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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.3 魔物も妖怪もいる世界でハロウィンをやったら
229/474

221.親の声より聞いた第一声

「……どういうこと?」

「いつもならすぐ人魂になるよね!?」

「何かサイレントアプデとか……」

「ないよ。今日潜る時にバージョン表記は変わってなかった」


〈???〉

〈何が起こってる!?〉

〈未知の挙動だ〉

〈え、怖くない?〉

〈なんかヤな予感するな〉


 HPがなくなったはずのロウちゃんが、そのまま存在している。

 本来ならありえないことだ。普通ならゲージがなくなった演出の直後にアバターが四散して、まだ広範にはプレイアブル実装されていない蘇生のための待機状態(その見た目からプレイヤーには「人魂」と呼ばれている)になる。

 なのに今のロウちゃんは、ゲージの表示すら消えないまま。防御姿勢のまま倒れすらせずに、5秒以上もその場に佇んでいるのだ。


 あまりにも脈絡のない未知の挙動に反応できずにいたパーティの中、私はロウちゃんの奥でプリムさんが妙なポーズをしていたことに気がついた。それはまるで、()()()()()()()()()()()()……。

 ……六人全員が、同時に飛び退った。同時に、後方からはイシュカさんの声。


「離れて! ロウちゃん、()()()()()()()()()!!」

「グッ、ウァァァッ!!」


〈はぁ!?!?〉

〈えっちょっとえっ〉

〈そんなんありぃ!?〉

〈漫画かよ!!〉


 一瞬遅れて、ロウちゃんが襲ってくる。大盾を振り回し、普段は大人しげな光を灯している瞳を真っ赤に輝かせながら。

 ちょっとばかり信じられない。特殊イベントでもないのにまさかまさかの、()()()()()()()()だ。





○ロウ Lv.58


属性:火

状態:汚染、傀儡





 汚染状態までは予想できていたけど、この展開は想定していなかった。前回の呪化から受けた汚染のときは、全員が行動不能になるだけで操られたりはしていなかったから。

 《傀儡》状態というらしい。やはりただの汚染とは区別されているようだから、呪化ボスの中でも一部しか使わないのだろうか。


「とりあえず、止めるよ!」

「でもっ」

「大丈夫、九津堂のことだから戻った後のロウちゃんのステータスには影響しないはず!」

「グルァァッ、ゥゥゥ!!」

「フィートちゃんは向こうを!」

「えと、は、はいっ!」


 何にせよ、扱いとしてはボスの取り巻きのようなもの。この場から排除してしまわないと、このままではボス戦を再開できない。

 それでもフィートちゃんが躊躇ったのも無理はない。声色までロウちゃんのままだから、まさに身内のアンデッドと対峙している気分なのだ。

 でも、大丈夫。


「ガッ」

「くっ……大丈夫。まだ中にいたら、意識を逸らしててね」

「なるべく手早く済ませるわ。そのために待機してたんだもの」

「四人分の《浄化》、一気にいくのですよ!」


 そう、浄化。そもそも汚染状態なのだから浄化が効く。そもそもそのために精霊を待機させていたのだ。

 私がパリィと《魔撃》の応用で鍔迫り合いに持ち込んで、その間に囲んで一気に浄化をかける。これならすぐに済むし、おまけに消費するのがSPだからMPの浪費も防げる。


 その間にプリムさんが行動を再開したけど、そちらは前衛二人とフリューで押しとどめられている。あまり目立つことはないけれど、ケイさんの得意な小技はこういう時にいくらでも時間を稼げる貴重な存在だ。

 やがてロウちゃんの汚染は解けて、そこでいつも通りの《緊急退避》演出が発生した。アバターが四散して、人魂が残る。今の私たちにできるのはそこまでだった。




「なんとかなったけど……これじゃ、精霊を消耗させすぎるのは怖いわね」

「途中で参加するにしても、余力を残して引いたまま待機した方がよさそうなのです」

「そうですね。……前衛多めの編成で押しますか」


 さすがにゲージ攻撃でしかやってこないと思いたいけど、ボスには《傀儡》を引き起こす特殊攻撃がある。だからそれに対処する精霊は常に欲しいんだけど、そうなると最低限自衛くらいはできる状態で待機していないといけない。

 つまり精霊はルプストのように全力でやることができない。そして悪いことに、女性トップ純魔はかなり精霊率が高いのだ。だからどうしても前のめりの編成にするしか……。




「お困りのようですわね!」

「その声は!?」

「ジュリア!」

「後衛が足りないと聞いたのだ!!」

「トトラさん!」


〈おお!?〉

〈最高の助っ人キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!〉

〈タイミング完璧か?〉

〈第一声がイメージぴったりなんよ〉

〈うーんこれは紅炎の通り魔〉


 とか考えていたら、あまりにも都合のいいタイミングで助っ人が現れた。

 クレハが昼界にかかりきりで不在だから大人しいと思われていた《ドラゴンズエアリー》の面々だ。この「お困りのようですわね!」が定型文化するほど辻助っ人を繰り返したせいで《紅炎の通り魔》がいよいよ定着してしまった竜人が活き活きしている。

 即座に続いたのは、《ヴォログ》の時にもご一緒したことのあるトトラさん。現状わずか八人しか存在しないドラゴニュートの氷担当であり、まさにたった今欲しかった火力に優れた後衛だ。


「ルプスト姉様の穴はあたしが埋めるのだー!!」

「あっトトラさん!?」

「いや、自己紹介済みの子が先に行ってくれるのは、むしろ都合がいいわ。ちょうどルプストの枠にハマるし」

「ああ、結果的に推しのルプストとうまく入れ替わりになったんだ」


〈そういやトトラちゃんルプスト推しか〉

〈いや推して〉

〈あの子たまにルプスト姉様しか勝たんやるから間違ってない〉

〈ナチュラルに姉様呼びしてるのは〉


 一見すると暴走のようにも見える即時突貫だけど、ちょうど抜けていたルプストの枠を綺麗に埋めてくれる形になった。それも見越しての……というか、たぶんアレを見ていても立ってもいられなくなったのかな、あの子。

 ほら、ジュリアの顔に「トトラに引きずられて来ましたの」って書いてある。……って、そうだった。


「私も戻らないと。イシュカさん、ロウちゃんの枠で」

「いえ、ルヴィア姉様は一度下がってくださいまし」

「そうね。後ろに初めての子達がいるし、MP回復しながら話してるといいわ」

「代わりにわたくしが出て参りますので! トトラ、抜け駆けは許しませんわー!!」


〈せやな〉

〈そっちの子達気になる〉

〈ジュリアェ……〉

〈通り魔ほんま平常運転〉


 行っちゃった。漫画みたいなノリで。しかも自分が連れてきた子達を放置して。

 先に戦闘に参加されて、しかも一時的にパーティからキックされてしまったから私には止める暇もなかった。……まあ、そういうところもあの子らしいけどね。


 ………ところで私、今からジュリア(仲介役)抜きで初対面の子達と副音声トークするの?








「《ブリザードランス・リロード》!」

「射線空けるよー!」

「《トリプル・ハイドロランス》」

「《トリプルショット》なのだ!!」

「ッ……ソコ」

「その軌道はわかってますのよ?」


 憧れのルプスト(なお少し遠くから中堅上位勢とおぼしき護衛隊と一緒にボス戦を見守っている。なんか知らない間に満了撤退者用の待機場所が設営されていた)と同じ要領で大立ち回りを見せるトトラさんと、いつものように飛んで突っ込んでの派手派手戦法でダメージを稼ぐジュリア。しかもイシュカさんがソロ上等の超回避スタイルだから点攻撃である魔銃に当てられるはずもなく、慣れもあってタンク一人で回っている。

 結果的にほぼそのままイシュカさんの分だけ火力が上がった超パワープレイ状態に取り残された私は、同じくあっちの二人に連れ込まれて放置された三人の少女たちと向き合っていた。

 同じく待機状態のはずのアズキちゃんとソフィーヤちゃんは、自分たちも三人と初対面だから話が面倒になるとばかりに離れていく。そそくさと。


「……こんな形でごめんなさい。自己紹介をしましょうか」

「……そうじゃな」

「うん。むしろ、うちの二人が迷惑をかけた」

「はわ、え、えっとお……!?」


 その少女たちというのが、この三人。のじゃ口調の狐ロリ、物静か系の猫ロリ、ちょっと挙動不審なはわわ系のロリ妖精。

 そして向こうにいるトトラさんも、負けず劣らずのロリ魔竜。……ねえジュリア。


「うちの幼馴染、何か偏った嗜好とかあるのかな……?」

「そ、そういうわけじゃないと思うのじゃ。単にちょうどこういう集まり方をしただけで……」

「向こうにはカルパやタラムもいるし、偶然。……その、あなたが言うことか、って突っ込みをした方がいい?」

「はい、助かります」


〈およそ初対面でする会話じゃなくて草〉

〈この二人いい感じに慣れてんな〉

〈まあそらそうだ〉

〈画角にかわいい子が増えるのは嬉しいぞ〉


 猫さん、とてもよくわかっている。素直にツッコむにはまだ距離があるし、こういうメタ的な返しは完璧な回答だった。

 いや、別に試したわけじゃないんだ。


「改めて、ご存知かとは思いますが、ルヴィアです」

「クレハさんとジュリアさんから、聞いてる。ライバルだって」

「確かイチョウがジュリアと同行したときなんかは、途中で顔を合わせるだろうルヴィアさんの癖を盗んでこい、なんて言われてたそうじゃな」

「えっクレハ……?」


〈草〉

〈次の決闘で倒す気満々じゃん〉

〈まさかの盤外戦術〉

〈クレハってそういうことするんか……〉

〈まあお嬢もたまにクレハの弱点とかバラしてるし〉


 初耳だった。クレハ、そんなに私に勝ちたいの? てっきりあの二人の姉妹対決こそ頂上決戦だと思っていたんだけど。

 いや、たぶん意趣返しもあるのだろう。私がたまに配信のネタにすることもあるし……でもソレ事前に裏で許可取ってるよね?


〈*クレハ:イチョウさん、ああでも言わないと行ってくれなかったので……〉

〈被告人から弁明だぞお嬢〉

〈クレハもよう見とる〉


「でもイチョウさんからはきっちり聞いたよね?」


〈*クレハ:…………〉

〈草〉

〈ちゃんと恩恵には預かってるじゃん〉

〈ギルティでは?〉

〈無言は何より雄弁だぞクレハ〉


 いや、まあいいんだけどね。私はPvPをあまり重視していないし。


 …………とりあえずイチョウさんには何を伝えたか後日問いただしておこう。

 異世界剣客の方も読んでいる方なら、この3人が誰かわかるかも?

 この子達の詳細は次回!

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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