211.驚きすぎると感情が消えるガール
「さて。アクセサリーの装備枠は、今は六つですね。先ほど増えると言いましたが、実は先日のアップデートで既にひとつ増えています」
「元々あったのが耳、首、指ふたつ、腕だね」
「ここまでは埋まりましたねっ」
ここに《バージョン1.3》のアップデートで頭の装備枠が追加された。これによって頭部装備と首元のものが分割されて、帽子や髪飾りとネックレスが両立できるようになっている。
しかし当然、ここ最近装備にあまり頓着していなかった私はこの髪飾り枠が空いていた。
「というわけで、これ」
「えっと……バレッタ?」
「うんっ。つけたげる」
クリヌキさんの作であろうバレッタを手にしたエルジュちゃんが私の後ろに回って、それに興味津々の芳乃ちゃんがついていった。リオネッタちゃんもカメラを連れて続く。
私は同性のフレンド相手にはセクシャルガードを切っているから、問題なく髪にも触れる。……髪の毛とかVRで再現するのは大変だろうに、ほんの少ししか違和感がないのは凄いと思う。
しばらく触られていて、できあがった時の感触から察するに……。
「ハーフアップ?」
「シオンちゃんのついったの写真でこうしてたの似合ってたから。せっかく髪飾り使えるんだし、これからはこうしときなよ」
「主さま、お似合いですっ」
「ヤッパりモノがヨすぎマす……」
頭の上半分の髪だけ後頭部で結わえられて、残りは伸ばしたまま。ハーフアップ、いわゆるお嬢様結びだ。
実際、これは私は時々やる。素の気分のままおめかししたい時はこうすることが多いから、慣れもあって違和感はなかった。
「一応、配信にも見せておきましょうか」
「おお、配信者の鑑だ」
「リオネッタちゃん、ルヴィアさんのこういうトコ見習おーね」
「ハイ……」
〈おお!!!〉
〈お嬢のお嬢様結び!〉
〈*フリューリンク:かわいい〉
〈*スズラン:かわいい……〉
〈*ユナ:この完璧美少女め〉
〈VよりVしてる〉
〈みくりん魅せるの苦手だしな……〉
さて、改めて性能面。
一言でいうなら、やはりかなりの高性能だ。カテゴリ分けで枠が増えただけで、作成そのものは前からできたから不慣れということもない。
だけど、アイテム名が《精霊姫のバレッタ》なんだよね。私専用に作ってある。つまり、これはここ三日で一から作られているということになる。
「私としては、そこまで持ち上げられても心配になるといいますか……」
「気にすんな、嬢ちゃん。商品は揃ってるし時間は余ってるからな」
「……まあ、それなら大丈夫か。改めて、ありがとうございます」
自己申告だけど、持て余した暇を潰すために力を入れているというなら私から窘める理由はない。言うべきはお礼だ。
というわけで、今日は新装備を揃えてきた。ステータス補正も大きく上がって、私としても嬉しい限りだ。
「というわけで、装備更新でした。今日はこのあたりで……」
「こらこらこらこら」
「主さまっ、まだひとつ残っていますっ!」
「……やっぱりダメ?」
「ダメ。ちゃんと受け取って」
はい。
向こうで満面の笑みのホーネッツさん、今はちょっと近寄りたくないんだけどなあ。
というわけで、本日最後。
「いよいよ衣装本体の番ね!」
「おめかしですねっ」
「……芳乃ちゃんが嬉しそうなのは救いだよ」
二度目の衣装更新。それだけなら私も拒むことはないんだけど、体のサイズを握られて時々コスプレさせられる身としてはホーネッツさんの服というだけで身構えてしまうのだ。
でも、わくわくした様子の芳乃ちゃんがいるだけで気が紛れる。私はこの子と一緒なら、Vtuberさながらの新衣装配信も乗り切れるかもしれない。
「じゃ、これね」
「…………本気ですか?」
「もちろん」
〈何渡されたんや……〉
〈常用する服渡されてこの反応なかなかないぞ〉
〈今みたいな普通のじゃなさそうだな〉
〈さすがホネキ、新衣装配信をわかってる〉
……これまで私が着ていた《オーバーチュアクロース・E》は、チュニックにティアードスカートというシンプルな装いだった。それでもデザインや刺繍のおかげで単調にはならなかったし、私としてはお気に入りでもあった。
でも、これはプレイヤーメイドの服。いくら強化とメンテナンスを繰り返しても、途中で精霊界仕様にマイナーチェンジしても、性能的な限界というものはあるわけで。
では、ホーネッツさんが代わりとして用意した新衣装はどんなものなのかというと……。
「……ほぼドレスじゃないですか」
「気づかなかった? 今回の共通テーマは」
「精霊姫、ですか。……ほんと、私より配信のことをよくわかってますよね」
〈ドレス!?〉
〈ドレスだ!!!〉
〈めっちゃお姫様〉
〈*イシュカ:似合うのよねやっぱり〉
〈*ミカン:この子可愛すぎない?〉
動きやすいようにミディ丈になっている、やや淡い朱色のドレス風ワンピースだ。《工芸館》の皆さんが私のことをなんだと思っているのかよくわかる。
さすがにステレオタイプなプリンセスが着るようなものではないけど、前線に出て剣を振るには少々場違いにも見える。防具は以前から着けていないとはいえ、ここまで振り切るとね。
「今日から私これで戦うんですか……」
「魔術師ならこれくらい普通でしょ?」
「私は前衛なんですけど」
「前衛がこういう格好をしないのは防具を着けるからよ。防具がない前提なら、動きづらくならない範囲内の服を着るのに何の支障もないわ」
「まあそうかもしれませんけど、ビジュアル的には」
「アニメにはそのくらいの身軽な服装で剣を振るうヒロインもいるじゃない」
言い負かされそうになってきたからこの話はやめよう。
名称は《ヴェスティート・シンフォニア》。ご丁寧なことで、「ヴェスティート」とはイタリア語でドレスのことである。シンフォニアがイタリア語だから合わせたらしい。
「さてはホーネッツさん、この名前はベータの時から考えてましたね?」
「よくわかったね!」
「オーバーチュアの次がシンフォニアって、嫌でも気づきますよ」
オーバーチュアからのシンフォニアだ。当時は「これから本格的に始まるところだし、ちょうどいい」くらいに思っていたけど、今はもう「狙ってたな?」としか思えない。
ついでに言うとオーバーチュアは英語だから、こちらもしっかり言語が一致している。こういうところにこだわりがあるのはクラフターらしいといえるか。
ひとまず全て購入して、一式を装備して試してみることにする。
「かわいい!」
「かわいいよルヴィアさん!」
「素晴らしいです、主さまっ!」
「今そういうの要らないので!!」
〈草〉
〈野次にしか聞こえねえ〉
〈こいつらw〉
〈芳乃ちゃん普通に混ざるじゃん〉
あっちのオーディエンスは無視して、案山子くんの前。
動かない相手を前に飛行は機動力が過剰だから、ここでは地上戦での試用だ。実戦想定の慣らしは後でプラクティスでする。
「よっ、と……ぇ?」
「おお!!」
「こりゃすげえな」
「想像以上だねー……」
「主さま、すごいですっ!!」
〈!?〉
〈え、速くね?〉
〈なんか昨日より俊敏だぞ〉
〈お嬢が振り回されてる〉
〈お嬢がここまでコントロールできてないの初めてでは〉
〈あ、慣れてきた〉
〈うわもう慣れてる〉
〈早すぎん???〉
いざ試してみたんだけど、思っていたよりも自分の動きが速い。そのせいでいろいろズレていたから、即席で調整して速度の方に動作を合わせる。
……すぐに上手くいった。これが簡単になったのは、私の成長といっていいだろう。
「補正、物凄いですね」
「とれーにんぐ用の重リを外シたミタイにナッテまシたね」
「ベータの時から服替えてなかったし……」
「でも見栄えはいい感じだね!」
うん、思いのほかちゃんといい見栄えをしていた。アニメ感が増した気はするけど。
それを確認するために先に動いたけど、まだ性能を見てなかったね。たぶん、この感覚のズレはそれが原因だ。
ちょっと見てみようか。
○ヴェスティート・シンフォニア
分類:衣服 (ワンピース)
スキル:《虹魔術》、《エレメンタルステップ》
属性:幻
品質:B+
性質:精霊専用
所有者: 虹剣の精霊・ルヴィア
作成者:ホーネッツ
状態:正常・魔化
SPD+36、MDEF+12、MP回復速度+5%
・芳乃の依頼を受けたホーネッツが制作時点での技量と素材を結集して作り上げた、「精霊剣姫シリーズⅠ」の中核となるドレスワンピース。ルヴィアの周辺の人物や精霊たちに話を聞き、ルヴィアの衣装かつ装備として長く使われ印象に残るよう追求して完成した。
シリーズ全てが原初精霊の手により完成前に魔化を行うことで、精霊装備に必要な条件を満たしつつ初期性能と強化幅を最大限残すことに成功している。
というわけで、性能はこんな感じ。物理攻撃は受けないことを前提に、速度と魔防で防御面の補強と…………待って。
「芳乃ちゃん……?」
「初めてお会いした時から、主さま自身と装備の力が違いすぎたので、これはお手伝いせねばと!」
「エルヴィーラさん!?」
「途中で芳乃ちゃんが連れてきてくれたの。おかげで性能がさらに上がったよ」
「MP回復速度ってなんですか」
「エルヴィーラさんに《魔化》してもらって、その後に見たらなんかついてたのよ」
〈三段驚愕〉
〈器用な驚き方するな〉
〈お嬢が驚きすぎると表情消えるのマジだったんか〉
〈いや待てMP回復速度UP!?〉
〈なんかやべーのついてんぞ〉
いやもう芳乃ちゃんが勝手に依頼までしていたのは助かったしいいとして、エルヴィーラさん何してるの?????
てっきりこの世界の表に出てくることはそうそうないと思っていたのに、普通に出歩いている。しかもクラフターのもとに出向いて人の装備を勝手に強化している。
挙句の果てには新登場の効果まで置いていったらしい。おかげでMPリジェネ、MP最大値ブースト、MP回復速度上昇の三銃士が揃ってしまった。
「みんな揃いも揃って、いったい私のことをどうしたいんですか……?」
「あー……まあ、頑張れ。新作のシーフードカレー食べるかい?」
「食べます」
「あと絜鉤の唐揚げ」
「持ち帰ります」
さすがコシネさん。私のことを好きなだけ強化していい「わたしたちのかんがえた最強の来訪者」扱いしないでくれるのはこの場では彼女だけだ。
慰めてくれたからありがたく料理を買うことにした。現実逃避には美味しいものが一番だよね。
無事にお姫様になりました。よかったね、ルヴィア!




