217.お嬢様出てるぞ
さて、翌日。ここから後半戦の本丸攻めなんだけど……。
「あたしたちも連れていってください!」
「「「さい!!」」」
さっそく妙なことになっていた。
DCOにおいてNPC、もとい《双界人》の有力者は私たちプレイヤーよりも強いことが多いんだけど、彼らには「汚染を受けやすく前線に立つのは危険」という明確な弱点がある。それこそが私たちが呼ばれた理由でありゲームバランスの根幹なんだけど、この金華猫たちはそれに反することを言い出した。
しかも、つい昨日までまさに汚染されて私たちに助けられたばかりなのに、だ。気持ちは嬉しいけど、さすがにそんな危険に曝すわけには……。
「連れて行ってあげて。たぶん役に立つと思うよ」
「え?」
断ろうとしたところに、第三者の声。振り向いた私たちの視線の先には、最近頻出の火刈さんの姿があった。……ついさっきまでいなかったんだけど、やはり高位の妖怪はいろいろ術を使えるのだろうか。
櫓守りにいた金華猫は子供が多かったようで、かなり小柄な火刈さんと並べても小さい。そんな彼女たちの「ぱぁぁぁ」と効果音のついた表情を一瞥して、火刈さんは私たちに振り返った。
「長く生きた金華猫には強い幻惑の力があるんだけどね、金華猫には同族のそれを防ぐ力があるんだ。それがないと暴走状態の大人は厳しいだろうから、パーティに一人ずつ入れていくといいよ」
「がんばります!」
「「「ます!!!」」」
ずいっ。この子たち、すごくいい子なんだけど圧が強い。私たちのことを心配してくれているようだし、おそらく頷くまで離れてくれないだろう。
「気持ちは嬉しいけど、さすがにそんな危険な目に遭わせるわけには……」
「君たちだけで向かうより、この子たちを守りながら力を借りる方が安全で楽だ。それをこの子たちもわかっているから、遠慮することはないさ」
「がんばります!」
「「「ます!!!」」」
断ろうとしたブランさんもタジタジだ。純粋な厚意だから断るのも難しいんだけど、それでも解放されたばかりの金華猫たちを思って断ってもこの通り。
そこまで言うならその通りにした方がいいのかな、と思い始めた私の横で、それでも心配そうな優しいカナタさんが眉をひそめた。
「私たちなら、そのくらいの苦労をする覚悟はあります。それに、死んでも戻されるだけで根本的には安全ですし……。そういうわけにはいかないこの子達を連れていくのは、やっぱり危険なんじゃ……」
「それなら、この緊急待避札を使おうか。なに、手遊びで作っていたものが使い道がなくて余っていたんだ。遠慮はいらないよ」
「お願いします!」
「「ます!!」」
……無限ループって怖くね?
結局断りきれずに、というか断る理由を消されてしまったから連れていくことになったんだけど、金華猫を連れていくということは各パーティに一枠ずつ空きを作らなければならない。六人ずつだったパーティを五人ずつに組み替えるために、参加者の再編成が行われた。
なるべく息の合った人たちを合わせたり、下のレベル帯から順にバランスのいいパーティを組んだりしていると、当然ながら最高レベル帯かつソロの私は最後まで残る。最終的に私を迎えたパーティが……。
「……結局、最上層が融通を利かせるのが一番いいのにゃ」
「そのようですね」
「凄まじいアウェー感ですけどね」
「ちょうどよかったんじゃないですか? 私とベルとカナタが揃っているところに外から入ったことがあるの、ルヴィアさんだけですもん」
カナタさん、ベルベットさん、メイさん。この3人のところだった。
確かにメイさんの発言はその通りなんだけど、これには外から抗議の声があった。
「じゃあ俺はどうなるんだよ!?」
「…………まあ頑張って」
〈草〉
〈被害担当交代か?〉
〈いつもと違うんだが〉
セージさん……ではなく、ラジアンさんだ。ブランさん、テンドーさん、バスターさんに巻き込まれている。私が助っ人に入った時はバスターさんがいなかったから、この三人が揃っているところに外から入ったことがあるプレイヤーは存在しない。
貴重なタンクを遊ばせておくわけにはいかないからね。セージさんは別のパーティに勝ち逃げである。
「先生」
「はいベルベットくん」
「このパーティ……というか、あちこちでタンクとヒーラーが不足してるのにゃ」
「あー、マスターのとこもヒーラーいませんね」
〈タンクおらんな〉
〈あ、そっか〉
〈どうすんの?〉
〈これはお嬢タンクか〉
〈久々の?〉
うん。再編成しても各パーティにタンクとヒーラーは必要だから、削られるのはもっぱらアタッカーの枠になる。だけど削られたアタッカーが集まって組んだパーティの数だけ、タンクとヒーラーが不足するんだよね。
もちろんこれは予測ができたから、手を打ってある。
「というわけでジェヘナさん、今空いてますか?」
『今の話の直後に!?』
「あ、聞いてらしたんですね」
ちょっと思ったけど、ごめんね。このパーティについてこられるソロタンクの女の子となると、あなたしか思い浮かばなかったの。フリューは既に別パーティで参加しているし、ルプストと一緒だし。
まあ、配信経験もあまりないのにラジアンさんに呼び寄せられたヒーラーくんよりは気楽なんじゃないかな、たぶん。
ジェヘナさんは結局すぐに駆けつけてくれた。ラジアンさんに道連れにされたオニキスくんという妖精ヒーラーと一緒に。ありがとうね、二人とも。
これで五人目が埋まったから、金華猫を一人連れて出発だ。本丸はいつものダンジョンのようにパーティ単位に分かれての攻略となる。
「金華猫の《マオミィ》です! みなさんをしっかり幻惑からお守りしますので、よろしくお願いします!」
「はい。よろしくお願いします、マオさん」
カナタさんがクエストの受領者だからなのか、私たちについてきたのはさっき代表としてお願いしてきた金華猫だった。名前は《マオミィ》……うーん、ちょっと待って?
「もしかして、族長のお子さんだったり?」
「うにゃ!? なんでわかったんですか?」
「え、合ってるの?」
「なんでわかるんですかルヴィアさん」
「うわこの人怖い……」
〈???〉
〈エスパーかなんかか?〉
〈んー、理由はわかったけど〉
〈やっぱおかしくないかこの子〉
〈連想力高いなぁ〉
ちょっとした想像だったけど、どうやら当たっていたらしい。ということは……。
「だとすると、《マオミィ》というのは世襲制の幼名だったり」
「みゃっ!? あ、当たりですっ!」
「「「「…………」」」」
「わかりました。説明しますから、その目はやめてください」
〈…………〉
〈…………〉
〈…………〉
〈…………〉
〈どういうことだお嬢ォ!?〉
〈もしかしてお嬢が覚なのでは?〉
息ぴったりで同じジト目ができるあたり、ジェヘナさんも馴染めているようでよかったよ。
…………はい。ちゃんと説明します。
「《マオミィ》というのは、中国語……金華猫という妖怪のルーツとなった場所の言葉で『子猫』のことなんですよ」
「ああ、なるほど」
「中国語まで知ってるの……?」
「話せませんよ。ちょっと聞いたことがある程度です」
ちなみに「猫咪」と書く。「小猫咪」とすることもあるらしいけど、使い分け方とかはさすがに知らない。
つまりこの子の名前は、そのまま子猫ということになるんだよね。そんな名前がメジャーなわけがないし、族長のような重要な人物しかつけられないのではないか、と思っただけだ。
ついでに大人になっても子猫のままとも思えないから、幼名の可能性が高いと思った。もしそうなら、それを世襲していてもおかしくないかな……といった感じの連想だ。
「すごい、ですね……ぜんぶその通りです。大人になったら《猫猫》になります」
「これが令嬢の教養……ってコト!?」
「凄まじいにゃ……」
「(……まあ、九津堂の考えそうなことというか)」
〈聞こえてんぞ〉
〈マオミィちゃんに聞こえないように言ってるのは偉い〉
〈お嬢ェ……〉
もしその《猫猫》が複数人になったら、大猫と小猫といった感じに呼び分けるのかな。たぶん。
間違っているかもしれないちょい齧り中国語のコーナーはここまでにして。
「二人はいつも通りで、ジェヘナさんはタンクを」
「「了解」」
「はい」
「マオミィさんのことはルヴィアさんがお願いします」
「わかりました」
ああは言ってもらったとはいえ、やはりマオミィさんのような双界人をあまり危険に晒すわけにはいかない。魔術で戦闘場面を援護しながら近接の護衛もできる私が彼女について、残る四人がいつも通りの形で攻略することになった。
戦力的にはいつもよりアタッカーが一人半ほど少ないことになるけど、そもそもカナタさんは一人で二人分と呼ばれるほどのアタッカーだ。メイさんも特に進化後は大概だし、不足はないだろう。
……それにそもそも、この城はこのような形での攻略が前提の難易度に設定されている。四人パーティでもなんとかなるダンジョンを、六人パーティに匹敵する戦力で進んだりすれば……。
「そー、れっ!」
「《ダブル・ファイアバレット+》!」
「……敵性反応なし。OKです」
「はーい。やっぱりすごいですね、カナタさんって……」
「実質四人パーティなのに、暇さがいつもと変わらないにゃ」
「護衛しながらなのに普通のメイジ並の支援やってるルヴィアさんのせいでは?」
〈?????〉
〈なんなのこいつら〉
〈他のパーティはまあまあ苦戦してるんですよ!〉
〈ブランのとこですら若干もたついてるのに〉
〈こいつらがおかしいだけだぞ〉
〈お嬢の近接抜きでこの完成度なのおかしいだろ〉
こうなる。
タンクもヒーラーも超一流で、減っているはずの火力は普段が過剰火力気味なカナタさんが補って余りある活躍を見せている。おまけに私がいつもより暇だから魔力覚での索敵に気を割いていて、メイさんも扱えるようになってきているから斥候面についてはいつもより磐石だ。
「…………」
「ほらもうマオミィちゃんも唖然としてるにゃ」
「え、これ私ですか?」
「違うんですか?」
ちなみに当のカナタさんの反応はこんな感じだった。ヒロインみたいな立ち位置しているけど、ブランさん並に主人公気質なんだよね。
「ルヴィアさんもルヴィアさんでなに『自分はなんでもないです』みたいな顔してんですか?」
「え、私ですか?」
「違うんですか?」
「全員にゃ全員!!」
「ベルにゃんめ、自分は今は出番なかったからって高みの見物しやがってー!」
……収拾がつかなくなってきた。一旦カット、カメラ止めて。




