表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.2 枯れた世界に魔の華を
199/473

192.サイコロは振らない方が強い

 引き続きミカン視点です。

 超難度ゲリライベントのボスとして現れたルヴィアたち。とてつもない戦力で襲ってきた彼女たちを迎え撃ったぼくたちは、三つの特大援護もあって辛うじて有利に戦局を進めていた。


 だが、それは必ずしも思わしい戦いになっているということではない。


「ミリア、後ろッ!」

「な───」

「ざんねん」


 向こうではルヴィアが何人目かわからない暗殺を決めたところだ。事前に詠唱してあった《オリジナル・ブラウンエッジ》でミリアちゃんを背後から落とした。

 残機があったからすぐに復活したけど、火刈さんの蘇生は一度きり。彼女は後がない状態で、しかも不意討ちを意識したまま戦うことになる。


「隙ありです」

「ぬおっ!?」

「バスター!」

「《ラージヒール+》にゃ……!」


 今度はブランさんのところの重戦士、バスターさんが奇襲を受けて重症。余裕を見て回復をストックしていたベルベットさんのおかげで死亡とはならなかったが、彼ほどのプレイヤーでも初撃は受けてしまうらしい。


 おそらく、これはルヴィアのボスとしてのギミックだ。精霊の中で唯一の近距離職であることを活かして、影との戦闘で手一杯になっているプレイヤーの残機を剥がしていくという。

 いくらトッププレイヤーでも、三体の高難度ボスを同時に相手したままこの規模のフィールドでルヴィアの位置を把握することは不可能だ。対策をするとしたら、気づいてから凌ぐしかない。


「いただき──」

「させないよ!」

「っと……さすがにやりますね、ケイさん」


 それができる人がいないわけではない。現にAGI全振りに近いステータスを持つケイさんは、辛うじて回避を間に合わせてみせた。

 しかし反撃はできない。ルヴィアが最初からヒットアンドアウェイで動いているから、構え直した時には間合いの外なのだ。


 特に強いプレイヤーを狙って、ポジション問わず片っ端から急襲する理不尽な準即死ギミック。たとえ三重の支援で影三体に勝てるようになっていても、このせいで一瞬たりとも気が抜けない。

 やはり思惑があるのか、今のところ残機を消費済のプレイヤーは襲っていないものの、ルヴィアに一度やられてから影を相手に死に戻ったプレイヤーは出ている。かといって目の前のボスをおろそかにはできないし。




「あいたっ!?」

「え、何があった?」

「イシュカだ。あそこから狙ってきやがった!」


「ソフィーヤだ、逃げろ!!」

「《オリジナル・コールドプロード》なのです!」

「おわっ!?」


 ルヴィアが飛び抜けて凶悪なだけで、やはり残り二人も厄介だ。

 イシュカさんは遠距離から突然当ててくるから、距離減衰で即死打点にこそならないもののダメージ計算を狂わせてくる。一方でソフィーヤちゃんは、ボスに意識を集中させすぎたところに現れては範囲攻撃で荒らしてくるのだ。

 三人がそれぞれ全く別の形で妨害してきて、しかもそのどれもがえげつない。的確に難易度を上げてきていることには間違いなかった。






 でも、ぼくたちも黙っているわけではない。


「《ダブル・マジックブースト+》」

「アズキちゃん!」

「はい! 《オリジナル・スパークルロア》っ」


 この場で一番理想的にやれているのは、たぶんぼくたちだろう。フリューが落ち着いて止めた《氷精霊の影》を、ぼくのバフを受けたアズキちゃんが撃ち抜く。

 どうやらアズキちゃん、さっきの進化に合わせて一時的に《原初の加護》を受けているらしい。精霊たちがいずれも受けていた、エルヴィーラさんによるらしい強力な強化状態だ。それを受けてか、ルヴィアほどではないものの異常に火力が高い。


「一気に氷を落とすよ」

「はい! そこ、動かないっ」

「《アトラクトチェーン》。今だよ!」

「《マジックブースト+》」

「《オリジナル・フォトンランス》!」


 アズキちゃんは途中でのパーティ再編でぼくとフリューとルプストに合流していて、さらにそこに愛兎ハヤテちゃんが助けに入ってくれた。残る一枠には、なんと初登場NPCのアデルさんが参加している。

 ハヤテちゃんの敵を釘付けにする超機動もさることながら、アデルさんもやたらと強い。癖のある武器を使っているのに、攻撃と支援の二役を上手く両立させている。なぜかまるで昔から一緒だったみたいにタイミングが合うから、本当に戦いやすい。


 特にアズキちゃんとアデルさんの活躍がすごくて、かなり早くに《氷精霊の影》を倒すことができた。もちろん、他にどれかを倒したという報告はまだない。

 三体セットの敵の一角を倒したことで、立ち回りが一気に楽になる。本体には注意しながら、このまま一気に倒してしまおう。






 しばらく後、なんとか三体とも倒し切れまして。

 他のパーティはほとんどがまだ一体も倒せていなかったから、近場から手伝いに行こうとしたんだけど……。


「ペトラさん」

「うん」


 戦場の端に移動していたルヴィアが、ここにいない唯一のプレイヤー精霊を呼ぶ。……すると、ルヴィアの横に影。姿をくらませていたペトラさんだ。

 彼女が横に控えると、ルヴィアは愛剣アイリウスを構えた。……え、ちょっと待って。


「やっば」

「あれもしかしなくてもアレだよね!?」

「止めないとぉ」

「アズキちゃん!」

「アデルさん、お願いします!」


 不穏な動きを見せたルヴィアに焦る一同から呼ばれる前に、アズキさんは動き出していた。精霊にはなったばかりだけど、元々妖精だから飛行は問題ない。

 それについていったのが、悪魔の翼を広げたアデルさん。ルヴィアが魔力を溜め切る前に、なんとか妨害の手が届く。


「《オリジナル・レイホーミング》」

「《ファントムクロー》!」

「っと。……まあ、撃たせてもらえませんよね」

「当たり前だよ! 撃ったら終わってたよ!?」


 ルヴィアは肩を竦めたけど、こればかりは譲れなかった。ルヴィアほどの代償はない他の精霊による《固有奥義》でさえひどい被害が出たのに、MPの特大消費がある代わりに超高火力な《トワイライト・ブラスター》を《原初の加護》状態で撃ったらどうなってしまうのか。

 辛うじて止めることはできたけど、放っておけばルヴィアはいつでも最終兵器を撃ててしまう。ぼくたちが止め続けるしかなさそうだ。


「やるよ、みんな」

「では、私を止めてみてくださいな!」




 どうやら六対一のパーティボス戦だ。ぼくたちは素早く陣形を組み直す。

 ハヤテちゃんとアデルさんが前で立ち回り、フリューがその後ろから《召喚術》で援護。フリューに隠れるようにルプストが魔銃を構えて、アズキちゃんは飛び回りながら砲撃だ。ぼくは最後尾から回復と支援。


 対するルヴィアは、高速機動のオールラウンダー。前衛の引きつけがおろそかになると遠距離攻撃を撃ってくるし、後衛からの援護射撃が足りないと近距離戦の密度が上がる。

 味方としては足りないところを補ってくれるありがたい存在だったけど、いざ敵に回ると厄介だ。隙がなくて正攻法しか手がないし、どこか一箇所でもこちらが綻んだら間違いなく突いてくるから。しかもこれでいて幻属性で弱点もないのだから、もうお手上げである。


「《グルームロア》」

「これは無理」

「《ダブル・オリジナル・ホワイトエッジ》!」

「せいっ……!」

「嘘、これでも!?」

「ほんと厄介ですねそれ!」


 しかもその援護射撃も、ルヴィアにかかれば付け入る隙だ。冷静に見極めた上で、可能なものは前衛へ向けて跳ね返してくる。

 だからルプストもアズキちゃんもギリギリの角度やタイミングを攻めなければならなくなっているし、それでも時々返してくる。ハヤテちゃんとアデルさんも、跳ね返ってきたときは避けなければならない。

 幸い行動速度はいつも通りだから、六人がかりでやれば対応しきれない攻撃も出てくる。そういうダメージを積み重ねて、なんとか戦っていくしかない。


「ルヴィア、回避ボスはクソなんだよ!」

「仕方ないでしょ、盾を持てないんだから」

「だめっぽいフリュー、話しかけても剣筋が鈍らない!」

「いや、配信者舐めないでよ」

「配信者がみんな、そんなことできると、思わせないでくださいってば!」


 しかもこの通り、盤外戦術すら通じない。つけたままの配信コメントに反応していない分だとでもいうのか、剣を振り魔術を唱えながら普通に喋ってくる。

 とはいえさすがにこれは我が幼馴染の最近さらに増した人外要素であるようで、ハヤテちゃんが必死になって否定していた。……近接戦を演じながらたどたどしくも話せる時点で、たぶん彼女も大概すごい。


 しかしまあ、ボスに向かないステータスだ。隙も弱点もなければ動揺も硬直もしないし、一人でオールレンジを押さえて六人による攻勢も大半を防いでいる。

 こちらも戦況を維持できてはいるけど、かなりの長期戦になりそうだ。他の精霊ボスと同じくHP共有にはなっているから、向こうの影を全て倒せば倒せるんだけど……それまで耐えるしかなさそうだ。






 幸い、しばらく押さえていると戦場には変化が現れはじめた。


「っし、倒した!」

「隣手伝うぞー!」


 ぼくたち以外のパーティも影を倒し切るところが出始めたのだ。イシュカさんとソフィーヤちゃんも別のパーティが押さえて、それ以降は周りの未クリアパーティに加勢している。この調子なら、ここから加速度的に攻略が進みそうだ。

 つまり、ぼくたちにも光が見えてきた。影を倒す速度が上がって、ルヴィアのHPゲージも目に見えて減りが早くなったのだ。

 その速度は上がり続けて、あといくらも持たないところまできている。


「ふふ、いいじゃないですか」

「それが本音なのはわかってるけど、強キャラの余裕ムーブ感が強すぎて怖いよルヴィア」

「ふむ……では、そうしましょうか」


 え、と思う間もなく。

 ルヴィアは即座に後ろへ飛んだ。何事、と思う間もなく、即座にアズキちゃんが追いかける。


「アズキちゃん。あなたの力、お披露目といきましょう」

「……やらなきゃいけないんですね」

「それが一番の近道ですから」


 さらに不穏な会話。いまさらアズキちゃんの特異な言動にツッコミを入れたりする人はいないけど、何か意味があるのだろうと勘繰りくらいはする。

 二人が近くに誰もいないくらい遠ざかって、ようやく止まる。……後衛であるアズキちゃんだけが突出しているのに、さっきは追いついていたアデルさんは動かない。何の驚きも見せずに、その場であちらを見ている。


 そしてルヴィアは、さっきと同じ気配を見せた。


「……近くで見ると、ほんととんでもないですね、それ」

「実は、今日は前回よりも。アイリウスも張り切っているようで」


 ぎょっとするぼくたちを無視して、ある種のんきな会話。浮き足立ってしまったけど、どのみちぼくたちはもう間に合わない。

 それに、遠くから見ている精霊たちも平然としていた。……それなら、何かをするらしいアズキちゃんを信じるしかない。


 ルヴィアが振りかぶる。


「では。───《トワイライト・ブラスター》!」




 放たれてしまった《トワイライト・ブラスター》は、しかし前回と違う点があった。

 色だ。ダイダラボッチ戦の時は鮮やかな虹色の光だったけれど、今回は日の出前のような色合い。トワイライト(薄明かり)だ。


 そこにどんな意味があるのか、性質の方もどこか違って見えた。ぼくにはルヴィアのような《魔力覚》はないから断言はできないけど、洗練されて密度が増したような感じだ。

 そんな新たな、あるいは本当の《トワイライト・ブラスター》を前に、アズキちゃんは《光扇・天岩戸》を構えた。


「いきます。───《日輪(にちりん)天佑(てんゆう)十全(じゅうぜん)護封(ごふう)》……!」


 …………光が、収まった。






「……え、なに、今の」

「アズキちゃんの《固有奥義》です。彼女のそれは、()()()()なんですよ」


 思わず漏れた疑問に答えたのは、ルヴィアだった。

 どうやらアズキちゃんは固有奥義に攻撃ではなく、防御に特化した強固な術を会得していたらしい。それこそ、ルヴィアの《トワイライト・ブラスター》を受け切るほどの。


 それを説明したルヴィアのネームタグは、いつも通りの青色に戻っていた。

 トワイライト・ブラスター:プレイヤー最高火力

 日輪天佑・十全護封:数値判定無視の絶対防御

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[良い点] 長めの漢字での技名とか熱いね!! [一言] いつか、某オレンジ色髪の死神高校生みたいに 卍!解!とか…卍解とかありそう
[一言] 数値判定無視の絶対防御とか、強過ぎィ!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ