200.再生リスト:お嬢以外のやべーやつ切り抜き
祝! 200話(not200部分)!
それからしばらく経って。
「このぉっ! なん、でぇ……!」
「……慣れればどうにかなるか」
意外なことに、ラジアンさんが終始優勢だった。
前回の挑戦ではこれに対応できずに敗れたラジアンさんだけど、今回彼が戦えていることにはもちろん理由はある。
「むむむむ……!」
「ここだ」
「ぎゃんっ!?」
〈なんで??〉
〈もしかしてラジアンも人間やめた?〉
〈お嬢にそんなバフ効果があるとは……〉
「おそらくこれは、単純な慣れでしょうね」
クレハが配信していた時と大きく変わっていないから、そもそもこの千歳姫というボスは弱点がひととおり割れている。それでも脅威の突破率の低さを誇る原因は、わかっていてもできないほど難しい……というか純粋に千歳姫さんが強いところにある。
ではそれをどう突破するかといえば……まあもちろん、実力を上げるしかない。敵の動きについていけないのなら、ついていけるようになるまで成長するしかない。
なのに、千歳姫さんのレベルは挑戦者のレベルに応じて上がっていくのだ。だから、単にレベルを上げても追いつけない。
こうなれば突破法はひとつだけだ。すなわち、プレイヤースキルを上げること。
単純にして一番難しいことなんだけど、だからこそ最も効果的である。上手くなって、地力で上回ればいい。
このゲームはRPGの一種だから、基本的にはレベルを上げればなんとかなるようにできている。だけど、一定以上のレベルになってくるとアクション要素も無視できなくなってくるのだ。
「前回の挑戦よりも、ラジアンさん自身が成長してプレイヤースキルが上がっているんです。だから追いつけるし、対応できる」
「そういうことなら、うれしいし、たのしいけどー……ふぬぅーっ!」
〈このボス合いの手入れてくるんだよな〉
〈かわいい〉
〈尻尾以外はかわいい〉
〈バストアップだとめっちゃかわいい〉
〈尻尾もかわいいだろ!〉
千歳姫さんの弱点は、常に挑戦者の位置を視認して把握しながら動いていること。つまり、死角や幻惑、目くらましなんかに弱いのだ。
こればかりは本当に自分で立ち回ったり身のこなしを駆使するしかないから、それができないとドラゴニュートにはなれない。それがわかっていたから、おそらくラジアンさんも重点的に特訓していたのだと思う。
「もーおこったぞーっ!!」
「大技か。……来い」
「これでも、くらえーッ!!」
大きなピンチはないまま戦闘が進んで、千歳姫さんのゲージは残りわずか。一方のラジアンさんは、ここまで温存できたポーションを飲んだばかりで全快だ。そろそろポーション酔いが来る頃だけど、事ここに至れば関係ない。どうせケアレスミスがなければ、もう飲まないだろうし。
癖なのかもしれないけど、さっきから台詞回しがクレハの時とほとんど同じだ。もしかしたら毎回こんな感じなのかもしれない。だとしたら、これで六回目である。
で、何が起こったのかというと。
千歳姫さんの本体が私と逆側の端に移動して、バトルエリア全域を薙ぎ払うように尻尾が繰り出された。
速度と高さ、それに尻尾の大きさも考えると、ほとんど必中攻撃だ。……クレハはどうしたかって? あの子は高速で迫ってくる尻尾に飛び乗っていた。意味わかんないよね。
「ぐッ……!」
「へっへーん……っえ、あれ??」
ではラジアンさんはというと。
避けもせずに背中で受けた。
〈は?〉
〈おいおい〉
〈モロに喰らってるが〉
〈ここにきて?〉
〈え、もしかして〉
〈*ヤナガワ:ラジアンの真骨頂やね〉
「大概意味わかんないですね、あの人も」
で、尻尾に押される形で本体に急接近した。
尻尾の薙ぎ払いが、千歳姫さんから見て奥から手前の方向だったのだ。だから彼は、どうやらわざと背中で受けた。バランスを崩さないように受け止めて、攻撃の勢いを利用している。
さっき、まだHPに余裕があったのにポーションで回復したのはこのためだったらしい。クレハの配信アーカイブでこの大技の存在と性質がわかっていたからこその芸当だ。
ずるいと言うなかれ。他のプレイヤーの行動や持ち帰った情報で攻略するのも、MMOの常套手段なのだ。だからこそ、予習が不可能な初回クリアが貴重とされる部分もある。
「おおおおッ!!」
「あでっ」
勢いを保ったままうまく跳ね上がって、本体へ全力の《シャッターストンプ》。ほとんどなかったHPゲージは空になって、千歳姫さんの動きが止まった。
尻尾についた百足の足がもぞもぞと震えたりもがいたりする恐ろしい様子を見せた後、千歳姫さんはその場に崩れ落ちて伸びた。
「……ふう」
さすがに疲れた様子のラジアンさんだけど、すぐに千歳姫さんを助け起こしにかかる。ごめんね、事ここに至っても私は近づけないんだ。
悔しそうな千歳姫さんの様子が示すように、ラジアンさんは無事に試練を突破した。13分間の激闘だった。
〔クエストクリアを確認しました〕
〔インスタンスエリアから復帰します〕
〔《他無神宮》境内〕
神喰らいの威圧から解放されました。
「ラジアンさん、おめでとうございますー!」
「ああ。ありがとう」
イチョウさんとトトラさんの時は違ったようだけど、今回は配信でそれぞれの戦況が把握できた。戻ってきた時点で、ギャラリーはラジアンさんが試練を突破したことがわかっている。
そして私への心配の視線もあった。笑い返しておいたけど……もしかしたら、私の方が疲れているように見えるかもしれない。ラジアンさんが割と平然としているし。
「よくやった。それだけの実力があれば、龍の力にも耐えられる」
神奈さんも満足げだ。どうやら配信を見ていたらしい。……そりゃそうだよね。ギャラリーのところで超大画面でパブリックビューイングしているものね。イチョウさんとトトラさんへの話が終わったのか、一緒に見ていたようだ。
そして即座に進化。残る二人はまだ時間がかかりそうだから、先にしてしまうらしい。
「それが《森竜人》。その力、うまく使って」
「ありがとう。……まずは、まともに飛べるように練習しないとな……」
「それじゃ、トトラに任せるのだ」
エルフからの進化で、《森竜人》。耳の形が残っているのと、角の形がエルフ耳に近い。それ以外はジュリアとかなり近いから、《魔竜人》ほど特異的ではないか。
竜人は物理飛行だから、この場で教えられるのは先輩であるトトラさんだけだ。ギャラリーに翼人はいなかった。
「なんとか、なったにゃ……」
「疲れた……」
「お疲れ様です、二人とも」
五分以上遅れて、ベルベットさんとセージさんも戻ってきた。なんと無事に突破、三人同時の進化となる。
この二人はアタッカーであるラジアンさんと比べると攻撃力には大きく劣るけど、代わりに自己回復や防御スキルで耐久性が高い。だから、千歳姫さんの幻体が合わせたステータスになってくれるところまで含めても長期戦になるのだ。
「まさか、ここまで一気に増えるとは……」
「これからはもっと増えると思いますよ。来訪者も強くなってきていますから」
神奈さんも嬉しそうだ。クールだから頭の中で一致しづらいけど、彼女はマナ様と同じポジションだからおかしくない。
そのまま二人も進化。セージさんは《天使龍》、ベルベットさんは《猫龍人》だった。先んじていたリョウガさんは《竜鬼》だから、龍人と竜人もちょうど四人ずつになっている。
「しっかし、やっぱ毒つれぇわ……」
「ちゃんと言えたじゃないですか」
「毒を受けても死なないこと自体が羨ましいにゃ」
〈でも生きて帰ってきてんだよな〉
〈毒喰らって生還したの初めてでは?〉
〈さすがタンク〉
セージさんがぼやいたのは、バージョン1以降の千歳姫さんが持っている毒のことだ。私が《黒き神霊》に受けたものとはわけが違って、かなりの速度でHPを削ってくる猛毒である。
ただ、さっきのラジアンさんの戦闘では見掛けなかった。というのも、この毒は千歳姫さんの尾節にある角からしか入らないからだ。彼はあの殺意溢れる尾節を一度も喰らわなかったから、今回は毒を見ることはなかった。
というか、今のところあの毒は「貰うと死ぬ」という扱いだ。大抵のプレイヤーなら一撃で半分以上削られるような攻撃を受けて、体勢を立て直しながら素早く治癒しないとすぐに残りも削れるのだから無理はない。
逆に言えば毒攻撃を受けなければ勝率は上がるんだけど、それが難しいからこの試練は難しいのだ。ベルベットさんも受けずに突破したようだけど、彼女のサポート全振りステータスだとさぞ大変だっただろう。やはり侮れない。
「これで例のクエも進むかも」
「かもにゃ。懸案だった枠も、ちょうどそこにいるし」
「例のクエ?」
そろそろ締めようかと思っていたところで、三人で固まった明星組から意味深な会話が聞こえた。
例のクエ、とはなんだろう。私も明星の大まかな動きくらいは把握しているから、ピンとこないというのも妙な話なんだけど……。
「ああ。実はカナタがソロで動いていた時に、とあるイベントが起こってね」
「イベント、ですか」
「うん。……で、それの攻略に、空中機動ができるバランスのいいパーティが必要っぽいんだよね」
なるほど。確かに、このタイミングで言い出すのもわかる話だ。
現時点で飛行ができる種族は四つ。妖精、精霊、ドラゴニュート、翼人だ。しかしこの四種、全体的に防御力に難がある。特に前半ふたつ。
翼人も機動性重視の種族で耐久は弱いから、これまでは飛行系の中では私が実質的に一番硬いという冗談のようなありさまだった。ちょうどそこでこちらに気づいたセージさん、実は史上初の空を飛べるタンクなのだ。
「……つまり、俺か」
「はい。よければお手伝いいただけませんか?」
〈おいニヤケんなセージ〉
〈まあ嬉しいよなわかるよ〉
〈MMOで自分しかできないことができた時の嬉しさは異常〉
ベータ時点から唯装を持っていながらもいまいち地味だったセージさん、ここにきて強烈な個性を確保したことに気づいて表情を律しきれていない。戻すのに少し時間がかかっていた。
しかし、少し考えると難しい顔になった。
「任せてくれ……って言いたいところなんだが、数日は時間をくれないか。ステータスと飛行にも慣れないといけないし、明後日には先約もあるんだ」
「それはもちろん。他に選択肢ないですし、いくらでも待ちますよ」
〈おいセージ〉
〈わかるよ嬉しいよな〉
〈天丼か?〉
再び様子がおかしくなるセージさん。ちゃんと片手で顔を覆っているあたり、自我は保っていそうだけど。
ちなみにたぶん、カナタさんはあの平常スマイルの裏で「計画通り……」くらいには思っている。彼女はそういう人だ。
「まだ近接アタッカーも埋まってないので、ルヴィアさんもぜひ」
「はい、もちろん。日にちが決まったら教えてください」
〈おっ〉
〈よしきた〉
〈そらそうか〉
〈楽しくなってきたな!〉
ちなみに私のような近接アタッカーも、空中では不足気味だ。こちらは翼人のおかげで皆無ではないとはいえ、大半の飛行プレイヤーが妖精だから当たり前なんだけどね。
聞いたところによると、イースさんにも声をかけているらしい。明星からはベルベットさんとメイさんが入って、残り一人が未定だとか。
まあ、日程は未定で早くとも数日後だ。呼ばれるまではいつも通り動いていよう。
なんやかんやでPSがものをいう。VRMMOは実力ゲーです。