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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.2 枯れた世界に魔の華を
194/473

187.Shall we dance?

 前半はミカン、後半はブラン視点となります。

 ───超高難度イベント。


 確かに、これまでぼくたちが経験してきたイベントは難易度が高すぎはしないものだった。《陽光煌めく幻界の海》も結局さほど被害は大きくなかったし、《幻双界大運動会》はよほど好成績を狙わなければ誰でも楽しめた。

 そんな中でわざわざ超高難度と言ったということは、本当にとんでもない難易度だということだ。たぶん、参加者の何割もが死に戻るくらい。

 しかもそれを、プレイヤーの仕掛け人と思われるユナの口から言わせた。もう何が起こってもおかしくないような気さえしてくる。




 ダンジョンへ突入したぼくたちは、早々に四つに分かれた道に合わせて分隊することになった。いつも通り、四大ギルドをそれぞれ中心にする形だ。それぞれ4レイドずつの陣容となる。

 ひとつめの道にブランさん率いる《明星の騎士団》、ふたつめの道にリョウガさんを筆頭にした《盃同盟》。みっつめの道にケイさん擁する《天球の光》で、よっつめの道がぼくたち《サークルプリズム》だ。

 《盃》には巴ちゃんに加えて主要メンバーで回す配信チャンネルがあって、《明星》にはブランさん、《プリズム》にはイルマさんとハヤテちゃんがいる。《天球》には有名な配信者がいないけど、同行しているクレハが配信をつけているから様子はわかる。


 司令部のグループチャットは念のためにそれぞれのギルドから2人ずつ。ブランさんとカナタさん、リョウガさんとキョウカさん、ケイさんとジュンくん、イルマさんとぼくが常に連絡を取り合えるようにしている。

 即席だけどしっかり体制を作ってから進行。ルヴィアが時々ポーズも兼ねて言っていたおかげもあってか、今回はルヴィアなしで問題なく動けていた。


「……そろそろボスかな」

「そうだね。じきに中ボスが出てくる頃合いだと思う」

『こっちもそのくらいだ』

『どこも順調みたいね』


 ダンジョン内部はというと、確かに難易度は高い。だけど、どうとでもなる部類だった。出てくる敵は最前線のダンジョンで出るそれよりほんの少し強い程度だし、厄介なギミックもそんなにない。今のところは平和なものだ。

 ……気になることといえば、その敵たちがどれも汚染されてない点。これを見るに、このダンジョン自体が汚染状態ではないことになる。


 あとは、ルヴィアの配信に残っていたものとは全く様子が違うことだろう。出てくる敵は時々共通しているんだけど、出方は全く違う。

 満遍なくなんでも出ていた配信時と違って、今は地形に合わせた敵が集中的に現れている。何もなかった地形が一気にバリエーション豊かになっている点も含めて特異的だ。


「やっぱり、配信時とは全く別のダンジョンに思えるけど……」

『名前と土台だけは同じですし、同じダンジョンなんですよね。……ここ二日で、ダンジョンの内装を丸ごと改装した?』

『そんなことできんのか?』

「ダンジョン管理系のゲームなら……?」

『やっぱり今回、わからないことが多すぎるんだよね』


 本当にそうで、これまでと比べてもぼくたちには原理すらわからない現象がかなり多い。それ自体が不可解というよりは、これまでと違うという点そのものが怪しい。

 もしかして、これら全てがこのゲリライベントと関連しているのでは。そう考えてしまう。




 そうしてあれこれ邪推している時点でぼくたちはそれなりにお腹いっぱいだったんだけど、時に九津堂は畳み掛けてくる。


『ロレッタさんに聞いてみたけど、ダンジョンに認められて主になれば可能みたいよ。本来はそれが難しかったから、そんなことはほぼ起こらなかったようだけど』

「……え、それって」

『ロレッタさんは『どうして《来訪者》の唯装ダンジョンはまだそうなっていないのか不思議』って。……いきなりとんでもない情報が飛んできたわね』


 キョウカさんからタレコミがきた。たった今ノリで言われたことが、邪推どころか事実だったわけだ。

 それにぼくたちは知っている。双界人がこういう言い方をする時は、もっと早くこちらから聞いておけばその時点で知ることができたということを。

 なんとなく負けた気分だ。ここの運営、こういうところは本当に……って、


「ってことは、既にルヴィアがここでやっているかもしれない?」

『かもしれないってか、そうだろこれ』

『瓢箪から駒ー!』

『もしかしてシステム実装済だったりします?』

『怖いこと言わないでよ。さすがにイベント演出用の先行実装じゃないかい?』

「どっちでもありうるのが運営だよ……」


 九津堂って、プレイヤーが「こういうこともあるかも?」と予想をしたことを先回りして「実は実装済です」と言い出すことがたまにあるんだよね。

 そのたびにプレイヤーたちは顔もわからない運営チームにムカつくんだけど、ぼくは事情あって運営チームの大半の顔と名前を知っている。彼らのドヤ顔が目に浮かぶようで、こういう時は煩わしいものだ。

 人間、知らない方がいい事柄もあるということである。






「あ、ボス部屋だ」

『もう着いた? 速いね』

『こっちも入口が見えたぞ』

『うちもね』


 ほどなく、いよいよ分隊用の中ボスがいるであろう空間に到達。消耗はほぼないから、ほんの少しだけ足を止めてから進入する。

 そこにいたのは……。


「ツバメさん?」

「なんでここに」

『え、今ツバメさんって言った?』


 そう、ツバメさん。エルフから精霊に進化した3人のプレイヤーの一人だ。担当は土属性で、相棒は《魔砲(まほう)石長(いわなが)》。

 他の精霊たちと同じく一昨日から姿を消していた彼女が、ボス部屋の真ん中で佇んでいた。……もしかして。


「ああ、みんな。待ってたよ」

「待ってた? 何かあるんですか?」

「やだな、スズランちゃん。もうわかってるんじゃないの?」

「……ツバメさん、もしかして」


 待っていた。この場面では妙な言葉だ。行方不明だったところを攻略中のダンジョンの、しかもボス部屋で見つかって、待っていたというのはあまりに不自然である。

 ……あるひとつの可能性を除けば。


 ほとんど同時に身構えたぼくとイルマさんに向かって、ツバメさんは笑った。……瞬間、魔力反応。

 咄嗟に庇いに入ったセージさんが、スズランちゃんを狙った魔術を防ぐ。状況が掴めないまま立っていたスズランちゃんは、ここでようやく理解したようで刀に手をやった。


「どういうつもりだ、ツバメさん」

「いや、ごめんね。あんまり気は進まないんだけど、これも命令なんだ」


『……あれって、ヤナガワさん!?』

『こっちはタラムだ!』

「気をつけて! ……ツバメさん、()()()()()()!!」


 いつもなら有り得ない、無詠唱での魔術。それを防がれたツバメさんは、とても気が進まないようには見えない顔で両手を広げた。

 すると──ボス部屋のところどころに、いくつかの茶色の影。ツバメさんを模したようなその影は、一斉に赤いネームタグをポップアップさせた。





○土銃の精霊・ツバメ Lv.52


属性:土

状態:原初の加護

備考:影とHP共有





○土精霊の影 Lv.50


属性:土

状態:正常

備考:属性効果上昇





  ◆◇◆◇◆





 《サークルプリズム》のところにツバメさん、《天球の光》のところにタラムさん。《盃同盟》のもとにはヤナガワさんが現れた。その全員が敵の証である赤いネームタグを持って攻撃してきたらしい。

 彼らの怪しい様子からしてもしやとは思っていたが、やはりここでは精霊プレイヤーがボスを務めるようだ。俺たちを地形で分断して、一人ずつが中ボスとして立ちはだかっている。


 他の場所に3人が現れていて、行方不明になっている人は残り5人。こうなった以上ルヴィアさんは最奥にいるとして、動画に出ていたイシュカさんとソフィーヤさんも奥の可能性が高い。となると、俺たちの前に現れるのは……。


「やっぱり君か、メイ」

「さすがに他の組から話が伝わってますか」

「ごめんね、不覚にも少し後れを取った。不意打ちしたかったかな」

「いやまあ、それはどっちでもいいです。やることは変わりませんし」


 ボス部屋にいたのは、予想通りうちの魔術師。俺たちにはもうこの後の展開がわかっているというのに、この落ち着きようだ。

 なんとも趣深い展開になっているものだけど、やはりメイにも操られているような様子(の演技)はなかった。展開からして、これは「自分たちの意思でやっている」というメッセージだろう。


「いくつか質問していいかい」

「答えられることなら」

「これはどういう意図あっての行動なのかな」

「……それはネタバレが過ぎません?」


 よかった、ちゃんと突っ込んでくれた。いつものメイだ。

 とはいえ、何かしら聞き出したいのは事実だから会話の継続を試みる。


「今回の根幹の話は、この奥にいる人物に聞いてください」

「わかった。……じゃあ、君は今回の件についてどう思ってる?」

「うーん……必要なこと、ですかね。仮に今回がなくても、似たようなことはいつかしないといけなかったんです」


 必要なこと。つまり何らかのやらなければいけないことが今回のゲリライベントには含まれていて、精霊たちはそれに積極的に加担している。しかも、それの存在くらいはプレイヤーに知られても問題ない。

 輪郭が見えたわけではないけど、全力で楽しむに値するだけの情報は得られた、かな。


「つまり、これは茶番だということですか?」

「茶番というほどどうでもいいことではないですけど……私たちがこんなことをしないと解決し得なかったわけでは、ないですね」

「手段も他にあったのにゃ?」

「はい。首謀者の言葉を借りるなら、こんなことをしているのは『面白いから』ですよ」


 これで粗方わかった。よかった、いつもの九津堂だ。

 それなら俺たちも、いつも通りに本気を出せる。


「ま、私を倒すまではここは通しませんから……いつでもどうぞ。───でも、今の私は強いですよ?」


 にまにまと見慣れた笑みを見せるメイに、どこからともなく攻撃魔術が飛ぶ。

 メイはそれを軽々と避けると、空中で横に一回転。それに合わせて、赤い影が大量に現れた。





○火掌の精霊・メイ Lv.54


属性:火

状態:原初の加護

備考:影とHP共有





○火精霊の影 Lv.52


属性:火

状態:正常

備考:属性効果上昇





「さ、一緒に踊りましょう」

 楽しそうだなこいつら。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] こういう、プレイヤーが敵側として出てきてもギスらずにワイワイ楽しくやれるの好きだな 九津堂ならそもそも最初からダンジョンシステムは実装されてたりして・・・まさかな・・・
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