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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.2 枯れた世界に魔の華を
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184.精霊失踪事件対策会議

 ここからしばらくの間、視点がルヴィアから離れます。今回はブラン視点。

「……ブランさん、これで大丈夫かな」

「OK、聞こえるよ」

「こっちも大丈夫です!」


 9月27日、金曜日の夜。俺たちはDCOにダイブせず、雑談に近い枠を取って公開会議をすることにした。

 参加者は俺とイルマ君、ハヤテさんと巴さんのVtuberコンビ、そして最近ギルドぐるみで配信を始めた《盃同盟》の代表者であるキョウカさん。全員が攻略組の配信者だ。


「さて、それじゃあ始めようか」


 昨日から今日にかけて、DCOでは立て続けに問題が起こった。といっても不具合などが発生したわけではない。ゲーム内の動きとして想定外のものがあったのだ。

 それがあまりにも唐突かつ強烈だったから、俺たちとしてもさすがにスルーできなかった。今回はそれらの事象に関する考察と情報共有だ。


「というわけだから、特に前線攻略に参加しているプレイヤーはなるべく見てくれると嬉しい。近くにこの話を知らないプレイヤーがいたら、一応教えておいてくれ」

「大袈裟だって思うかもしれないけど、現時点でも運営は明らかに妙な動きをいくつも見せてるからね。こういう時の九津堂は、何かしらやらかすんだ」


 これだけ集まっての会議は初めての試みだけど、もちろん初めてのことをするには理由がある。

 いつもなら、こんなことをせずともほとんどのプレイヤーたちの意識はある一点を向く。こんなことをしているのは、その一点に今は誰もいないからだ。


 攻略組の大手配信者がこれだけ揃っているのに、この場にいないDCOの顔。


「まずはひとつめ。…………ルヴィアさん失踪事件についてだ」






 ルヴィアさんの動向が途絶えたのは、昨日の午後11時過ぎ。精霊王マナさんからのクエストとして《虹彩魔鉱山》の攻略へ向かい、そこで何か条件を満たしたようで奥にある別のダンジョン 《薄明と虹霓の地》へ足を踏み入れて、その中にいたエルヴィーラさんとの会話中に消息が途絶えた。

 当然ながら配信中だった彼女だけど、エルヴィーラさんが意味深な発言をすると同時に配信そのものが途切れてしまったのだ。俺も問題の部分を見てみたけど、単なる誤操作の類いではなかった。


「あれは単に配信を切ったわけではない、んですよね」

「ルヴィアさんはこれまで一度として、挨拶せずに配信を切ったことがない……ってスズランが言っていたよ。あの子が言うなら間違いないと思う」

「それに、正規の手段で配信を終了するにはメニューウィンドウを開かなきゃいけません。でもあの場面、ルヴィアさんの手元にはメニューなんて開かれてなかったですよ」


 たまたま配信が切れてしまった、などという安直かつ逃避的な説は、複数の方向から否定されている。あのルヴィアさんがそんなことをするとは考えづらいし、そうでなくとも本来有り得ないのだ。

 ちなみにログアウトによる配信終了の場合は、配信者がログアウトしたと画面に表示が出てから配信が切れる仕様だ。問題のシーンではそんな表示は出ていない。


 しかしそうなると、ひとつ問題が発生する。


「では、ルヴィア殿は自分の意思で配信を切ったのではないと?」

「そうなると思う。だとすれば実行者は確実にエルヴィーラさんだろうけど……未知の挙動なんだよね」


 普通に考えるなら、あの場面は「エルヴィーラさんが何かしらの目的のために、ルヴィアさんの配信を切って内緒話をした」ということになる。

 ……ただ、ゲーム側から配信を切らせるような挙動は現状未確認だ。これが何を意味するのか、今のところ誰にも分からない。


「ルヴィアさんは前から『自分は九津堂と契約しているから、時には他のプレイヤーと違う扱いを受けるかもしれない』と言っていたけど……」

「今のところは、これもその“違う扱い”だと思っておくことしかできませんね」




 配信カットも不思議ではあるけど、もちろんこの話の本題はそこではない。


「問題は、それ以降のルヴィアさんの動向がおかしいことだ」


 彼女は今朝になってSNSを更新し、「今日と明日は配信予定を取りやめる」と告知した。……ちなみに、明日は土曜日だ。

 リアル幼馴染であり友人であるミカンさんは昼に「現実世界ではいつも通りだけど、今日はDCOの話をしてくれない」と投稿。このあたりから、ほとんどのプレイヤーが妙だと気づいた。

 そして夜。フレンドリストにあるルヴィアさんの名前はログイン中になっているのに、誰が通話を掛けても反応がない。さすがに異常事態だということになって、この場を緊急で設けることになったわけだ。


「もっとも、妙なのはルヴィアさんだけじゃないんだけど……」

「はい。ペトラとツバメも今日は連絡がつかなくなってます。オンラインではあるんですけど……」

うち(明星)も、メイが行方を眩ませている。しかも、事前に今日明日はソロになるようにスケジュールを調整した上でね」

「やっぱりそうか。……《サークルプリズム》はもっとひどくてね、イシュカさんもソフィーヤさんも行方不明だ。ユナさんとアズキさんはオフラインだからわからないけど」

「……やっぱり、精霊か」


 他にも、《天球の光》からヤナガワさんが、《ドラゴンズエアリー》からタラムさんが消えている。精霊が同時にほぼ全員いなくなれば、誰だっておかしいとわかる。

 取っ掛かりがあるとすれば、そのユナさんかアズキさんだろう。……彼女たちがログインしてきても、連絡がつく可能性は高くないが。




「とりあえずはその二人を待って、聞けたら話を聞くくらいですかね」

「他にできることがありませんからね……」


 現状確認のための枠だから想定内とはいえ、今のところ活路が見えないとわかると話題が止まってしまう。これ以上の情報は二人のログインか現地の収集班を待つしかない。

 だから、誰かがこの話を持ち込むことは必然だった。


「……関係あるかはわからないんだけど、今日はもうひとつ気になることがあるよね」

「仮面少女の件ですか?」

「やっぱりアレ、精霊の件と関係あるのかなぁ」


 仮面少女。今日のDCOでは、もう一つ気にかかることが起こっている。

 仮面を着けた悪魔族らしき少女が、幻夜界を飛び回って暴れているそうなのだ。しかもこれには不可解な要素がいくつかある。


 ひとつ。その少女の名前すらわからない。夜界のけっこうな範囲を飛び回っているのに、誰も彼女のことを知らないのだ。……ただ一人を除いて。

 ふたつ。汚染されていない。ステータス表示には「正常」と出ているのだ。この状態の住民が暴れているのは、これまでにはなかった現象だ。

 みっつ。被害が妙に少ない。行く先々で抵抗をものともせず暴れているはずなのに、被害といえば居合わせたプレイヤーの死に戻りと一部住民の軽い怪我だけ。いくらでもできる状況で住民に大怪我すらさせず、建物に至っては壊さないよう意識すらしているような立ち回りをしていたそうだ。


「おそらく、何かあるかと。運営殿にとりまして、無関係の突発事変を同時に起こす事に百害あれど一利ありませぬ」

「だよね。そうでなくとも違和感だらけだし……」

「そっちで一番気になるのは、アメリアさんの様子よね。彼女だけ、どう見ても仮面少女のこと知ってそう」


 そしてよっつ。アメリアさんが過剰反応している。普段は冷静沈着なはずの王女様が、人が変わったように落ち着きのない様子を見せているのだ。

 糸筋どころか何が起こっているかすらわからないのに、「なんとかしなければ」と明らかに気負っている。その雰囲気の異様さは、誰も彼女に仮面少女の名前を訊くことすらできないほど。

 これの影響なのか、アメリアさんに浅からぬ縁や並々ならぬ恩がある有力住民たちの気も逸りはじめた。……最初からそう仕組まれたようにすら見えるほどに。


 巴さんの言う通り、そうでなくとも無関係とは思えないタイミングだ。俺たちのプレイヤーとしての勘は、間違いなく繋がっていると声高に主張している。

 ……全員が考え込んでしまった。こうして要素が散りばめられることは初めてではないが、今回ほど難解になっているのは初めてだ。




「……あ、公式チャンネルに何か出てますよ」

「え?」

「短めの動画……しかも三本。露骨なくらい、この件関連よねコレ」

「『Fragment of Twilight』……黄昏の断片?」

「ひとまず見てみましょう」


 ……どうにも運営に踊らされている感が拭えないが、背に腹はかえられない。ありがたくヒントをいただくとしよう。







 ひとつめの動画は、見たことのない場所で二人の女性が会話している場面だった。

 片方はよく知っている。この黒い九尾狐は、《幻双界》の代表的存在である綾鳴さんだ。何やら深刻そうな、真剣な表情で口を開いている。

 もう片方も見覚えはあった。ルヴィアさんそっくりの顔立ちに達観した表情、これはエルヴィーラさんだろう。ちょうど昨日配信越しに見たから、間違いはないはずだ。




『やっぱり、そうか。なかなか……が…………とは思っていたけど』

『うん。ボクもなんとか………とは…………んだけどね。結果は…………だよ』

『それで、私に話を?』

『これ以上、放置はできないからね。それならもう、…………………がいい』

『そういうことなら引き受けるけど、……は………くていいの?』

『構わないよ。一刻も早く、……………………してほしい』




「……うーん、いまいち聞き取りきれませんね」

「上手くノイズが入ってるね。これでわかるのは、今回の件がおそらく綾鳴さんに頼まれたエルヴィーラさんの仕業だってことだけか」

「でもそれ、昨日のルヴィアさんの配信で半分はわかってたのよね。さらに裏に綾鳴さんも噛んでいるって情報は貴重だけど」


 これはおそらく、今回の話の始まりの場面だろう。これまでゲーム内には登場すらしなかったエルヴィーラさんが、ここにきて急に目的を二つ持ってくることはさすがに考えづらい。


 何か深刻な問題を抱えている綾鳴さんが、エルヴィーラさんに解決を依頼した。エルヴィーラさんは必要な措置の一環としてルヴィアさんに接触し、マナさんをはじめ精霊界ごと何かに巻き込んだ……といったところだろうか。

 気になるのは、精霊たちが手伝わされているのか、それとも進んで手を貸しているのか。……いや、メタなことを言うなら精霊プレイヤーたちがこぞって手を貸しているのは楽しいからなんだろうけど。


「残りの動画も見てみようか」

 明言しておきます。これはあくまでゲームで、あくまで遊びです。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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