193.ネタバラシのネタバレやめてください!
ネタバレ:サブタイがネタバレ
「では、事後処理とネタばらしに入りましょうか」
無事に戦闘が終わった。いや本当に、けっこう緊張したよ。特に妨害遊撃の時なんかは、ある程度は狙いを絞らないと壊滅しかねないし。
私たちのボスHPゲージが消滅すると、プレイヤーたちは一斉にこちらを向いた。説明は私からあるとわかっているようだ。
「……というわけで、本当にここで戦うこと自体が目的だったんです。私たちはその手伝いをしていたわけですね」
「……なるほどね。おおよそわかったよ」
私はまず、今も続いている今回の配信の最初に話した内容をプレイヤー向けに説明し直した。《バージョン0》の頃に夜界の魔力だけが潤った結果、昼界との差が発生してしまって困っていたという話だ。
精霊は魔力を司るために生まれた種族だから、それに進化した私たちが手伝うのも自然なことだ。一方で大事なのは戦うこと自体だったから、私たち精霊がところどころで見せた不可解な言動にも説明がつく。
「だから、ペトラさんが一度皆さんを援護したのも、ヤナガワさんが途中で戦いをやめたのも、ユナが戦闘をなるべく長引かせようとしたのも、全て戦いそのものを拮抗させて魔力放出量を増やすためだったんです」
「茶番の台本ってわけじゃなかったんだ」
「茶番なのはこのイベントそのものですよ」
私たちの目的は勝つことではなく、なるべくみんなに力を使わせながら負けることだった。ボスとして動くこと自体もそうだけど、慣れないことをした割には上手くいったと思う。
最終的には初期参加者の半数が復帰した上で、だいたい半分強くらいがまた死に戻っている。合戦とかなら惨敗どころじゃないんだけど、これはゲームだからこのくらいは問題ない。それにほら、超高難度イベントだし。
ひとまず説明が済んだところで、今度は質問が飛んできた。
「ところで、そろそろ聞いていいかな」
「はい?」
「ここにもいないようだけど、仮面少女は結局どこにいるんだい?」
おや。どうやら最後まで気づかれなかったらしい。
……いや、無理もないか。ノーヒントで察するのは少し難しかったかもしれない。元々ここで明かす予定だったことだ。
「何を言っているんですか?」
「え?」
「仮面少女なら、ずっと皆さんと一緒にいたじゃないですか」
「……は?」
目配せ。彼女は小さく頷くと、私の隣に歩いてきた。
彼女……アデルは皆の方を振り返ると、悪戯っぽく笑った。そして懐から見覚えのある仮面を取り出し、実際に着けてみせる。
「ふふ。ごめんね、みんな。ずっと騙していて」
「……というわけで、仮面少女はアデルでした」
「マジか……」
「うせやろ!?」
アデル・リデラード。彼女こそがもう一人の重要人物だ。
正体不明の仮面少女として夜界で人目を引き、さらに精霊との関連を匂わせることで連鎖的にこのダンジョンへ目を向けさせる。そこまでが彼女の役目だった。
そこからはどう動いても問題なかったんだけど、本人の希望で仮面を外して攻略側で参加していた。ついさっき、大技を撃とうとした私と止めにきたアズキちゃんについてこなかったのは、彼女も全てを知っている仕掛け人だったからだ。
アデルはうまく立ち回ったようで、会場は驚愕で満たされていた。数百人の度肝を抜くのって、楽しいね。
ところで、彼女が仮面少女だとなると怪しくなる人物が他にも存在する。
「……あれ、ちょっと待って。アデルさんって、アメリアさんの親戚って紹介で……」
「…………アメリアさん?」
さすがに攻略勢。ちゃんと当初の紹介を覚えていたようで、立ち直りかけた顔が次々とアメリアさんに向く。
ちなみに当人はお澄まししていたが、私の位置からは楽しそうな尻尾の揺れ方が見えていた。いい性格をしている。
「アメリアさんはサクラです。双界人を引き込もうにも、そもそも食いついてもらえないことには始まりませんからね」
「実は全て知っておりました。ごめんあそばせ?」
計画立案の段階でアデルの他にもう一人仕掛け人が必要だという話になって、今回は裏方だったセレスさんが連れてきたのがアメリアさんだった。なんでも特異的に精霊との親和性が高いとのことで、なんと精霊界の玄関である《明暮の狭間》までなら入ることができたのだ。
事情を話すと協力してくれることになって、仮面少女に過剰反応するという形で他の双界人の意識を誘導してくれた。そしてアデルの希望に合わせて、親戚という設定で連れてきたというわけだ。
これに対しては、意外なことに双界人の方が驚きが少ない様子だった。見破りこそしていなかったものの、特に近しい人物は違和感くらいは感じていたようだ。
なお、最終戦で回復陣を張ってくれたのも相談通りだ。それに乗ってさらなる手助けをしてくれた火刈さんと璃々さんは、話を通してはいなかったけど。
「じゃあ、アズキちゃんは?」
「わたしですか?」
「ほら、どのくらい通じてたのかとか」
プレイヤー精霊のうち七人は即座に連絡がつかなくなって、その翌日に私が配信中に失踪。以降はユナとアズキちゃんだけになっていたんだけど、この二人の動向は少し特殊だった。
ユナについては、本人が既に話している。一度呼び戻されて話を通され、案内役としてそのまま外の世界に戻ったと。
では、アズキちゃんはどういう経緯を辿ったのかというと……。
「わたしは、ルヴィアさんより先にいろいろ聞いていました」
「そうなんですよね。実はあの配信の時点で全て知っていたそうです」
「ユナさんとだいたい同じくらいのタイミングで呼び戻されて、話を聞いた上でルヴィアさんについていく形で……」
例の動画で私はアズキちゃんを逃がそうとしたけど、実はアズキちゃんはあのタイミングで逃げ仰せてはいなかった。私とカメラの死角に避難して、そのまま録画が切れるまで待機していたのだ。
素のテンションに戻ったイシュカさんとソフィーヤちゃんが説明を始めようとした時、何食わぬ顔で合流してきたから面食らったものだ。
つまり彼女、割とノリノリで「何も知らない子」を演じていた。私の切羽詰まった「逃げて!」に、何もかも知っていながら本気の声色で「はい!」と返していていたわけだ。
……ねえアズキちゃん、VR女優に興味とかない?
そしてその後、イベント報酬として経験値やアイテムの他に、途中でユナが知らせていた通り浄化石への接触を行って解散の運びとなった。
これでここまで来たヒーラーはみんな《浄化術》を使えるようになったから、これまでのような精霊依存は起こらなくなるはずだ。
「というわけで、ここからは私のチャンネルに切り替えてお送りします。私個人に関することと、アフタートークですね」
「「いぇーい!」」
「イシュカさん、ソフィーヤちゃん……二人ともガヤに徹する気満々ですか。さっきも説明丸投げしてましたし……」
この場に残ったのは私とエルヴィーラさんとガヤ二人のほか、プレイヤー代表としてさっき私が戦ったパーティ。アズキちゃんはもちろん、アデルもいる。
今回は精霊全体や魔力に関する件で発生したゲリライベントだったんだけど、その中で私が果たす役割はやはりいちプレイヤーとするには大きかった。
「というわけで、皆さん気になっているでしょうし、まずはこのダンジョンについてから」
これを含む一部は、公式枠からのリスナーは一度聞いている話だけどご容赦。
このダンジョンこと《薄明と虹霓の地》は、プレイヤーたちが予想していた通り私がマスターとなったダンジョンだ。途中でロレッタさんも話していた通り《ダンジョンマスターシステム》というものでダンジョンに主として認められて、内装を整えたりしつつイベントの舞台として誘い込んだ。
この《ダンジョンマスターシステム》については、明後日のアップデートで正式実装される。詳しい説明はその時にしておこう。
「そう、それなんだけどさ」
「うん」
「虹霓はわかるんだけど、薄明ってどこからきてるの?」
「そうそう。それが、今からする二つの話のうちひとつです」
そこまで言って、私は腰のアイリウスを抜き放った。ステータスをポップアップして、全員に見えるモードに。
○薄明の虹魔剣・アイリウス
分類:武器
スキル:《片手剣》、《魔術》、《巫術》
属性:幻
品質:Epic
性質:《唯装》、《魔装》、《不壊》、プレイヤーレベル連動、《迷核》、《魔撃》
所持者:虹剣の精霊・ルヴィア
宝石:妖桜魂
状態:正常
JUD+14(+18)、MATK+65(+35)、MDEF+0(+11)
MPリジェネ+18
・自らの半身と同調を進めるとともに、あるべき場所と再び繋がったことで本来の力を取り戻した虹の魔剣。遣い手と一心同体となり放たれるその剣閃は、その唯一性を存分に発揮し戦場を切り裂く。
○固有能力:《虹の鏡》、《虹の魔術》
「……ツッコミどころが多すぎるんだけど!?」
「とりあえず、また名前が変わっている件からお願いできますか?」
早々に悲鳴をあげたミカンの横で、ハヤテちゃんが冷静に聞いてきた。
まあ、気になるよね。見た目のグレードも増しているし、なんか肩書き増えてるものね。
「コアになってる……」
「故郷に帰ってきたことで、アイリウスはようやく本来の姿に戻ったみたい」
「元々こうだったってことですか」
「フレーバーテキストを読む限りはね」
そもそもアイリウスは、このダンジョンを守るために作られた存在だった。しかしなんらかの事故でダンジョンからはじき出されてしまって、しかも汚染されてあの祠に取り残されていたのだろう。
本体ともいえるダンジョンとの繋がりが絶たれてしまったことで、本来の姿より弱体化してしまっていたらしい。ダンジョンマスター認証(ちなみに、ダンジョン側から強制的に行われた)と同時にこの名前と姿に変わったのだ。
「しかもステータスも変わってますよね。ATKの補正が消えてる」
「よく知ってるね、ハヤテちゃん……。確かにその通りで、ATKの補正は消えてるよ。代わりにMATKが増えたの」
ちなみに括弧の中はセット中の宝玉である《妖桜魂》の分の補正だ。この二つを足した値が実数値となる。
前にアイリウスのステータスを見せたのは精霊へ進化した時なんだけど……ハヤテちゃんは見た上で覚えていたらしい。確かにその通りで、物理攻撃にかかっていた武器補正が消えている。
ただ、これにはちゃんと理由があった。
「その理由なんですけど、これですね。性質欄の《魔撃》です」
「……待って。もしかしてそれ」
「ルヴィアさん、それは反則だと思う!」
《魔撃》
《魔装》の中でも特に魔力と親和している特異な武器。存在そのものの性質が魔力化しており、魔術の威力をわずかに増幅する。また、これを用いて与えられる物理攻撃は、威力に魔術攻撃力を参照する。
さすがにみんな察しがいい。ぎょっとする4人の前で説明文を読み上げると、一様に表情が固まった。
「つまり、物理攻撃がMATKで計算されます」
「ルヴィアが物理攻撃を取り戻した!?」
「いよいよ手が付けられないわねえ?」
「やっぱりルヴィアは凄いよ……そうやってどこまででも行っちゃうんだもん……!」
かねてから私は近接と魔術の二刀流のような形でやってきたけど、物理攻撃のダメージを出すSTRのステータスは赤ん坊のような数字だ。これまでは剣で斬りつけて与えられるダメージがほとんどなかったから、剣を盾のようにして近距離から魔術を当てるスタイルだった。
だけど、この《魔撃》があると物理攻撃でもダメージが出るようになる。これは私にとっては革命そのもので、ここ二日の練習では明らかにDPSが跳ね上がっていた。
「今ならクレハにも勝てるかもしれませんね。下手に断言したら意地を張ってカチコミに来るので言いませんけど」
「ねえ誰なのそんな壊れスキル作ったの!?」
「私のようなレアステータスでないと役に立たないし、作った側も深く考えてはないと思うよ」
ただ強いていうなら、私は物理攻撃を完全に切ってSTRを捨てていたから完全な形で恩恵を受けられた部分もある。他にSTRとINTを両方育てている人が《魔撃》を手に入れたとしたら、だいぶ損した気分になってしまいそうだ。
その辺については運営さんに相談してみよう。これは公式配信者の仕事ではないけど、今回のように私がテスター紛いのことをする機会は少なくないのである。
ネタバレ:次回もネタバラシ




