた少女は一歩引いて、私の後ろのカメラを見るとアークさんの陰に隠れた。引っ込み思案な子のようだ。

 ソラさんが耐えられるかは私にはわからないけど、声をかけてきたということはわかっていてのことだろう。私から断る理由はない。


「よかった。昨日は他の人達とやってたんスけど、急な用事で来れなくなっちゃって」

「……それで、ルヴィアさんが来るって聞いて、それならって待っていたんです」


 アークさんが促して、ソラさんも会話に入ってきた。……おやおや、随分と仲のよろしいことで。

 出歯亀思考は置いておくとして、事情はわかった。即席のパーティだろうし、そういうこともありうる。

 そういうことなら、私はできることをしよう。盾役は本職ではないとはいえ、同格までが相手なら問題なくできるはずだ。


「実は、こうやってパーティに声をかけてもらえるの、けっこうありがたいんです。いつも私一人より広がりもありますし」

「邪魔になったら嫌だったんで、それはよかったです」


 これは紛れもない本音だ。リスナーに飽きを来させないことは配信者としての至上命題のひとつ、その中でもパーティメンバーの存在は特に馬鹿にならない。

 それに、私も楽しい。これはVRMMO、プレイヤーとの交流も醍醐味なのだ。






 そんなこんなで、いざ迷宮へ。立ち回りについては第一層でも潜っていたソラさんとアークさんに任せることにしたので、私は指示通りに先頭を歩いていく。

 《罠探知》はアークさんが持っていた。そちらで安全を確保しつつ、私も取得してついでにレベルを上げていこう。


「なんというか、地下っぽくはない景色ですね」

「灯りは行灯(あんどん)提灯(ちょうちん)なんスけどね。ただ中身は魔力っぽいんで、やっぱりその方面でだいぶ発展してるみたいっス」


〈便利だなぁ〉

〈いいなあ魔法〉


 やはり魔術や異種族の存在は大きいようで、このようにこの世界は江戸時代の日本より文明が進んでいる部分が多々見られる。暗さで難易度を上げるダンジョンではないのだろうが、明るい分にはありがたい。


「お二人のプレイスタイルも今のうちに聞いておいていいですか?」

「ああ、そっスね。俺は見ての通りのサポーターで、特にデバフ優先っス」

「変な言い方ですけど、意外です。スポーツとかやっていそうなのに」

「現実では身体能力に自信あるんスけど、VRアクションは微妙で。ソラが前衛やるし、後衛に回ったんスよ」


〈厄介なんだよな、感覚のズレ〉

〈個人差だししゃーない〉

〈VR自体が出たてだしな〉


 ミカンやユナさんはバフの方を優先しているから、デバッファーとパーティを組むのは初めてだ。相手が鈍くなるのはまた感覚が違うから、気をつけておこう。

 アークさんの言うように、現実の動きとVR空間でのそれはしばしば一致しない。私とは逆のパターンで、彼は仮想空間では思ったほど動けないタイプだったようだ。現実でスポーツをしているような人だと、かえってわずかな感覚の差に気を取られて動きづらく感じるケースもあるのだとか。

 私は……現実でほとんど動けないことを差し引いても、かなりVR適性が高いと思っていいだろう。


 二人には出発時に「あまりかしこまらなくていい」と伝えたんだけど、アークさんはこれによって相応に態度を砕いた。具体的には、絶妙にチャラい。

 一方でソラさんはというと、


「では、ソラさんは?」

「私は……普段は、これです。たまにこっちも使いますけど」


〈かわいい〉

〈小動物系か?〉

〈お嬢の配信、可愛い子ばっかり出るな〉


 アークさんが大きいのかもしれないが、やや声が小さい。やはり少々内気なひとのようだ。変に緊張している様子はないから、普段からこうなのだろう。

 手に握っているのは、やはりシンプルなナックルダスター。鉄製のそれは思いのほか重厚で、充分な威力を内包していそうだ。これを両手に持ちつつ腰にもアイアンメイスを抱えているとなると、STR値は現時点でもかなりのものだろう。私もそこそこ上げているけど、三つ同時には持てない気がする。


「メイスが主武装の人はよく見ますけど、ナックルがメインの人は珍しいですよね」

「……私、空手をやっているので」

「経験者さんでしたか。憧れるなぁ……。でも、空手とこれって別物では?」

「意外と、すぐにできました。けっこう似ていたので」


〈いやいやいやいや〉

〈※そんなことないです〉

〈たまにいるんだよなぁこういう天才〉


 ううん、経験者ならではの感覚だ。ただ、本人がいうならそうなのだろう。少なくとも、ソラさんの感覚では。

 見ればどうやら、アークさんは苦笑気味。この子が天才肌なのかな。


「私は……まあ、配信なり掲示板なりで知られている通りです。パリィ中心の剣士で、攻撃魔術との併用」

「オールラウンダーっスよね、確か。俺は配信見れてないんスけど」

「そう……ですね。火力役のつもりですが……タンクをしていることの方が多いかも。回復も持ってるし」


〈言われてんぞお嬢〉

〈やっぱりプレイヤーもそういう見方なのな〉

〈実質タンクだもんな〉


「いっそ《陰陽術(バフデバフ)》も取ってみては?」

「MPが切れそうですね……」

「ああ、その剣が」

MATK(まじゅつ)型なんですよね。これからは魔術攻撃中心になるし、早くスキルレベル上げないと」


 言われてみたら、確かに器用なほうかもしれない。前線パーティでは《治癒術》は心もとないけれど、サポーター以外はできなくもない。

 まあ、今後は魔剣の影響で攻撃魔術を伸ばすつもりでいる。活かしづらくMPが競合するバフやデバフは、今のところ取るつもりはないけれど。


 ……と、剣に視線が向いたタイミングだった。ソラさんが動いたのだ。


「あ、あの……その剣、近くで見てもいいですか……?」

「ああ、そいつルヴィアさんのファンなんスよ」

「そうだったんですか? わかりました、どうぞ」

「ありがとうございます……!」


〈かわいいかよ〉

〈配信ゲストの実在女子で補給する糖分は美味いか? 俺は美味い〉

〈やっぱ人気だよなお嬢〉


 ソラさんの目が輝いている。急なことで驚いたけれど、ファンと言われて嬉しくないわけがないのだ。こうも喜んでくれるのなら、剣を見せるくらいなんてことはない。

 そこ、ちょろいとか言わない。


「画面越しより、透明感がありますね……水晶みたい」

「喜んでくれたならよかった──っと」

「ソラ、続きは後でな。敵のお出ましだ」

ダンジョンギミック攻略……まで行こうかとも思ったんですけど、あんまり長いので一度切りました。ギミック説明と新キャラ紹介です。

次回は土曜日。今度こそギミック攻略と、アークとソラも交えた戦闘です。


いい感じに沢山の方に見ていただける状態で安定してきて、いよいよ一昨日には日間10000PV。しかもユニークでも1500人以上の方に読んでいただけたようです。自分の幻覚がこんなに注目を浴びると、それはそれで気恥しいものですね。

毎回言いますが、ブックマーク、更新通知、そして評価点、さらにお暇でしたら感想をぜひお願い致します。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] 新たな可愛い子だぁ…しかし可愛い顔(?)して武器がこぶしとは……アリですね…!
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