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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.3 魔物も妖怪もいる世界でハロウィンをやったら
207/473

199.ラジアンvs千歳姫vsお嬢の胃

《神喰らいの大百足》千歳姫 Lv.53


属性:土

状態:手加減、幻影

特殊:種族スキル攻撃耐性(小)、特殊攻撃耐性(小)、状態異常無効、罠スキル無効、竜種特攻、龍種特攻、神格特攻、特殊存在特攻、???





「それじゃ、またあそぼっか!」

「ああ。よろしく頼む」


 ラジアンさんの試練が始まった。


 千歳姫さんのステータスには特記事項が多かったけど、ざっくり言うと「小細工は通用しないぞ」といった感じだ。状態異常と罠が通用しないから、正攻法で戦うしかない。

 そして種族スキルや特殊な攻撃も少しとはいえ効きづらいから、なるべく汎用スキルで戦った方がいい。……エルフの近接職であるラジアンさんは、有効な攻撃系の種族スキルを持っていないはずだからさほど関係ないか。

 後ろについている四つの特攻は、これも関係ない。おそらく私が感じた威圧は、この《特殊存在特攻》だろう。


「要は、俺は普通に戦えばいいということだ」

「それじゃ、いっくよー!」


 そう、つまるところラジアンさんにはほぼ関係ない。これだけ特殊状態がついているけど、この戦闘ではどれも働かないだろう。

 一方の千歳姫さんは、そんなことどうでもいいとばかりに先に動いた。普通に……といっても相応の素早さで駆け寄ってきて、挨拶代わりの拳。


「やはり速いな」

「ふふん、このくらいはよけてくれないとねー!」


 ラジアンさんは大剣使い、盾は持てないから防御はパリィと回避の二択だ。ここは身軽に避けて、流れるように反撃……手の甲で弾かれた。かなり硬いようで、体に当たったにしては減りが鈍い。

 内から外へ弾き出す形で剣を払いのけた右手の奥から、追撃の左脚。ラジアンさんは飛び退ってこれも避けた。


 即座にベクトルを反転して踏み出し、半ばまで背を向けたところに右から剣が襲う。これはまともに受けたけど……直撃でこれか。かなりの耐久力だ。

 防御力にものを言わせてか、斬撃をものともせずに左から裏拳。しかしこれは猶予があったから、ラジアンさんは切り返した剣でパリィ。




「うんうん、やっぱりおにーさん強いね! 楽しくなってきたぁ、っとぉ!」

「……尻尾か」


 やや劣勢ながらむしろテンションが上がっている様子の千歳姫さんは、パリィが弾き返しではなく受け流しになったことを利用してそのまま回転。一気に一回転して、長い百足の尻尾を鞭のように使ってきた。

 対するラジアンさんはしっかり下がって回避。さらに狙っていたのか、尻尾の裏目掛けて斬りつける。……胴体を斬るよりもダメージの通りがいい。


「ラジアンさん、冷静ですね。さすがは《天球》のクール枠」


〈お嬢もよく冷静だよな〉

〈あの子が怖いはずなのに普通に実況してるの凄ない?〉

〈クレジュリですら話題に出すだけで寒気覚えてるのに〉


 いやまあ、私は別に。慣れるだけの話だ。殺気も全てラジアンさんに向いているから、横から見ているだけなら震えるほどは怖くない。

 それでも寒気は感じるのだから、これまた意味のわからない技術力である。魔力覚でもそうだけど、ここの運営は人間の脳をどこまで把握しているのだろうか。






 千歳姫さんの攻撃方法は、拳、蹴り、尻尾の叩きつけ、同じく尻尾による薙ぎ払いの四つ。それらが俊敏な動作はもちろん、時に長い尻尾を上手く使った曲芸も駆使して襲ってくる。

 特に厄介なのは、彼女のような汚染されていない双界人に共通するひとつの性質。行動にパターンやルーチンが存在しないことだ。

 普段からほとんど人間さながらの様子を見せる彼らの処理能力は戦闘時も変わらず、その瞬間ごとに的確な行動を取り続けてくる。ここまで来ればもうPvPと変わらない。


「私はそういう局面をあまり多く経験してきていないので、例を挙げるのが難しいですが……ベータの時にした門番さんとの決闘はそうでしたね」


〈そこまでできるのか〉

〈やっぱおかしいわ九津堂〉

〈あの会社10年未来に生きてない?〉


 だから一瞬たりとも気の抜けない戦いが続いているんだけど、一方でラジアンさんもさすがの一言だった。

 拳は躱す、蹴りは受け流す。叩きつけは最小限で避けながら、弱点である尻尾の裏へ《シャッターストンプ》。薙ぎ払いは上下どちらかへ受け流して、余裕があればやはり尻尾の裏へ追撃を入れる。

 彼はこの挑戦が二度目だから、攻撃方法ごとに対策を練ってきたのだろう。対応力に長けた怪物であるクレハのようなことはふつうできないとしても、失敗を次に活かすのはやはり大事なことだ。




「あぅっ!?」

「……ここまでは順調か」

「おにーさん、前より強いね! じゃあ、これも前よりうまくできるかな?」


 そうこうしているうちに、千歳姫さんのゲージが一本割れる。全部で三本あるから、これで残り二本。

 ゲージ攻撃だ。どうやらこういう非汚染双界人は、ゲージ攻撃を時々繰り出す取っておきとしていることが多いようだけど、彼女もその口だった。

 ただ、一度見せたことがある前提のセリフになっている。初回でクリアしたクレハはこれを聞いていないだろうから、ある意味でレア……ではないか。むしろそれなりの数の挑戦者が聞いている。


「よっと!」

「…………ここだ!」

「よいしょぉ、っ!?」


 尻尾の先端を土に埋める千歳姫さん。その尻尾は地面を掘り進みながらラジアンさんの足元へ進んでいるのが、私には魔力覚でわかる。

 そんな便利な感覚は持っていないはずのラジアンさんだけど、どうやら地面から音や振動を感じ取っていたらしい。地中から飛び出す瞬間に回避行動を取って、当たると思っていた千歳姫さんは盛大に空振った。

 この飛び出した尻尾の先端には鋭利な刃が一対備わっているから、これがまともに当たって挟まれれば大ダメージだ。しかし避けてしまえば地面に阻害されて動きが鈍るから、隙が見えたところを強攻撃。

 低い位置で水平に素早く横薙ぎの一回転を繰り出す《トップスラッシュ》。「低いのにトップ」とネタにされる技名だけど、この「トップ」は独楽(こま)の意だ。


「んへへ、これに最初から反撃されたのははじめてだよ!」

「……そうなのか。いや、それもそうか?」

「クレハもジュリアも初見で避けて、そのままなんとかしましたからね……」


〈改めてあいつらおかしくない?〉

〈超能力だろ〉

〈二回目で完璧に対処してるラジアンもおかしいんだぞ???〉


 それにしても、安定した立ち回りができている。このままいけば、ある程度余裕を持って戦っていけそうだ。








 ……うん、ごめんね。今のはフリ。九津堂が送り出すこの手のボスは、序盤はいいけど後半になるにつれて難易度が上がるから。

 というか、みんなわかっていたと思う。そもそもラジアンさんが前回力尽きたのは、終盤の攻勢の時だったのだ。


 第二ゲージでは尻尾が地中に埋まって、十数秒ごとに地中からの奇襲が飛んでくるようになる。それに加えてたまに本体が突っ込んでくるから、地上もおろそかにできない。

 ……ただ、実はこの第二ゲージ、やり方次第では第一ゲージよりも効率的に攻略できる。難易度は跳ね上がるから、できる人はほとんどいないけど。


「ほっ、と」

「むぎゅっ!? ふんぎー!!」


〈うわぁ〉

〈いとも容易く行われるえげつない行為〉

〈そら怒るわ〉

〈かわいい〉

〈かわいいなこの子〉

〈尻尾は節足動物だけどな!〉

〈目はなぜかハイライトオフだけどな!〉


「あれ、クレハがやった攻略法ですね。ハイリスクハイリターン……というか、現状あれができないとほぼ第二ゲージを突破できません」


 地中と本体から同時に攻撃がくるから、まともに受けていては大変だ。だからクレハは、先に突き上げてくる尻尾を避けながら蹴りつけて本体と衝突させる戦法をとった。……あの子、割と足癖が悪いんだよね。

 後に一般挑戦ができるようになってから研究が始まったんだけど、この技術は基本的に必須という結論が出た。攻撃への対処頻度を半分にしつつ、千歳姫さんの高いステータスを利用して自傷ダメージを稼ぐ手法はあまりに効率的だったのだ。


 ただし、超難度。今のところこれに成功しているのは、進化済みのイチョウさんとトトラさんとリョウガさん、そして挑戦中のベルベットさんとセージさんにラジアンさん。これだけだ。

 そしてこれ以外のプレイヤーは、第二ゲージを削りきれたという報告がない。正攻法で第二ゲージをクリアしているのは、現状ではジュリアただ一人である。






 時折攻撃に掠ってはポーションで回復しつつ、気の抜けない攻防の末に第二ゲージも撃破。前回もここまでは到達しているラジアンさんにとっては、本番はここからだ。

 フォームチェンジ。千歳姫さんは地中から尻尾を引き抜くと、どういう原理なのか際限なく尻尾を伸ばし始めた。


「むぐぐぐ、むぐぅーっ!!」


「……ちなみに、私にとっても本番はここからです」


〈せやな〉

〈がんばれ〉

〈こわそう〉

〈あの距離で怖がってたのにすぐ近くまで来とる〉


 そのまま伸びに伸びた尻尾は、まるで蛇のようにボスエリアの周囲をぐるりと一周、二周。ラジアンさんを完全に取り囲んで、尾節を本体の横に据えた。

 ……ちゃんと見える範囲内でなるべく下がったけど、《特殊存在特攻》のプレッシャーを放つ百足の尻尾がすぐ目の前。思わず脳裏に某サファリパークのCMソングの一節が流れる。


「よぉし! それじゃ、本気でやるよー! きしゃーっ!」


 そして、ファンアートが増えそうな威嚇のポーズを取ってから、取り囲んだ千歳姫さんが外周を回りはじめた。……控えめに言って、苦手な人も多そうな光景だ。現にコメント欄は悲鳴で埋まっている。

 彼らには任意設定のフィルター機能を強めてもらうとして、実際に囲まれているラジアンさんにとっては怖いなんてものではない。しかもこれ、


「えいっ!」

「おっと」

「よいしょー!」

「くっ……!」


 さっきまで本体の横にあった尾節が、気づけば背後からラジアンさんを襲う。鋭い刃付きのハサミが開いているから、あれに挟まれれば体力半減クラスのダメージになってしまう。

 これは落ち着いて避けたけど、その間に本体が襲ってきていた。しかも、上から。

 なんとか避けつつ一太刀を入れたラジアンさんだけど、さっきまでと比べるとかなり危なっかしい。単純に攻撃の予測が難しくなって、その分だけ余裕が減っているのだ。


「頭のいいやり方ですね。これなら同じ攻撃でも避けにくいですし、さっきのような自爆も起こりにくい」

「でしょぉー?」

「……そして、私にも話しかけやすい」


〈最後の要るか?〉

〈お嬢って本気の悲鳴あげないよな〉

〈配信でたまにあった悲鳴はポーズだったのか?〉

〈画面越しだけどお嬢より先に心臓止まったわ〉

〈成仏してクレメンス〉


 割とちゃんとびっくりした。外周を回り続ける千歳姫さんが、私に近づいたタイミングで応えてきたのだ。

 どうやら褒められて嬉しかったようだ。攻撃のキレや速度は変わらないものの、どこかウキウキした様子になっている。


 ちなみに、私は驚きが反応に出にくい性質でもある。あんまり驚きすぎると声が出なくなるというか。ホラーゲームは得意だけど、ホラーゲーム実況は苦手なタイプだ。




「それじゃー、どんどんいくよー!」

「……ああ」


 本人も言った通り、ここからが彼女の、戦い方としての本気だ。《手加減》状態は消えていないから、ステータス面では合わせてくれているのだろうけど。

 ラジアンさんはここから、なんとか突破口を見つけださなければならない。……さあ、どうする?

 この世界の超越者、バトル中にめっちゃ喋る。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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