201.ネタ切れしました
翌月曜日です。
「アップデート後です」
「いぇーい!」
〈いぇーい!〉
〈*イシュカ:いぇーい!〉
〈*ユナ:いぇーい!〉
〈今日はソフィーヤちゃんか〉
〈精霊組が今日も元気〉
9月30日、月曜日。今日は昼間にDCOのアップデートがあった。バージョン1.3となった今回は、初めてプレイヤー数の増加が起こらなかった。もう無制限解放されているからね。
今回の目玉は、もちろんアレだろう。……でも、その前に。
「まずは二週間ぶりのステータス確認からいきましょう」
虹剣の精霊・ルヴィア Lv.57
性別:女
種族:精霊
属性:幻
特殊:《魔力生命体》、《本質の精霊・薄明の虹魔剣アイリウス》、金属防具・アクセサリー装備不可、《虹の魔術》、《魔力覚》、《魔力飛行》
状態:正常
VIT:42(+0)
STR:135(+0)
AGI:450(+7)
DEX:288(+5)
INT:498(+33)
MND:475(+35)
種族スキル
戦闘:《虹魔術》Lv.101 《植物魔術》Lv.100 《精霊の唄》Lv.46
探索:《エレメンタルステップ》Lv.96 《魔力察知》Lv.89 《精霊眼》Lv.88
生活:《浄化》Lv.76 《薬草看破》Lv.42
汎用スキル
戦闘:《パリィ》Lv.97 《片手剣術》Lv.92 《攻撃予測》Lv.91 《魔術学》Lv.90 《回避》Lv.82 《治癒術》Lv.46 《威嚇》Lv.42
探索:《直感》Lv. 88 《解体》Lv.72 《罠探知》Lv.46
汎用:《生活魔術》Lv.78 《鑑定》Lv.58 《採集》Lv.53 《瞑想》Lv.37
「ステータス面ですが、自由値をMNDに振る割合がより高くなっています。MP足りなすぎるので……」
「ルヴィアさんはそうだと思うのです」
〈でしょうね〉
〈そらそうよ〉
〈人の倍くらい要るやろ〉
〈あたり前○のクラッカー〉
私は最近大幅なモデルチェンジを果たしていて、それに合わせて必要なステータスも少し変わってきた。
元々切っていたSTRが本格的に不要になって(装備重量にも影響はするけど、そもそも私たち精霊は金属装備ができないから種族値の1点で事足りる)、より攻撃的なスタイルになったことで全火力に直結するINTの重要度が上がった。
そして何より、攻撃手段が増えたせいでMP消費速度がかなり上がった。これによってMNDの必要量が跳ね上がったのだ。それこそ、理想をいえば他のプレイヤーの二倍は欲しいくらいに。
「ただ、AGIが足りてきている節があるのが救いですね。少なくともPvEでは速度に困っていませんし」
〈AGIが足りるって何???〉
〈AGIはいくらあっても足りんやろ〉
〈お嬢は立ち回りでいくらでもカバーするから……〉
敵の動きを読んで先回りする分には、今の速度でもじゅうぶん間に合うんだよね。確かにいくらあっても困るものではないけど、他にリソースを回す程度には足りているのだ。
「では、いつものに参りましょう」
まず《虹魔術》。
ご存知の通り、スキルレベル90は最近多用している《ランス》だ。連発こそできないものの、術そのものには本当に短所がないから出番が多い。特に私の場合、そのクールタイムを物理で補うこともできるようになってしまったからなおさら。
スキルレベル100はというと、支援系と同じ既存術の強化だった。《バレット+》、従来より威力が上がっている。
「これが案外馬鹿にならない上がり方しているので、今後は出番がありそうです」
「どのくらいなのです?」
「ロアと同じくらいですね」
〈ほー〉
〈そんなに!?〉
〈こういう初期技って強化されても微妙なもんじゃないの?〉
まだ検証中のところもあるんだけど、かなり有用だろうということになっている。ロアよりも詠唱が短く、ペインより弾速が速く、癖のない性能にまとまっているから。
私はスタイル的にエッジがあるとはいえ、あちらより消費MPが少ない点は明確な魅力。使うこともあるだろうし、見ることはもっと多くなりそうだ。
続いて《植物魔術》。これはついさっき私がスキルレベル100に届かせた。他に報告はないから、まだ私がトップかもしれない。
スキルレベル100は《クリーパーヴァイン+》。速度と持続性が上がっている。攻撃としても使い物にはなるけど、よりサポート性能が上がった印象だった。
「《片手剣》スキルレベル80、《ショルダーフォール》。剣を担いだところから大きく切り下ろす単発アーツです」
「これ、かっこいいのです」
配信で使うのは初めてかもしれない。実演。
「……は、っ!」
「違う違う違うのです!」
〈聞いてたのと違う〉
〈何しとん??〉
〈わぁ、すごい曲芸だ!〉
〈担いでなくねー?〉
うん、いいツッコミありがとう。
一度担ぐ必要があるから、普通に使うと隙の大きい強攻撃だ。その分、威力は片手剣で最高になっている。
ただ、これを飛行可能種族が使うとこうなる。左肩に巻き付けるような形で右腕を伸ばしながら小さく縦回転して、その勢いのまま一回転後に斬り下ろしだ。
「これによって、ほかの技の反動からシームレスに繋ぎつつ小さな隙で強攻撃ができます」
「できるのルヴィアさんだけなのです」
〈誰の参考にもならない〉
〈何の役にも立たない解説だ〉
〈魔力飛行持ちの片手剣士ほかにおらんのよ〉
ざんねん。
ギャグ枠。
「《回避》スキルレベル80、《シャドー》。アクティブアーツで、有り体にいえば残像ですね。その場に影分身が残って、Mobの目を引いてくれます」
「……サッカー用語なのですか?」
「シャドー、というかシャドーストライカーですね。最前列の少し後ろで自由に動き回って、防御ラインをすり抜けてゴールを狙う二番手アタッカー的なポジションです」
〈期待を裏切らないな〉
〈普通にポジション名使ってくるじゃん〉
〈味占めてんな〉
シャドウじゃなくてシャドーなあたり、完全に狙っているよね。でも普通にネーミングが上手いのがちょっと悔しい。一発ギャグから決められていそうなアーツなのに、ちゃんと実用性があるのも嫌だ。運営のドヤ顔が目に浮かぶというか。
そして。
「《パリィ》スキルレベル90、《チェンジアップ》です」
「えぇ……」
〈は?〉
〈なんで〉
〈野球用語ならなんでもいいのか〉
〈バントへの執着どこいった〉
たぶん、バント関連は本当にネタ切れなんだろうね。だから野球用語にまで広げて、ついに球種になった。
チェンジアップとは、野球の変化球のひとつだ。ボールへの指のかかりを抜いて投げることで、回転が小さくなって途中でスピードが落ちる。ストレートと同じ投げ方から飛んできた場合は、タイミングが崩れて打ちづらい。
では《チェンジアップ》の効果はというと、タイミングをずらしたパリィで敵を撹乱しやすくなるシステムアシストが入る。最初からチェンジアップ前提の振り方をしながら発動すると、剣が途中で減速して敵が態勢を崩すのだ。
「なまじ便利なのが腹立ちますよね。確かにチェンジアップそのものですし……」
「いくらなんでもツッコミ待ちすぎるのです。この配信、たぶん運営さんに当てにされてるのですよ?」
さて、それはいいとして。
「メインコンテンツに行きましょうか」
というわけで、私たちは今どこにいるでしょう?
〈待ってたぞ〉
〈ダンジョン内スタート助かる〉
〈一昨日から待ってた〉
〈昨日言ってたもんな〉
「新要素、《ダンジョンマスターシステム》です」
一昨日のゲリライベントの時点で判明していて、今日満を持して実装となった新システム。今日はこれについてやっていこう。
「《ダンジョンマスターシステム》は、再解放まで完了したダンジョンに適用される新システムです。コア所持者にさまざまな権利が与えられて、そのダンジョンをある程度好きにできます」
「ラノベとかでありがちな、いわゆるダンジョンマスターなのですね」
「平たくいえばダンジョン運営ですね」
私はイベントの一環でやったことがあるけど、内部の地形やMob配置、採集ポイントなんかも自由が利く。かなり拡張性の高いシステムだ。
ただ、もちろん何もかも好きなようにとはいかない。ゲームの常として、リソースは有限だ。
「ところで、覚えていらっしゃいますでしょうか。実は以前、ダンジョンマスターという概念は出てきたことがあります」
「あ、神宮の再解放の時なのです?」
「ええ。あの時は実用性がなかったので名誉称号だとされていましたが、今回あれが実用化された形ですね」
〈あったなそんなことも〉
〈忘れてた〉
〈新参だけど何月何日の?〉
〈ちょっと見てくるか〉
〈8月25日だよ〉
なんと伏線回収だった。あの時点でもう、ダンジョンマスターという単語自体は出てきていたのだ。
そして、つまり。私は現在、なんと三つのダンジョンのマスターということになっている。ついでに言うと四つ目も解放待ちだ。
「というわけで、後で残り二つも見に行きます。なにせ管理権が私にあるので……」
「仕方ないのですけど、ダンジョンコアの恩恵が増えて面倒くささも上がったのです」
そういうことになる。唯装ダンジョンはともかく、メインストーリーを含めたそれ以外のダンジョンのコアは欲しがる人と嫌がる人に分かれそうだ。
もちろん私はもう要らない。フリじゃないからね、本当に管理しきれないからね。
……神宮のダンジョン、武神様に管理権を預けたりできないかなぁ。
「それと、もうひとつ。今日、ゲストがソフィーヤちゃんしかいない理由ですが」
「精霊の相棒はみんな、ダンジョンコアなのです」
〈あっ……〉
〈なるほどね〉
〈全員血の涙流してそう〉
そう、全員がそれぞれのダンジョンにかかりきりになっている。アズキちゃんは例外だけど、彼女は再解放が今日だった。
さすがに一人はゲストがいた方がやりやすいから、一人だけ募集したんだけど……それはもう壮絶なじゃんけん大会だった。
「精霊に限らず、今日の前線がやたらとスカスカなのはそういう理由ですね。みんなダンジョンマスターです」
「一億総ダンジョンマスター社会なのです」
「なんの脈絡もないパワーワードやめてくれません?」
〈草〉
〈意味わからなすぎて好き〉
〈ソフィーヤが勝ったの必然では?〉
〈お嬢のツッコミも滑らか〉
たぶんソフィーヤちゃん、言いたかっただけだ。一瞬だけ「てへっ」みたいな顔をして、すぐ元通りになっている。
というか、怖すぎるね。どちらかというと、ダンジョンが一億もあることが。
ともかく、そろそろ実際に見ていこう。
手元で専用のメニューを操作すると、ダンジョン内でだけ目の前に時空の裂け目が開く。
この向こうは《マスタールーム》といって、ダンジョンの設定や操作ができる専用の空間だ。ダンジョンマスターが招いた人しか入れないから、ゲーム内では数少ない固定プライベートスペースでもある。
「いろいろと気になることはありますが、どうせ『ダンジョンは空間が歪んでいるからなんでもあり』で済まされるのが目に見えています」
「考えたら負けなのです」
「なので、余計なことはなしで。──ようこそ、マスタールームへ」
運営「いやほんと、さすがにもうないんだよバント用語なんて。でもいまさら神羅万象から錬成するのはしんどい」
ルヴィア「でもそれ作者の感想ですよね?」
杜若「はい」




